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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生65巻11号

2001年11月発行

雑誌目次

特集 青少年暴力・1

青少年暴力—統計から見た実像

著者: 前田雅英

ページ範囲:P.788 - P.792

 本稿では,少年犯罪に関する日本の公的統計を整理することにより,第二次世界大戦後の日本の青少年の暴力の問題を考える素材を提供したい.
 わが国においては,20歳未満の者には,少年法の適用がある(少年法2条).そして,少年法は「少年非行」として三つの類型を挙げている.1)14歳以上20歳未満の少年による刑罰法規に当たる行為(犯罪行為),2)刑罰法規に触れる行為だが14歳未満のために刑事責任を問われないもの(触法行為),3)刑罰法規に該当しない不良行為(ぐ犯)である.それぞれの類型に当たる少年を「犯罪少年」,「触法少年」,「ぐ犯少年」と呼ぶ.少年は,年齢により年少少年(14〜15歳),中間少年(16〜17歳),年長少年(18〜19歳)に分けて説明されることが多い.そしてそれ以下の年齢の者が犯罪を犯した場合は触法少年と呼ばれる(ぐ犯にはもちろん14歳未満も含まれる).そのほか,少年法の対象にはならないが,不良行為少年が警察の補導の対象とされている.

子どもたちを救えるか—ジャーナリストの立場から

著者: 朝野富三

ページ範囲:P.793 - P.796

 気になる数字がある.
 子どもの自殺者数の増加である.警察庁が把握している数字では,19歳以下の自殺者はこれまで年間400〜500人台で推移し,1997年は469人だった.それが98年は53%も増えて720人に跳ね上がった.最新データの99年を見ると,前年より少し減ったがそれでも97年比43%も多い674人にのぼっている.

実例にみる青少年暴力

著者: 小林正子

ページ範囲:P.797 - P.800

 警察庁生活安全局少年課が半期ごとに提出する「少年非行等の概要」1)によると,平成12年度および13年度上半期は,暴行,傷害,および恐喝などの粗暴犯の検挙人員が大きく増加し,非行の凶悪化,粗暴化の状況がうかがえるほか,社会を震憾させる特異・重大事件が相次いで発生し,覚せい剤乱用少年の検挙人員も増加に転じ,いじめに起因する事件の検挙・補導人員も増加するなど,予断を許さない状況にあるという.そして,そこに挙げられた少年犯罪の事例には,なぜ,どうして,と,とまどわざるを得ないような,いわゆる「キレた」という言葉でしか表現しようのない犯罪が多いことに改めて気付かされる.同レポートの犯罪事例および警視庁少年相談室の事例報告を基に,青少年の暴力行為について考えてみたい.

ひきこもりとそれに伴う暴力のケア

著者: 荒木均

ページ範囲:P.801 - P.804

 ひきこもりが社会問題となった理由は,1989年7月東京・埼玉幼女連続殺人事件,1997年5月神戸小学生・幼女殺傷事件,1999年8月愛知ストーカー殺人事件,1999年12月京都小学生殺人事件,2000年1月新潟少女監禁事件,2000年5月西鉄バスジャック事件などの事件に端を発している.これらの事件は,連日大きく報道され,社会の関心を集めた.
 事件の特徴は,いずれも,不登校,学校・職場脱落からひきこもり生活が続いていること,生活は家族,とりわけ母親に依存していること,その間に,空想,または幻想が肥大してそれが重大な犯罪行動に突出することなどで,小田はこのような事件は,従来の犯罪では理解しがたいものであるとし,「ひきこもり突発型」と表現している1)

児童相談所の窓口で

著者: 川﨑二三彦

ページ範囲:P.805 - P.808

支配
 あれは確か中学1年の夏だったと思う.放課後,それまで遊んでいた友人と別れ,ひとり運動場を歩いていたときのことだ.ふいに見知らぬ上級生から呼び止められてしまった.
「用があるから,ちょっと来い」

座談会 青少年暴力へのアプローチ・1

著者: 小林秀資 ,   南砂 ,   松崎一葉 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.809 - P.814

 岩室 最近,青少年の暴力問題の増加が,いろいろなところで言われています.それに対して社会全体がどのような対応をすればいいのかを考えたとき,特に公衆衛生の立場から,どういうことに取り組めばいいのかが見えていないのが現状だと思います.
 そこで,本日は国立公衆衛生院院長の小林秀資先生,筑波大学社会医学系講師で精神科医師の松崎一葉先生,読売新聞社の南砂先生に,今までの豊富な経験に基づいてお話をうかがいたいと思います.

視点

21世紀を「生命」の時代に—問われる女性たちの役割

著者: 阿部知子

ページ範囲:P.786 - P.787

二つの世界大戦に象徴される「戦いの20世紀」から学んだ人間の英知が,「平和の21世紀」を生み出すことを願わぬ人はいない.そしてそのためにも人類の半分を占める女性たちがもっと活躍できるよう社会の仕組みを変えていこうとする世界的潮流が存在する.ではわが国ではどうだろう?

連載 疫学 もう一度基礎から・23

疫学に必要な統計(5)—多変量解析—強力な武器,しかし安易な利用は要注意

著者: 中村好一

ページ範囲:P.816 - P.821

■ポイント■
 1.多変量解析は便利な解析手法だが,十分に理解した上で使用する必要がある.
 2.疫学でよく用いられる多変量解析は,重回帰分析,ロジスティック・モデル,コックスの比例ハザード・モデル,ポアソン回帰分析である.

機能訓練事業の危機・2

介護保険に揺らぐ機能訓練事業をなんとかしよう—保健所の立場から

著者: 柳尚夫

ページ範囲:P.822 - P.825

 平成12年より全国の市町村が,厚生省の通知により,介護保険で要支援以上の認定を受けた住民を老人保健法による機能訓練の対象から外しつつある.このことは,機能訓練事業(以下,本事業)の運営主体である市町村や利用者の間で,混乱を呼び起こしている.
 介護保険導入で,サービスの選択利用ができるはずが,国の「同種のサービスの重複利用はまかりならん」という考え方と本来の地域リハビリテーション(以下,地域リハ)への理解不足が,このような通知の形となり,地域を混乱に陥れている.そのマイナスの影響が,脳卒中後遺症者の社会的リハビリテーションの分野で徐々に出てきている.市町村を支援し,「地域リハ支援体制整備推進事業」を展開することで,地域リハシステムを構築するべき保健所の立場から,問題を整理し,今後の本事業のあり方について述べる.

各国の目標管理型健康政策・3

オーストラリアの健康政策

著者: 山上孝司

ページ範囲:P.826 - P.831

 オーストラリアは18世紀末にイギリスからの移民が入植し,以後ヨーロッパ,西南アジア,東アジアから移民が次々に流入するという歴史を持ち,先住民のアボリジニーを除けば歴史が新しい多民族国家である.また国内は六つの州と二つの準州に分かれ,内政はほとんど州政府が管轄する合衆国である.このような特徴により日本には見られない様々な健康に関する問題をかかえている反面,先例にとらわれない新しい考え,施策が健康に関する分野でも次々に実施される背景となっている.
 オーストラリアは歴史が新しく多民族国家であるという点ではアメリカ合衆国と似ているが,健康政策に関してはそのターゲットを個人だけでなく個人を取り巻く環境にも多く当てるという点で,米国と異なっている.したがってWHOが1986年にオタワで宣言したヘルス・プロモーションの考え方がこの国ではかなり浸透してきているように思われる.

海外レポート 英国・オックスフォード市における在宅難病患者の地域リハビリテーションサービス・8

症例からみた地域ケア・サービスの実際

著者: 長野聖

ページ範囲:P.832 - P.834

 オックスフォード市の訪問理学療法サービスで実施されている訪問理学療法士の訪問件数は,1カ月で平均18件である.その対象疾患は,多発性硬化症,脳卒中,変形性関節症,脊髄損傷,頭部外傷,腰痛症,慢性関節リウマチ,パーキンソン病などである.このうちわが国で「特定疾患」として扱われ,イギリスにおいて有病率が比較的高い神経筋疾患である多発性硬化症の4症例を紹介するとともに,前回に引き続き障害度の評価の問題点について述べたい.

公衆衛生院からの発信・22

国際研修

著者: 兵井伸行

ページ範囲:P.835 - P.837

国際研修の必要性とその背景
 国際化の進展の中でわが国の国際貢献に対する内外の関心は高く,特に保健医療分野の人づくりにおける協力への期待は大きい.保健医療分野の人的資源開発に関する考え方には,歴史的にみて第二次大戦後それぞれ互いに重なり合う8段階の発展が考えられる(表1).また,最近では,保健医療改革(health sector reform)を中心とした財政やマネジメントを重視した人材養成が特に注目を集めており,第9段階とも呼べる.
 このように人的資源開発に関する基本的政策に変化は見られるものの,適切な人材養成に関する政策形成,人材養成の組織・体制づくり,人材養成における優先順位の設定,国内外の関係機関・関係者とのネットワークづくり,調査研究や諸機関の育成強化などへの財政的・人的な支援,モニタリング・評価,などは人的資源開発に共通した重要課題といえる.

地域保健関連法規とその解釈・11

老人保健法

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.838 - P.839

 わが国は世界でも類まれな速度で急速に人口の高齢化が進行し,2000年(平成12)現在で高齢化率は17.2%にも達している.65歳以上の人口層が全人口に占める割合が7%を超えた社会が高齢化に足を踏み入れた社会であるといわれている.わが国は1970年(昭和45)頃に既にこの水準に達し,高齢化率が倍の14%に至るまでわずか25年程度しか要していない.北欧を中心とするヨーロッパ諸国の2〜3倍のスピードで高齢化が進行してきたことはわが国が諸外国に比し,数倍の速さで高齢社会に対処する社会体制を確立させることが求められていることを意味している.地域保健と老人保健法との関係について解説したい.
 わが国人口の高齢化に関する指標を経時的に図1に示している.人口の高齢化は昭和30年代後半には既に始まり,有史以来の人口転換(demographic transition)を迎えたのである.また,この時期は都市部の過密化と地方の過疎化,感染症から成人病へ,高度経済成長などの社会構造の転換の時期ともほぼ符合している.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 青森県五所川原保健所

精神障害者に対する交通運賃割引制度の実現

著者: 寺島豊美 ,   安武繁

ページ範囲:P.840 - P.841

 それはひょんな偶然から始まった.平成11年の秋,五所川原保健所管内の精神障害者が津軽一円に路線をもつ弘南バスの弘前バスセンターで保健福祉手帳を示し,運賃を割引してほしいと要求した.手帳には写真を貼っていないため本人確認できないので,たまたまもっていた運転免許証で確認をして割引を受けたのである.
 バスセンターの窓口では,身体障害者や知的障害者とは異なり,精神障害者については割引制度が適用されないことを知らなかったかもしれないし,また,知っていながら割引をしたのかもしれない.

公衆衛生のControversy 結核における予防内服は有用か

結核対策における化学予防は有用であり,その重要性は高まってきている/結核における予防内服は有用か

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.842 - P.843

結核化学予防の位置づけ
 わが国では1954年に千葉保之のPASを使った試みに,米国では同時期にLincolnによってINHを使った実践に始まる.米国では結核予防対策としてBCG接種が採用されず,化学予防に大きく依存する体系になっているため,化学予防に関する多くの研究が行われ,広く実施されている.わが国では1957年から「乳幼児で結核感染が明らかな者」に対しINHによる単独治療法を結核予防法第34条で認めたことで対策の手段となり,適応年齢は1975年に中学生,1989年に29歳未満に引き上げられ,拡大してきている.

活動レポート

虐待サバイバーとソーシャルワーク—保健所での実践事例を通して

著者: 山本耕平

ページ範囲:P.844 - P.848

 本稿では,和歌山市保健所が展開してきた虐待ケースへのアプローチを報告するとともに,今後の課題について考察する.和歌山市保健所で継続した虐待サバイバーへの援助が行われるようになったのは,1994年に和歌山被虐待児症候群対策委員会(医療,行政,福祉,教育などの各分野の専門職メンバーによって構成)が形成される少し前からである.ただ,当初は,精神保健福祉相談や発達相談で発見されたケースに個別に対応するにすぎなかった.1997年,精神保健福祉班に専任保健婦が配属され,各保健センターや県子どもセンターとのコーディネートが確実に行われるようになり系統的なケアとなってきた.さらに,1998年からは,「嗜癖問題を抱える家族の集い」が行われるようになり,ここに参加するメンバーにサバイバーが多く,サバイバーの集団ケアが行われるようになった.

報告

腸管出血性大腸菌感染症O 26集団発生について

著者: 駒井惠美子

ページ範囲:P.849 - P.853

 近年,腸管出血性大腸菌感染症の集団発生や散発例が増え,無症状病原体保有者(以下,健康保菌者)の報告も多くみられる.腸管出血性大腸菌感染症に対する抗菌薬投与の是非については議論1)のあるところであるが,一般には厚生省のマニュアル2)に従うことが多く,マニュアルには健康保菌者にも2次感染防止のために3日間の抗菌薬投与もあるとしている.しかし,乳幼児への抗菌薬投与は,常在細菌叢のバランスを崩して菌交代症が起こることもある.平成11年7月,札幌市の同一敷地内にあるA保育園(在籍園児129名,一時保育児6名,計135名,職員18名),B保育園(在籍園児36名,職員17名)の2施設で腸管出血性大腸菌感染症O 26「ベロ毒素2型(VT2)産生性,以下,O 26感染症」の集団発生3)があった.今回の集団発生の経験をもとに,症状の有無による抗菌薬投与と菌陰性化日数との関連を調査したので,その結果を報告する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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