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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生63巻7号

1999年07月発行

雑誌目次

特集 思春期を支える公衆衛生

思春期保健のあゆみ

著者: 上林靖子

ページ範囲:P.452 - P.455

 思春期(puberty)は本来性成熟に関連する用語で,第2次性徴の発現から,男子では性的能力が完成し,女子では妊娠可能になるまで,つまり子どもを持つことができるまでの期間を意味する.人はこの期間に身長も体重も急速に大きくなり,著しい身体の生理的変化を経験する.
 この時期は身体的な成熟にとどまらず,精神面でも,子どもから大人への変化の時である.思春期の青少年がこの間に直面する発達課題は,上述の身体変化を引き受けながら,自己を確立すること,すなわち性同一性を獲得する,自己中心性を脱し相互交流を基盤とした対人関係を確立することである.これらの課題は,児童期に持っていた親との一体感や親との依存関係を打ち破り,新たな自己を見いだし,同性の親友ばかりでなく異性との出会いを経験し,大人としての社会性を獲得することによって達成される.

思春期を生きる力の育成—ライフスキル教育が目指すもの

著者: 川畑徹朗

ページ範囲:P.456 - P.461

 学校健康教育の分野では,最近「ライフスキル」という言葉が盛んに使われている.
 欧米でライフスキル教育が健康教育に初めて取り入れられたのは1970年代のことであり,その有効性が明らかになるにつれて,世界各国において,それぞれの文化に合ったライフスキル教育を健康教育に導入しようという動きが展開していった.

思春期保健の新たな視点—問題行動の予防のために

著者: 高橋象二郎

ページ範囲:P.462 - P.465

 思春期精神保健の問題を公衆衛生的(1次予防的)立場から論ずることには,相当困難が伴うものである.その理由の一つは,これまで精神保健の分野はメンタルヘルスの視点を欠いていたという点にあるだろう.つまり,個人を中心に置いたアプローチが主で,集団の心,特に思春期の健康はほとんど排除されてきたからである.方法論についても,予防的な方法論そのものが確立されておらず,新たな視点を見いだす段階には至っていない.さらにこれに追い打ちをかけるように,近年は診断困難例と言われるような症例が増加している.そして,不登校,自殺,薬物依存といった問題が大きな社会問題になってきている.
 しかし,思春期の精神保健の予防的活動は,若者の発病がもたらす経済的損失の大きさという意味からも早急な対策を講じる必要に迫られている.最近のいわゆる「キレる子」現象は,極端な攻撃性の発露が社会全体の攻撃性を反映しているという視点からも地域集団全体の精神保健対策を求めていく必要があるだろう.また,薬物関連行動をみると,学校だけでなく社会のシステムに影響を受けた,様々な要因が関与しており,その責任は学校から地域社会全体へと広がっていると考えられるだろう.

思春期保健への専門的支援

著者: 荒木均

ページ範囲:P.466 - P.469

 地域保健法が施行され,母子保健の中に含まれる思春期保健は,市町村が実施主体となった.母子保健の中での健康診査や予防接種などの業務は方法論も確立し,サービスのレベルを低下させることもなく実施されているが,思春期保健は保健所が担当していた当時から,方法論を求めて悪戦苦闘し,現在に至っている.そこで,保健所が思春期保健の分野でどのようなリーダーシップを発揮することが可能かを,筆者が行った保健所での「思春期」に関する試みを振り返りながら考えていくことにする.

思春期を支える専門性—思春期保健相談員の役割

著者: 北村邦夫

ページ範囲:P.470 - P.475

 世界保健機関(WHO)リプロダクティブ・ヘルス・プログラム(1997年)の中では,リプロダクティブ・ヘルスとは,生まれてから死に至るまでの過程において,従来の健康の概念に加えて性的にwell-beingな状態を目指すものとしている.したがって,これは「生涯を通じた性と生殖に関する健康」と言い換えることもできる.中でも,性交,妊娠,避妊,中絶,出産,性感染症などリプロダクティブ・ヘルスに係る問題の多くは思春期に起こる可能性が高い.というのは,思春期が知りたいと願う情報を入手し,リプロダクティブ・ヘルス・サービスを享受する手段を持ち合わせていないからである.そのためにも,思春期からの性教育や情報提供が必要であることは言うまでもない.
 本稿では,わが国の保健所,市町村,学校など多分野において,直接,間接に思春期の子どもたちを支援している思春期保健相談員の現状とその役割などについて論じたい.

思春期保健の技術論—ライフスキル教育としての性教育

著者: 岩室紳也

ページ範囲:P.476 - P.479

 学校現場で「ライフスキル教育」ということが盛んにいわれるようになり,一つのテーマを教える場合に様々な分野の専門家による「チームティーチング」という手法も積極的に取られるようになってきた.HIV/AIDSをきっかけに保健医療の専門職が学校で講演する機会も増えているが,学校のニーズ,生徒の多様性を踏まえた内容を提供しなければかえって連携する機会を逸しかねない.今回,チームティーチングの中で保健医療の専門職が果たすべき役割を明確にするとともに,ライフスキル教育としての性教育を行う際に必要な技術について述べる.

思春期保健の技術論—思春期に対する喫煙予防対策

著者: 斎藤麗子

ページ範囲:P.480 - P.484

 駅のホームや通学路で,制服姿でたばこを吸う高校生男女を見かけることは珍しくなくなりました.小・中学校の校門の前やすぐ側にたばこの自動販売機が置かれていて,休み時間にでも走って買いに行ける状態です.
 深夜のテレビのたばこCMが放映されなくなった替わりに,日中のドラマの中の喫煙シーンが増え,さらにマナー広告と称し逆に昼間から「たばこは大人のたしなみ」と宣伝しています.子どもを取り巻くたばこ社会の状況は,成人のそれ以上にさらに悪化しているのです.

思春期保健の技術論—心の問題を抱えた子どもたちへの具体的支援について

著者: 原田正文

ページ範囲:P.485 - P.487

 思春期精神保健事業については,厚生省が昭和63年(1988)より精神保健センター事業として位置づけていますので,それぞれの都道府県で取り組みがなされていることと思います.大阪府ではそれに先立ち,昭和57年(1982)より保健所を中心にして思春期精神保健に取り組んできました.大阪での実践をもとに,心の問題を抱えた子どもたちへの支援の考え方と具体的取り組みについて紹介します.詳しくは,昭和61年度より毎年発刊されました『大阪府思春期精神保健事業報告(第1〜10巻)』(大阪府環境保健部刊)をご参照ください.

視点

21世紀に向けての地域保健

著者: 加納尚美

ページ範囲:P.450 - P.451

片側
ある事実のかたわらをとおりすぎることはそんなはずではないようにたやすいだが その熱い片側にはかがんで手をふれて行け事実は不意にかつねんごろに熱い片側をもつ(新撰 石原吉郎詩集,思潮社,1979)
 1995年に北京で開催された世界女性会議では,女性への暴力は人権侵害として議論され,その根絶に向けた行動綱領も採択された.女性への暴力とは,夫や恋人からの暴力,セクシュアル・ハラスメント,強姦,人身売買などを指す.こうした動きを受けて,ようやく総理府の「男女共同参画2000年プラン」にも女性への暴力根絶に向けてのガイドラインが提示されるようになった.また,前後してマスコミ報道にも「性暴力」という言葉が時折使われるようになっている.しかしながらその実態把握と具体的な対策は乏しい.そこで地域保健の視点の一つとして「性暴力」に関連する個人的な活動も含めて述べたい.

トピックス

わが国における公衆衛生専門訓練のあゆみとMPHコースの今後の展望

著者: 髙原亮治

ページ範囲:P.489 - P.495

 今日は「公衆衛生の専門的教育訓練」について私見を述べたいと思います.
 どうして日本には公衆衛生大学院School of Public Healthが,ないしはMPH(Master of Public Health)というものが大学教育のなかでできなかったかということは,いろいろな問題点を含んでいる.日本では国立公衆衛生院の1年もしくは2年課程と,産業医科大学の研修コースが,国際的にみるとMPHに相当するだけで,いずれも正規の学校教育になっていない.産業医科大学のコースは,産業医学会においてMPH相当と認定されているコースである.旧来の公衆衛生という領域に絞って地域保健をやる,産業医をやるという場合は,従来から,国内にせよ,こういった道はあったわけです.

シンポジウム 第17期日本学術会議環境保健学研連主催公開シンポジウム 「内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)の影響はどこまでわかっているか」

シンポジウムのはじめに

著者: 角田文男

ページ範囲:P.521 - P.522

 日本学術会議の環境保健学研究連絡委員会(以下,環境保健学研連)は,人の生存環境にかかわる健康影響を研究する領域について,研究の連絡を図り,その能率を向上させるために必要な事項を調査審議する委員会である.日本学術会議は昭和24年(1949)1月に設立され内閣総理大臣の所轄の下に置かれる「特別の機関」であり,全国約70万人の科学者の代表として科学の各分野から選出された210人の会員により組織されている.学術会議は,各科学部門によって第1部から第7部に分かれ,その各部のもとに総数180の研連があり,そこには学術会員とその分野の専門知識を有する科学者からなる総数1,221名の研連委員によって構成される.環境保健学研連は第7部(医・歯・薬学の3分野包括)に属し,関連する諸学会の研究者10名(別記)によって構成されている.
 さて,環境保健学が主要課題とする「人の生存環境」について,今日では非常に幅広く捉えられ,人の生活環境から労働環境,地域環境から地球規模の環境,そして現代では宇宙環境までも含められる.これらの環境中に存在する物理的,化学的,生物的,および社会的な諸要素が人の健康とどのようにかかわり合っているかを研究する分野が環境保健学である.

内分泌攪乱化学物質とは

著者: 内山巌雄

ページ範囲:P.522 - P.526

 本シンポジウムは,角田環境保健学研連委員長のご挨拶にあったように,一般の方にもわかりやすくということで本題を用意してきたが,ご参集の方々には本領域を専門に研究されておられる方も非常に多いので,期待に沿えない内容となるかと思うが,第2席以降の各専門分野の先生による講演のイントロダクションという意味で,「内分泌境乱化学物質とは」と題し,その概念を中心に紹介したい.
 内分泌撹乱化学物質については,現在はいろいろな言葉が使われているが,日本では,「環境ホルモン」という言葉がポピュラーになってしまった.もともとは,内分泌攪乱化学物質は女性ホルモンであるエストロジェン作用が注目されていたので,最初は“Environmental Estrogens”環境エストロジェン,あるいはエンドクリン問題ということで議論されていた.それからエストロジェンはホルモンであるので“Environmental Hormone”という言葉でも使われてきたが,ホルモンは生体内で良い働きをするので,このような場合にホルモンを使うのは良くないという意見や,ホルモン作用だけではなくて,免疫系やその他の作用をもつものもあるので,その次に出てきたのが“Endocrine Disruptors”あるいは“Endocrine Disrupting Chemicals”という言葉である.最近では,略してEDCsという表現を欧米では使うことが多くなった.それを日本語では内分泌攪乱化学物質といっている.

連載 シリーズ 始動した新しい健康の町づくり—出雲健康文化都市プロジェクト・4

健康文化都市づくり—高齢者支援ネットワーク

著者: 三島武司 ,   間島尚志

ページ範囲:P.497 - P.501

生命輝く高齢者支援のために
1.出雲市の現状
 出雲市の高齢者人口は16,477人(老年人口割合19.0%)であり,年々高齢化が進んでいる(1999年).独居高齢者が1,364人,高齢者世帯も1,863世帯と増加の一途をたどっている(1999年).市内の中山間地域と市街地域では老年人口割合が約25%と高く,独居高齢者は市街地域と新興住宅地で高率となっている1)
 障害高齢者も増加し,約2,500人がなんらかの支援や介護を必要としていると考えられる.また,地域によって1世帯当たり人員数や医療福祉サービスの利用も異なっており,各地域の特性に合わせた健康福祉ネットワークの充実が課題となっている.

西生田の杜から

保健と福祉

著者: 足立紀子

ページ範囲:P.502 - P.503

ある実習で
「社会福祉士」の国家試験受験資格に必要な指定科目のなかに,福祉施設などでの実習があり,昨年の夏,私はある政令市の児童相談所にいった.ある時,思春期の女子の処遇に関する臨時所内会議が開かれている途中,近隣者からの電話通報による1歳半くらいの子どもへの虐待が疑われる内容の報告があった.その報告はそのままに終わり,数日後の定例所内会議でもその後の報告がなされた.そこでは,近くに住む当事者の縁戚にあたる人に児童相談所に来所させた上で得た具体的な情報が提供された.しかし,そこでもまた今後に向けての積極的な方策は何も確認されなかった.担当者のなすがままである.何のための会議だろうか? 一体この鈍感さはなんだ!
 1歳半といえば本当にかよわい存在である.一日,一日がその子の成長や生命に与える影響のどれほど大きいことか.この切実感の乏しさは,感性の欠如なのか単に怠情なのか私には理解できない.

公衆衛生へのメッセージ—福祉の現場から

老人福祉施設などにおける感染症対策への新しいアプローチ—高齢者のインフルエンザ対策を例として

著者: 出口安裕

ページ範囲:P.504 - P.506

 わが国では本格的な超高齢化社会の到来を迎え,保健・医療.福祉の連携のもとに,そのより適切な高齢者福祉サービス提供のためのシステム構築が求められている.特に,在宅介護の問題とともに,特別養護老人ホームや老人保健施設,ケアハウスなどの老人福祉施設などの入所者に対する処遇面の充実については重要である.高齢者においては,感染防御免疫能の低下などにより易感染性の問題がある.このため,健康な人では感染を起こさないような病原菌や非病原菌によっても感染症を起こしやすい.例えば,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症(MRSA)が病院や施設内で急増している.また,最近,腸管出血性大腸菌感染症などの食中毒やインフルエンザ感染症なども含めて,集団生活の場でもある老人福祉施設などにおける感染症の問題が問題となってきている.殊に,本年を含めて,最近,特別養護老人ホームなどにおけるインフルエンザの集団発生と高齢者の死亡例が報道され,高齢者に対するインフルエンザ対策が問題となってきている.このような点からも老人福祉施設などにおいての感染症予防対策は殊に重要な問題である.われわれは,大阪府下の老人福祉施設などにおける施設ごとの感染症(食中毒やMRSA,インフルエンザなど含む)とその対策の現状をアンケートなどにより把握して,その結果から現状を分析した.

老人保健法にもとづく機能訓練事業全国実態調査報告

4.機能訓練事業利用者の概況

著者: 澤俊二 ,   亀ケ谷忠彦 ,   岩井浩一 ,   安岡利一 ,   大仲功一 ,   伊佐地隆 ,   大田仁史

ページ範囲:P.508 - P.509

 設問5の利用者の概況について,調査に協力が得られた全国3,389施設の登録者数,利用者の年齢構成,疾病および症状,利用者の日常生活自立度(寝たきり度・痴呆度)について報告する.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 沖縄県宮古保健所

HIVネットワーク沖縄の活動

著者: 国吉秀樹 ,   三宅寛治

ページ範囲:P.510 - P.511

 HIVネットワーク沖縄の活動を本稿ではご紹介するつもりであるが,実はその内容のほとんどが緒についたばかりである.したがって今回は,地域保健活動としてのエイズ対策の成果という話ではなく,それまでの活動が大きく変容し前進する条件についての感想である.
 最近の沖縄県の保健所におけるエイズ対策は,学校などでの基本的知識の一方的な伝達が減り,来所による相談件数が減少するなど手詰まり状態であったが,これら関心の低下に対して有効な取り組みがなかなかできなかった.またHIVネットワーク沖縄は,既にボランティアのエイズに関する電話相談を中心に10年ばかり活動してきた非営利組織であるが,活動の幅が広がらない悩みがあった.このような状況が,どうやら平成10年度を起点にゆっくりとではあるが変化しはじめた.

自治体の保健福祉活動における理学療法士の役割・16

学童期,青年期のリハビリテーションにおける理学療法—総合療育センターでの地域の保健福祉活動との連携

著者: 高橋明子 ,   佐藤政広

ページ範囲:P.512 - P.515

 1995年障害者プラン策定により,具体的施策の一つとして「障害児(者)地域療育等支援事業(以下,療育等支援事業)」が翌1996年に打ち出された.われわれが勤務する東京都立北療育医療センターでも事業が開始され,地域で生活している障害児・者への援助を行っている.今回は当センターで実施している療育等支援事業における援助活動の実践から,地域で生活している障害児・者へのかかわりを通して,地域の保健福祉活動との連携と理学療法士の役割について考えてみたい.

活動レポート

難病デイケアを実施して

著者: 内野英幸 ,   寺島敬子 ,   大澤禮子 ,   丸山ますみ ,   飯澤裕美 ,   小澤真由美

ページ範囲:P.516 - P.520

 大町保健所では,平成7年度から難病患者とその家族の生活支援を目的に交流会や学習会,個別相談,生活技術訓練などを実施してきた.平成9年度には,保健所における難病デイケアに向けた基盤づくりを行った.平成10年度からは,保健所の専門性を発揮し,難病患者への継続的な支援拠点として難病デイケアを位置づけ開催してきた.
 そこで,この1年間の実績と経験を基に保健所難病デイケアの課題と役割について検討したので報告する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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