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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生64巻5号

2000年05月発行

雑誌目次

特集 児童虐待の防止に向けて

児童虐待の歴史的考察

著者: 池田由子

ページ範囲:P.308 - P.312

 児童虐待は純粋な医学的問題ではなく,社会,家族,文化,法律,経済,倫理,宗教,呪術,土俗的信仰など,様々な領域を反映する広範囲,微妙な問題である.ここではわが国のそれを中心に,児童虐待の歴史を考察してみたい.なぜならわれわれはそれぞれの文化の影響を受け時代精神(Zeit Geist)に支配されているので,現代の関係者の児童観に洞察を与えると思うからである1)

子ども虐待の現状と子ども虐待を巡る動き

著者: 鈴木敦子

ページ範囲:P.313 - P.317

 英国の伝承童謡集『マザーグース童謡集(Mother Goose's Nursey Rhymes)』に,「大きな枝が折れるとき」という小品がある.
 「木の上の赤ちゃん,おやすみ./風が吹くと,ゆりかごゆれるよ./大きな枝がゆれると,ゆりかごゆれるよ/大きな枝が折れると,ゆりかご落ちる/赤ちゃん,ゆりかご,みんな落ちるよ.」というものである.この唄は単なる“子守歌”ではなく,子どもの虐待を意味しているという1).子どもの虐待は関係性の障害ともいえるが,この童謡は社会(大きな枝)と家庭(ゆりかご)と子ども(赤ちゃん)の関係を示している.つまり,何らかの原因(風)が木を揺さぶり,その木を折るとき,当然ながら家庭は影響を受け,それは子どもにも深く刻まれ,双方ともが木から落ちてしまうのである.木々を揺さぶっている風とは,言うまでもなく“貧困”であり,それは有史以来,全世界にずっと吹き荒れてきたものである.かつての子ども虐待が,「貧困社会型子ども虐待」と呼ばれる所以は,貧しさゆえに親たちはわが子を虐待し,社会もそのことを容認してきたことにある.

子どもの性的虐待の実態とその対策

著者: 福島富士子

ページ範囲:P.318 - P.323

 わが国において,子どもへの性的虐待が重要な公衆衛生上の課題であることが指摘されるようになったのは,1970年代末から1980年代初めのことであるが1),それが広く認識されるようになったのは1990年代に入ってからであり,児童虐待の他の問題に比べ,一般の認識もまだまだ希薄である.
 性的虐待の問題は,潜在化しやすく,他人が介入するのが大変難しい問題である.これは,被害者の家族や周りの者もその事実を知ったとしても,その事実を隠蔽してしまう傾向が強いこと,したがって,妊娠など深刻な状態になるまで無視される可能性も非常に高いこと,また,虐待を加える側に子どもへの性的虐待は人権を脅かす重大な犯罪であるという認識がないことなどがその理由として考えられる.そして,その背景には,わが国における「性」の扱われ方の問題がある.

児童虐待と保健所の役割

著者: 宮本ふみ

ページ範囲:P.324 - P.327

 公衆衛生分野において,児童虐待問題は,1980年代の前半,育児不安や子育て困難などを通して意識されはじめていた.大阪府の虐待防止民間ホットライン設立に続いて東京都でも,都内の複数の保健婦が地域精神保健活動の中で深刻な虐待事例に遭遇したことを契機に,保健婦,精神科医,小児科医などの有志が核となり,民間相談機関の設立に至った.それからもう十年を経ようとしている.
 この間,児童虐待問題は大きな社会問題となり,主として福祉部門の対策強化が声高に主張されている.しかし,保健部門についての施策はいま一つ積極性を欠いている.

児童虐待と自治体の役割

著者: 津崎哲郎

ページ範囲:P.328 - P.331

 筆者に与えられたテーマ「自治体の役割」は,県,市町村,児童相談所,保健所,福祉事務所,それに警察や教育など極めて広範におよび論点が定まらないので,児童虐待の中心機関である児童相談所をポイントに据えながら話を展開することにしたい.なお,児童相談所は周知のとおり県単位の行政機関であるが,政令指定都市には別途設置されており,現在全国に174カ所存在している.しかし,自治体によっては「児童相談所」以外の名称を使っているところもある.

児童虐待の電話相談

著者: 原田美江子

ページ範囲:P.332 - P.334

母と子の健康相談室
 東京都では,1987年10月より妊娠・育児などに関する夜間の電話相談を「母と子の健康相談室」として開設し,一般の行政機関の閉庁となる5時から翌9時までの時間帯に実施している.
 現在,相談にあたっているのは医師,保健婦,心理技術,助産婦の4職種であり,電話4台に非常勤職員を含めた4人体制で対応している.相談スタッフへの教育システムも充実していることから,かなり専門性の高い相談体制となっている.

子どもの虐待防止に向けて

著者: 桃井真里子

ページ範囲:P.335 - P.337

 子どもの虐待防止は社会の義務であるにもかかわらず,虐待死の例は後を絶たないし,その内容は社会の豊かさに反比例して悲惨さを増すように思われる.こどもの虐待への防止策とは何か,それに立ちふさがるものは何か,は,虐待がなぜ存在し続けるか,と同等の疑問であり,それへの考察なしに,虐待防止はありえない.しかしながら,なぜ,に関しては,この特集で語られ尽くしているであろうから,ここでは,防止には,何をすべきか,何が課題かに焦点を当てることとする.

視点

21世紀に向けての地域保健

著者: 平野かよ子

ページ範囲:P.306 - P.307

 平成11年度の保健婦国家試験の発表があったが,保健婦の合格率は保健婦,助産婦,看護婦の3資格の中では最低である.教育機関別の合格率も明らかにされるようになり,それを見る限りでは4年制の看護系大学の合格率は概して低い.今春からは看護系大学は80数校に増加し,県立の保健婦養成機関は閉校される傾向にあるため,これからの保健婦は看護系大学の卒業者が大半になる.保健婦としての職業人の養成と学問としての大学教育のあり方を混然として論じることは避けたいが,保健婦の教育を大学などの高等教育に期待したいがこそ,この4年制の大学の合格率が低いという現実をどのように考えればよいのだろうか.看護を背景にする公衆衛生の専門である保健婦の養成のあり方を真剣に考える時期にあると思う.

連載 あなたにもできる調査研究—事例をもとに・2

論文の読み方と書き方

著者: 中西範幸

ページ範囲:P.339 - P.342

 公衆衛生の実践の場で活躍されている公衆衛生専門家の中には,現場で発生し,気づかれる事例や事象を調査研究し,その結果を多くの人々に伝達してみたいと考えておられる人は少なくはないであろう.自らが行った調査研究により問題の機序が解明され,新たな知見に基づく対応策により保健医療福祉の充実が達成できれば,公衆衛生専門家としてこの上もない幸福感を味わうことができよう.しかし,公衆衛生活動の現場に従事する専門家から生の体験や考えが,論文としてまとめられ,広く伝達される機会は必ずしも多くはないと考える.
 公衆衛生専門家の多くの方々が参加される日本公衆衛生学会を例としてみると,日本公衆衛生学会総会では毎年1,300編を超える研究報告が行われている.この中にはすぐれた研究が数多くみられるにもかかわらず,日本公衆衛生雑誌に投稿されるのはわずか1割に過ぎない.他の雑誌に投稿し,掲載される論文も少なくはないとしても,多くの貴重な調査研究が文献情報としてデータベース化され,公開されることなく消え去っているのも事実であろう.

疫学 もう一度基礎から・5

既存のデータ—疾病頻度に関するデータは目の前にある

著者: 中村好一

ページ範囲:P.343 - P.348

■ポイント■
1.利用価値のある既存データが相当数,存在している
2.新たな疫学研究を始める場合でも,既存のデータは無視できない

「健康日本21」と自治体・2

人生各段階別,各世代別課題と基本戦略

著者: 長谷川敏彦

ページ範囲:P.349 - P.354

 日本における21世紀の健康は,20世紀とは全く異なっていると考えられる.極めて短期間で世界一の長寿を達成した日本は,それゆえにかつて経験したことのない超高齢社会に向けて急速に変貌しつつある.3人に1人が老人という超高齢社会である.そこでまず21世紀の健康の意味を,この数十年の間に変化した死の意味を通して捉えなおしてみたい.

公衆衛生院からの発信・5

「特別課程」公衆衛生看護管理コース

著者: 丸山美知子

ページ範囲:P.355 - P.357

コースの概要
 本コースは,保健婦(士)として国および地方公共団体などに勤務し,管理的立場にある者を対象に,公衆衛生看護管理者として,より効果的な活動を創造し展開するための知識と技術を修得することを目的に行っています.
 管理に関する諸理論を学び,公衆衛生看護管理者としての判断の基盤となる最新の情報を収集して,地域の健康問題を明らかにするとともに公衆衛生看護活動を見直し,公衆衛生看護の課題を的確に把握する能力を養うことをねらいとしています.

海外レポート ニューヨーク州保健省の日常・5

州単位で行う健康調査活動:BRFSS

著者: オスラー晃子

ページ範囲:P.358 - P.359

 医療,保健の政策を展開していく上で,住民の健康に関する情報収集は,非常に重要で基本的な役割である.アメリカの各州も,法律で制度化されている人口動態調査,病院の退院患者届け,州健康保険データなど多くの医療関係データを所有し,州民の健康の動向を把握するのに利用している.しかしこうした法定のデータは,もともと行政事務を目的に収集されたもので,州民すべての総合的な健康状態の監視という点では不備が多い.特に医療機関にかかる以前の健康関連行動,慢性的な疾患,健康管理の知識など,予防医学に欠かせない状況の把握には使えない.そのため,こうした目的を満たす,特別な住民健康調査が必要となってくる.
 アメリカでは,現在CDC(連邦予防局)の出資のもとに,各州が一斉に定期的な住民健康調査を行うBehavioral Risk Factor Surveillance System(BRFSS)というシステムが確立している.連邦レベルでは,1950年代から連邦健康統計局(NCHS)の管轄で行われている,全国健康調査などが存在しているが,州レベルでかつ全国一斉という点では,このBRFSSがただ一つの健康調査である.BRFSSの歴史は比較的新しく,1970年代の後半に,州の成人病教育と慢性病予防活動のための情報収集の手段として,CDCの研究者によって考案された.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 山形県村山保健所

保健所における喫煙対策への取り組み・3

著者: 山田敬子 ,   岩松洋一

ページ範囲:P.360 - P.361

 筆者が,病院から保健所へ移って今年で3年目.喫煙対策については今年度の取り組みをお話しして一区切りとしたい.前回ご紹介した「禁煙クラブ」の活動は,地方事務所の安全衛生委員会を通して行われたので,県庁職員の健康管理を担当する職員厚生課の目にとまり,今年度早々から,県職員の喫煙対策を一緒に展開する運びとなった.とはいえ,県職員約1万人(教育庁職員は除く)を対象に「禁煙クラブ」を開催するのは到底困難であるので,具体的には以下のように実施した.

公衆衛生のControversy 計画づくりに手法は必要か

手法は重要である/手法は重要ではない

著者: 藤内修二

ページ範囲:P.362 - P.363

市町村母子保健計画にみる策定手法のメリット
 平成7年度から9年度にかけて全国の自治体で母子保健計画が策定された.「市町村の母子保健計画の評価に関する研究」の研究班において,2,362自治体の母子保健計画の策定プロセスおよび計画内容,さらに,計画策定後の母子保健事業の変化について調査を行った.地域づくり型保健活動やPCM手法など目的設定型の策定手法を用いて新たな評価指標(母親の育児不安の程度や父親の育児への参加度など)を設定した自治体では,住民の主体性の向上や関係機関との連携の推進が報告され,母子保健事業の質的な改善が認められた.
 母子保健計画の策定効果がこうした策定手法を用いた自治体で顕著であった背景には,次のような策定手法のメリットが発揮されたと考えられた.

活動レポート

車いすスポーツチャンバラの紹介

著者: 平田憲市 ,   武部恭一 ,   武政誠一 ,   金子翼 ,   長尾徹

ページ範囲:P.364 - P.365

 われわれは平成5年からリハビリテーション(以下,リハ)の一環として,上下肢・体幹機能訓練や患者の心理的ストレスからの解放および意欲の向上を目的にスポーツチャンバラを取り入れている.今回,当院で行っている車いすスポーツチャンバラについて紹介する.

調査報告

日常生活での歩数増加に着目したウォーキング教室の降圧効果

著者: 大西郁子 ,   東郷直美 ,   内田恵美子 ,   松田亮三 ,   車谷典男

ページ範囲:P.367 - P.371

 最近発表されたわが国の約1万人を対象とした14年間の追跡研究結果1)でも,循環器疾患対策のためには,WHO分類などでいう高血圧を管理するだけではなく,血圧水準そのものを低く保つことの重要性が指摘されている.市町村保健センターは,循環器疾患の第1次予防として生活習慣に関する健康教育を実践しており,近年,高血圧の非薬物療法の一つ2)に位置づけられたウォーキングなどの運動療法も積極的に取り上げつつある.しかし,これまでに降圧効果を確認した研究のほとんどは,医療機関で高血圧症患者を対象に実施されたものであり,地域で,しかも保健センターが主に対象とするような軽症高血圧2)や正常高値血圧3)の者に対する運動療法の効果を検討した報告は乏しい.今回,エルゴメータなどの機器類は使用せず,日常生活での歩数増を目標としたウォーキングの降圧効果について検討したので,その成績を報告する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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