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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生64巻12号

2000年12月発行

雑誌目次

特集 難病と共に生きる

難病と共に生きる

著者: 平田幸子

ページ範囲:P.852 - P.855

ALSの発病
 私の夫は,現在47歳で,筋萎縮性側索硬化症(ALS;amyotrophic lateral sclersosis)で人工呼吸器を装着し,在宅で療養中です.家族は夫の両親(父77歳,母70歳),長男16歳,二男12歳,三男8歳の7人です.夫は平成8年8月初めごろより喉の違和感を訴え,「話にくい,長い時間話すと疲れる」と言っていました.1カ月ほどたって「首が痛い」と言い,首を起こす時は,身体に反動をつけてなんとか正面を向ける状態でした.10月に入って市内の体育祭で,子どもとジョギンクに出た時は,今にも倒れそうな様子で,黒いような顔色をして帰ってきました.私は心の中で「もうやめて,死んじゃうよ」と言い続けていましたが,声には出ませんでした.その後で,本人から,それまでにも呼吸が苦しかったこと,また,体重が減ったことなどを初めて聞き,急に私の中に不気味な,たとえようのない不安な気持ちが沸き上がってきました.それからすぐに,耳鼻科,整形外科,内科と診察を受けましたが,結果は3科とも異常なしでした.私は何か見落としがあるような気がして,毎日のように,「絶対おかしい,おかしい」と言って,病気のことを気にしないように努めている本人に対して,どんどん精神的に落ち込むようにしてしまっていました.12月に入って,腕が胸より上に上げられなくなり,服も自分では着られなくなり,本人もさすがにおかしいと思い,再度病院に行くことにしました.

政令市保健所における難病事業の取り組み

著者: 上田睦子

ページ範囲:P.856 - P.860

 新潟市の難病対策について話をすると,必ず問われることがある.「どうしてそのようなシステムが作れたのか?」と.
 なぜという問いかけに対し,明確な答えではないかもしれないが,あるとすれば目の前の難病患者に対し,十分ではないが,できるところから始めてきたということである.かかわる人たちの数と理解と協力が少しずつ増え,育て上げられてきたものだと思う.

難病と共に生きるボランティア活動—ボランティア活動の体験から

著者: 水野優季 ,   川村佐和子

ページ範囲:P.861 - P.864

 筆者の一人(水野)は看護学生時代から,筋萎縮性側索硬化症(ALS;amyotrophic lateral sclersois)で24時間人工呼吸器を装着し,在宅療養をしているG氏にボランティアとして支援活動をしてきた.その体験はたった一つの経験ではあるが,現在の難病療養者に対するボランティア活動にまつわる課題を包含している.今回は,このモデルをとおして,難病ボランティア活動について考えてみた.

介護保険に伴ったALS患者への支援活動—保健所難病事業のあり方を考える

著者: 澤田甚一 ,   安達国良 ,   高野正子

ページ範囲:P.865 - P.868

 「保健所における難病事業の進め方に関する研究」班(主任研究者:安達国良大分県竹田保健所長)は,平成11年度に,神経難病患者の介護保険受給状況と全国保健所の介護保険に関連した難病事業について調査を実施した.その結果と全国180保健所の難病担当者が参加したシンポジウムでの討議から,介護保険制度を活用した保健所難病事業のあり方として,以下の提案をした.
1)保健所事業の見直し
 例えば,重症在宅事例に対する訪問事業を中核として位置付ける,介護保険メニューにない患者交流会などの集団援助事業を充実させるなど.

これからの難病対策の方向性

著者: 金谷泰宏

ページ範囲:P.869 - P.874

 難病対策は,昭和47年に策定された「難病対策要綱」に基づき,わが国独自の施策として各種の対策が進められてきた.制度発足後25年余の医学の進歩により,生命予後や生活の質が大幅に向上した疾患がある一方で,依然として有効な治療法のない疾患もあるなど難病の中でも疾患の種類によって大きく異なるところとなっている(図1).これからの難病対策は,疾患の特異性に合わせたものになることが予想されるが,以下に今日の難病対策の現状を示すとともに,21世紀に向けた難病対策の方向性について私見を述べる.

視点

21世紀に向けての地域保健

著者: 石井享子

ページ範囲:P.850 - P.851

 宇宙ステーションが現実的な形となって現れてきた.人類は今後,広大な宇宙に向かつて地球人として団結し生きていく日も目前に迫ってきた.
 幸いこの1年間,渡米留学し政策科学を中心とする公共政策学の勉強をする機会を得た.米国歴代大統領が公約し実行してきた健康政策の評価をシステマティックにレビューしたりした.また,公共政策過程や比較健康政策などの米国の考え方や将来に向けたビジョンを学んだ.健康政策は教育政策・環境政策・社会福祉政策などと統合化しながら進めていかないと効果が得られない時代になったことを痛感した.さらにエグゼグティブリーダーシップ・イン・ガバメントというコースの中では,これまで筆者が学んだリーダー論(組織論や危機管理など)に加え,宇宙を視野に入れたリーダーシップ論が展開されていて驚いた.

トピックス

今後の保健婦活動とその教育(2)

著者: 平野かよ子

ページ範囲:P.875 - P.878

 前号(64巻11号,801ページ)に引き続き,保健・公衆衛生の機能,これからの保健婦に求められる資質とその教育・研究のあり方について述べる.

シンポジウム 第17期日本学術会議環境保健学研連主催公開シンポジウム 都市医学のストラテジー・4

環境保健サーベイランスの現状と将来

著者: 小野雅司

ページ範囲:P.916 - P.920

 本誌9月号(64巻9号)に,角田文男氏がシンポジウム「都市医学のストラテジー」の趣旨説明の中で,世界的規模で進行する急速な都市化に伴う様々な問題を列挙しており,その一つに環境汚染が挙げられている.世界中の大都市が抱える問題の中で,発展途上国の大都市で深刻化する貧困問題とともに環境汚染は最重要課題の一つであることは否定できない事実である.中でも大気汚染は,発展途上国,先進国を問わず深刻な問題であり,その影響の及ぶ範囲・大きさは計りしれないものがる.
 ひるがえって,わが国の大気汚染の現状を総括すると,産業公害型の大気汚染からは脱却したものの,替わって登場した生活密着型大気汚染は依然として大きな問題である.特に大都市部では,増え続ける自動車から排出される汚染物質(ガス,粒子)による汚染が深刻な問題となっている.

連載 市町村の保健福祉活動—上越市・4(最終回)

座談会 人・環境・まちづくり—健康づくりからISO14001の認証取得まで

著者: 藤原満喜子 ,   高橋美智子 ,   滝見典子 ,   小菅誠子 ,   坪井秀和 ,   石平悦子 ,   寺田清二

ページ範囲:P.879 - P.885

 編集室 このシリーズの最後に,健康回復5か年計画およびISOの,今後の展開などをおうかがいいたします.
 健康回復5か年計画は平成11年度(1999)で終わり,平成12年度からは新しい計画が始められているということですが,この5か年計画事業の成果および評価についてはいかがでしょうか.

あなたにもできる調査研究—事例をもとに・9

訪問指導事業に基づく調査研究

著者: 阿曽洋子

ページ範囲:P.886 - P.890

 訪問指導事業は,母子保健事業,老人保健事業,精神保健事業,歯科保健事業,難病対策など,様々な保健事業領域で展開されている.訪問指導で得た情報は,個人のデータではあるが,それをどのようにまとめるかで,事例研究にもなり,調査研究ともなる.これらの研究は,訪問指導内容の質の評価をはじめとして訪問指導事業全体の評価のためにも活用できる.訪問指導事業を調査研究にすることの意義は,本シリーズの最初に「現場における調査研究の意義」(2000年4月号)で説明されている.それを再度読んでいただくことを前提に,ここでは,訪問指導事業をどのように研究として成立させていくかについて,そのプロセスを追って述べていく.

疫学 もう一度基礎から・12

偏りと交絡(2)—バイアスとその制御—(狭義の)バイアスは研究計画段階で制御すべし

著者: 中村好一

ページ範囲:P.892 - P.896

■ポイント■
 1.選択の偏りは調査対象集団を抽出する際に起こる偏りである.
 2.情報の偏りは得られた情報が真の状態と異なるために起こる偏りである.

「健康日本21」と自治体・9

アルコール・1

著者: 白倉克之

ページ範囲:P.897 - P.900

はじめに
 従来の慢性アルコール中毒に代わって,1964年WHOの提唱によりアルコール依存症という用語が導入されてから30有余年が経過している.当時の国内総アルコール消費量は約350万kl,飲酒者人口約2,500万人,大量飲酒者約100万人と推定されていたものが,現在では国内総アルコール消費量は約950万kl,飲酒者人口6,000万人を超え,大量飲酒者は約230〜250万人と推計されており1),いずれも2.5倍前後の急増を示し由々しき事態といえよう.なお大量飲酒者とは純アルコール量換算で1日平均150ml以上のアルコール(日本酒換算約5合)を常用する者を指し,各国の依存者数の推移を比較する目的で作成された用語であり,ほぼアルコール依存症者に該当するものと解釈されている.
 アルコール問題を考える際に留意すべき事項の一つとして,確かにアルコールは合法的に購入しうる嗜好品であるが,薬理学的な立場から言及すると中枢神経系の抑制薬であり,かつ常用すると耐性増強と身体的依存を生じ,また各種臓器障害を来す可能性があるという事実である.晩酌の酩酊状態はアルコールによる急性中毒を繰り返していることに他ならない.

公衆衛生院からの発信・11

研究課程の修業

著者: 内山巌雄

ページ範囲:P.902 - P.903

研究課程の概要
 研究過程は昭和55年に公衆衛生院の教育体制の改革によって大学院博士課程に相当するものとして創設された.その目的は「公衆衛生学の分野について,自立して研究活動を行うに必要な高度の研究能力およびその基礎となる豊かな学識を養うことを目的とする」と規定されているが,公衆衛生は学問であると同時に,学際的,実際的な分野であること,国立公衆衛生院が大学とは異なるプラクティカルな教育訓練を目指していることから,研究内容は公衆衛生上の意義が十分認められれば必ずしも独創的なものである必要はないと理解している.
 標準修業年限は3年で,入学資格は本院専門課程修業者,または医師,歯科医師あるいは大学院修士課程の修了者で本院専攻課程の修業者,あるいはこれらと同等以上の学力を有すると院長が認めた者となっている.定員は1学年5名である.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 石川県石川中央保健福祉センター

住宅環境における保健所の役割—地域の資源づくりという視点でのかかわり

著者: 西出恵里 ,   三宅捷太

ページ範囲:P.904 - P.905

きっかけ
 当所で住宅環境についての取り組みを始めて,はや2年がたとうとしています.
 健康づくりの柱は健康・運動・休養といわれていますが,その基盤となる住宅環境については,「健康」という視点でほとんど取り組まれておらず,不十分という印象を受けて立ち上げた事業です.

公衆衛生のControversy 京都大学の社会健康医学系専攻について

医科大学の大学院のあり方について/京都大学SPHの未来

著者: 川口毅

ページ範囲:P.906 - P.907

 昔から「医学博士の称号は足の裏にくっついた飯粒」という悪口がいわれている.(資格を)とってもなんともないがとらなければなんとなく気持ちが悪いというのがその理由である.博士号の称号のうち医学分野が最も取りやすいといわれていることも影響しているかもしれない.事実,医科大学の大学院を卒業した者の大部分がそのまま医学博士の称号を得ており.中には将来臨床家として開業するが基礎医学のほうが手っ取り早く取れるという理由だけで基礎医学教室に通って博士号を取る者もある.現行の医科大学の大学院教育のあり方には教育や研究システムなどいろいろ問題があり改善しなければならないことは事実である.また,医師の生涯学習の中でどのような意義を持っているのだろか.この問題については今後,平成16年から実施予定となっている臨床研修の必修化に伴って大学院のあり方も大きく変わってくるであろう.教育,研究体制の問題はともかく現在では少なくとも大学院を修了し博士号を取った人たちには医科大学の教授選考や研究所の専門職など社会的にも研究の上でもそれなりの社会的な対応がされている.
 京都大学が衛生学講座を解体しスクールオブパブリックヘルス(以下,SPH)を大学院課程の中に設置したことは医学教育のなかで公衆衛生関係の教育に携わっている人たちにいろいろな意味でショックを与えた.

海外レポート ニューヨーク州保健省の日常・12

公衆衛生とチャリティーとの関係

著者: ホスラー晃子

ページ範囲:P.908 - P.909

 アメリカの新聞の死亡記事は,著名人,一般市民の別なく,故人の顔写真から,経歴,家族構成,趣味に至るまでが細かく載せられた,なかなか読みごたえのある記事で,毎日目を通す読者も多い.そんな死亡記事の締めくくりに,「葬儀の参列者は,献花のかわりに全米○○協会へ故人名で寄付をしていただくことを希望します」といった一文がついていることがよくある.名指しされているのは,故人が生前にボランティアや役員をしたり,またその顧客としてサービスを受けたことがあるような,ゆかりのある非営利の慈善団体(チャリティー)である.アメリカでは,たいがいの人は自分が「ひいき」にするチャリティーを一つ二つ持っており,お葬式に限らず,事あるたびに寄付することを惜しまない.自分の好きなチャリティーに,給料の一部を天引きする形で寄付する制度は,多くの企業や官庁でも採用されているし,ファンドレイザー(資金集め)と呼ばれるパーティー,コンサート,「歩く会」,「走る会」といった催し物は,ほとんど毎日どこかで開かれているので,それに参加することもできる.アメリカには登録されているだけでも数千ものチャリティーが存在し,それらはみな,基本的には一般市民からの寄付に支えられて存続しているのである.そんな数あるチャリティーの中でも,特に歴史があり,知名度,社会への貢献度が高いとされるのは,やはり特定の疾病の予防,治癒,患者サポートなどを目的とする,健康関連の全国団体であろう.

調査報告

低出生体重児の発生・増加に関連する地域要因の解析

著者: 上田公代 ,   上田厚 ,   尾道三一

ページ範囲:P.910 - P.915

 わが国の母子保健統計の指標をみると,全般的な傾向として,周産期死亡率の経年的な低下と低出生体重児割合の急激な増加が示されている1).さきにわれわれは母子保健の水準を示す指標として周産期死亡と低出生体重児および両者の相関を取り上げ,熊本県におけるその年次推移を,1968〜1994年の27年間にわたって解析し,全国のそれと比較検討した2).その結果,熊本県は,三つの時期(第1期:1968〜1976年,第2期:1977〜1988年,第3期:1989〜1994年)に分類される全国とは異なつた動向が示された.それぞれの時期における周産期死亡と低出生体重児の相関は,それぞれの時期の医療,生活その他の社会・経済的因子に規定されていることが示唆された.また,第3期(1989〜1994年)の低出生体重児割合の増加の要因は,超低出生体重児(1.0 kg未満)や極低出生体重児(1.5kg未満)の出生割合の増加よりも,2.0〜2.5kg未満の比較的大きい低出生体重児の増加にあることが示唆された.中村3)はわれわれの報告2)と同様に,最近の低出生体重児の増加の主な要因は2.0〜2.5kg未満の体重群の増加であると述べ,これらの低体重群の増加に男女比,初経産比,年齢の寄与はむしろ低いことを指摘している.

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ページ範囲:P. - P.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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