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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生65巻12号

2001年12月発行

雑誌目次

特集 青少年暴力・2

栄養と遺伝子と非行

著者: 香川靖雄

ページ範囲:P.860 - P.862

 非行の原因には遺伝要因と環境・心理要因がある.特に栄養と遺伝子は多くの病態の原因であるが,ここでは非行を栄養と遺伝子の新しい視点から解説する.栄養素は遺伝子産物である諸酵素,諸受容体などを介して脳の活動を維持するので,遺伝子病に伴う精神障害の多くが食事療法の対象である.重篤な精神疾患が栄養素欠乏症(例えばペラグラの精神錯乱)で起こり,また単一遺伝子病についてもLesch-Nayhan症候群の自傷行為などが確立されている.しかしこれらの症例数は少なく,非行に栄養素摂取と遺伝子多型がどれだけ寄与しているかは長期間の十分な無作為化対照試験で検証しなければならない1).同じ教育・社会環境でも暴力事件は特定の青少年に限られる原因は客観的根拠から解明すべきである.栄養と遺伝子の異常は筆者の専門とする生化学分析で客観的に評価できるが,非行の誘因となる攻撃性尺度はBuss & Perryの質問紙などで部分的に客観化できる.極端な早期非行に遺伝的要因が大きいことは一卵性双生児調査によって示されている2).また注意欠陥/多動障害(ADHD)3)をはじめ,性格関連の遺伝子も報告されている.警察庁の「少年非行の概要」によると非行頻度は1951,1964,1983年のピークがあり,現在は第4のピークを形成しつつある4)

よく遊びお手伝いもよくしている子はキレにくい

著者: 佐野勝徳 ,   長谷川千寿 ,   佐野敦子

ページ範囲:P.863 - P.866

 「日本の子どもが危ない」,そんな状況が続いている.1997年5月の神戸児童連続殺傷事件,翌年1月の女性教師刺殺事件以来,「キレる」少年による凶悪事件が後を絶たない.小学校低学年から始まった学級崩壊や中学生の校内暴力も深刻である.こうした事件や問題が発生するたびに,「あんなよい子が」とか「どこにでもいる普通の子が…,信じられない」と報道される.「事件のなかの子どもたちは,学校のなかの暴力行為や学級崩壊現象のなかの子どもたちと本質においてあまり変わらない.問題のない子どもたちも,学校のなかでの暴力行為や学級崩壊の中心になっている子どもたちと大きな違いがない」1)といわれているほどである.
 なぜ「普通の子」や「よい子」が,簡単にキレて,衝動的な事件を起こすのだろうか.学級崩壊などの発生原因はどこにあるのだろうか.子どもは昔と変わってしまったのだろうか.筆者らは,そんな疑問をいだきながら,数年前から調査研究を実施してきた.以下は,小学生を対象とした調査結果の概要である.なお,中学生についても類似の調査を実施しているので,その結果の一部を含めることにする2,3)

精神保健福祉センターが取り組む青少年のメンタルヘルス・ケア—暴力との関連について

著者: 近藤直司

ページ範囲:P.867 - P.870

 近年,思春期・青年期にみられる病理現象の一つとして,暴力や非行,反社会性の問題がクローズアップされている.本稿では,精神保健相談において,親から相談を受けることが多い家庭内暴力と,学校からコンサルテーションを求められる機会の多い対教師暴力について,そのメカニズムと援助方針,危機介入の法的根拠について述べる.さらに青少年暴力の予防的観点として,乳幼児期から学童期の問題行動に注目した早期支援について,いくつかのポイントを示したいと思う.

暴力に走る少年—スクールカウンセラーの立場から

著者: 碓井真史

ページ範囲:P.871 - P.873

スクールカウンセラーとは
 スクールカウンセラーは,1995年度から文部省(現文部科学省)の調査研究委託事業としてスタート,2001年度より正式に制度化し,現在全国で3,750校に派遣されている.文部科学省は,5年以内に全国の中学校に派遣する計画である.公立学校に外部から専門家を入れるスクールカウンセラー制度は,戦後最大の教育改革ともいわれ,この外部性と専門性が特徴である.

暴力防止のネットワークづくり

著者: 坂本昇一

ページ範囲:P.874 - P.877

近年の新たな問題行動
 暴力行為の場合,暴力を振るう理由が,必ずしも被害者とのそれまでの人間関係によるものでなく,加害者がそのときの感情をコントロールすることができないまま,暴力に及ぶことが多い.その場の自分の感情や利害から過剰な反応をして,結果が殺人になることがある.
 集団での暴力行為では,一人ひとりはおとなしい少年であるが,互いの興奮が異常な状態をもたらし,自制心をなくしてしまう.

アメリカにおける青少年暴力に関する—1999年Surgeon General(公衆衛生長官)の報告書から—公衆衛生アプローチの重要性

著者: 三砂ちづる

ページ範囲:P.878 - P.883

 アメリカの青少年暴力に関する研究報告を紹介するこの論文を,世界中を震撼させたアメリカへの連続多発テロ事件のあとに書いている.「人間が憎しみや怒りをこれほど徹底した周到さと冷酷さをもって,卑劣で残酷で破壊的な行動に結びつけることができることを目の当たりにして,何をどう考えてよいのか自分の足元が大きく揺らぐのを感じざるを得ません.これから“報復の正義”という名の暴力のために,さらに人命と問題解決への糸口が失われてゆくのを,私たちは座視しなければいけないのでしょうか? 憎しみを生み育てる環境は,貧困や人権抑圧という栄養素を得て拡大しているのですから,テロの脅威を力によって解決することは不可能だと思います.“国際協力とは何か”が本当に問われていると思います」と国際保健医療協力に携わる友人は書いてきた.
 これは,わたしたち公衆衛生にかかわるすべてのものにとっても,変わることのないメッセージである.どのように人は生まれるべきか,どのように育てられるべきか,どのように人と関係を持ち,どのように死んでいくのか.短期的な死亡率が低くなり,病気の罹患率が下がればよい,ということだけではなく,どのようにこころの安らかさを得られるような生活を営んでいけるか,という問いに答えることが,直接に個人的暴力,組織的暴力を減らすことであるに違いない.今回取り上げるアメリカの報告書は,そのような問いに誠実に答えようとした,アメリカにおける研究成果の集大成である.

<座談会>青少年暴力へのアプローチ・2

著者: 小林秀資 ,   南砂 ,   松崎一葉 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.884 - P.890

「悪平等」の弊害
 岩室 その大人たちを直すというところも非常に重要かと思いますが,社会全般を,というとなかなか視点が絞りきれません.今日のテーマが青少年と暴力ですので,青少年にかかわっている分野の中で,一例として学校教育の中にどのような問題点があるのかをご指摘いただければと思います.どういう教育をすれば,今,暴力に走るかもしれない,あるいは実際走っている子どもたちを少し引っ張り戻せるのかということに関して,南さんは何か具体的なお考えがありますか.
 南 最近の青少年の暴力,事件の中で,報道されていることをもとに言うと,学校生活の中でのいじめとか,仲間外れとかの被害者であった人が,加害者になっている事例は非常に目立ちますし,多いですね.そこで,また先ほどの話になるのですが,自分が被害を受けたことが,トラウマとなり,それが原因となって社会や学校に対する漠然たる復讐の念になる,といった事例が最近目立ったと思います.ではそうならないためには,学校教育で何かできるのか.校内での差別やいじめを生まないため,として最近はかなり過剰な悪平等の風潮が生まれています.競争や優劣をつけるものは一切だめだと,徒競走は手をつないでゴールイン,といった変な悪平等の温床を作っているのが気になります.今,異年齢遊びというのがなくなっています.同年齢だけで遊んでいると,競争とか対抗といったことしかなくなってしまいます.同年齢では,負けた人は悔しいし,またいつかやり返そうみたいな関係になってしまいます.

視点

公衆衛生は大事だ

著者: 森川薫

ページ範囲:P.858 - P.859

 私どもの摂津市(14.87km2,85,355人)は,大阪府北部の準工業地域にあり,本年市制35周年を迎える若い市でございますが,「公衆衛生」誌の編集委員でロンドン王立内科医学会特別会員ならびに公衆衛生医学部会特別会員の資格を持たれます大阪大学多田羅教授に,本市市民の皆様の健康づくりのかじ取り役という大変重要な役割を担っていただいております.
 多田羅教授には,本市の保健福祉施策の核ともいえる市民総合健診の体制の確立ならびに分析・評価を皮切りに,老人保健福祉計画の策定や介護保険制度におきましても,準備期から参画いただくとともに,今後の本市高齢者施策の柱となるべく老人保健福祉計画と介護保険事業計画を一体的なものとした「せっつ高齢者かがやきプラン」の策定にも多大なご尽力をいただきました.

連載 疫学 もう一度基礎から・24

疫学と倫理—避けて通ることのできない課題

著者: 中村好一

ページ範囲:P.891 - P.895

■ポイント■
 1.疫学研究を倫理的に進めるポイントとして,真理追究,人権尊重,適切な方法,社会規範の遵守,研究の公開,の5項目があげられる.
 2.プライバシーの権利とは,自分の情報についての自己決定権である.

各国の目標管理型健康政策・4

ターゲットを用いた公衆衛生政策—イングランドの事例検討

著者: 近藤正英

ページ範囲:P.896 - P.903

 わが国では,国民の健康水準の目標を定めた「健康日本21」1)が策定され,ターゲットを用いた公衆衛生政策が注目されてきている.本稿では,ターゲットを用いた国のレベルでの公衆衛生政策としてはヨーロッパにおいて最も包括的に取り組まれてきている2)イングランドの事例を検討する.以下では,まず,ターゲットを用いた公衆衛生政策の理論と背景を簡単にレビューし,続いて,イングランドの事例である「Health of the Nation」(HOTN)3)と「Our Healthier Nation」(OHN)4)の政策内容および実施過程を記述し,最後に,HOTNの経験がどのようにOHNに反映されたかを理論的に検討する.

海外レポート 英国・オックスフォード市における在宅難病患者の地域リハビリテーションサービス・9

専門職の役割とチーム・ケア

著者: 長野聖

ページ範囲:P.904 - P.905

地域リハに携わる専門職のマンパワー
 これまで報告したように,地域リハビリテーションにかかわる専門職である理学療法士,作業療法士の役割について,日本とイギリス両国間で各々の職種名は同じでも役割は非常に異なり,細分化されている印象を受けた.
 日本では理学療法士が在宅患者の訪問を行った場合,移動動作などADL評価のみならず家屋改造に関する評価も行い,さらに患者やその家族に対する指導を行うことが多い.しかし,これらの業務は作業療法士が実施する場合もあり,地域ケアにかかわる理学療法士,作業療法士の役割が必ずしも明確ではない.一方,イギリスでは訪問理学療法は訪問理学療法士(domiciliary physiotherapist)が行い,その業務内容は主に移動に関する評価,アドバイスである.家屋改造に関連するADL評価はソーシャル・サービス作業療法士が実施している.

地域保健関連法規とその解釈・12

感染症新法

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.906 - P.907

 1998年(平成10)に伝染病予防法が改正され,「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下,感染症新法)」ができたが,この改正は実に101年ぶりの全面改正であった.医学の進歩や抗生物質の普及により人類が感染症を克服できるよう思われたが,エイズ,新型クロイツフェルト・ヤコブ病,エボラ出血熱などの新たな感染症に加え,結核や耐性を有した旧来の病原微生物による感染症などの問題や人権にも配慮しながら対処することを目指した内容である.

公衆衛生院からの発信・23

遠隔教育の試み

著者: 丹後俊郎

ページ範囲:P.908 - P.909

 国立公衆衛生院では平成10年度の補正予算により平成11年度から13年度まで遠隔教育(Distance Learning)を試行している.平成14年度からはこれまでの試行の経験を生かして国立公衆衛生院での正規の教育システムの一要素として展開される.本報告はその紹介である.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 青森県五所川原保健所

地域保健医療推進協議会の活性化

著者: 寺島豊美 ,   岡田尚久

ページ範囲:P.910 - P.911

 2次保健医療圏ごとに設置されている地域保健医療推進協議会(以下,協議会)の活動が低調だという.だから保健所が事務局をもつ他の組織と統合しようという動きがわが青森県で今検討されている.ご存じのように協議会は地域保健医療計画の試案を作成し,その推進を図るためにつくられている組織である.だが,たいていのところでそうであるように,計画を作ってしまえば一段落となってしまう.
 青森県の日本海側の2次保健医療圏である西北五地域の協議会は,平成11年度に県計画と合わせて地域計画を作成した.

公衆衛生のControversy

健康食品は有効か

著者: 成瀬道彦 ,   梶本雅俊

ページ範囲:P.912 - P.913

西洋医学の抱える課題・撞着
 現代医療は,手術薬物療法を含めて,がん,心脳血管病,糖尿病,肝臓病,膠原病などすべての疾病の所見症状(腫瘍,変性物,苦痛,痛み,腫れ,発熱など)を除くという対症療法に主眼があり,そのものを根源から治すものではない.西洋医学は,いったん老化した細胞組織臓器はもう戻ることはない,という「不可逆性の概念」に支配されている.人体は受精卵から60兆個の細胞に分かれ,皮膚,リンパ球などの各種血球,神経細胞,血管壁,心筋細胞,膵臓のランゲルハンス細胞,肝細胞など,およそ数百種類に分類される細胞組織臓器から成り立っているが,健康補助食品療法は,それらに必要十分な量の食物が供給されればよい,という至って単純な考えである.言い換えれば,各種機能を有する細胞は超微細な化学工場であり,50種類くらいのビタミン,80種類くらいのミネラル,不飽和脂肪酸,活性酵素などが供給されれば,遺伝子のシステムで老化変性した細胞は正常化に向かうと推論できる.これが食効といわれるもので,「可逆性の概念」の導入が必要になる.いわゆる薬品ではこのような効果は期待できない.自然治癒力は,今の栄養学でいわれる1日30品目の摂取では,疾病の予防までであり,疾病治療,すなわち細胞の老化変性の修復再生に必要な材料は補填されないと推論できる.

機能訓練事業の危機・3

介護保険下における機能訓練事業の意義—大東市の実践

著者: 山本和儀

ページ範囲:P.914 - P.918

 介護保険制度が導入され,高齢者を中心とする保険・医療・福祉サービスのあり様は大きく変化した.その結果,利用者はもちろんのこと,サービス提供者間においても依然混乱が生じている.特に保健サービスは,介護保険制度を補完するものとして位置付けられる必要があるが,その一部は介護保険制度に踏襲されようとしている.
 その最たるものとして,機能訓練事業,訪問指導事業が挙げられる.これらの事業は老人保健法制定以来,地域リハビリテーション活動(以下,地域リハ)を推進する大きな原動力となっていたものであり,介護保険制度導入に伴い,より意義ある事業ということができる.しかしながら,多くの市町村では国の指導により事業が縮小傾向にある.このことは,事業自体が国庫補助事業であり,かつ地方財源の脆弱性,さらには市町村の事業に対する明確な指針がないことなどと相まった結果と言わざるを得ない.

活動レポート

高齢者の自立生活延伸を目指した包括的ケア—五色町における「寝たきり予防」事業の概要

著者: 松浦尊麿

ページ範囲:P.919 - P.924

事業推進の背景
 人口の高齢化が進行するわが国にあって,五色町は平成12年度,人口の26.0%が65歳以上となり,特に後期高齢者といわれる75歳以上の割合が12.1%と高く,65歳以上人口の46.6%を占め,今まさに超高齢社会が具現している.また,若者の島外への流出により高齢者単独世帯,高齢者夫婦世帯はそれぞれ,全世帯の9.2%,12.6%と増加している.したがって,要介護者を対象としたケアのみならず,自立高齢者の要介護移行予防が重要な課題となっている.
 平成12年4月から開始された介護保険制度の運用に当たって,介護保険事業計画で地域づくりの視点を含めて五色町の目標を定めた.すなわち,健康で共に支え合う心豊かな高齢社会の実現を目指し,図1に示すように当面の具体的目標を「保険料負担の低減」と「サービスの充実」とし,そこに至る実践課題を以下のように据えた.

報告

施設入所高齢者の日常生活活動(ADL)とその変化

著者: 穐山尚子 ,   穐山憲 ,   竹内孝仁

ページ範囲:P.925 - P.928

 少子高齢化とともに要介護老人の増加は深刻な社会問題となっており,介護保険制度の導入に際し高齢者の日常生活活動(以下,ADL)とそれを支える介護が注目された.在宅あるいは施設高齢者のADLに関する既存の研究において,要介護者の増加1〜3)とADL低下に対する痴呆の影響4)が報告されている.一方,痴呆高齢者におけるADLの低下と死亡率の関連も報告されている5)
 特別養護老人ホーム入所高齢者は知能を含む身体機能や日常の生活能力のみならず,経済や介護状況などの社会環境にも問題を有する脆弱な高齢者といえる.このような既に介護を受けている高齢者が大多数を占める集団を対象としたADL研究は,維持・改善を目的とした検討というよりADL低下の様態の検討といえる.われわれは施設入所高齢者におけるADLの低下に着目して3年間追跡調査し,年齢と知能レベルの影響,さらに死亡率の検討を行った.

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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