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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生64巻6号

2000年06月発行

雑誌目次

特集 地研における公衆衛生情報ネットワーク

公衆衛生情報の将来展望

著者: 鈴木重任

ページ範囲:P.380 - P.392

公衆衛生情報
 厚生行政の範囲は年々拡大しつつあり,限られた資源の中でエビデンスに基づく効率的公衆衛生施策の実施があらゆる分野で必要とされている.情報をいかに集め,解析し提供するかということは行政上の意思決定や研究に重要なだけでなく,社会における公衆衛生のあり方にもかかわる問題である.さらに情報技術の進歩は情報の管理運営のあり方そのものを変えようとしている.すなわち,今,求められているのは,情報の即時性・平等性を持ったネットワーク,相互のリンケージにより新しい知見を生み出すことが可能であるようなデータベース群,だれでもが容易にデータ分析ができるようなアクセスの開放性,行政・民間の情報を結ぶ相互性などである.
 地方衛生研究所(以下,地研)は平成6年の地域保健法の改正においてその基本指針の中で「地方における科学的,技術的中核機関」と定義され,平成9年の通知によって「公衆衛生情報等の収集・解析・提供業務について,公衆衛生に関する国,都道府県……のネットワークの中の地方拠点として業務を実施するとともに,得られた情報から地域に密着した公衆衛生に関する新たな課題を発掘し,またその解決のための研究を企画・実施する……」とされている.

地研と国立試験研究機関との公衆衛生情報に関する役割分担と連携

著者: 荻野武雄

ページ範囲:P.393 - P.398

 平成6年7月地域保健法が制定され,9年4月より全面施行された.地域保健法を受けた基本指針の趣旨を踏まえて地方衛生研究所設置要綱が平成9年3月に改正された.その改正の重点の一つとして,地方衛生研究所(以下,地研)の公衆衛生情報などの収集・解析・提供業務について,公衆衛生に関する国,都道府県・指定都市,地研,保健所,市町村のネットワークの中の地方拠点として業務を実施するとともに,得られた情報から地域に密着した公衆衛生に関する新たな課題を発掘し,またその解決のための研究を企画実施する旨が新たに加えられた.こうした中で,地研が情報活動の地方拠点として機能していくには地域内のみならず,地域外の関係機関との連携も強めていくことが必要である.特に,地域保健対策の科学的,中核的機関と位置付けられている地研にとって国立試験研究機関(以下,国研)との機能分担・連携は極めて重要なことから,本稿では地研グループによる厚生科学研究班の研究結果を引用し,地研における情報機能の現状と国研との役割分担・連携についてまとめた.

地研から得られる基本データベースの作成

著者: 大坪浩一 ,   大原賢了 ,   林謙治

ページ範囲:P.399 - P.404

 われわれは,今回,全国の地方衛生研究所の協力を得て,厚生科学研究補助金事業「厚生統計情報の国際的情報発信戦略の基盤確立に関する研究(主任研究者:林謙治)」1)の中で,「地方衛生研究所の基本データベース」を作成した.本稿では,地方衛生研究所の将来像を踏まえ,基本データベースの内容と利用法について紹介する.

化学物質のデータベース構築—地研との交流

著者: 山本都

ページ範囲:P.405 - P.409

 国立医薬品食品衛生研究所(以下,国立衛研)は,医薬品,食品,化学物質に関する分析や毒性試験を中心とした業務を行っている.国立試験研究機関はそれぞれの業務内容の違いから,日常かかわる行政上の担当部署や関連の研究会などが異なっており,国立感染症研究所や国立公衆衛生院に比べると国立衛研は「公衆衛生」や「保健」などの名称がついた分野とのなじみが薄い面がある.地方衛生研究所(以下,地研)の分析や毒性試験関連部門とは,毎年開かれる全国衛生化学技術協議会他の関連学会,あるいは共同研究を通じたかかわりも多いが,例えば地研のその他の部門や各地の保健所との直接のつながりは現時点ではあまり多くはない.
 しかし,1990年代半ばから,サリン事件,阪神大震災,重油流出事故,O 157食中毒事件,和歌山ヒ素カレー事件などが相次ぎ,「健康危機管理」や「情報ネットワーク」の重要性がクローズアップされてきた.国立衛研化学物質情報部においても,従来から行っている化学物質の安全性情報の調査や研究などの業務の中に,ケミカルハザード分野での健康危機管理や情報ネットワークのファクターが大きくかかわってきている.健康危機管理の分野においては,従来縦割りで行ってきた業務や機関の枠を越えた横断的な連携が必須である.人の健康を守る,あるいは健康被害を防止する,といった立場から国立衛研と地研の連携をこれまでかかわりのあった部門だけに限らずより広い範囲で今後強めていく必要がある.

病原体サーベイランス—地研との情報ネットワーク

著者: 山下和予 ,   井上榮

ページ範囲:P.410 - P.413

 地域・国の感染症対策には感染症サーベイランスが不可欠である.Surveillanceとは,語源は「sur(上)+veil(見る)」から来ており,感染症の発生を広い地域にわたって,かつ恒常的に監視することである.サーベイランスは患者発生だけでなく,同時にその病原体の動向をも監視する必要がある.感染症対策は病原体によって異なるからである.
 患者発生と病原体検出との2種類の情報は,最終的には統合して対策に役立てるのであるが,それぞれの性質はかなり違っている.前者は臨床医から発せられるものであり,量的な統計データとして不可欠であり,現在の情報技術を使えば,広域かつ限りなくリアルタイムでの監視が可能である.一方,病原微生物は肉眼では見えないものであり,その検出には検査室が必要であり,分離培養,同定を行うための時間が必要であり,病原体検出情報が患者発生情報より遅れて発信されるのはやむを得ないことである.しかも病原体検出には人材・費用がかかることから,すべての感染症患者からの病原体検出は不可能である.すなわち,病原体サーベイランスは,患者発生状況を見ながら,最も効率的な検体採取を考えなくてはならない.つまり,病原体検出データは量ではなく質が重要である.わが国では地方衛生研究所(以下,地研)が地域の病原体サーベイランスを行っている.

公衆衛生情報のデータベースの活用

著者: 荒田吉彦

ページ範囲:P.414 - P.417

保健所の情報機能
 地域保健法により,保健所は保健情報の収集,整理,および活用に取り組み,管内関係機関や住民に健康に関する情報を提供する「地域保健情報センター」としての機能が求められている.
 一連の情報処理過程において,第一に検討しなければならないのは,情報の「活用」であろう.本来であれば,情報の活用方法を検討することなく,情報を「収集」することもなければ,「整理」することもないはずである.しかし現状では,国あるいは都道府県から求められた情報を収集し,報告様式に見合った形で整理することに終始し,報告とともに死蔵される情報も多い.情報の通過点あるいは中継ぎ役としての役割しか果たしていないのならば,「情報センター」として機能しているとはいえない.

視点

21世紀の地域保健

著者: 伊藤善信

ページ範囲:P.378 - P.379

 100年間にわたって変化のなかった伝染病予防法が感染症予防法として大きく船出した.Y2K問題は大きな混乱もなく,健康危機管理の実地訓練になった.厚生省が打ち出した健康日本21プランは,健康づくりに数値目標を盛り込んだ画期的なアクションプランであり,「たばこ半減」もぜひとも実現してほしいものである.このような保健医療福祉分野の大きな転換期の中で,「21世紀の地域保健」をどのよう捉え動いていくべきか,地域保健行政の観点から述べてみたい.

連載 あなたにもできる調査研究—事例をもとに・3

調査研究の種類とデータの集計解析について

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.418 - P.422

調査研究の意義
 わが国では保健事業の拡大に伴い,多くの健康情報は大学などの研究機関に存在するのではなく,日常の保健活動が行われている現場に蓄積されている.現場における調査研究なくしては地域保健のさらなる発展がない段階に至ってきている.調査研究の特徴は問題意識を持つことから始まる.問題意識をもち,何を明らかにしたいのかという仮説の設定があってようやく調査研究のスタートとなる.問題意識に基づき,仮説をたて,データを収集し,集計し,分析する(図1).仮説なき調査研究や集計分析は,海図なしに航海にでるようなものであり,目標に到達できないことになる.本稿では,調査研究の中の実際の作業であるデータの収集,集計,分析にかかわることを書かせていただくこととする.

疫学 もう一度基礎から・6

疫学研究方法(1)—記述疫学,生態学的研究,横断研究—まずは比較的簡単なものから

著者: 中村好一

ページ範囲:P.423 - P.426

■ポイント■
1.疫学研究方法はいろいろあるが,それぞれが利点と欠点を抱えている
2.明らかにしたい事実について,最も適切な研究方法を採用しなければならない

「健康日本21」と自治体・3

住民参加と地方自治体の役割

著者: 守山正樹

ページ範囲:P.427 - P.434

 日本人と日本の国がさらに健康になるには,どうしたらよいだろうか? 考えを進めた結果,健康日本21が姿を現した.国は計画の中枢として,健康日本の理念と実際を総論と各論にまとめ,提案を行っている1).都道府県と市町村は,役割を異にするにしても,国の基本方針を現実化し,地方計画を具体化させる任務を負っている.
 しかし「具体的な計画を立てる」とはどういうことだろうか.健康日本21の各論では,既に目標が細かく設定されている.この数値は,どのように受け止めればよいものであろうか.地方が実情に合わせて自由に見直してよいものであろうか.目標値が地域の実情に合わせられるべきものであり,個人を拘束するものでないとしても,いったん数値として掲げられると,それが大きな意味を持つことも事実である.地域に合った目標値を掲げながら,それを上からの規制・拘束力とせず,住民からの自発的な盛り上がりに重点を置くには,どうしたらよいだろうか.

海外レポート ニューヨーク州保健省の日常・6

公衆衛生の立場からの医師の違法行為の取締り

著者: ホスラー晃子

ページ範囲:P.435 - P.437

 昨年秋,ニューヨーク市内の病院で帝王切開出産をした31歳の女性は,「出産後麻酔で意識が朦朧としていた時に,執刀医であったアラン・ザーキン医師によってAとZの文字(彼のイニシャル)をメスで腹部に彫り刻まれ,取り返しのつかない肉体的,精神的な傷を負わされた」として損害賠償を求める民事訴訟を起こした.今年1月に行われた裁判で,ザーキン医師は原告の訴えをほぼ全面的に認め,賠償金の支払いに応じた.この結果,ニューヨーク州保健省は直ちにザーキン医師に医療活動の停止を命令,後の審議で医師免許の最終処分を決定することを言い渡した.ザーキン医師は1966年にニューヨーク州の医師免許を獲得しているベテランの産婦人科医ではあるが,彼はこの件の他にも患者に暴言を吐く,患者の適切な治療を怠る,といった行為で同時に訴えられており,またザーキン医師が医師長を務めていた別の病院も,医療器具の不備,衛生管理の不徹底と慢性的な人員不足のため,保健省の監視下にあったことが明らかにされた.ザーキン医師の弁護側は,こうした行為は近年悪化した脳神経系の障害によるものとしているが,理由はどうであれ,彼の被害にあった患者はまだかなりいるものと予想されている.
 この一件はその特異性からマスコミを騒がす結果となったが,医師を巻き込んだ裁判沙汰はアメリカでは日常茶飯事である.

公衆衛生院からの発信・6

専攻課程環境コース—環境系専門職に必要な二つの技術を

著者: 鈴木晃

ページ範囲:P.438 - P.439

 公衆衛生院の専攻課程環境コースでは,環境分野における公衆衛生の基礎ならびに幹部技術者として必要な専門分野の知識,技術の修得を目的とした1年間の教育プログラムを提供しています.衛生工学,建築衛生,衛生薬学,食品衛生,衛生獣医,衛生微生物,放射線衛生,地域環境衛生などの分野の技術者を目指す新卒の方にも門戸を開いていますが,主にはこの分野で既に働いている技術者の卒後教育を担おうとしています.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 東京都豊島区池袋保健所

子どもの事故予防と心肺蘇生の体験学習

著者: 澤節子 ,   川島ひろ子

ページ範囲:P.440 - P.441

 不慮の事故死は減っていない.子どもの事故は予防可能である.保護者に事故を他人事ではなく実感をもって受け止めてもらいたい,子どもの命を救い健全に育ってほしい,こうした職員の思いと,保護者との交流で聞かれた,子どもをのびのび遊ばせたいという希望から,池袋保健所では,子どもの事故を予防するための地域の専門的教育機関として,「子ども事故予防センター・Kidsafe」を1996年11月26日に開設しました.
 待合室の壁面を利用してのパネル展示,事故予防パンフレット「のびのび子育て」,幼児視野体験メガネとチャイルドマウス,誤飲予防チェックシート,手作り安全グッズなどの資料配布やビデオの作成を行いました.

公衆衛生のControversy 保健所医師に臨床経験・臨床研修は必要か

保健所医師の臨床経験の必要性/ドクターマインドと社会医学に研鑽を

著者: 岡田尚久

ページ範囲:P.442 - P.443

 現在,保健所医師(その多くは所長であるが)は,公衆衛生の行政官として働いている.
 保健所医師の役割としては,①保健医療福祉施策の立案と円滑な実施および評価,②保健サービス提供の責任者として専門家集団への総合的指導と管理,③食中毒・結核・エイズなどのエマージング・ディジーズに対応する専門家として医学的公衆衛生的指導,④災害時の医療対策における保健所の役割の中で,医師として危機管理能力の発揮,⑤保健医療福祉システムのコーディネータなどがある.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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