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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生64巻10号

2000年10月発行

雑誌目次

特集 新エンゼルプランの推進と展望

ヘルスプロモーション・新エンゼルプラン・健やか親子21

著者: 藤崎清道

ページ範囲:P.692 - P.696

 見慣れないタイトルになっているが,本特集のテーマである新エンゼルプランを含む少子化対策推進基本方針の概要を説明するとともに,その中の母子保健分野を発展させた取り組みとしての健やか親子21を紹介し,それらをヘルスプロモーションの文脈でとらえ直してみようというのがそのねらいである.

少子化対策としての新エンゼルプランを考える

著者: 田中哲郎

ページ範囲:P.697 - P.701

わが国の少子化対策の経緯
 少子化対策としての新エンゼルプランを考えるに当たり,わが国における少子化対策の経緯を少し振り返ってみることとする.
 わが国において少子化の現実が多くの国民に印象づけられたのは,平成2年の合計特殊出生率が1.57と発表されたことに始まる.このことは,マスコミにおいて,1.57ショックとして大きく取り上げられ,政府はこれに対応するため,14省庁による「健やかに子どもを産み育てる環境づくりに関する関係省庁連絡会」を発足させ,対策に取り組んだ.

仕事と子育ての両立について

著者: 加藤則子

ページ範囲:P.702 - P.706

雇用環境の整備の現状
1.労働率曲線
 女性の高学歴化や祉会進出意欲の上昇に伴って,職業生活を選択する女性が増加している.一方では,職業生活と子育てとの両立が難しく,出産を機に退職する女性も多い.わが国の女性の労働力率は,20歳代後半から30歳代後半が落ち込むM字型カーブを示しているのも諸外国と比べて特徴となっている(図1).平成11年と平成元年を比べると,労働力率が若干低下している年齢層があるものの,M字型のボトムである30〜34歳層では上昇している.また,25〜29歳層や,中高年齢層での上昇幅も大きい.女性が職業をやめる理由の多くに,育児上の問題を挙げている.そして,育児が一段落したら復職したい希望を持っている.

男女共同参画社会の実現に向けて—性別役割分業意識と女性労働者の実情

著者: 住友眞佐美

ページ範囲:P.707 - P.711

 男女雇用機会均等法が1986年に施行され,既に10年あまりが経過している.また,平成11年には男女共同参画社会基本法も施行され,同年12月に示された新エンゼルプランにも仕事と子育てを両立するための雇用環境の整備や男女共同参画社会形成の推進がうたわれている.
 このように,男女共同参画社会に向けた法律や制度は徐々に整備されつつあるが,現実はいまだに厳しい状況にある.

子どもたちがのびのびと育つ教育環境

著者: 清水凡生

ページ範囲:P.712 - P.716

 学校は本来子どもたちがのびのび行動でき,思う存分学べる場所であるべきで,このような主題が選ばれることが,今の学校が病んでいることを如実に示していることになるであろう.不登校や校内暴力が問題になり,続いていじめが問題になり,その後自殺,学級崩壊など学校における異常事態はますます大きくなっていく.中高生にいたっては,過激な犯罪行動がみられるようになっている.これらの問題の解決なくして子どもたちの快適な学校生活はない.しかし,教育学や心理学の専門家でない筆者にはこれらに対する教育学的解決策を述べることは無理である.ここでは学校における問題についてもふれるが,心の問題にいささか関心をもつ小児科医として,学校で起きた問題に対処する方途としてのスクールカウンセラーの役割と効果について述べることにする.また,思春期世代にある中高生の異常行動の根源が幼児期における親と子の関係にあると考えられることから,将来親になる子どもたちに子どもの理解,親になることへの準備的な認識などを生起させる方途についても述べる.

地域の子育て支援—「親子が集える場の設定」と「子育て情報の提供」

著者: 山本恵子 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.717 - P.721

 近年,母子保健の重点は福祉・教育との連携や子育て支援におかれている.児童福祉施策も,エンゼルプランの策定により対象が保育に欠ける児のみでなく,地域に暮らす親子全体に拡大され,これからは母子保健施策と児童福祉施策が一体となって子育て支援を行うことが求められている.ここでは,地域の子育て支援の基盤づくりとして重点的に取り組まれている「親子が集える場の設定」と「子育て情報の提供」について管内市町村の取り組み状況を明らかにし,課題と今後の方向性を検討した.

<鼎談>少子化のインパクトとそのゆくえ

著者: 小川直宏 ,   林謙治 ,   山田昌弘

ページ範囲:P.722 - P.729

 小川 最近の出生率の低下は主に未婚人口の増加によるといわれていますが,その傾向が強いのは80年代で,90年代の出生率低下の大きな要因は第1子を産まなくなったことです.
 その要因として,まず考えられるのは,バブルがはじけた時期と重なっていることです.所得の見通しが悪いので,結婚しても子どもを持つかどうかとなる.ただ,従来は経済が悪くなると,第3子,4子の出生率が下がったのです.それに対して,現在は第1子を産まなくなったので,果たして経済不安が理由なのか,それとも新しい現象なのか.

視点

少子社会を支えるための医療保険制度の改革

著者: 大久保一郎

ページ範囲:P.690 - P.691

 平成10年度の国民医療費の概況が最近公表された1).これによると総額は29兆8,251億円であり,対前年度増加率は2.6%である.この増加率の単純平均を年代ごとに比較すると,昭和30年代は16.0%,40年代は19.3%,50年代は11.0%,昭和60年から平成8年は5.5%と40年代をピークに低下してきている.平成10年の増加率は国民医療費が公表されるようになった昭和29年以来史上2番目に低い値である.ちなみに最も低いのは前年平成9年の1.9%である.この2年間医療費の伸びが厳しく抑えられたのは,診療報酬の改定幅の抑制,薬価基準の引き下げなどの各種の医療費適正化対策によるものと思われる.しかし,国民医療費の対国民所得比はこの低い増加率にもかかわらず,対前年度0.45ポイントも増加し,7.86%と史上最高を記録し,国民の負担は着実に増加している.この0.45ポイントは史上2番目に高く,史上最高は昭和49年度の0.66である.49年度は老人医療の無料化,2回の診療報酬改定,オイルショックなどの影響を受けたが,医療費そのものの増加率も36.2%と史上最高を記録している.一方,平成10年度の国民所得比の最も重要な増加要因は国民所得の伸びがマイナス3.3%と史上最低を記録したことにある.昭和49年が医療費と経済の高度成長時代によるものであり,平成10年は医療費と経済の低成長時代によるものであるというのは,面白い対照を示している.

シンポジウム 第17期日本学術会議環境保健学研連主催公開シンポジウム 都市医学のストラテジー・2

感染症の世界的現状と制圧戦略

著者: 小林和夫

ページ範囲:P.761 - P.764

 世界の年間総死亡は約5,400万人,その内訳として,循環器疾患1,670万人,感染症1,350万人,悪性新生物700万人であり,感染症は現在でも全世界の総死亡の約1/4を占め,人類に大きな健康被害を招来している(表1).さらに,従来,非感染性疾患として認識されていた悪性新生物(胃癌:Helicobacter Pylori,肝細胞癌:BおよびC肝炎ウイルス,子宮頸癌:ヒト乳頭腫ウイルスや成人T細胞白血病:human T lymphotropic virus-I)や多くの循環器疾患における基本的病態である動脈硬化(Chlamydia PneumoniaeやHelicobacterpylori)に病原体感染が関与していることが判明してきた.すなわち,感染症は広範で甚大な健康被害を惹起している(http://www.who.int/infectious-disease-report/pages/grfindx.html).
 最近まで,日本を含めた先進諸国では感染症を解決された過去の疾患と錯覚し,その対策を怠ってきた.しかし,都市化による過密,人口の集中,貧困,交通機関の発達による人民の高速移動,国際化などが感染症の増加に関与している.感染症は病原体と宿主の生存戦争である.再興病原体は抗菌薬に耐性を獲得し,また,新興病原体は人類に新たな脅威を提供している.

連載 あなたにもできる調査研究—事例をもとに・7

身体活動に関する調査研究

著者: 内藤義彦

ページ範囲:P.730 - P.735

 近年における,肥満をはじめとした高脂血症,糖尿病,骨粗鬆症などの有病率や虚血性心疾患発生率の増加傾向の原因の一つとして,身体活動量(後述)の減少がしごく当然のように語られているが,それを裏付ける疫学調査結果は必ずしも明らかでない.確かに,労働における多くの身体的作業が機械化・自動化され,自動車や電車に頼りがちな日常生活,TV視聴やTVゲームなどで余暇時間を屋内で過ごしがちな生活が増えるなど,身体活動量が減少している状況証拠は十分にあるともいえるが,栄養調査における摂取エネルギー量の平均値の推移などの定量的なデータは見かけない.この理由の一つとして調査研究における身体活動の把握方法が必ずしも確定していないことがあると考えられる.本稿では,公衆衛生活動の調査・評価において,身体活動をどう考え,それに関連する情報をどう扱うかを論ずるとともに,私どもが実施してきた身体活動に関する調査研究の事例を紹介する.

疫学 もう一度基礎から・10

疫学研究方法(5)—では,どの研究方法を採用するのか?

著者: 中村好一

ページ範囲:P.736 - P.740

■ポイント■
 1.すべての疫学研究方法は利点と欠点を抱えている.
 2.利点と欠点を十分に理解した上で,どの疫学研究方法を採用するかを検討しなければならない.

「健康日本21」と自治体・7

歯の健康

著者: 花田信弘

ページ範囲:P.741 - P.745

現代のわが国の口腔保健の状況
1.地域歯科保健
 1947年の保健所法により歯科保健業務は保健所の基本業務として位置づけられてきた.その後,1994年保健所法が「地域保健法」に改正され,「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」が示された.地域保健法制定に伴い,次第に保健所の再編・整備が進み,都道府県の保健所と市町村の保健センターが地域保健の役割を分担しながら地域住民の健康増進を図るようになった.
 歯科保健医療対策についても都道府県,市町村の役割分担などの見直しが必要となり,1996年,口腔保健の方向性および具体的対応についての意見が取りまとめられた.今後の地域歯科保健の方向性として,1)8020(ハチマル・ニイマル)運動の充実,2)地域歯科保健医療の新たな提供体制,3)在宅歯科保健医療,4)人材の確保と資質の向上,5)歯科の救急医療体制の5項目が示された.

市町村の保健福祉活動—上越市・2

座談会 人・環境・まちづくり—健康づくりからISO14001の認証取得まで

著者: 藤原満喜子 ,   高橋美智子 ,   滝見典子 ,   小菅誠子 ,   坪井秀和 ,   石平悦子 ,   寺田清二

ページ範囲:P.746 - P.751

 編集室 今回は「健康回復5か年計画」の話題を中心にお話をおうかがいいたします.まず,上越市のJプランのなかでの健康回復5か年計画の位置づけなども含め,計画の概要をご紹介いただけますか.
 高橋 上越市では死亡者全体のなかで脳卒中,心臓病,がんという3大成人病による死亡が65%を占めており,昭和63年から平成4年までの脳卒中の標準化死亡比を見ると,上越市は134で,新潟県下112市町村のなかでも高い位置にありました.平成7年当時の高齢化率は16.7%で,年々0.5%ずつ上昇している状況を踏まえて,高齢者の支援対策として要介護者とともにすべての高齢者を含めた対策を視野に入れる必要があるということでその対策に取り組むことになりました.

公衆衛生院からの発信・10

特定研修

著者: 国包章一

ページ範囲:P.752 - P.753

 特定研修は特別課程と同様に国立公衆衛生院が行っている短期の研修であるが,いくつかの点で特別課程とは異なっている.特定研修では,総合的な知識や技術というよりも,むしろ行政ニーズの高い特定の今日的な問題についての知識や技術の習得を目的としている.そのため,修業期間は1〜2週間程度と短い.また,特定研修の各コースは,少なくとも年1回は開催している.
 本院において特定研修を実施するようになったのは平成2年度からで,このとき保健情報処理技術研修コースを初めて開いた.その後,平成4年度からはエイズ対策研修コースを,8年度からは歯科衛生士研修コースを開くようになった.さらに,10年度からは介護サービスマネジメント行政研修コースと水道クリプトスポリジウム試験法実習コースを,11年度からは感染症集団発生対策研修コースと新興再興感染症技術研修コースを,それぞれ新たに開くようになった.このようにして,現在では7コースの特定研修を実施しており,年間の修業者数で比較する限り,特定研修は特別課程をはるかに凌ぐまでになっている.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 石川県石川中央保健福祉センター

「医療費分析マニュアル」を作って

著者: 竹本玲湖 ,   山崎紀美

ページ範囲:P.754 - P.755

マニュアル作成に至った背景
 近年医療費の増加は全国的な問題となっていますが,当管内でも医療費安定化がいずれの市町村でも一番の課題となってきています.また,平成9年度より国の基本指針で,保健所業務の中に「市町村支援」が重点として位置づけられ,ネコの手ではなく“ブレーン”としての役割がますます求められるようになりました.これを受け,石川県の保健所では平成9年度から企画調整課が設置され,市町村支援や研修・調査研究などが業務の柱として位置づけられ,当所でも地区担当制を設け,市町村の要望にタイムリーに答えられる体制を整えました.このような中で当保健所が本格的市町村支援として取り組んだのが,市町村の国保医療費分析事業でした.そして6町5村の国保医療費安定化を目指して,実態を把握し保健予防活動の見直しを行うという医療費分析作業にかかわりながら,作り上げたオリジナルの手法をまとめたのがこのマニュアルです.

公衆衛生のControversy インフルエンザワクチンは必要か

インフルエンザワクチンは誰のため?/インフルエンザ対策特に高齢者における予防について

著者: 母里啓子

ページ範囲:P.756 - P.757

 インフルエンザワクチンは誰に必要か? そして効果をどう検証するか? 費用との関係は? この問いに答えるデータを集めることを無視して,わが国のインフルエンザ対策は流行を抑える目的で,それにはワクチンしかないと流行の中心(?)である学童を対象として続けられました.1959年流行阻止分として学童,警察,当時の国鉄職員,郵便局員など公共の職に従事するものに,奨励分として乳幼児や65歳以上の老人に勧められたのです.その後乳幼児には“流行が予測され感染による危険が極めて大きいと判断される十分な理由がある特別な場合を除いて勧奨をおこなわないよう”と通知されています.
 1962年法律により勧奨接種とされ,1976年には臨時接種として流行の恐れがあるときの義務接種とされましたが,以来前もって怖れのない年と言われたことは一度もなく,流行があるぞ,あるぞと脅されて,学校でのインフルエンザの予防接種は年中行事として定着し,接種率を上げることが目的になりました.同じように臨時とされた日本脳炎の予防接種は先の改正までは都道府県ごとに接種をするかどうかが選択され,北海道をはじめとして東北地方では接種は行われず関東地方では幼児期の基礎免疫だけのところも多く,九州地方で毎年追加免疫のため接種をするなど,地方により日本脳炎の発生頻度に差があるのに曲がりなりにも対応しているように見えました.

海外レポート ニューヨーク州保健省の日常・10

健康危機の管理対策

著者: ホスラー晃子

ページ範囲:P.758 - P.760

 日本ではこの数年の間に,阪神淡路大震災,地下鉄サリン事件,O 157集団食中毒,ウラン加工施設の臨界事故など,世界的に報道された健康危機の事例が相継ぎ,危機管理の問題は本誌でも特集された.ニューヨーク州はその点,長い間特に目立った事件も起こらず,平穏無事と構えていたのだが,実は1年前あたりから,にわかに大きな健康危機問題がいくつか浮上しはじめた.その皮切りは,昨年8月末に,州東北部に位置する,ワシントン郡の移動遊園地で起こったO 157による集団食中毒事件である.この事件では幼児と老人の2名の死者を出した他,2,000人近い人々が激しい下痢症状を起こすという,全米でもまれに見ぬ規模の事件へと発展した.これまでのアメリカでのO 157による食中毒のほとんどは,熱処理が徹底されていない肉類の摂取によるものだったため,ワシントン郡の場合も,当初はハンバーガーやホットドッグなどに焦点が当てられた.しかし患者の聞き込み調査の結果,食べ物ではなく,飲み物が関係していることがわかり,さらに移動遊園地を実地調査したところ,敷地内にある数カ所の井戸のうち,水の消毒処理装置がついていない井戸がいくつかあったことが判明した.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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