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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生64巻1号

2000年01月発行

雑誌目次

特集 大都市における地域保健サービス—その体制と戦略

大都市における地域保健体制の展望

著者: 宇都宮啓

ページ範囲:P.4 - P.9

 平成6年6月に地域保健法が成立し,12月に「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」(以下,基本指針)が告示されて以来,保健所を設置する全国の自治体において,保健所体制の見直しが進められてきている.そのような中で,政令指定都市(地方自治法第252条の19第1項の「指定都市」,以下同じ)における保健所設置については,基本指針では「従来おおむね行政区単位に設置されてきたことに配慮しながら,都道府県の設置する保健所との均衡および政令市の人口要件を勘案し,地域の特性を踏まえつつ,設置することが望ましいこと」としてきたにもかかわらず,最近の実態としては1行政区1保健所体制と1市1保健所体制に二分されている.さらに,特に政令市(地域保健法第5条第1項で定める市を一括して,以下,政令市)では,保健所と保健センターの関係,役割分担が多様になってきている.
 本年8月に発表された地域保健問題検討会報告書(以下,報告書)においては,これらの問題についての検討結果が報告されている.今回の特集では政令指定都市を対象にしているようであるが,特別区は当然のこととして,政令市においても政令指定都市と共通する事項も少なくないことから,本稿においては,これらの都市も含め報告書における関連部分の報告を中心に,今後の大都市における地域保健体制の展望について述べてみたいと思う.

保健所各区体制の地域保健サービス—川崎市

著者: 小柳博靖

ページ範囲:P.10 - P.13

 川崎市は神奈川県の北東部に位置し,北は多摩川をはさんで東京都に,南は横浜市にそれぞれ隣接し,西は多摩丘陵地帯をひかえ,東は東京湾に臨んでいる.市域は多摩川の上流に向かって次々に拡大されたため,南東から北西へ延長約33kmにわたる細長い地形となっている.また,北西部の一部丘陵地を除いて起伏が少なく,比較的平坦な地域となっており,南東部(臨海部)重工業地域と,北西部(内陸部,丘陵部)の住宅地域という性格の異なった地域により市域が形成されている(表1,図).

保健福祉センター各区体制の地域保健サービス—仙台市

著者: 佐藤牧人 ,   武田俊平

ページ範囲:P.14 - P.17

 仙台市は人口100万人,面積788km2で5区からなり,最大の青葉区が28万人,301km2,最小の若林区が13万人,50km2である.高齢化率は平成10年10月で12.4%であり,全国平均より約10年遅れている.平均寿命や結核罹患率などの健康指標は政令指定都市の中でも良好であるが,都市化に伴う地域保健の課題が次第に明らかになりつつある.

保健所各区体制の地域保健サービス—名古屋市

著者: 金田誠一

ページ範囲:P.18 - P.21

 名古屋市の人口は約216万人で,最近は緩やかな増加傾向となっている.昭和50年より16行政区体制となり,その後は市域の主な変更もなく現在まで続いている.各区の常住人口は,約6万人から20万人と区間差が開いてきており,周辺区において人口増加傾向にある.
 地域保健の現在の体制は衛生局が担当しており,本庁のほか,精神保健指導センター,生活衛生センター,動物愛護センター,食肉衛生検査所,中央卸売市場衛生検査所,衛生研究所,各行政区ごとに一つの保健所(区役所支所管内には分室を設置)を配置している.

保健所1カ所体制の地域保健サービス—大阪市

著者: 飯塚正毅

ページ範囲:P.22 - P.26

 大阪の地は,難波津の昔から,淀川の河口に栄えた都市であり,大化元年(645年)には都が大和の飛鳥から移され,その後平安遷都までの約150年にわたって政治・文化の中心地であった.
 以来様々な変遷を辿り今日の大阪市があるが,長い歴史と文化,さらには独特の人情・風情を形成しており,西日本の中枢都市としてその機能を果たしている.

保健所1カ所体制の地域保健サービス—神戸市

著者: 坪井修平

ページ範囲:P.27 - P.32

 神戸市の保健・医療・福祉行政は戦後,次のとおり変遷した.
 特に,思いがけない阪神・淡路大震災と,既に始まっていたバブルの崩壊が,神戸市財政に甚大な影響を与え,保健・医療・福祉行政にとっては,さらに平成9年に全面施行された地域保健法が加わり,神戸市の地域保健体制も大きく様変わりした.

保健所1カ所体制の地域保健サービス—札幌市

著者: 宮田睦彦

ページ範囲:P.33 - P.36

 札幌市は人口約180万人,行政区10区を有する最北の政令指定都市である.平成9年,「1市1保健所10保健センター」体制をスタートさせた.ここに,本市の地域保健サービスの状況について述べさせていただく.

指定市保健所の今後のあり方

著者: 工藤啓 ,   高橋香子 ,   大室鮎美 ,   荒井由美子

ページ範囲:P.37 - P.40

 地域保健法の施行以来,保健所のあり方は大きく変わってきている.県型保健所では市町村との業務の分担が変化したが,政令指定都市(以下,指定市)の保健所はもともと市町村の役割を持つことから,当初はそれほど変化がないと思われた.しかし,指定市保健所を取り巻く環境も地域保健法の成立とともに著しく変化している.ここでは指定市保健所を取り巻く環境について検討を加え,今後のあり方を展望してみることにする.

Cities and Healthについて

著者: 川口雄次

ページ範囲:P.41 - P.45

21世紀の課題:都市と健康
 現在20世紀の終わりに立って次世紀を眺めてみると,世界が全く新しいうねりの中で,次の秩序を模索しているといえます.この先の読めない不安定な時代に,次の世紀に起こりうると確実にいえることがいくつかあります.まず第1に,地球上の全人口が60億人を超えて50年後には90億人程度に増加すること,またその巨大な人口がアジアに出現することです.第2にはこの巨大な人口構造が全くこれまでとは違い高齢化していくことです.先進国では既に起きていますが,開発途上国をも含めて65歳以上の人口の急速な増加が見込まれています.日本では21世紀の初頭にかけて,世界最速の高齢化が進んでおり,大きな社会的変化が生まれます.さらに注目すべきは世界で急速な都市化現象が見られることです.WHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)の予測では,世界の都市人口が現在の50%程度から今後50年の間に約80%にまで増加し(図1),この人口の都市集中による都市の生活環境の激変がもたらされ,人々の健康が大きく影響されるようになります.これは地球環境問題とも密接に関係してきますが,都市化が進めば,人口増加とともに,生活環境が極めて悪化する可能性があり,特に人間が生活する上で最も大切な水や,大気,土壌が汚染される以外にも,自然災害の増加や温暖化現象による悪影響,さらには食糧不足などにより,人間生活の質的低下が予想されます.

視点

21世紀に向けての地域保健

著者: 徳留修身

ページ範囲:P.2 - P.3

 学生時代に公害問題に関心を持ったことが公衆衛生の分野に進む契機となった.保健所勤務は結核予防会結核研究所の在職期間をはさんで2度目の経験となる.前回は政令指定都市で広範な業務にかかわる中で,禁煙教育には特に情熱を燃やした.当時は新規の事業であったが同僚の協力もあり楽しい思い出となっている.1999年4月から,出身県で保健所長の職に就いている.21世紀の地域保健が直面する問題の中からいくつか選び,私見を述べてみたい.

連載 疫学 もう一度基礎から・1【新連載】

疫学とは—人間集団における健康状態の頻度測定

著者: 中村好一

ページ範囲:P.47 - P.50

■ポイント■
1.疫学=人間集団における健康状態の分布の観察
2.原因が確立しなくても疫学データによって疾病の予防は可能である

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 福岡県北九州市

生活衛生業務推進力のパワーアップ—事業の中で育った意識改革が鍵

著者: 小橋清 ,   伊藤善信

ページ範囲:P.51 - P.53

 地域保健を推進するには,他のセクションとともに新しい業務を展開する能力とパワーが必要であるが,平成3年当時は保健所内の他の技術者との連係ですらほとんどない状態であった.われわれは,この欄で紹介してきたような新しい事業取り組みを,市民との連係や協働により実施する過程で,意識改革が図られ,業務推進力のパワーアップも図れたと思う.
 図は,生活衛生業務を発展させる力を現在の内容で示してイメージさせたものである.

公衆衛生院からの発信・1【新連載】

公衆衛生院の教育研修

著者: 上畑鉄之丞

ページ範囲:P.54 - P.55

 わが国の公衆衛生従事者は,国や都道府県の行政諸官庁をはじめ,保健所や地方衛生研究所,市町村の保健センターなど様々な場所で働いている.その数は,保健婦約2万5,000人をはじめ,医師・歯科医師約1,500人,獣医師,薬剤師各2,300人,管理栄養士1,500人のほか,放射線技師,歯科衛生士,水道監視や廃棄物処理指導員などを含めて数万人に達する.公衆衛生院は,こうした公衆衛生従事者のための卒後研修機関として1938年にロックフェラー財団の寄贈で設立された.そして,戦後50年以上にわたって第一線で活躍する公衆衛生従事者の研修を継続し,今日までに延べ3万人近くの研修修業者を生み出しており,現在も毎年数百人の各都道府県からの研修者が門をくぐっている.また国や地方自治体など現場の従事者だけでなく,大学教授として学生教育に携わる者の参加も多く,公衆衛生学の専門教育に与える影響も大きい.
 こうした公衆衛生院の教育の伝統は,1948年に創立10周年の記念式典が行われた際,顧問であったDr.McCoyの特別講演のなかで,「公衆衛生の概念は,疾病の予防のみならず,健康増進ならびに人々の経済的,社会的福祉の増進にまで拡張されている」,「医学部学生にはPublic Health Mindを教えることが大切で,予防医学教育と臨床医学を注意深く統合結合して教える総合的教育計画が必要」などの指摘にもあるように,国民の公衆衛生の向上を実践的,学理的に追求するという一貫した姿勢に今も現れている.

海外レポート ニューヨーク州保健省の日常・1

公衆衛生というキャリア

著者: ホスラー晃子

ページ範囲:P.56 - P.57

 昨年6月に新しいニューヨーク州保健省の長官が就任した.ブッシュ政権下で公衆衛生局長官(Surgeon General)としてアメリカ公衆衛生行政の最高職を務めた,アントニア・ノベロ女史である.ノベロ長官は歴代の公衆衛生局長官中,女性で初めての,しかも初めてのヒスパニック系であったことが記憶に新しい.ノベロ長官はプエルトリコに生まれ,当地の公立医科大学を卒業後,ミシガンで小児科医として研修を受け,病院の勤務医を経て国立保健局(National Institute of Health;NIH)に就職11年にわたるNIHでの活躍を認められて,公衆衛生局長官に任命された.彼女のように臨床の医師として実務を経験した後,連邦政府や州政府に採用されて公衆衛生の方面にキャリア転換をする人は,今では減少傾向にあるといえる.同じ医師でも医科大学で予防医学,コミュニティ医学といった分野を専攻し,病院での臨床研修期間を短縮して公衆衛生の大学院で修士号を取り,まっすぐに公衆衛生のキャリアに進む人が今は多数派であろう.これはここ20年ぐらいの間に,公衆衛生が医学の分派ではなく,独立した分野としてのアイデンティティを確立したことと,複雑化,多様化する公衆衛生の需要に対応するには,臨床の医学知識だけでなく公衆衛生の専門教育がさらに必要であると認識されたことにあると思う.
 公衆衛生はその性質上,非常に学際的な分野であるといえる.

老人保健法にもとづく機能訓練事業全国実態調査報告

10.自主グループの創設および地域・在宅とのつながり

著者: 澤俊二 ,   亀ヶ谷忠彦 ,   岩井浩一 ,   安岡利一 ,   大仲功一 ,   伊佐地隆 ,   大田仁史

ページ範囲:P.58 - P.59

 今回は,はじめに機能訓練事業を通して誕生した自主グループについて報告し,次に地域の病院や福祉施設などとのつながりや情報交換の方法について述べ,最後に在宅訪問と機能訓練事業との関係について報告する.

自治体の保健福祉活動における理学療法士の役割・22

自治体における理学療法士の役割と展望

著者: 山本和儀

ページ範囲:P.62 - P.64

 21世紀という本格的な超高齢社会を目前に控え,保健・医療・福祉の各種施策は急激に変化しようとしている.その代表的なものが,平成12年4月に導入される介護保険制度である.本制度は社会保障構造改革の第一歩とも位置づけられ,今後は医療や年金などの諸制度も抜本的な改正がなされるものと推察される.これらは,わが国の社会保障制度の新たな枠組みを構築するものであり,国家的な取り組みということができる.
 一方,地方分権化の推進によって,住民に最も身近な行政機関である市町村の役割や責務も大きくなることが予想される.すなわち,今後は地域特性を生かした特色ある自治体行政が求められてくることになるわけである.このような状況のなか,自治体に勤務する理学療法士の役割も今後ますます重要になるものと考えられるが,現時点において理学療法士などの職種を雇用している自治体は依然少ない状況にある.しかしながら,老人保健福祉計画や介護保険事業計画の推進,あるいは現在雇用されている理学療法士などの活動いかんによって,今後はより多くの自治体で理学療法士などの職種が雇用されるものと思われる.

フォーラム

放射線トピックス—低線量被曝で「がん」は増えるか?

著者: 加藤幸弘

ページ範囲:P.60 - P.61

 現代医療において,放射線・放射能(以下,放射線)は診断や治療に用いられ,必要かつ有用なものですが,一般感情として放射線は「危険なもの,恐いもの」と思われています.
 確かに,過去(現在でも?)において無知や誤った使用により,不幸な事故や悲惨な結果を招いたこともありましたが,そのほとんどは高線量被曝によるもので,放射線検査や自然放射線など「低線量被曝」についての影響はよくわかっていません.

報告

遺伝子診断によりBCGによる播種性病変と診断された1症例

著者: 明石都美 ,   石井睦夫 ,   山中克己 ,   森正司 ,   一山智 ,   森亨

ページ範囲:P.65 - P.69

 予防接種の中でもBCG接種の重大な副反応は少ないとされ,特に播種性病変は,わが国では死亡例4例を含め数例が報告されているだけである.
 今回,BCG接種後,約40日後に高熱を発し,不明熱として治療を受ける中で,検査の結果,血液から培養された抗酸菌株が接種されたBCG株と一致することが遺伝子診断により診断された症例を経験したので報告する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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