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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生63巻9号

1999年09月発行

雑誌目次

特集 21世紀に向けての老人保健事業

老人保健事業第4次計画の展望

著者: 多田羅浩三 ,   新庄文明 ,   福田英輝 ,   菊川縫子

ページ範囲:P.612 - P.616

老人保健事業のあゆみ
 昭和57年8月10日に老人保健法が成立,翌年の2月に制度が施行されてから16年の年月が経過した.この間,平成6年には地域保健法の成立や母子保健法の改正もあり,わが国における市町村の保健事業は大きな展開をみせてきた.就業保健婦の数は,昭和57年には保健所が7,870人,市町村が8,390人であったが,平成8年にはそれぞれ8,887人,1万5,641人で,市町村の保健婦数はほぼ倍増している.そして平成9年には,介護保険法の成立があり,人々の保健,医療,福祉に対し,市町村の担う役割は年々大きなものとなってきている.
 老人保健事業について,昭和57年度を初年度とする第1次5力年計画では,健康診査の受診者数には順調な伸びがみられたが,胃がん検診および都市部の受診率が低く,何よりも健康診査の受診率の向上を図ることが課題とされた.昭和61年度には一般診査の項目に,肝機能検査(GOT,GPT),総コレステロールが追加された.

基本健康診査の課題と目標

著者: 柳川洋

ページ範囲:P.617 - P.620

 昭和57年度に老人保健法が制定されて以来15年以上経過した.循環器疾患を中心とする生活習慣病予防を目的として位置づけられた基本健康診査(一般健康診査)の実施については,過去数回にわたる見直しにより,内容の充実および質の向上が図られたが,平成12年度から導入される介護保険制度との関連および人口の老齢化に伴う疾病構造の変化を考慮に入れた見直しを行い,より有効な実施方式を考える時期がきた.
 本稿は平成10年度厚生省老人保健事業推進事業による「現行の基本健康診査・総合健康診査の実施方法に関する研究班」が実施した研究成果を要約したもので,研究組織は表1に示すとおりである.

がん検診への期待と役割

著者: 久道茂

ページ範囲:P.621 - P.623

 わが国のがん対策は,これまで2次予防対策を中心に展開されてきた.それは,日本に多かった胃がんや子宮がんの原因が不明確で,短期の有効性が期待できる実施可能な1次予防策がなかったからである.もっとも,肺がんの1次予防としてはっきりしていた禁煙・喫煙防止対策がなかなか普及しなかったのは,行政の政策判断にもよるが国民の意識が低かったからといっても過言ではない.
 昭和58年には老人保健法が実施され,その保健事業のなかに胃,子宮頸がん検診が組み込まれた.それ以来,がん検診受診者数は飛躍的に伸び,さらに肺がん検診,乳がん検診および子宮体がん検診が老人保健法第2次5カ年計画へ,大腸がん検診が第3次8カ年計画のなかに加わり,平成9年度の老人保健事業として行われたがん検診は五つのがん検診を合わせて年間約2,400万人が受診している.全国でみると,胃がん検診,子宮がん検診では100%,肺がん検診が94%,乳がん検診が98%,大腸がん検診が99%の市町村で実施されている.しかし,老人保健事業の第3次計画で示された最終年度(平成11年)受診率の目標値にはまだ達していない.

エビデンスのある事業の推進—五色町における健康手帳の工夫と効果

著者: 松浦尊麿

ページ範囲:P.624 - P.627

 今日,住民の健康づくりにあたっては自己管理意識の向上や集団的保健指導のみならず個別的指導を重視すべきことが指摘されている.また,高齢化社会の到来を契機として,「生活の質」の向上のための保健・医療・福祉の連携,インフォームドコンセントの重視や高齢期の健康管理と福祉サービスの包括的ケアの推進が求められている.
 1983年の老人保健法の施行により,自らの健康管理と適切な医療の確保を目的とした健康手帳の交付が定められ,老人保健法に基づく医療を受けることができる者全員に健康手帳が配付されてきたが,上記のような時代背景を勘案しつつ現在の健康手帳の有用性と問題点を明らかにするとともに,その改善策を検討する必要がある.

エビデンスのある事業の推進—問診票の工夫

著者: 西信雄

ページ範囲:P.628 - P.631

 基本健康診査は,心臓病や脳卒中といった循環器系の疾患のハイリスク者を早期に発見することを主たる目的として開始された.その後,疾病構造の変化や検査精度の向上などに伴い血液検査の項目は充実が図られてきたが,問診票の項目は見直されることがなかった.
 生活習慣病対策が課題となっている現在,問診票が果たすべき役割も変化が求められている.本稿では現行の問診票の問題点を整理し,生活習慣を中心とした問診票の試案を示してみたい.

エビデンスのある事業の推進—健康教育・健康相談

著者: 吉村学 ,   山田隆司

ページ範囲:P.632 - P.635

 老人保健法に基づく保健事業のうち健康教育では,対象者は40歳以上かその家族で,内容としては高血圧教室などの保健学級や講演会などを開催して,糖尿病や骨粗鬆症や寝たきり予防などを重点的に行うよう推奨されている.また健康相談では,気軽に相談できる窓口の開設を行い必要に応じて血圧測定や検尿を行うこととしている.
 この稿では,地域住民への健康教育・健康相談を実施するに当たり,evidence based medicine(以下,EBM)をどう取り入れて展開しつつあるかを具体的な事例を交えて,そのプロセスを中心に可能性や限界・課題および工夫について述べたい.

訪問指導事業の成果と展望

著者: 中林美奈子 ,   鏡森定信

ページ範囲:P.636 - P.639

 高齢化社会の保健,医療,そして福祉ニーズに対応するために,昭和57年8月に制定された老人保健法に基づいて各種の保健事業が展開されてきた.老人保健事業のねらいとしては,1)疾病の予防,治療からリハビリテーションに至る一貫した保健サービスの提供,2)壮年期からの健康づくりと成人病予防,早期発見・早期治療,3)寝たきり状態の防止,4)老人医療費の適正化などが挙げられている1).その後の高齢社会の急速な進展は寝たきりや痴呆などの障害を有する高齢者の増加をもたらした.平成12年からは介護保険も導入され,生活圏における介護の充実が図られ,障害を有する高齢者の生活の質の向上がいっそう進むことが期待される.しかし,このような障害に陥らない,あるいは,たとえ障害が避けられないとしても,日常生活動作に支障のない期間の延長を目指すことが重要であり,老人保健事業のよりいっそうの充実が求められている.
 老人保健事業の今後のあり方をめぐる議論の中で,保健活動の結果に対する科学的手法による評価の必要性が指摘されているが2),本稿では,老人保健事業のうち訪問指導事業の評価の実例を紹介し,その成果と今後の展望について述べる.

機能訓練事業の成果と展望

著者: 浜村明徳

ページ範囲:P.640 - P.644

 介護保険の開始を目前にし,機能訓練事業や訪問指導などわが国における地域リハビリテーション活動の先駆けとして機能してきた事業を,21世紀の高齢社会にふさわしいものとして位置付けなおす必要が生まれた.平成10年,介護保険制度下における機能訓練事業のあり方(対象者,サービス内容,費用対効果など)に関する整理を目的に,「機能訓練事業の効果等に関する研究班」が開催された.
 ここでは,この研究班による報告結果を中心に,機能訓練事業の成果と展望について述べる.

平成12年度以降の老人保健事業について

著者: 西山正徳 ,   笠松淳也

ページ範囲:P.645 - P.649

 わが国は,世界でも最高水準の長寿を達成するとともに人口の高齢化が急速に進んでおり,少子化ともあいまって,2015年には国民の4人に1人が65歳以上の高齢者という超高齢社会を迎えることが予測されている.21世紀に向け,社会の活力を保ち,明るい社会を実現していくため,国民一人ひとりが,高齢期を健康で生活できるようにしていくことがますます重要な課題となっている.
 高齢期の健康を保持増進し,疾病や要介護状態を予防する主体は高齢者自身であり,行政施策としての保健事業は,その自主的な取り組みを支援する形で展開することを基本とするべきである.

視点

21世紀に向けての地域保健

著者: 白井千香

ページ範囲:P.610 - P.611

 21世紀を目前に阪神淡路大震災に遭遇した.一時は自らが直後の躁状態から,次第に底をつくようなうつ状態に陥るという精神の安定を欠いた経験もした.今では「もうそんなに怖いものはなくなった」と豪語し冗談も言えるようになったが,震災から4年が過ぎた今,市民レベルの復興や生活再建はいよいよ厳しくなり被災地でも温度差が広がっている.まして全国的には過去のお話になりつつあるが“終わりのないトピック”としてここで「震災後」を取り上げたい.

トピックス

介護保険時代における地域保健の課題

著者: 竹内孝仁

ページ範囲:P.650 - P.656

 介護保険の実施を目前にして市町村ではその事業計画づくりに大わらわの状況となっている.厚生省は介護保険事業計画と併行して「高齢者保健福祉計画」の策定を行うよう通達しているが,筆者の印象では介護保険一色で保健福祉計画には手が回らないというのが実情のようである.ここで保健福祉計画策定の状況を取り上げるのは,介護保険一色の世情の中で,保健のあり方が真剣な論議もされないままに見過ごされている感があるからである.こうした傾向は,地域保健法改正を受けて各地で行われた「地域保健のあり方」に関する検討に始まっている.筆者は当時ある自治体のこの種の委員会に参加していたが,論議の的は「保健所の統廃合」と,地域保健として高齢者福祉分野に対してどのように協力連携をなすべきかの2点であった.つまり自治体レベルでの地域保健のあり方とは,高齢者福祉の支え手としてどうあるべきかの論議が主体で,正面から地域保健そのものをとらえ直すということにはならなかったように思う.元来は,医療・保健・福祉という表現があるように,それぞれに独自の領域と相互に連携すべき領域とが公平に論議されるべきであることは明らかである.たしかに整備の遅れている高齢者福祉がいま最も検討されるべき事情はあるとはいえ,保健福祉計画という保健と福祉の合体すべき計画においても,保健はほんの申しわけ程度の記載しかされていないという印象は筆者一人のみのものではないだろうと思う.

シンポジウム 第17期日本学術会議環境保健学研連主催公開シンポジウム 「内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)の影響はどこまでわかっているか」

スクリーニング試験

著者: 西原力

ページ範囲:P.681 - P.686

 本シンポジウム「内分泌攪乱化学物質(endocrine disruptor:ED),いわゆる環境ホルモンの影響はどこまでわかっているのか」において,私に与えられたテーマはその影響と化学物質の因果関係を調べる方法,すなわち,ED作用検出のための試験についてである.ED問題では,ヒトの健康や野性生物への影響とともに,どのような物質がED作用をもっているのかを明らかにすることが緊急の課題である.そのために多数の物質を短時間に試験するスクリーニング試験が重要である.ここでは特にインビトロ(試験管内)試験を中心に述べる.

連載 シリーズ 始動した新しい健康の町づくり—出雲健康文化都市プロジェクト・6

座談会 生命輝く市民主体の健康文化のまちづくり・1

著者: 齋藤茂子 ,   齋藤誠 ,   田中佑子 ,   山根洋右 ,   渡部英二

ページ範囲:P.657 - P.664

 渡部(司会)今日は出雲市の健康文化のまちづくりの生みの親であったり,あるいは草の根の市民運動を続けてこられた結果,健康文化まちづくりネットワークにつながったという方々にお集まりいただきました.私は皆さんに知恵と力をお借りして仕事を進めている立場ですが,それぞれのお立場から率直なお話をいただきたいと思います.
 出雲市の健康文化のまちづくりは,1994年に山根洋右さん,齋藤茂子さんを中心にコミュニティケア研究会が定期的に開かれるようになったのが出発点だと思います.それは山根さんを委員長にして,保健,医療,福祉の第一線で活躍している方や,在宅介護の経験のある市民の方の参加を得て市の高齢者保健福祉計画をつくりあげた時期とも重なっています.

西生田の杜から

人権教育

著者: 足立紀子

ページ範囲:P.666 - P.667

あふれかえる人権問題
 近年は人権のインフレ時代といわれている.
 にもかかわらず,最も直接的に人間対象を生業とする保健医療福祉の現場で,どれほどの人権論議がなされているだろうか? もちろん,教育問題も含め毎日のように新聞などで報道される事柄の多くに人権問題が含まれているから,だれしも無関心でいるはずはない.

公衆衛生へのメッセージ〜福祉の現場から

家族の肖像

著者: 牧上久仁子

ページ範囲:P.668 - P.670

 その娘は「家族」という言葉が大嫌いでした.
 ある冬の日の朝,こわばった表情の母親が彼女とひとつ下の弟の枕元に来て,「お母さんはこれからこの家を出るのよ.ここに残るか,お母さんと来るか決めなさい」と言いました.彼女と弟が「お母さんと行く」と答えたのはほぼ同時でした,小学5年生と3年生の姉弟はなんの迷いもなくそう決めたのです.母親はそれを聞くと安堵したように2人を抱いて泣き崩れました.娘が気の強い母親の泣き顔を見たのは,それが初めてでした.その日からその家族の力関係はひっくり返りました.

老人保健法にもとづく機能訓練事業全国実態調査報告

6.実施頻度,利用回数,参加人数,実施時間

著者: 澤俊二 ,   亀ヶ谷忠彦 ,   岩井浩一 ,   安岡利一 ,   大仲功一 ,   伊佐地隆 ,   大田仁史

ページ範囲:P.671 - P.673

 今回は,機能訓練事業の実施頻度,月の利用回数,1回の平均参加人数,1回の実施時間について,調査に協力を得られた全国3,389施設の回答の集計結果を報告する.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 福岡県北九州市

より高度の食品衛生行政を目指して!!

著者: 小橋清 ,   金田治也

ページ範囲:P.674 - P.676

 平成6年に全国に先駆けて,保健所と福祉事務所の統合,保健局と民生局の統合を図り,新しい保健福祉,地域福祉の展開を目指している北九州市では,対物保健サービス部門についても見直しを迫られ,平成8年10月には7保健所を統合し,1保健所2生活衛生課体制となった.
 筆者らは,地域保健のあり方が議論される中,平成3年度から高度で効果的な監視指導業務の展開を開始し,さらに,地域保健業務の一環としての生活衛生業務の展開を目指してのアプローチを実施している.今回から数回,高度の食品衛生業務,環境衛生業務,動物愛護と管理の業務,連携と協働活動などについての事例を紹介したい.

自治体の保健福祉活動における理学療法士の役割・18

障害児(者)福祉施設における理学療法士の役割

著者: 加藤敦子

ページ範囲:P.677 - P.680

 障害児(者)に対する理学療法の目的は,「本人の姿勢・運動をコントロールし,コントロールしきれない部分は車いす・杖などの代替手段を活用して,本人が社会適応する可能性を広げること」にあると考えられます.最初は座ったり立ったりといった基本的運動機能の獲得が求められますが,年齢が上がるにつれて日常生活動作や社会生活での自立といったニーズも現れ,また行動範囲が家庭から地域に広がることで必要とされる能力も増えてきます.このような変化に柔軟に対応でき,最終的に本人が生活スタイルや生き方を選択できるように本人の生活能力を高めたり,物理的な条件を整えることであると思われます.とすると,対象児に対する理学療法士の役割はどこで理学療法を実施していようが同じはずです.しかし,求められる役割は,理学療法士の置かれる環境やその中での役割分担により異なってくると考えられます.そこで,宮城県の肢体不自由児施設である拓桃医療療育センターを紹介しながら,そこでの理学療法士の役割を整理し,そこから対象児のおかれている地域の関係機関との連携について考えていきたいと思います.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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