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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生64巻2号

2000年02月発行

雑誌目次

特集 公衆衛生におけるリスクの管理

公衆衛生におけるリスクマネジメント

著者: 成田友代

ページ範囲:P.76 - P.79

 茨城県東海村の民間ウラン加工施設における国内初の臨界事故は記憶に新しいところである.この事故は様々な課題を提起した.本稿執筆時点においても,安全性を置き去りにした会社の姿勢や社員教育の欠如,国の原子力産業への管理・監督の甘さなど,既にいくつかの問題点が指摘されているが,今後,事故原因や事故後の対応についてさらなる検討がなされていくであろう.
 また,阪神・淡路大震災(1995年1月),堺市での腸管出血性大腸菌O157による大規模食中毒の発生(1996年7月),さらに最近では和歌山のカレーへの砒素混入事件(1998年7月)などで,災害,事故,事件発生時の危機管理体制について議論された.この場合の危機管理はクライシス(危機)マネジメントである.すなわち,大災害・大事故など発生時の緊急時の対応といえる.

医療機関におけるリスクマネジメント

著者: 中島和江

ページ範囲:P.80 - P.84

 医療における「リスクマネジメント」の重要性が叫ばれている.しかし,わが国の医療におけるリスクマネジメントの概念や具体的な方法,病院の業務全体における位置付けなどについては,いまだ暗中模索の状態である.そこで本稿では,米国の医療機関における医療事故予防に関係する活動を参考にしながら,それらを踏まえてわが国における安全な医療の提供のあり方を検討したい.

保健婦活動における危機管理

著者: 國分恵子

ページ範囲:P.85 - P.88

 「公衆衛生活動」の中で果たす「保健婦活動」の位置づけは重要である.特に地方の,それも町村に働く保健婦たちは公衆衛生活動=保健婦活動であるような仕事の仕方をしており,対人保健サービスのみならず,犬・猫の動物衛生からゴミ・廃棄物などの環境衛生,上下水道などの生活衛生の相談まで,多岐にわたって活動している.
 このような保健婦を含めて活動歴がおおむね20年以上という保健婦十数人に「活動の過程で“危機”を認識したことがあったか?」と聞いたが,いずれも「あまり記憶にない」という返答であった.筆者の周辺の事例では「結核発病」,「ケースからの受傷」や「ストーカー」などが見聞されるが,このような事例は往々にして「保健婦個々人の力量の問題」として処理されやすく,“危機”の背景を探ろうと試みても,狭い社会では事例の特定が簡単にできてしまい,表面化しにくいのが現実である.

保健所におけるリスクの管理

著者: 西牧謙吾

ページ範囲:P.89 - P.92

 地域保健問題検討会報告書を待つまでもなく,保健所は健康危機管理の第一線機関である.現在でも,法律の執行機関として感染症関係,食品衛生関係,環境衛生関係を所管し,地域防災計画上も自然災害時における2次災害防止活動拠点に位置づけられている.
 しかし同報告書で指摘されているとおり,健康危機情報の収集体制が十分でないこと,地方公共団体の中のどの機関が,健康危機管理において中核的役割を果たすか不明瞭であることなどの問題点が存在し,危機管理体制が十分に機能しているとは言い難い.

行政におけるリスクの管理

著者: 桜山豊夫 ,   前田秀雄

ページ範囲:P.93 - P.96

 点滴のヘパリンブロックに用いるヘパリン加生理食塩水と,消毒用のヒビテングルコネートを取り違えて静脈に注射し,患者が亡くなられるという痛ましい事故が,H病院で起こった.
 Y大学付属病院では心臓疾患の患者と肺疾患の患者を取り違えて手術を行い,結果として2人の患者に不必要な手術による侵襲を与えた.

食品衛生行政におけるリスクの管理—腸管出血性大腸菌O 157で生じた諸課題にどう取り組んだか

著者: 植松智之

ページ範囲:P.97 - P.100

 平成8年5月,岡山県で腸管出血性大腸菌O 157(以下,O 157)による学校給食を原因食品とする集団食中毒事件が発生した.その後,O 157による食中毒は全国で発生し,多数の死者と患者を出し,国民を恐怖に陥れたことは記憶に新しい.また,事件の拡大に伴い生鮮食品の買い控えが起こるなど,食品業界に大きな打撃を与えた.
 衛生水準が高いといわれていたわが国で,このような事件が起こるとはだれも予想していなかった.

京都府健康危機管理マニュアル

著者: 植村憲一

ページ範囲:P.101 - P.104

背景
 平成8年7月,堺市で予想を上回る大規模な食中毒事件が発生した.保健所での対応は,積極的疫学調査を進めるうちに,給食を介していること,それまであまり知られていなかった病原性大腸菌の一つ,腸管出血性大腸菌O 157であること,貝割れ大根の種子に問題があると示唆されたことが判明した.
 一方,平成10年7月,和歌山市某地区の自治会主催の夏祭りでカレーを食べた住民の多くが,嘔吐とともに倒れた.カレー喫食後,症状出現までの時間が短いという疑問もあったが,だれもが食中毒菌が産生する毒による食中毒をまず疑った.飲食後の多人数の嘔吐症状イコール細菌性食中毒という先入観が,初動対応を大きく遅らせた要因の一つでもあった.

視点

保健と福祉の統合にあたって—21世紀に向けての地域保健

著者: 犬塚君雄

ページ範囲:P.74 - P.75

 地域保健法の施行,地方分権の推進,各地方公共団体が取り組む行政改革などの流れに沿って,都道府県,市町村を問わず全国的に保健部局と福祉部局の統合が進められている.わが豊田市においても中核市のメリットを生かすべく,平成11年10月より保健所と福祉事務所を統合し,保健・福祉サービスを一体的に提供する体制としたところである.筆者は愛知県職員で現在は市への派遣の身分であるが,従前から都道府県レベルでの保健と福祉の統合と,市町村レベルでのそれとは趣旨が若干異なるのではないかと考えてきた.言い換えると,直接的な住民サービス中心の市町村における保健と福祉の統合は待ったなしに進められるべきものと理解しているが,都道府県における統合には市町村ほどの必然性は感じていない.端的にいえば,都道府県における統合は,それぞれの地域でいろいろな議論を尽くして行わなければ単なるリストラに終わるのではないかと危惧している.このような観点から保健と福祉の統合にあたっての私見を述べてみたい.

トピックス

過労死・精神障害の労災認定と公衆衛生

著者: 上畑鉄之丞

ページ範囲:P.106 - P.112

精神障害の労災認定
 昨年7月末,労働省の「精神障害等の労災認定に係わる専門検討会」の報告書1)が発表された.またこの報告に基づいて,労働省は9月に過労自殺を含めた精神障害の新たな労災認定基準を発表した.人事院も,国家公務員の精神疾患の公務災害認定基準を7月に示し,地方公務員の自殺の認定基準も9月に出されたことから,労働が関連して発症した精神疾患の補償の基準が整ったことになる.
 労働省の「心理的負荷による精神障害等に係わる業務上外の判断指針」は以下のように要約できる.

連載 疫学 もう一度基礎から・2

疾病頻度の測定(1)—曝露と疾病

著者: 中村好一

ページ範囲:P.113 - P.117

■ポイント■
1.疫学では患者とは診断基準などで定義するものである
2.曝露の測定も定義するものである

公衆衛生院からの発信・2

保健所長資格—専門課程分割前期(基礎)の開講

著者: 西田茂樹

ページ範囲:P.118 - P.119

 保健所長は,当然のことながら,保健所における中心的な存在であり,保健所長の知識や技能,意欲などは,保健所における公衆衛生活動に大きく影響を与えます.
 この保健所長の資格は,地域保健法施行例第4条で,医師であることに加えて,以下の3項の要件のいずれかを満たすことが定められています.第1の要件は「三年以上の公衆衛生の実務に従事した経験がある者」です.第2の要件は「国立公衆衛生院の行う養成訓練の課程を経た者」であり,厚生省通知により,この「課程」とは「専門課程」であるとされています.そして,第3の要件は「厚生大臣が,前二号に掲げる者と同等以上の技術経験を有すると認めた者」です.実際の各都道府県・政令市などを見た場合には,臨床経験を経た30代以上の医師を採用して保健所長として任命する場合が多く,3年以上の実務経験を積ませることや1年間の課程である国立公衆衛生院の「専門課程」を修業させることは困難であり,第3の要件である「厚生大臣が認めた者」によって,保健所長を任命していることが多いように思われます.

海外レポート ニューヨーク州保健省の日常・2

公衆衛生政策の日米比較

著者: ホスラー晃子

ページ範囲:P.120 - P.121

 アメリカと日本の政策を比較するのは,簡単なようでなかなか難しい.国土の大きさ,民族構成など多くの違いがある上に,連邦制のアメリカと中央集権が土台になっている日本とでは,政治の風土が全く異なっているからである.アメリカでは州法が日常生活の基本であり,時には地方自治体の条令や団体組織の私法が優先されることもある.連邦政府の政策が直接国民の暮らしに影響するというのは,特殊な事例だけといってもおおげさではない.とはいえ公衆衛生の分野では,アメリカでも国全体のまとまった政策方針がかなり明確化されており,日本との比較もしやすい.
 ところでこちらでよく使われる引用句に,「アメリカは世界一の医療消費国であるのに,国民の健康レベルは先進国の中でも下位で低迷している」というのがある.また「アメリカは主な先進国中,国民総健康保険制を持たないただ一つの国である」というのもある.日本ではたばこ政策や感染症の対処の例をとって,アメリカの公衆衛生政策はかなり進んでいると判断しがちであるが,アメリカ人自身はそれほど自国の政策が優れていると思っていない.特に肥満とそれに関連した生活習慣病の蔓延,近年向上したとはいえまだ問題のある母子の健康など,実際の成果が政策に追い付いていないという懸念がかなりある.国を挙げての政策展開というのも,こうした問題は州レベルでは解決できないという危機感に根差したものであるといえる.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 三重県

ベンチマーキングによる健康づくりの行政課題を考える

著者: 北村純 ,   藤島弘道

ページ範囲:P.122 - P.123

 三重県では平成9年度より行政システム改革として独自の事務事業評価を導入し,すべての事務事業の評価を行った.また,新しい総合計画「三重のくにづくり宣言」を策定し,健康づくり関係の指標として,2010年に向け,生活習慣病死亡率の低下やカルシウム摂取量,日常運動時間の増加などの具体的な数値目標を盛り込んだ.
 しかしながら,近年,三重県の平均寿命や年齢調整死亡率は全国中位から順位を下げてきており,新たな行政戦略を考える必要に迫られた.そこでわれわれは,最重要課題として生活習慣病予防を取り上げ,その解決に向け,ベンチマーキングの手法を取り入れた健康づくりの推進方法について検討を行った.

老人保健法にもとづく機能訓練事業全国実態調査報告

11.啓発・広報活動,対象者の把握,送迎

著者: 澤俊二 ,   亀ヶ谷忠彦 ,   岩井浩一 ,   安岡利一 ,   大仲功一 ,   伊佐地隆 ,   大田仁史

ページ範囲:P.125 - P.127

 初めに機能訓練事業の啓発・広報活動について報告し,次に対象者の把握について述べ,最後に利用者の送迎について報告し,アンケートの全項目に対する概略の報告を終了する.

フォーラム

遺伝子の神秘と公衆衛生

著者: 出口安裕

ページ範囲:P.128 - P.130

 少し前になってしまったが,「ジュラシックパーク」という映画があった.恐竜(dinosaur)は絶滅して現在存在しない古生物であるが,琥珀の中の蚊の体内より恐竜の遺伝子を抽出し,科学の力で遺伝子から恐竜を再生するというストーリーであった(蚊が恐竜の血液を吸い,恐竜の遺伝子が琥珀中の蚊の体内に残っている).また,最近ではテレビや本などでも,遺伝子組み換え食品などの話題で,しばしば“遺伝子”という言葉を耳にし,私も“遺伝子治療”は次の世代の医学の新治療法であり,ある種の病気では,将来の内科医は薬物療法(くすりの注射)に替わって,遺伝子療法(遺伝子のアンプルを用いて)をするようになるかもしれないと大学教官時代,医学生に講義をした.“遺伝子”という言葉自体,非常にポピュラーになったが,それは,近年の医学の進歩,特に分子生物学(molecular biology)の展開によるところが大きい.
 遺伝子(ジーン)の本体はDNA(デオキシリボ核酸)であり,アデニン,チミン,シトシン,グアニンという4種の塩基の配列から成る.この配列は,三つの塩基がコドンと呼ばれる一つの組となり(私の米国留学した米国立保健衛生研究所〔NIH〕にて今も活躍中のニーレンバーグ博士が決定,ノーベル賞を受賞した),一つのアミノ酸をコードする(意味する).つまり,生命現象を司るすべてのたんぱく質(アミノ酸の集合体)をDNAの塩基配列が規定するのである.もちろん,このような遺伝子は遺伝情報として,親から子へ伝えられていく.

資料

ヘルスプロモーション活動の評価—WHOヨーロッパ地域事務局ワーキンググループ報告の紹介

著者: 曽根智史 ,   中原俊隆

ページ範囲:P.131 - P.134

 わが国で「健康増進」や「ヘルスプロモーション」という言葉が一般国民の間に定着するのは,昭和53年厚生省が「自分の健康は自分で守る」を標語として国民健康づくり対策をスタートさせて以後のことである.「健康増進」という言葉は,国際的に用いられている「ヘルスプロモーション」という言葉の直訳のようにみえるが,決してそうではない.昭和61年のオタワ憲章による定義によれば,「ヘルスプロモーション」とは「人々が自らの健康をコントロールし,向上させることができるようになる過程」をいっており,その実現を図るためのヘルスプロモーション活動においては,1)人々に知識・力を与え(エンパワーメント),2)人々の参加を促し,3)全人的に健康をとらえ,4)活動をする組織間で協力し,5)社会的に公正で,6)持続的な変化をもたらし,さらに7)様々なアプローチを組み合わせた戦略をとる必要があるということが強調される.翻って,わが国で用いられる「健康増進」という言葉には社会的な活動への広がりはなく,個人単位の健康を対象にしているように思われる.あえていえば,「ヘルスプロモーション」という言葉には,戦後わが国で保健所やその保健婦などがプロモートして住民参加で行われた地区衛生組織活動や地域保健活動などの住民活動や企業の活動などをも含め,現在の保健所や保健センターの活動,企業活動,マスコミを含めた健康情報普及活動など多岐にわたる様々な健康に関する活動すべてを含めて考えるべきものと思われる.

調査報告

高齢者の在宅介護阻害要因

著者: 石井敏明 ,   斉藤佐知子 ,   天羽悦子 ,   藤山美津子

ページ範囲:P.135 - P.138

 わが国における平成12年の65歳以上の高齢者人口を将来推計人口でみると,約2,200万人と予測され,同じ年の要介護者数は250万人程度になると推測される1)
 高齢者をそれまで住み慣れた環境で介護することは望ましいが,近年の核家族化による家族内介護力の低下などはそれを困難にしている.

配偶者/親喪失後の精神健康と家族の関係性

著者: 坂口幸弘 ,   柏木哲夫 ,   恒藤暁

ページ範囲:P.139 - P.142

 近年,日本において遺族ケアへの関心が高まりつつある.欧米では,既に活発な遺族ケア活動が行われており,社会の認知度も高い.一方,日本では,ホスピスにおける遺族会や,市民活動としての自助グループとして,その活動は始まったばかりなのが現状である.今後,より効果的な遺族ケアへの進展が期待され,それには基礎研究の積み重ねが必要である.
 この基礎研究での重要なテーマの一つとして,死別後の心身の健康とそれに対する影響要因の検討がある.死別後の心身の健康については,特にうつや不安といった精神健康の悪化が,多くの研究において示されている1)

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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