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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生65巻10号

2001年10月発行

雑誌目次

特集 公衆衛生の新しい世紀

Hygiene and Public Health

著者: 多田羅浩三

ページ範囲:P.716 - P.719

衛生学の伝統
 ギリシャ神話に出てくる医神はアスクレピオスである.ヒポクラテスの誓いでは「医師アポロ,アスクレピオス,ハイジェイア,パナケアをはじめ,すべての男神・女神の前に誓う.………」と述べられている.ハイジェイアとパナケアはアスクレピオスの娘であり,ハイジェイアは衛生,パナケアは薬の神である.医学は,まさに衛生と薬を手法として機能するとされていたとも理解できるのではないか.ヒポクラテスは,この医神アスクレピオスを奉ずる医師集団アスクレピアーデンに属する医師である.ヒポクラテスの医学は,瘴気論と液体病理学を基本としている.医師は,瘴気論にたって衛生の方法を指示し,液体病理学の立場から症状の観察を行い,薬を処方する.瘴気論の立場に立った学問が衛生学である.それゆえ,もちろん瘴気論に立った衛生学の歴史は,細菌学に立った現代の医学よりも古い.
 ドイツのミュンヘン,ヴュルツブルク,エルランゲンの三大学に衛生学教授の席が新たに設けられたのは1865年であり,ミュンヘンの衛生学講座の初代教授に就任したのが,ペッテンコーフェル(Max von Pettenkofer 1818-1901)である.彼は1847年から医化学の教授であったが,53年に行われた彼の講義は栄養の物理学・化学であったが,徐々に変化して65年には「衛生学(Hygiene)」と題されるに至ったとされている.また,1876年に初めて独立の衛生学研究室(In-stitut)が開設されている1)

公衆衛生行政従事者への期待

著者: 金子金一

ページ範囲:P.720 - P.722

逆転の発想—いまは「危機」でなく「好機」
 最近,公衆衛生行政従事者に元気がないという.今公衆衛生上の差し迫った問題がないためかもしれないが,それだからといって,時代をただ傍観しているのではもったいないし心配である.
 現代は,時間が短くなったといわれるほど,政治,経済,社会,文化,国際情勢,情報・メディア,科学,健康・医療などあらゆる分野で大きく動いている時代である.こういうときに,傍観して時代に乗り遅れると取り返しがつかない.

意欲のある公衆衛生医を育てるために

著者: 笹井康典

ページ範囲:P.723 - P.726

 大阪府は全国的に見て公衆衛生医師が多い自治体である.現在,府庁内や保健所,府立成人病センターや母子保健総合医療センターの疫学調査部門,がんや循環器疾患の検診・健康教育部門に約80名の医師が勤務している.その中で,疫学調査,検診,健康教育部門の公衆衛生医師については臨床医からの補充もありうることからほぼ充足している.また,保健所については,所長,地域保健課長そしてスタッフ医師の3名を確保する目標を立て医師の確保,育成に努めている.しかし,府庁医師や保健所医師の充足は,年々困難になっており,退職者の補充にも事欠く状況である.70年代後半からの医師養成数の増加から考えて,公衆衛生分野の医師不足もいずれ解決するものと予想されていたが,現実には一向によくならない.
 私は昨年まで保健所医師確保の担当課長を勤めていた.その間,全国の医学部に保健所医師の募集通知や保健所のPR誌を送るとともに,近畿の各大学公衆衛生学教室については直接また手紙などの様々な方法で医師の確保や紹介をお願いしてきたが,「大学自体の教員が少なく,確保に困っている」,「保健所に関心がある医師が少ない」という答えが多く,そのルートでの補充は困難であった.しかし,幸いにも公募には毎年数名の応募があり,何名かの医師を採用することはできたが,退職者の補充に追われて保健所医師全体の数を増やすことはできなかった.

行政官としての保健婦養成のこれから

著者: 島田美喜

ページ範囲:P.727 - P.730

 2000年4月「地方分権推進一括法」が施行された.これにより国の主導のもとに推進されてきた政策の多くが,地方自治体の自主的な運営に委ねられるという大転換が図られようとしている.この分権時代には地方自治体自らが政策立案することが求められ,自治体職員には政策形成能力が必要とされてきている.自治体職員の一員である行政の保健婦・士(以下,保健婦)もその例外ではない.また,4年制の看護大学が増加していく中で,看護婦としてのノウハウを持ちつつ行政官としての期待に応えていける保健婦をどう育てていくかも大きな課題である.
 ともすると保健婦は行政能力に欠けると批判されがちであるが,かたや専門職でもある保健婦がその特性を生かした行政官として役割を果たすためには,どのように学んでいけばよいのか考えてみたい.

チームワークとしての公衆衛生行政—大三島町の保健対策事業をとおして

著者: 菅マリハ

ページ範囲:P.731 - P.736

大三島町の概要
 大三島町は緑の島が無数に点在する芸予の海,瀬戸内海のほぼ中央,また平成11年に開通した広島県と愛媛県を結ぶしまなみ海道西瀬戸自動車道の中央に位置している.本町は瀬戸内の温暖な気候が育んだ美しい自然に恵まれ,また千古の歴史を誇る大山祇神社と源頼朝・源義経の鎧をはじめ数々の国宝を収蔵した国宝館のある島である.生活産業である柑橘類の低迷で若者の流出が進み,昭和40年国勢調査で9,508人であった人口が平成13年4月1日現在では46%の4,401人に減少した.65歳以上の高齢者が1,948人で,高齢者率44.23%という過疎と高齢の町である.
 平成3年からの保健福祉政策の取り組みの中で,保健と福祉が統合した健康づくり施策の基盤整備として,平成4年に大三島町地域福祉センター,在宅支援センターを,また平成6年には大三島町保健センターを建設し,総合的な健康づくり,健康増進,福祉活動を行っている.

行政の役割,民間の役割

著者: 櫃本真聿

ページ範囲:P.737 - P.740

今,ヘルスプロモーションのとき
 中央主導型で,不景気・財政難をバックに,地方分権が推進されつつある.地方から望んだ分権ではないことから,各地方自治体が,補助金カットによる保健活動の弱体化を憂いがちだが,ポジティブ・シンキング! 地方自身が視点を変えることによって,今こそヘルスプロモーションを推進するチャンスが訪れたと認識してほしい.確かに,住民主役のポリシーを伴わない上意下達の地方分権化は,いくら住民に身近な市町村へ事業主体が移ったからといって,それだけでは住民の主体性を引き出せず,住民自身が進める街づくり活動に発展することはない.地方分権による本来のメリットを活かす上でも,まず,行政や専門家たちが自らの限界を認め,直接的に住民にやらせるのではなく,住民の主体性を引き出すための環境づくりに徹する姿勢が不可欠だ.そのためにも,行政や専門家の都合を優先させた,住民を導こうとする行動を,できる限り慎む心構えが大切だ.本人の価値観を考慮しない,こちら側のお仕着せ的な「行動変容」を目的としたこれまでの「指導」は,住民ニーズの多様化が進行する中で,効果も期待できないし,一方住民の主体性にもブレーキとなりかねない.
 ヘルスプロモーションとは,住民それぞれが,自らの意志で適切な選択を可能にするための支援であり,行政や専門家から提供すべきサービスは,究極的には,情報提供(地域や住民の実態に即した情報)と環境整備(施設だけでなく人や事業も含めた健康資源)に集約されると考えている.

視点

女性により多くの夢と希望を与えてくれる21世紀に

著者: 香川和子

ページ範囲:P.714 - P.715

 「21世紀は女性の時代」というテーマの原稿依頼でしたが,私自身今までの仕事を振り返ってみますと,多くのすばらしい女性たちと一緒に仕事をする機会に恵まれると同時に,女性とはまた違った視点で,惚れ惚れするような仕事をする多くの男性との出会いがありました.
 ですから,21世紀が「女性の時代」と言い切るのは面はゆく,「21世紀は男女が一緒に夢と希望を持ちたい」と思っています.ただそれには今以上に,いきいきした女性たちを社会が活用し,女性を否定するのでなく,理解しようとする暖かい思いやりの風土が必要なのではないかとも思っています.私自身が今まで職場で出会った元気一杯の女性たちのことに触れながら,「男女が一緒に夢を見る」ことについて少し述べてみたいと思います.

連載 疫学 もう一度基礎から・22

疫学に必要な統計(4)—推定の実際(その2)—点推定値±1.96×標準誤差

著者: 中村好一

ページ範囲:P.741 - P.745

■ポイント■
 1.推定とは95%信頼区間を求めることである.
 2.95%信頼区間は「点推定値±1.96×標準誤差」が基本である.

機能訓練事業の危機・1

介護保険で揺らぐ機能訓練事業を憂う

著者: 大田仁史

ページ範囲:P.746 - P.750

介護保険とリハビリテーション医療の動き
 診療報酬制度の枠組みではあるが回復期リハビリテーション(以下,リハ)病棟が認められて1年が過ぎた.思うほど勢いはなかったが確実に増加しつつある.認定基準の厳しさと点数を勘案するとこの程度かとも思う.ただこの制度が画期的なのは,リハ専門病棟が制度として認められたことによる付加的な効果である.すなわち,これを機にリハ医療の流れ,特に急性期から回復期にかけては確実に新しい展開を見せると予想される.
 これと呼応する形で平成10年から地域リハ支援推進事業が始まった.資源の不足や制度上不確定の部分もあって進捗状況は十分とはいえない.しかし,これも回復期リハ病棟と並んで介護保険と両輪をなす重要な介護予防施策と考えるべきである.

各国の目標管理型健康政策・2

ヨーロッパにおけるヘルシーシティプロジェクト

著者: 福田吉治

ページ範囲:P.751 - P.755

 ヘルシーシティ(健康都市)は「生活のあらゆる機会を果たせるように,また,その潜在力を最大限に発揮できるように人々がお互いを相互に支え合うことを可能にする物的環境と社会的環境を絶えず作り出し改善し,また地域の資源を拡大している都市である」と定義される.
 WHOヨーロッパ地域事務局によって始められたヘルシーシティプロジェクト(以下,HCP)は,1998年より第3期に入っている.これまで2000を越える都市がなんらかの形で参加し,もはやヨーロッパにとどまらず健康都市は世界を巻き込む大きなムーブメントとなっている.日本においても,平成5年度より開始された健康文化都市事業をはじめとして,多くの都市で健康都市ないしヘルスプロモーションを理念とした公衆衛生活動が展開されている.

海外レポート 英国・オックスフォード市における在宅難病患者の地域リハビリテーションサービス・7

障害の評価について

著者: 長野聖

ページ範囲:P.756 - P.758

 地域リハビリテーションサービスにおいて,サービス利用者の状態を把握し,サービス利用の結果(アウトカム)を評価するためには,日常生活活動(ADL)を含めた利用者がもつ障害を評価することが不可欠である.本邦では地域において「厚生省による障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準」を中心に,サービス利用者がもつ障害を把握するために様々な尺度が用いられている.本稿ではこれらの評価に際し,オックスフォード市でどのような評価尺度が用いられているのか,また,評価の結果をどのように利用しているのか報告する.

地域保健関連法規とその解釈・10

母子関連法規・2

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.759 - P.761

 予防的観点から母子保健の充実を図った母子保健法により,戦前からの課題であった母子の健康指標の改善はほぼ達成したが,事後的な対策としての母子福祉関連法規の発展はいかがであったであろうか.また,母子,いや父子も含めた親子間のこころの問題や社会関係を中心とした事項については,今日大きな注目を集めている.ことに児に対する虐待,遺棄などの問題は連日のように新聞紙上を賑わしているが,これらの課題に対処する仕組みはどのようになっているのか.

公衆衛生院からの発信・21

特定研修 歯科衛生士研修

著者: 青山旬

ページ範囲:P.762 - P.763

 国立公衆衛生院における歯科衛生士研修は,平成8年度から都道府県庁および地域保健法施行令により保健所を設置する市および特別区に3年以上勤務する歯科衛生士を対象として実施している.5年間に182名が受講した.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 帯広保健所広尾支所

十勝地域の禁煙・分煙活動の取り組み

著者: 堀幹典 ,   福島俊也

ページ範囲:P.764 - P.765

 十勝地域は成人の喫煙率が全国,全道に比べ高くなっており,分煙対策を実施する公共施設の割合も60.4%にとどまり,禁煙や分煙の取り組みも一部の市町村に限られていた.しかし,平成11年に実施した十勝地域の健康づくり住民調査では,公共施設などでの禁煙・分煙を望む者は84.2%となっていて,全道の80.1%より高くなっていた.
 そこで,管内市町村,地域医師会・歯科医師会,教育・労働関係機関,ボランティア団体,マスコミの協力を得て,平成11年度〜12年度の2年間にわたり,地域保健推進特別事業で禁煙・分煙の取り組みを行った.

公衆衛生のControversy 結核対策はDOTS!?/DOTS?

結核対策はDOTS!?/結核対策はDOTS?

著者: 和田雅子 ,   原田久

ページ範囲:P.766 - P.767

日本の化学療法の現状
1.6カ月短期化学療法の普及率
日本でのPZAの普及率を結核発生動向調査(1999年),結核実態調査(1998年登録患者の20%抽出),結核療法研究協議会(1997年下半期に入院治療を受けた療研傘下施設の培養陽性例全例),複十字病院コホート(1991年1月〜1999年12月入院治療を開始した初回治療)からみると,塗抹陽性初回治療例の51,8%,54.8%,44.7%,70.6%であった.また地域格差が大きく,最も使用率が高かった佐賀県の75%から最も低い新潟県の32.2%であった2)

活動レポート

保健婦のための参加型研修の試み—プリシード・プロシードモデルを用いて

著者: 鳩野洋子 ,   山田和子

ページ範囲:P.769 - P.771

 行政財政の逼迫とともに,自治体に働く保健婦の現任教育をとりまく環境は困難さを増している.教育の効果を厳しく問われるなか,学習者が真に力をつけるためには,講義中心・座学中心の教育から,学生が主体となって行う,参加型の教育に転換する必要性がいわれている.
 国立公衆衛生院は長年公衆衛生従事者の教育を実施しているが,現在は前述の方向に沿ったカリキュラムにシフトさせている.

資料

フランスの在宅ケアと関連職種

著者: 華表宏有

ページ範囲:P.773 - P.776

 フランスの在宅ケアは,いまどのように機能し,どんな課題に直面しているのだろうか.また在宅ケアに関連した専門職種の教育課程と役割分担はどうなっているのだろうか.こんな素朴な問題意識を持って,筆者は2000年9月上旬,ブルターニュ地方のコート・ダルモール県のガンガン(Guingamp)で,わずか1日ではあったが,在宅ケア活動の一端にふれる貴重な機会をもつことができた.
 まず,この訪問見学が実現することになった経緯を説明すると,勤務先の大学から「EU加盟諸国における看護教育改革の動向と課題」のテーマで交付された共同研究費(1998〜2000年)によって,この3年間主にフランスとドイツの関連施設をあちこちと訪問調査することになった.

報告

学校の管理下における自転車事故—死亡・後遺障害例からの検討

著者: 市川政雄 ,   丸井英二

ページ範囲:P.778 - P.782

 交通事故による死亡は学校の管理下における死亡のなかで最も多く,特に自転車乗用中に多発している.平成6〜8年度の3年間においては,登下校中の自転車事故による死亡は交通事故死全体の約4割を占め,後遺障害については9割以上を占めていた1〜3).このことは学校の管理下における交通事故対策のなかでも,特に自転車事故への取り組みの必要性を示唆するものである.
 交通事故総合分析センターによると,交通事故死傷者全体に占める自転車事故の割合は近年増加しつつある4,5).自転車事故による死傷者数の多い年齢階級は,高齢者とならび児童生徒に相当する年齢層が指摘されている4,5).この年齢層は「交通弱者」として考えられ,交通安全施策のなかで特に配慮されるべき集団である6).このことから,交通安全の強化を学校教育のなかで推進していくことの意義は大きく,全国的にも交通安全運動における自転車事故対策の重要性が増してきている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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