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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生64巻11号

2000年11月発行

雑誌目次

特集 現代の保健婦—その課題と展望

地域保健法推進に向けて保健所保健婦はどのような役割を担うのか

著者: 宮崎育子

ページ範囲:P.772 - P.774

 少子高齢化が進行する中で,近年,保健・医療・福祉に関連する制度は大きく変化している.平成9年度には地域保健法が全面施行され,県と市町村の役割分担が抜本的に見直されるとともに,平成12年4月には介護保険制度がスタートした.さらに,福祉8法の改正,障害者施策の見直しなどの動きがあり,市町村の役割のウエイトが増加している状況にある.さらに,地方分権が進む中で,行政の広域的な取り組み,住民の視点に立ったサービス内容の向上や効率化など,地域保健の充実に向けて具体的な議論が求められているところである.
 このように提供するサービスにかかわる重要な環境変化の中で,本県では平成9年度に保健所の再編成を行うとともに,長年,高知県独自で行ってきた駐在保健婦制度を廃止し,新たな仕組みへ向けて転換を図った.

地域保健法推進に向けて保健所保健婦はどのような役割を担うのか

著者: 塩沢辰子

ページ範囲:P.775 - P.777

 昭和40年代初め,人々の生活も安定し,赤痢,結核などの「伝染病」の時代から高血圧,心臓病などの「成人病」対策に保健活動が向きはじめたころに私は保健所に就職した.それから30数年経過し,今,国の仕組みが大きく変わろうとしている.地域保健法により,保健所と市町村の役割が明確にされ,市町村主体の介護保険制度も開始された.そうした動きの中で県の南端に位置し,過疎の村の多い飯田保健所の現場活動を通して,保健所保健婦の役割を考えてみた.

保健所新体制における企画調整機能の現状と課題

著者: 中山節子

ページ範囲:P.778 - P.780

 大阪府では,15府民健康プラザ(保健所)に企画調整課が新たに設置された.府保健所が広域的,専門的な地域保健の中核的拠点としてその機能を十分に発揮するためには,地域保健活動全般に関する企画調整機能の充実が必要であり,企画調整課は,その重責を担うセクションである.筆者は府下15人の企画調整課長のうち,2人置かれた保健婦職の1人として,総務担当と企画調整・健康づくり担当を統括する新任課長として,4カ月が過ぎた.これまで,委員監査,保健所事務事業評価,保健医療協議会,プラザ保健計画の策定,事業としては脳卒中地域ケア推進事業,失語症リハ事業などを推進してきたが,現在までの実践を踏まえ,企画調整機能の現状と課題について述べる.

介護保険制度の推進に対し市町村の保健婦はどのような役割を担うのか

著者: 竹澤良子

ページ範囲:P.781 - P.784

 介護保険制度の出発からはや5カ月が経過している.限られた時間と人材の中で,利用者の不安と混乱を避けるため,やれることはすべてやると職員一同で走り回り,4月1日を迎えた.
 現在,少しずつではあるが,利用者もまたサービス事業者も,制度に慣れつつある.と同時に保険者としても,種々の課題に取り組まなければならない.

介護保険制度の推進に対し市町村の保健婦はどのような役割を担うのか

著者: 宮尾とも子

ページ範囲:P.785 - P.788

 平成12年4月から介護保険制度がスタートしました.昨年から在宅介護支援センターに配属された筆者は支援センター業務とともに,介護保険制度における居宅介護支援事業者(ケアマネジャー)としての役割を担い,要支援・要介護高齢者の個別相談対応や,関係機関との連絡調整にかけまわる日々を過ごしています.4月からの数カ月間はそれまで経験したことのない全く新しい業務に試行錯誤しながら夜遅くまでの作業が続きました.限られた期限の中で担当ケース一人一人の事情や要望に合わせて介護サービスを組み合わせ,ケアスタッフとの連絡調整を図りサービスの利用をすすめ,定期的にニーズを把握しては新たなプランを作成していく作業の連続.特に国民健康保険団体連合会とのレセプトや給付管理票のやりとりは,毎月まちがいがないか,返戻が届けば他事業所への影響は大きいと,ハラハラ・ドキドキしながら結果通知を待つという日々が続いています.同じ経験をしながら活躍するケアマネジャーが傍にいるということが,とても心強いと感じているこの頃です.
 ここでは,日頃の活動を通して,介護保険と保健婦の役割について考えてみたいと思います.

介護保険制度の推進に対し市町村の保健婦はどのような役割を担うのか—介護認定申請者の背景調査と生活支援総合調査からみえてきたもの

著者: 緒方有為子

ページ範囲:P.789 - P.791

 介護保険制度がスタートして4カ月が過ぎたところである.保険者である市町村として今年3月までは,制度立ち上げに向けて準備を整えたものの,「介護サービスの質を確保するための方策をどのようにするのか」,「サービス量の調整をどのようにするのか」など様々な課題を抱えてのスタートとなった.
 4月以降高齢者福祉行政が大きく転換した中,本市では介護認定申請者の背景調査や介護保険非該当者に対する生活支援事業を通して,いわゆる「福祉」と「保健」の連携を具体的に現場でどのように取り組むのか検討を重ねているところであるが,特に保健婦活動としてどのような役割を担うべきか,一応の方向性を見いだしたのでここに報告をする.

介護保険制度の推進に対し市町村の保健婦はどのような役割を担うのか

著者: 荒井幸代

ページ範囲:P.792 - P.794

佐伯市の概要
 佐伯市は,図にみるように宮崎県境に接し,総面積は197,30Km2,人口は51,196人(平成12年4月1日現在)の大分県南部の中核都市です.65歳以上人口は10,815人で高齢化率は21.1%,後期高齢者は4,470人(8.73%)となっています.総世帯数19,540世帯のうち,1人暮らしの高齢者世帯2,187世帯(11.2%),高齢者のみの世帯1,665世帯(8.5%)で,高齢化に対応する施策は,周辺8町村の軒並み30%を超す高齢化の進行と相まって,圏域全体の喫緊の課題となっています.
 このような佐伯市,周辺8町村の高齢化のなかで,保健婦として活動してきた経緯,本市の介護保険への対応を述べ,介護保険制度下で市町村保健婦が今後どのような役割を担っていくのかを考えてみたいと思います.

大学学士課程において現場重視の保健婦教育をどう実践するか

著者: 金川克子

ページ範囲:P.795 - P.797

 わが国の保健婦(士)の養成は,保健婦助産婦看護婦養成所指定規則に基づいた6カ月以上(1年間が普通になっている)の保健婦養成所,短期大学専攻科,大学などで行われており,平成11年4月現在の施設数と入学生数は表1のとおりである.各々の施設の詳細な歴史的経緯は別に譲るとするが,施設数,入学生数においては,従来主流を占めていた都道府県立の保健婦養成所から,最近は大学の占める割合が高くなるなど,保健婦(士)教育機関に変化が起きている.
 筆者は非常勤であるが,昭和49年から10年間くらい県立の保健婦養成所での経験を有し,また平成4年から国立大学で,また平成12年4月からは県立の看護系大学で教鞭をとっている立場から,保健婦教育について現状分析と今後どう実践するかについて筆者の考え方を述べたい.

大学学士課程において現場重視の保健婦教育をどう実践するか

著者: 宇座美代子

ページ範囲:P.798 - P.800

 保健婦教育の重要な位置を占める実習を中心に,現場重視の保健婦教育をどう実現するかについて考えてみたい.
 看護系大学は平成12年4月現在84校になり,看護学教育はここ数年で大きく変化している.平成9年に看護カリキュラムの大幅な改訂があり,保健婦教育は地域看護学として在宅看護論を含めて実施されるようになった.地域看護学では,保健所や市町村などに所属する保健婦の実践活動を行政看護,訪問看護ステーションなどの活動を在宅看護,その他学校看護,産業看護の領域が位置づけられている.

視点

21世紀に向けての地域保健

著者: 沢田貴志

ページ範囲:P.770 - P.771

急増した外国人住民
 現在日本に滞在する外国人住民の数は,外国人登録をしている人数が150万人を突破,これに約26万人と推定される超過滞在者を加えれば,全人口の約1.5%に達したことになる.なかでもブラジル,フィリピン,ペルー,タイなど,東南アジア,ラテンアメリカ出身者の増加が顕著であり,非永住者のみの人口を見るとこの20年間に10倍近くになっている.
 外国籍住民の割合は欧米諸国に比べればまだまだ少数であるが,私はもはや日本の公衆衛生が日本生まれの住民だけを前提にしていては成り立たなくなっていることをひしひしと感じている.

シンポジウム 第17期日本学術会議環境保健学研連主催公開シンポジウム 都市医学のストラテジー・3

環境化学物質によるがん発生に対する予防方策—環境発がん物質には作用しない量がある

著者: 福島昭治

ページ範囲:P.841 - P.844

 われわれの環境中には多数の化学物質が存在しており,それらが社会生活をこの上なく豊かにしてきたことは大きな事実である.一方,それが人々の健康に障害になっていることも事実である.話題を発がん物質に限ってみても,イギリスの疫学者であるDoll博士はヒトがんの発生原因の約80%は環境中に存在する発がん物質に帰すると述べている.したがって,空気,食物,飲料水,煙草などの嗜好品,医薬品,農薬などに存在する発がん物質がヒトのがん発生に実際に重大な影響を及ぼすのか,またそうだとすればそれはどの程度なのか,などの問題は医学的にも,さらに,社会的にも極めて重要な課題である.しかし現在の段階では,個々の発がん物質ががんの発生にどの程度関与しているか否かは定かではない.われわれは化学物質のもつ恩恵とリスクの挾間で,確固たる科学的根拠をもって発がん物質に対するリスクを説明しうる情報を持ち合わせていないのが現状である.しかも発がん物質には人工のみならず天然のものがある.したがって,われわれは発がん物質と共存しなければならないという大前提がある.
 そこで,環境発がん物質のリスクに対する科学的根拠とがんの予防に焦点をあわせたわれわれの最近の基礎的データを報告する.

連載 あなたにもできる調査研究—事例をもとに・8

健康習慣に関する調査研究

著者: 福田英輝

ページ範囲:P.806 - P.810

 平成10年の人口動態統計によると,わが国の3大死因(悪性新生物,心疾患,および脳血管疾患)による死亡が死亡総数に占める割合は,60.3%であると報告されている.周知のように,これら3大死因は,生活習慣病として知られており,新たな健康づくり計画として登場した「健康日本21」の中でも,健康課題として「がん」,および「循環器病」として取り上げられている.健康日本21の概要によると,がん,循環器病などの生活習慣病の減少を達成させるために,肥満,たばこ,高血圧,高脂血症,糖尿病などの「危険因子の低減」,および健康診査,がん検診,歯科検診などの「検診等の充実」があげられている.さらにこれらを達成させるための最も基本的なステップとして「生活習慣の改善」が示されている.生活習慣の改善は,地域を基盤とした保健活動において今後ますます大きな比重を占めるものと考えられる.
 多田羅らは「健康の多様性に対しては人々が自分の健康状態について正確な理解をすることが不可欠であり,健康の格差の存在に対しては,地域住民の健康状態の調査研究が不可欠である」と述べている1).この言葉は,生活習慣についてもそのまま適用することができる.

疫学 もう一度基礎から・11

偏りと交絡(1)—偶然誤差と系統誤差—バイアス=真の姿を歪めるもの

著者: 中村好一

ページ範囲:P.812 - P.815

■ポイント■
 1.誤差とは真の姿と観察結果の違いである.
 2.誤差を,偶然誤差と系統誤差に区分する.

「健康日本21」と自治体・8

健康日本21と自治体によるたばこ対策

著者: 大島明

ページ範囲:P.816 - P.821

 ご承知のように,たばこに関しては,たばこ以外の八つの分野と異なり,1999年8月に示された「健康日本21」各論(未定稿)たばこ分科会中間報告(案)や11月に示された同各論(案)たばこ分科会報告(案)と,2000年2月にまとめられた報告書「健康日本21について」各論4のたばこの章との間には,掲げられた目標に大きな差がある.健康日本21計画策定検討会たばこ分科会が作成した未定稿や案に掲げられていた「成人喫煙率を半減させる」や「国民1人当たりのたばこ消費量を半減させる」の目標(以下,「成人喫煙率半減目標」)は,2000年2月17日の健康日本21企画検討会での検討の結果削除されてしまった.
 わが国におけるたばこによる健康問題の大きさを考えるとき,今こそたばこ対策に真剣に取り組む必要があることは,多くの人が認めるところであるが,具体的な目標やこれを実現するための具体的な対策となると,現時点では必ずしも多くの人の賛成を得ることができるとは限らない.たばこ問題の複雑さと困難さを改めて実感したわけであるが,嘆いているばかりではどうにもならない.自治体が健康日本21地方計画を立案し,これを進めて行く中で,たばこ対策について新規蒔き直しを図るようにするべきである.すなわち,たばこ対策に関して自治体で取り組めることを地道に積み重ね,保健医療関係者・組織・団体と連携して,できるだけ近いうちに,再度,国レベルできちんとしたたばこ対策の目標と対策を立案するよう,迫っていくべきであると考える.

市町村の保健福祉活動—上越市・3

座談会 人・環境・まちづくり—健康づくりからISO14001の認証取得まで

著者: 藤原満喜子 ,   高橋美智子 ,   滝見典子 ,   小菅誠子 ,   坪井秀和 ,   石平悦子 ,   寺田清二

ページ範囲:P.823 - P.828

 編集室 今回はISO14001の導入と,その後の展開についておうかがいします.まず,この認証を取得するに至った経緯を簡単にお話しいただけますか.
 寺田 前回までの話のように,「のびやかJプラン」は将来,市民が安心・安全,かつ快適に暮らせるまちづくりが目標です.したがって,環境行政についても,同じ視点で生活快適,安全,健康を含めて進めてきました.その過程で平成8年(1996)10月に環境基本条例を制定し,環境問題に総合的に取り組んでいくことになりました.その後,環境基本計画,環境行動計画をつくりながら,市民への普及啓発などを行ってきました.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 石川県石川中央保健福祉センター

まだまだある母子保健における保健所の役割

著者: 北野浩子 ,   浅野純一

ページ範囲:P.834 - P.835

 平成9年の母子保健法の改正に伴い,身近な母子保健のサービスは市町村で実施され,保健所の母子保健における役割は市町村間の連絡調整や市町村の求めに応じた技術援助などとなりました.これにより,母子保健における保健所の積極的市町村支援は必要ないと思われているところもあるのではないでしょうか.当保健所では,母子保健にも保健所の役割がまだまだあることを示す試みをしたので紹介します.

公衆衛生のControversy 保健所保健婦の専門性について

保健婦に専門性は必要/保健所保健婦は専門分化すべきでない

著者: 岩室紳也

ページ範囲:P.836 - P.837

専門分化保健時代の幕開け
 医療における役割分担は明確で,臨床の一次〜高次医療,研究面の臨床研究と基礎研究,さらに公衆衛生,行政がある.「多種多様な病気を治してほしい」という住民ニーズに答えるために医療は役割分担をしなければならなかった.しかし,地域保健において一次,二次,高次保健といった分類はなく,専門分化の方向に向かっていない.保健婦活動に医療のような専門分化はいらないという声が根強いのは保健婦活動の原点が一次(プライマリケア)的な分野を「専門性」としてきたからであろう.しかし,住民ニーズが「病気の早期発見,早期治療」で,医療が確立した方法論(検診,情報など)を保健婦が相談,訪問という手段を用いて提供するだけの立場を容認されていた時代は終焉を迎えつつある.これからの地域保健が多様化した住民ニーズに答えるために,医療に頼ることなく保健の一次サービスを補完する,より多角的多面的な「専門性」が求められている.

海外レポート ニューヨーク州保健省の日常・11

健康づくりのための環境整備

著者: ホスラー晃子

ページ範囲:P.838 - P.839

 糖尿病,循環器系疾患などの成人病は,生活習慣病と呼ばれるように,運動不足や喫煙など長年積み重ねられた生活の悪習慣が,その主な原因といわれる.特に乳幼児の死亡率が低く,伝染性の疾病がコントロールされている先進国では,国民の死亡原因の上位はこうした生活習慣病で占められていることは,周知のとおりである.予防医学の重要性が叫ばれている昨今,アメリカでも成人病予防のための生活習慣の改善は,公衆衛生の大きな課題の一つとなっている.しかし具体的にどのような方法で,多様な人々の生活習慣を望ましい方向に変えていくのかという点では,今のところまだ試行錯誤の段階といえるだろう.
 最も野心的な例としては,マスコミや住民ネットワークを駆使した組織的な健康啓発キャンペーンで,一地域全体の住民の生活習慣を改善し,結果として循環器系疾病の罹患率や死亡率の低下を計ろうという試みがある.

調査報告

宮城県における検診成績からみた循環器疾患の地域差についての考察

著者: 土屋眞

ページ範囲:P.829 - P.833

 東北地方は脳卒中の発現頻度が高く1,2,15),ことに内陸部が海岸部より一般に高い.一方,近年は高度の高血圧が稀になって,脳出血と脳梗塞の頻度が逆転し,脳卒中の地域差減少が指摘されている.しかし,動脈硬化の促進因子としての高血圧の重要性は変わらない.
 このたびの研究目的は,まだ高血圧者がかなり多く,脳卒中死亡率の地域差が明らかな時代に,筆者が検診に従事し,既に報告3〜12)した成績を総括的に再検討することにある.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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