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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生64巻7号

2000年07月発行

雑誌目次

特集 大学の公衆衛生教育

大学の公衆衛生

著者: 多田羅浩三

ページ範囲:P.452 - P.457

 わが国における大学医学部の公衆衛生学教室は,昭和22年7月15日の勅令によって,東京大学,大阪大学,新潟大学に設置されたのが最初である.つまり戦後,進駐軍の占領政策の一環として,大学の公衆衛生学教室は誕生したのであり,そのことは周知のことである.このことは実質的に,わが国の公衆衛生学教室は,当時のアメリカにおける公衆衛生教育のあり方を反映して誕生したものであることを示している.
 そこで最初に,アメリカにおけるSchool of Public Healthの設立の経過について,アメリカ・NIHの医学史部門のエリザベス・フィー主任の文章によって,その系譜をたどってみたいと思う.

卒前の医学教育における公衆衛生教育

著者: 鈴木庄亮

ページ範囲:P.458 - P.461

卒前の医学教育の構成
 卒前の医学教育は,伝統的に大きく分けて,1)教養教育,2)基礎医学教育,3)社会医学教育,および4)臨床医学教育の4部分からなる.日本ではふつう高等学校卒後6年の医学教育でこの4部分がほぼこの順に行われる.英国ではこれが5年である1).米国では3〜4年の大学卒業の学士が医学大学院(medical school)に入学し,4年間の卒前の医学教育が行われる.4年では短く忙しすぎると関係者は言う2)
 「社会医学教育」は,医師免許を与えてくれた社会で,医師として「保健指導と医療」を開始するにあたって必要な,医師—患者関係および医療と社会との関係についての知識,態度,技能を養うものであろう.

京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻について

著者: 中原俊隆

ページ範囲:P.462 - P.466

 平成12年4月1日に,社会健康医学系専攻が京都大学大学院医学研究科の中の一専攻として設置された.この社会健康医学系専攻は,学部を持たない独立専攻大学院として,また高度専門職業人の養成を旨とする専門大学院として設置されたものであり,その概要を学生募集要項から引用すると次のとおりである.
「医学の生物学的アプローチはますます細分化し,先端化しつつあり,その進歩を担うことが大学の医学部で行われる教育,研究,医療の大きな使命である.しかし,医学の社会的応用としての医療は,生物学的アプローチの延長線上でのみ成立するものでないことは明らかである.健康と疾病に対する国民の多様化する価値観,急速に進む高齢化社会,増大する医療費,国際化するなかでの新興・再興感染症などは,細分化し,先端化する生物学的アプローチとは異なる視点によってのみ解決が可能となる問題である.特に限られた医療資源をどのように用いれば,最も多くの人々が医療の恩恵を被ることができるのかを追求することが,先進諸国,開発途上国を問わず,避けて通れない重要なテーマとなっている.」

卒後臨床研修における公衆衛生カリキュラムの位置付けについて—医科大学衛生学・公衆衛生学教育協議会からの要望書より

著者: 川口毅

ページ範囲:P.467 - P.469

 昭和43年当時「インターン制度を廃止せよ!!」,「臨床研修医制度反対!!」と叫びながら数百人の医学生が清水谷公園から国会議事堂の前を通り厚生省へとデモ行進をした.
 また,その年は空前絶後の全国医科大学の卒業生のおよそ9割以上の者が医師国家試験ボイコットするという異常事態が出現した.では当時どうして医学生たちはこのような行動に出たのかを思い返してみると,身分資格制度もなく教育体制や生活保障もなく,大部分の者が無資格の夜間当直医として生活を支えながら昼間は病院の中で満足な研修カリキュラムもなかった当時のインターン制度を改正または廃止しなければならなかったことは当然であった.厚生省がインターン制度に代わるものとして提案してきた臨床研修医制度は卒業と同時に医師免許は与えるが2年間の臨床研修を義務化するものであった.

アメリカのスクールオブパブリックヘルスの現状

著者: 中島和江

ページ範囲:P.470 - P.473

 米国の主要大学のSchool of Public Health(以下,公衆衛生大学院)は,保健や医療に関するあらゆる教育を行う場として,Medical Schoolに匹敵するほどの規模と影響力を持っている.公衆衛生が「疾病の予防と健康の推進」を目指すものであることは世界共通であるが,米国における「公衆衛生」は,保健医療政策,医療経済学,医療経営学,医療統計学,疫学,医事法学,医療倫理学,国際保健など様々な領域を含んでいる.筆者は1994年の7月から3年間,ハーバード公衆衛生大学院に留学し,主としてヘルスケアリスクマネージメントや医療の質の評価について学ぶ機会を得た.そこで本稿では,ハーバード公衆衛生大学院を中心に米国の公衆衛生大学院の教育制度と内容について簡単に紹介させていただく.

ヨーロッパにおける公衆衛生教育

著者: 玉城英彦 ,   臼田寛 ,   正林督章

ページ範囲:P.474 - P.476

 ヨーロッパでは公衆衛生従事者に対して実務,研究,教育の各方面における卒後教育を担当する施設の連合体として欧州地区公衆衛生大学協会(ASPHER;The Association of Schools of Public Health of the European Region)がある.ここでは主としてASPHERの発表資料(http://www.ensp.fr/aspher)を用いてヨーロッパ地域における公衆衛生学校の現状を紹介する.これが日本の公衆衛生分野における高等専門職業人育成を目的とした公衆衛生学校設立のための参考になれば幸いである.

公衆衛生における専門性—現場からの意見

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.477 - P.480

保健所の機能と専門性
 保健所の書棚に,とても大切な1冊の本がある.題名は,『今いきいきとした公衆衛生活動のために』1).厚さ1cmの小冊子で,背表紙は日焼けして黄ばんでしまったが,内容は今でも新鮮で,まったく色褪せていない.特に「保健所の10の機能」(表)に関する解説は,発行から10年以上経過した今でも,筆者の貴重なバイブルとなっている.
 本書によれば,「①総合的な公衆衛生活動の展開」は,保健所活動の最終的な到達点であり,②から⑩の具体的な機能をバランスよく実践することが期待されている.各機能はそれぞれ独立したものではないが,自分の保健所はどの機能が弱いかを考え,それを高めるためのヒントを全国の先進事例から学べるように工夫されている.つまり,各機能とも机上のあるべき論ではなく,全国でいきいきと活動している保健所の実践例をもとに提案されたもので,公衆衛生の現場で身に付けるべき専門性を示したものといえる.

医療から見た大学の公衆衛生教育

著者: 瀬戸山元一

ページ範囲:P.481 - P.485

 今日,「健康とは?」,「医療とは?」,「よい医師とは?」,「よい看護婦とは?」,「よい病院とは?」などと医療一般について,より具体的なことが問われている.この原因を考えるとき,表面的には社会や経済の変化が健康や病気についての認識を大きく変化させ,国民の自意識の向上をあげることができる.しかし,本音のところは医療の現場において,医療の心が不足あるいは欠如していることへの批判からではないだろうか.そして,その根元となっている医学教育の不備が問い直されなければならないと突き詰められているものと思われる.
 さて「母乳と人工乳栄養とによる発育の差異」や「精神障害児の生活実態調査」など,独自に取り組んだ公衆衛生実習についてのわずかな記憶だけにとどまり,衛生学と公衆衛生学との明確な区別ができないままに過ごした医学生当時を反省しつつ,公衆衛生教育について臨床現場からの私見を論じてみたい.

視点

FETPJ−21世紀に向けての地域保健

著者: 中瀬克己

ページ範囲:P.450 - P.451

 私は昨年9月から,Field Epidemiology Training Program Japan(FETPJ;実地疫学専門家養成コース)に参加しています.参加することで,実地疫学は,集団における疾患対策において,「共通の指標」と「基本的な考え方」という共通言語を提供できるのではないかと感じるようになりました.感染症や食中毒の対策に当たる者がこの共通言語を持つことで,集団発生の原因を明らかにし,日々の対策に同じ評価を下すことができ,共通の方向を見いだしてゆけると感じています.そしてこれは,感染症や食中毒以外の様々な公衆衛生対策にも広げることができそうだとも感じています.

連載 あなたにもできる調査研究—事例をもとに・4

調査計画と問診票の工夫

著者: 西信雄 ,   福田英輝

ページ範囲:P.486 - P.490

 多忙な日常業務の中,住民のニーズ把握,事業の評価など,調査研究が必要とされる機会は絶えず訪れている.調査研究を行うからには意味のあるものを行い,学会発表,さらには論文発表などの方法で,成果を世に問うていきたいものである.
 先ごろ「日本公衆衛生雑誌編集の現況と今後の課題」1)が発表された.それによると,同誌の編集方針は,「投稿された原稿に学術論文として未完成な部分があった場合,とくに学術論文を書き慣れておられない公衆衛生の現場の方からの投稿については,できる限り『教育的査読』を行ってその完成度を高めるためのお手伝いをすることにしている」とのことである.しかし,それでも投稿論文が不採用となる場合があり,その理由として,目的・仮説が不明確,概念の定義や基準があいまい,データの代表性に疑問,研究方法・観察方法が不適当,統計解析法が不適切,他要因との交絡性についての検証不足,解析結果の一般性に疑問,など研究のデザインに関する理由が多く挙げられている.これらは,調査研究の計画段階に考慮していなければ,学会発表や論文作成の段階に気がついても手遅れである.良い論文を書こうと思えば「急がば回れ」で,良い計画を立てることが先決である.

疫学 もう一度基礎から・7

疫学研究方法(2)—コホート研究—疫学研究の中心となるもの

著者: 中村好一

ページ範囲:P.491 - P.495

■ポイント■
1.コホート=一定の期間,追跡される人間集団
2.コホート研究は,曝露→疾病発生と疾病の自然史に従った観察研究である

「健康日本21」と自治体・4

栄養・食生活

著者: 吉池信男

ページ範囲:P.496 - P.500

 “栄養”とは,「生体が物質を体の外から取り入れて利用し,成長・発育し,生命を維持し,健全な生活活動を営む」ことである.すなわち,食べ物を“食べる”という行動に引き続いて体の中で生ずる一連の状態が,“栄養”であり,その過剰な方向への“失調”は,肥満,糖尿病,循環器疾患や一部のがんの主要な原因となる.
 一方,“食生活”は,“食べる”という行動を中心としながらも,“食べる”ことを取り巻く様々な要因,例えば,個人が心の中に持つ“知識”や“態度”,家庭・職場・学校などでその個人とかかわりをもつ人々,どのように食に関する情報が得られるのか(=情報へのアクセス),どのような“食べ物”が利用可能なのか(=食物へのアクセス)などを広く包含するものであろう.したがって,“食生活”は,私たちの日常生活における社会的・文化的な背景の下に成り立つ,極めて人間的な営みであり,私たちの生活の質(QOL;quality of daily living)とのかかわりも深い.

公衆衛生院からの発信・7

行政栄養士のための研修—特別課程「公衆栄養」コース

著者: 梶本雅俊

ページ範囲:P.501 - P.503

 この表題にある行政栄養士という言葉は日本栄養士会などで通常,栄養士の職域分類に使われているものであるが法的な定義や用語はない.ここでは都道府県,政令市や市町村などの地方自治体の本庁勤務,または保健所や保健福祉事務所および支所に所属する保健衛生行政の業務に従事する公務員を指している1).そして管理栄養士としての専門性を基礎に,地域住民の食生活や集団の栄養指導や食意識向上に関する支援活動を通じて地域の健康づくりに貢献する公衆栄養活動の専門家であると考えられる.
 特別課程「公衆栄養コース」については研修参加者の大部分は保健所勤務であるので,カリキュラムもある程度の対象者範囲を絞って考えている2)

海外レポート ニューヨーク州保健省の日常・7

ニューヨーク州のがん登録制度

著者: ホスラー晃子

ページ範囲:P.504 - P.506

 5月号では州が行っている定期健康調査を紹介したが,今回は州のがん登録制度(レジストリー)について触れてみたい.現在ニューヨーク州で組織的な登録制度があるのは,伝染性の高い急性疾患が大部分で,慢性病はわずかである.その慢性病の中で,がんの登録制度は歴史が一番古く,また近年連邦政府の政策の一環として規格の全国統一化が行われて,事業拡張した分野でもある.ニューヨーク州保健省では,オルバニー市にある本省内で,約50名の専門職員が,年間13万件に上るがん診断の登録とそれに関連した業務に携わっている.
 がんはニューヨーク州民の死亡原因第2位の疾病で,その治療法には数々の進歩が認められているのにもかかわらず,原因やリスクなどまだ科学的に解明されていない点も多い.特に環境,食品,生活習慣とがんとの関係には多くの仮説が流布しており,その分野での研究を前進させるためには,広域にまたがる一般人口を対象としたがんのデータが不可欠である.州のがん登録はこのようながんの疫学的研究に,信頼できるデータを供給できる数少ない資源であり,また州のがんに関連した公衆衛生政策の情報源として欠かせない役割を持っている.こうした重要性から,がんの登録はニューヨーク州の場合任意ではなく,公衆衛生法で定められた罰則を伴う法定登録制度となっている.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 東京都豊島区池袋保健所

豊島区の住まいの衛生に関する事業について

著者: 澤節子 ,   本田万知子

ページ範囲:P.508 - P.509

 平成5年度にアレルギー教室でダニ抗原検査とダニ生息数の調査を行ったことが住まいに関する事業の端緒であった.その後,一般家庭に対象を拡大して,検査項目も増やし,住まい方の講義や住居の衛生相談も行うなど内容の充実を図ってきた.
 平成9年度より地域保健総合推進事業「健康で快適な居住環境づくりに向けた保健所の役割に関する研究」に参加して,室内環境に関する測定や講義を行いつつ事業化を検討した.

公衆衛生のControversy 献血のHIV陽性告知をすべきか

HIV陽性献血者への告知に賛成/HIV陽性献血者の告知に反対

著者: 霜山龍志

ページ範囲:P.510 - P.511

 献血時の検査ではHIV抗体陽性となる献血者は最近では10万人に1人であり,年間50人くらいに上る.この陰にいわゆるウィンドウ期の献血者もあり,それが輸血によるHIV感染の原因となりうるのである.しかしこれはいまだ2例しか確認されておらず,その理論的頻度も献血者400〜800万人に1人(輸血100万回に1回)とされている.以上を前提として論を進める.
 献血時の検査は輸血の安全性を守るためであるから,献血者にその結果を知らせる義務はないかもしれない.しかしながら,HIVのような重要な感染症に罹患している事実を知らせないと必然的に性交渉による二次感染が起きるし,HIVの場合は無症候期からの治療が功を奏することもある.したがって,医師として公衆衛生の義務からは陽性献血者に告知するのが適切であろう.

活動レポート

精神障害者に対する地域生活支援の模索—愛媛県今治地域の「精神保健福祉に関する検討会」活動を中心に

著者: 鷹尾雅裕 ,   池内敬太郎 ,   塩見芳仁 ,   山西佳恵

ページ範囲:P.512 - P.516

 精神障害者が地域で当たり前の生活が可能なよう,これまでの医療のみならず福祉的側面からも支援しようとするノーマライゼーションの考えは,近年の度重なる関連法改正によって浸透の途に付いた.また,精神障害は身体・知的障害とともに,障害者プランなどによりその施策が統合的に推進されるようになり,遅ればせながら社会参加促進のための施設・制度も整備されつつある.
 しかし,地域生活を支える施設の多くは,高齢で金銭的余裕のない家族が担っているのが現状である.施設を整備するにも多額の資金を要し,法人化のための資金集めも思うに任せない.全国的に地域生活支援は,家族の手弁当と公的助成金による自転車操業的な運営の共同作業所に支えられているところが多い.

資料

千葉県における小児慢性特定疾患治療研究費の受給者数ならびに先天性代謝異常患児数の年度変化

著者: 佐二木順子 ,   高橋勝弘 ,   笹山篤子

ページ範囲:P.518 - P.521

 最近,ダイオキシン,農薬,プラスチック原材料などの化学物質に内分泌撹乱作用があり,ヒトを含めた生物がこれら物質で汚染されているという報告が相次いで出されている1〜3).一方,野生生物の繁殖率の低下ばかりでなく,ヒトにおける精子数の低下,精巣がんの増加,子どもの停留精巣,生殖器の奇形など生殖器に関係した病気が増加しているとの報告1,4,5)もあり,化学物質汚染との関連が危惧されている.特に,今日問題にされている化学物質は,微量で様々なホルモンを撹乱すると考えられており,胎児を含めた許容範囲の狭い子どもへの影響については深い関心が寄せられている.しかし,わが国における内分泌撹乱物質(以下,環境ホルモン)が関与すると考えられる子どもの病気の動向については明らかにされていない.本報告では,千葉県における子どもの病気の実態を知るため,原因不明の難病のなかでも治療が困難である小児慢性特定疾患患児に交付されている研究費の受給者数,ならびにマススクリーニングにより明らかにされた先天性代謝異常患児数について年度別に調査した.

フォーラム

保健行動理論に基づくエイズ予防教育プログラムの紹介—フィリピンエイズ対策プロジェクトにおける教育プログラム開発の試み

著者: 湯浅資之 ,   山城吉徳 ,   渡部基 ,   曽田研二

ページ範囲:P.522 - P.526

 エイズ予防対策に教育が重要であるとの認識は早くからあったが,初期のエイズ予防教育は教育者の個人的経験と勘に頼って実施されてきたきらいがある.ところが,1980年代中期以降,特にアメリカを中心にエイズの教育法が盛んに研究されてきた.それらは行動科学の成果を取り込みながら徐々に洗練され,今日までに効果的なプログラムが数多く開発されている.
 一方,わが国にはいまだ保健行動理論が系統的に紹介されてはおらず,理論に基づいてエイズ予防教育プログラムが構築された事例はまだ少ないと思われる.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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