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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生63巻6号

1999年06月発行

雑誌目次

特集 産業歯科保健

産業歯科保健の現状と展望

著者: 藤田雄三

ページ範囲:P.380 - P.384

産業における歯科保健の歴史
 歯科保健は,かつては世間を騒がせたように小児,児童のう蝕対策が主要な問題点であったし,また近年では成人歯科保健として,またここ数年は老人歯科保健として注目されている.そのような中で産業人の歯科保健については見方によっては地味ではあるが,しかし着実にその役割を果たしてきた.歴史的には主として化学工業,金属加工業などでの歯牙酸蝕症への対応は特筆されるべきで,多くの優れた研究がなされたし,現場の実践活動でもそれに携わった歯科関係者の努力は忘れてはならないものと思われる.
 近年に至り,今まで人々の努力の結果,作業環境は著しく改善され,従来の典型的な職業性疾病はほとんど見ることができなくなっている.労働安全衛生法第66条3項には歯科医師による有害業務の健康診断が記されており,その対象人数は多数にのぼると思われるが歯牙酸蝕症などの発生は極めて少ないといわれている.しかし稀ということが重要でないということではなく,工業的に基本的な化学物質である強酸類を取り扱う従事者の歯科健診は継続して実施する必要があるのはいうまでもない.

産業歯科保健活動の実際—企業における歯科保健活動

著者: 加藤元

ページ範囲:P.385 - P.388

 「西暦2025年には診療室から切削器具が消え,歯科医師の大半はオーラルフィジシャン(口腔保健管理医)になるであろう.」これは1991年にWHOのBarmes DEが出した予測である1).実際に予防先進国であるフィンランドでは,現在歯科施設全体のうち約47.3%が予防を主業務としている.一方,日本の予防歯科施設はわずか0.2%ほどで,う蝕・歯周疾患の罹患率は依然高く,歯科先進国とは言いがたいのが現実である2).これは穴が開いたら詰める,痛くなったら神経を取る,歯がぐらぐらになったら抜歯して義歯を入れるといった旧来の対症療法的歯科治療がいまだ主流であることが原因であろう.修復・補綴出来高払い制度の下で評価される歯科医療が,ソフトウェアよりハードウェアに対価を支払う日本人の特性も手伝って,歯科医療を受ける側の意識をも予防抜きのものにしてしまった感がある.
 従来企業内歯科の役割は,職域の就業者に対し,急性症状を抑え,またそれに続発する処置を施すことで,勤務時間内での外部医療機関受診に伴う労働生産性の低下を防ぐことにあった.たしかに医科と異なり,自然治癒力が生じない硬組織の実質欠損に対する処置は,多くの通院回数を要し,本人への時間的,経済的負担も大きい.しかしう蝕や歯周疾患が,歯垢(デンタルプラーク)中の細菌による多因子性の感染症であることから,その予防や治療には,幼児期における母子感染防止と口腔のデンタルプラーク・バイオフィルムを除去するための保健指導が必須である3)

産業歯科保健活動の実際—福岡予防歯科研究会での産業歯科保健の取り組み

著者: 堀口逸子

ページ範囲:P.389 - P.393

福岡予防歯科研究会について
 本会は1973年に設立され福岡市に活動拠点を設けているNPO団体である.メンバーは九州を中心に北海道から沖縄まで全国にわたり,歯科医,歯科衛生士を中心として,医師,大学教官などで構成されている.会の活動内容は以下のようになっている.まず,臨床予防管理室で予防処置と健康教育による定期健診を約1,200名に対し会員制で行っている1).また九州圏内の市町村単位での保健事業の支援や福岡市内および近郊の幼稚園,保育園(15施設,約1,200名)での健康教育とフッ素洗口を中心とした健康づくりの支援,企業での健康学習教室を主体とした健康づくり支援である.さらに健康教育媒体などの開発・販売,季刊紙や会員向けニュースレターを発行し,毎週事務所にてゼミを開催している.その他に保健婦,栄養士などを対象としたプリシードプロシードモデル2)活用のための研修事業,地域保健や予防歯科に関する研究と学会発表も行っている.
 今回は企業における健康学習教室について,その開催にあたって実施した質問紙による実態調査と労働時間損失調査,教室プログラムとその内容,そして効果について報告する.

産業歯科保健活動の実際—歯科健診機関の活動

著者: 小川洋子

ページ範囲:P.394 - P.397

 1988年に労働省が提唱したTotal Health Promotion Plan(THP)により,職域で健康づくりに対する関心が高まり,いろいろな取り組みが行われている.これは,1991年に労働省が行った「働き盛りの勤労者の意識に関する調査」のなかで,福利対策への従業員の希望をとった時に,「心身の健康づくり」がトップになっていることからもうかがえる.
 THPの流れの中に,「口腔保健」という言葉で歯科に関係した事項が取り上げられたこともあって,歯科保健事業に取り組む企業や健康保険組合が増加している.

健康保険組合と産業歯科保健活動

著者: 山田克己

ページ範囲:P.398 - P.404

愛知県信用金庫健康保険組合の概要
1)設立 昭和38年6月1日
2)設立 母体愛知県内所在の17信用金庫

地域歯科保健からみた産業歯科保健への期待

著者: 金山敏治

ページ範囲:P.405 - P.409

 長寿社会を迎え,事業場で働く人々の健康確保対策の充実が求められています.特に歯周疾患で歯を喪失するのは,成人期から壮年期にかけての事業所で働く人々です.
 働き盛りの人々が在職中だけでなく退職してからも,自分の歯でいつまでもおいしく食べられることを目的に,80歳で20本以上自分の歯を残す8020運動は日本歯科医師会の目標となり,この目標に向け職場での歯科保健活動が実施されています.愛知県の事例をもとに産業歯科保健の課題と期待をまとめてみました.

職域を中心とした口腔保健の研究—現状と今後の動向

著者: 雫石聰 ,   埴岡隆

ページ範囲:P.410 - P.417

 20世紀から21世紀に向かって,最近,政治,経済,行政などの分野において,様々な社会情勢が転換点を迎えようとしている.研究の分野も例外ではなく,産業歯科保健も同様のことがいえるように思う.かなり以前より,職業性疾病に関する研究を中心としたいわゆる労働衛生的研究はあまりみられなくなっているのに対して,最近では,ライフスタイルと口腔保健との関連性など職域や地域を含めたより包括的な研究が増加してきている.さらに,作業関連疾患に挙げられている全身疾患が口腔疾患とも密接な関係があることが明らかにされつつあるし,今後,作業関連疾患としての口腔疾患も解明されるようになるであろう.このような研究の流れは,職域での口腔疾患の予防や口腔保健管理に関する研究に見られるように,産業歯科保健の特殊性は残しつつも,地域歯科保健の研究分野とかなりの部分が重なりつつあり,この傾向は今後も続くと思われる.これらのことは,「歯および支持組織」にとどまらず,口腔全体の機能とその保健の重要性が認識されるようになってきていること,さらに,口腔と全身との相互のかかわりのなかで口腔保健が把握されようとしていることなど,「歯学」研究が「口腔医学」研究へと,そのコンセプトが変化していることも反映している.一方,これらの研究結果は,職域での口腔保健管理システムなどに実際に応用されていくのであるが,その成果についても,費用便益分析や費用効果分析などの科学的評価を加える研究が必要とされている.

視点

21世紀に向けての地域保健—行動療法に期待する—対人サービスの新しい手立て

著者: 足達淑子

ページ範囲:P.378 - P.379

 生活習慣病という名が象徴するように,食事や運動,喫煙など個人の行動の変容が健康増進からリハビリテーションに至る保健福祉活動の直接の介入対象となった.そこでは行動科学が有用・不可欠な手段であることには異論がなく,実際の適用が強く望まれている.
 筆者は,行動科学の臨床適用である行動療法を公衆衛生活動に応用し,患者行動のコンプライアンスの改善や,生活習慣病の予防・コントロールに有用であることを確認してきた.例えば.

連載 精神保健福祉計画の企画と実施—意欲を事業に反映するために

座談会 精神保健福祉はどのように動くか—法改正の読み解き・2

著者: 高畑隆 ,   藤井要子 ,   漆原和世 ,   東條敏子 ,   竹島正 ,   吉川武彦

ページ範囲:P.418 - P.426

 竹島 続いて漆原さんですが,漆原さんは病院のソーシャルワーカーで,同時に市川の精神保健を考える会の代表ということで,医療と地域活動の両方に携われています.

シリーズ 始動した新しい健康の町づくり—出雲健康文化都市プロジェクト・3

健康文化都市づくり—草の根の“小地域まちづくり”ネットワーク

著者: 佐野美紀子 ,   福間紀子

ページ範囲:P.427 - P.431

小地域まちづくりの意義
 公民館単位での小地域の健康福祉活動展開は,出雲市健康文化都市プロジェクトの特徴の一つである.他地域の保健婦から,「なぜ,人口10万近い都市で小地域活動ができるか?」,「大都市では,人口移動が激しくて課題別活動しかできないのでは?」,「私の市では担当人口が多いので,地域活動までは無理」という質問を受けることが多い.そこで,健康福祉の観点からの政策見直しに先行して始められた出雲市の小地域まちづくり活動について,市街地域である今市地区と農山村地域の稗原地区の事例を紹介する.
 市民参加の草の根保健福祉活動の場としては,住んでいる住民の顔が思い浮かぶ公民館単位を設定している.出雲市(人口8万6千人)には公民館が16あり,平均5千人が住んでいる.生まれてから中学校までの多感な15年間をともに遊び学んだ仲間が住む地域である.結婚して新しく転入した夫婦は子どもを通して,地域社会との接点を持つ.働き盛りの壮年期には,地域活動に参加することが困難な場合も多いが,定年後は地域社会との交流が盛んになる.すべてを言わなくても互いに気持ちがわかり,共通の思い出や経験,地域への愛着を持つことのできる生活の場が公民館の範囲と考えられる.

西生田の杜から

専門職

著者: 足立紀子

ページ範囲:P.432 - P.433

どこが専門職か?
 昨年の夏起きた毒入りカレー事件についてどうしても気がかりなことがある.あの日テレビのニュースで第一報を聞いた時,とっさに「小さな町でそんなに沢山の患者が一斉に発生したら,胃洗浄が的確にできるだろうか? 医療機関はいくつあるのだろうか?」という素朴な疑問を家族に話したことを思いだす.反射的なものだが「まず胃洗浄を…」という看護職の勘が言葉になったのだが.
 しかし,真夜中の記者会見で当地の保健所長はキッパリと「食中毒です」を何度も繰り返していた.そしてその言葉を頼りにどの医療機関でも,抗生剤の点滴を中心とした治療を続けたというのである.直接現場にいたわけでもない者が勝手に想像してものを言ってはならないと思うが,どう考えてもあの発症の状況は食中毒の経過とは思えない.ある週刊誌によると,記者会見に居合わせた記者の何人かは「劇毒物ではないか」と食い下がったらしいが,断固として食中毒説を変えなかったという.口に入れて数分で吐いたり痙攣を起こすなどそのことだけで胃洗浄最優先の状況ではないのか? ずいぶん昔に,救急病棟と中央手術室の臨床経験しかない素人のような私でも,まさに救急のイロハという気がする.

公衆衛生へのメッセージ—福祉の現場から

だんご3兄弟

著者: 本山和徳

ページ範囲:P.434 - P.435

 「だんご3兄弟」がヒットしている.さくらんぼ園でも合同で行われる誕生会や日常の保育にも取り入れられるなど大盛況である.テレビで報道されたある幼稚園ではこの曲が始まると園児たちが今までしていた遊びをやめて曲の流れてくるCDプレイヤーの前に走り寄っていく光景が紹介された.
 これほどまでに子どもの心をとらえ流行するようになったこの曲の魅力は,一体どんなところにあるのだろう.流行に弱い自分もその波に乗り遅れまいと耳をそばだててみる.

老人保健法にもとづく機能訓練事業全国実態調査報告

3.介護保険制度と機能訓練事業について

著者: 澤俊二 ,   亀ケ谷忠彦 ,   岩井浩一 ,   安岡利一 ,   大仲功一 ,   伊佐地隆 ,   大田仁史

ページ範囲:P.436 - P.437

 機能訓練事業と介護保険制度の両者に基調として流れているのは,障害を持つ人々のQOLを高めること,さらには要介護者を作り出さないこと,すなわち介護予防(要介護者は介護量の軽減)の方針である.介護保険制度が充実してゆけば,これまで保健予防の柱であった機能訓練事業や訪問指導事業は必要なくなるのではないかと考えるのは早急である.要介護者を作り出さないためには,保健事業としての機能訓練事業と訪問指導事業がその役割を担い,介護を要するようになれば介護保険の種々のサービスで支える.介護予防の視点から考えるならば,多くの選択肢を市町村が持つことが必要であり,将来的には膨大な財政負担の軽減へとつながることが期待できる.
 設問21では介護保険制度に対する認識を現場のスタッフに問うた.介護保険制度との役割分担の観点から考察を加えたい.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 沖縄県中央保健所

「情報処理技術研修」を試みて

著者: 国吉秀樹 ,   吉田良平

ページ範囲:P.438 - P.439

 平成10年度に3回連続シリーズでの「情報処理技術研修」を企画・実施した.これは,中央保健所の地域保健特別対策事業「中核保健所としての研修体系づくり」の3年目としてのモデル研修である.過去2年は,地域保健の研修に関するニーズ調査と需給調査を行っている.ところで,「情報処理」の研修も「技術」の研修も頻回に催されているが,それぞれ悩ましい問題を抱えているように思う.「情報処理研修」は,どんな「情報」を,なぜ「処理」するのかを明らかにして臨まなければ,日頃の業務への活用を再度組み立てなければならない.「技術研修」はさらに難しく,業務の改善なり調査研究の進め方なりでかなり努力・工夫をしていて,現状を乗り越えるための「技術」を必要としているとき初めて有効となる.すなわち,受講者と研修企画者の目的を持った「需要」が十分に醸成されていなければならない.私たちは,よく「これをきっかけに…ができることを期待する」研修を実施しがちであるが,きっかけはかなり周到に演出されなければ進展は難しい.
 今回の研修であるが,まず受講者にしっかりと目的を持って参加してもらうために,個別に学習するテーマを持つことを課した(表1).テーマは受講希望者から事前に提出を求め,これをまとめる意志を企画者と確認した.受講者は3回シリーズの研修の期間中にテーマの内容をまとめ,発表することになる.

自治体の保健福祉活動における理学療法士の役割・15

乳幼児期のリハビリテーションにおける理学療法—医療機関の立場から

著者: 瓦井義広

ページ範囲:P.441 - P.444

 大阪府立母子保健総合医療センター(以下,当センター)は,大阪府の南部和泉市の泉北ニュータウン光明池地区にあり,大阪府域における周産期の専門施設として,地域の医療機関では対応が困難な妊産婦や低出生体重児,新生児に対する一貫した継続的な高度な専門医療を行うため,昭和56年10月に開設されました.
 平成3年には,高度な専門医療を必要とする乳児と幼児に対して新生児期からの継続的な医療を行うため小児医療部門(子ども病院)と,予防法,治療法が十分解明されていない疾病などの研究を行い母子医療に反映させるための研究所を開設しました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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