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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生65巻2号

2001年02月発行

雑誌目次

特集 公衆栄養のトピックス

現代における公衆栄養学の課題

著者: 田中平三

ページ範囲:P.84 - P.92

栄養学
 人間栄養とは,人間が食品を摂取し,これを利用し,そして排出する過程である.個体レベルでみると,人間が生まれ,成長し,健康な状態で生命を維持し,さらに生殖するために営んでいる過程である.ミクロ的にみると,食品を栄養素に分解し,臓器や組織が正常な形態を保持し,正常な機能を営めるようにしているし,また,エネルギーを産生し利用している.ここでいう“過程”は,生命現象と言い換えることもできる.要素は,食料,食品,栄養素である.
 人間の生命現象を研究する分野は医学であり,食料,食品,栄養素を研究する分野は食品科学(広義)である.栄養学は,医学と食品科学とが融合し,特化した科学といえよう.

健康日本21と公衆栄養

著者: 小林章雄 ,   酒井映子

ページ範囲:P.93 - P.100

 健康日本21は,すべての国民が健康で明るく元気に生活できる社会の実現を図るため,壮年死亡の減少,健康寿命の延伸を目標とした新しい国民健康づくり運動である.健康日本21の展開は,国が2000年から2010年(平成12年から平成22年)までの期間を決めて九つの分野で目標を設定し,地方では独自の計画を策定,周知し,情報や活動によって生活習慣の改善を支援する形となる.
 栄養・食生活はこうした九つの分野のうちの一つではあるが,多くの生活習慣病との関連が深く,また,生活の質との関連も深いものである.そこで,目標の設定に際しては,健康・栄養状態の是正を図るとともに,国民すべてが良好な食生活を実践できる力を十分に育み,発揮できるような平等な機会と資源を確保することを目的とし,1)「栄養状態」をより良くするための「適正な栄養素(食物)摂取」のレベル,2)適正な栄養素(食物)摂取のための「行動変容」のレベル,3)個人の行動変容を支援するための「環境づくり」のレベルの三つの段階に分けて具体的な目標値が設定されている.全体で14項目からなる目標値のまとめを表1に示し,以下,これらの公衆栄養学的意義について述べる.

食環境づくりとしてのまちづくり

著者: 田中久子

ページ範囲:P.101 - P.106

 地域栄養活動における食環境づくりの重要性は,近年では2000年3月に公表された「健康日本21」の各論である“栄養・食生活”の分野に色濃く示されている1)
 「健康日本21」の理念は,1986年,WHOのオタワ憲章で示されたヘルスプロモーションに基づいているが,ヘルスプロモーションにおいては,活動の方法論の一つとして“健康を支援するための環境づくり”が提示されている2)

地域における公衆栄養活動—外食栄養成分表示への取り組み

著者: 布施憲子 ,   井元浩平

ページ範囲:P.107 - P.110

 近年,食生活の中で外食の占める割合が大きくなっている.
 平成10年の国民栄養調査では,昼食の外食率は,20〜30歳代の男性で3人に2人,20歳代女性で2人に1人が昼食を外食で済ませている.東京都の調査でも,男女別,食事区分別にみた外食の状況は,図1のとおりであり,昼食において全体の47.5%,特に男性では54.4%が外食を利用している.ライフステージ別健康栄養調査結果においても,中食(中食とは持ち帰り弁当,市販の惣菜などを利用した食事をいう)の利用も含めた昼食の内容は男性の25〜44歳で8割以上の人が外食,中食を利用している.

ヘルスプロモーションと公衆栄養—公衆栄養分野における食環境整備の重要性と今後の課題

著者: 武見ゆかり

ページ範囲:P.111 - P.117

ヘルスプロモーションにおける環境整備の重要性
 1986年,WHOがオタワ憲章の中で提唱したヘルスプロモーションの概念は,それまでの医学的アプローチ,すなわち疾病予防のために個人や集団の行動変容,より健康的なライフスタイルの形成を図ることに強調点が置かれるアプローチを超え,社会科学的なアプローチを全面に出し,総合的な健康政策を目指したものとして,公衆衛生分野に大きなパラダイムシフトをもたらしたとされる1)
 オタワ憲章の中で,ヘルスプロモーションは次のように定義されている.

視点

公衆衛生従事者よ,科学の進歩に遅れるな

著者: 小林秀資

ページ範囲:P.82 - P.83

 厚生省は平成9年に「成人病」の呼称を「生活習慣病」に変えましたが,病気をなくそうという壮大な理念は昔からありました.そして,慢性病のマネジメントの重要性もさることながら,予防という考え方が21世紀に引き継がれたのです.
 これが20世紀から21世紀への保健医療の大きな流れですが,この流れに後れないために,公衆衛生従事者はどのように研鑽すべきでしょうか.

連載 あなたにもできる調査研究—事例をもとに・11

難病対策に関する調査研究

著者: 村上茂樹

ページ範囲:P.119 - P.123

 難病対策がスタートしたのは,昭和42年から43年にかけてスモンが全国的規模で多発し社会問題となったことが契機となっている.昭和47年には厚生省に特定疾患対策室が設けられ,「難病対策要綱」が定められた.
 今日では.
1)原因不明,治療法未確立であり,かつ,後遺症を残すおそれが少なくない疾病

疫学 もう一度基礎から・14

偏りと交絡(4)—標準化—直接法と間接法を使い分ける

著者: 中村好一

ページ範囲:P.124 - P.129

■ポイント■
 1.年齢という交絡因子の解析段階における制御方法として,まず第1に考えるのは年齢(階級)別観察である.
 2.これが不可能なときに年齢調整を行う.

「健康日本21」と自治体・11

糖尿病—生活習慣病としての重要性と対策

著者: 日高秀樹

ページ範囲:P.130 - P.133

糖尿病とは
 糖尿病は膵臓から分泌されるインスリンの作用不足による代謝異常であり,血中ブドウ糖濃度(血糖値)の増加が特徴であり,診断の根拠でもある.また,糖尿病は血糖値の高いままに長期間放置すると慢性の合併症を引き起こす.これらの合併症の終末像には,糖尿病に特異的な小さな血管の障害(細少血管障害)である網膜症による失明,腎症による血液透析が必要な腎不全,神経障害による知覚障害・インポテンツ・下肢の切断などがある.また,全身の動脈硬化症を促進して大血管障害といわれる狭心症・心筋梗塞・脳卒中などの発症・死亡を2〜8倍増加させる1)
 糖尿病は,1)1型糖尿病,2)2型糖尿病,3)その他,4)妊娠糖尿病の四つに分類される.発病初期から著しい喉の渇き・多尿・体重減少などの激烈な症状を示してインスリンの注射なしには生命の維持が困難な1型糖尿病は極めて深刻な疾患である.一方,多くの場合自覚症状がなく発病時期すら明らかでない2型糖尿病がわが国の糖尿病の大多数(90%以上)である.「その他」に分類される糖尿病は病因の明らかなものであり,遺伝子異常までも明らかとされたものも多いが絶対数はわずかである.

地域保健関連法規とその解釈・2

戦後の新保健所法と地域保健

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.140 - P.141

 戦争により国土は荒廃し,保健医療福祉関係の物的・人的資源も甚大な被害を被った.戦後,社会制度が一新され,地域保健も結核などの感染症,引き上げ者や戦災で死亡した者の影響による人口構成のアンバランス,母子保健,さらに環境衛生などの新たな公衆衛生上の問題を抱える中,地域保健活動は新憲法の公布に伴い改正された保健所法(以下,新保健所法)に基づく新しい指導原理のもとで再出発したが,その斬新な内容も時代の急激な流れに遅れをとり,数々の矛盾を露呈するようになってきた.

公衆衛生院からの発信・13

特別課程ヘルスプロモーションコース

著者: 石井敏弘

ページ範囲:P.142 - P.143

コースの趣旨および特徴
 ヘルスプロモーションとは,世界保健機関によりオタワ憲章において定義された「人々が自らの健康をコントロールし,改善することができるようにするプロセス」である.21世紀において日本に住む一人ひとりの健康を実現するための国民健康づくり運動として平成12年度に開始された「健康日本21」においても,ヘルスプロモーションは重要な礎となっている.
 先進国を中心に新しい公衆衛生として注目されるヘルスプロモーションを推進するため平成11年度に新設された本コースは,わが国の地方公共団体職員が主要な受講者であること,地域保健法や地方分権一括法の施行など分権時代の到来したことを踏まえて,ヘルスプロモーションに視座を置いた地方公共団体における健康政策の開発が主要課題である.すなわち「健康づくりに係るニーズを生活者の観点から政策化・施策化する」,「政策形成,環境づくりから対人サービスまで包括的に問題解決の方策を講ずる」ための能力養成を図るところに,本コースの特徴がある.「何をするか(どんな事業を実施するか)」を行政側が決定し,その事業への住民参加を目指した従来の「見かけの住民主体」とは一線を画する.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 石川県石川中央保健福祉センター

職域における結核対策への支援

著者: 松本美紀 ,   多田有希

ページ範囲:P.144 - P.145

 職域保健との連携の糸口を見つけるために,管内の職場健診結果の収集分析を行った.
 労働基準監督署から手に入れた職場健診の結果では,胸部X線検査の有所見率が小規模事業所において,やや高い傾向にあるので,過去5年間の石川県と全国の結核サーベイランスのデータを調べた.その結果,職場健診で発見された結核患者のうち,排菌ありとして発見される割合が,当県は全国よりやや高いことがわかった.そこで,ケースの中に発病予防可能例(要精検の受診の遅れや放置など)が含まれているのではないかと考え,管内の結核患者を平成6年まで,5年間遡って調べた.

公衆衛生のControversy WTOの議定書にヘルスセクターを入れるべきか

日本医療システムとWTO/グローバル化は挑戦の機会

著者: 高原亮治

ページ範囲:P.146 - P.147

医療サービスの国際交易は現存する
 医療サービスの国際貿易は既に存在しているという認識から,われわれは出発しなければならないのではなかろうか.医療の国際貿易とは,「外国系の病院チェーンが日本分院を開設する」といったレベルで存在するのではない.医療という行為は問診,検査,診断というように情報の処理,分析,決断であり,画像情報は今後ますますデジタル情報として,収集・処理されるであろうし,医療施設内のLANを介し,なんらかの形で世界につながっている.

海外レポート ニューヨーク州保健省の日常・14

在米日本人の糖尿病リスク

著者: ホスラー晃子

ページ範囲:P.148 - P.150

 バブル経済の時代に比べるとややその数が減ったとはいえ,ニューヨーク州内に在住する日本人は,約3万人と概算されている.その多くは企業の駐在員とその家族や留学生で,20代から50代の割合が他の世代に比べて多い.地理上の分布をみると,ニューヨーク市とその周辺に日本人人口が集中しているのがわかるが,州の北部や西部でも,都市や大学のある町を中心に,日本人の浸透が見られる.ところで公衆衛生に従事する筆者としては,こうしたアメリカに暮らす日本人の健康状態はどのようなものであろうか,という素朴な疑問がうかんでくる.ご存じのように,アメリカは車社会で日頃の運動量が減るうえに,高脂,高カロリーの食品が蔓延する,健康的とはいいにくい環境である.その上,異国で暮らすストレス,家族や親戚からのサポートの欠如,不十分な医療保険制度の弊害などを掛け合わすと,健康の維持に問題があってもおかしくはない.
 こんな心配をするのは単なる老婆心からだけではなく,過去の研究の裏付けも存在する.特に筆者の専門の糖尿病の分野では,海外移住による環境の変化が,日本人の糖尿病の罹患を押し上げる,ということがよく知られている.元来日本人の糖尿病有病率は,国際的に見て非常に低いほうであった.特に食料難で粗食が常であった戦後の一時期などは,糖尿病とは無縁な日本人がほとんどであったようである.

福祉21茅野 住民参加の地域ケアシステム・2

茅野市型の地域ケアシステム・1

著者: 高木宏明

ページ範囲:P.151 - P.154

「茅野市の21世紀の福祉を創る会」
 1996年3月のある夜,市庁舎内の一室に私はいました.周りには大勢の地域の人たち.今となってはすっかり顔なじみの,時には気の合った者同士で飲みに行ったり,そこでまた議論を戦わせたり,そんな仲間となりましたが,当時は私にとっては知っている人はむしろ少ない,そんな年齢も立場・所属も異なる大勢の人たちの中に私はいました.
 その日「茅野市の21世紀の福祉を創る会」(通称:福祉21茅野)は発足しました.集まったのは市内の保健・医療・福祉の関係者,学校関係者,公民館活動を担う方々,民生児童委員,それに家庭で実際介護をされている方,障害を持った若者,ボランティアなど.これらの地域の住民が,12の専門部会・委員会に分かれてその後4年にわたり,今後の茅野市における地域福祉,地域のケアシステムの方向性,住民の活動のあり方などを検討することになります.事務局は行政内保健福祉部に設置された「福祉21推進室」,各部会のあらゆる活動をコーディネートし,議事を記録し,連絡調整を行いました.市長は一連の発言の中でこのプロジェクトに集まった市民を「行動する提言集団」と規定し,「皆さんの検討結果を責任を持って引き受け施策にしていく=住民主導,行政フォロー」と約束し,「市民と行政のパートナーシップ」を強調しました.

活動レポート

「生き抜くためのVoice Letter」の試み—若者への性とHIV/AIDS教育として

著者: 内野英幸 ,   西村ふさ子 ,   小澤真由美

ページ範囲:P.136 - P.139

 わが国におけるエイズ流行は初期の段階にあるといわれている.ピルが一昨年秋に解禁され,エイズ流行への影響が様々に推測され論議をよんでいる.世界的にはエイズ流行によって,若者を中心にsafer sexの認識が高まっている.一方,わが国においてはエイズ流行が今から本番といわれているにもかかわらず,特に若者を中心に性感染症に関する理解やsafer sexとしての予防行動への認識が低いようである.
 そこでこのような重要な時期に生きていく若者に対して,命を守り,性と生を前向きに受け止め自己決定に資するようなメッセージの伝わる保健所広報活動を開始することにした.

フォーラム

要介護高齢者の介護負担評価法の紹介

著者: 荒井由美子 ,   杉浦ミドリ ,   工藤啓

ページ範囲:P.134 - P.135

 介護保険制度の導入に伴い,各市町村は管轄内の要介護高齢者の健康状態を向上させていくだけでなく,こうした要介護高齢者を介護する者の介護負担軽減を図っていくことが求められる.介護者の負担軽減の方策を考える上では,家族介護者の負担を科学的かつ具体的に評価していくことが重要であるが,これまでわが国では,科学的評価に耐えうる介護負担評価法は少なかった.本稿では,こうした科学的評価にも耐えうる信頼性・妥当性の確認された尺度であり,かつ国際的な比較が可能なZarit介護負担尺度の日本語版を紹介する.

報告

言語聴覚士養成課程在学生の入学までの経過—ST・PT・OT課程1年生の比較から

著者: 山田弘幸 ,   笠井新一郎 ,   石川裕治 ,   福永一郎 ,   實成文彦

ページ範囲:P.155 - P.158

 言語聴覚士(ST),理学療法士(PT),作業療法士(OT)は,ともに地域での保健医療福祉上の有用な社会資源である.それら専門職を目指す学生が,その職種の業務内容や社会における存在意義などを十分に理解した上で養成課程に進学するということは,地域の保健医療福祉活動が発展していくためにも非常に重要なことと考える.
 ところが,STの国家資格制度は,PT・OTなどと同時期に検討されはじめたにもかかわらず,「理学療法士及び作業療法士法」1)(昭和40年公布,施行)から30数年間も遅れて,ようやく「言語聴覚士法」1)が平成9年12月公布,翌年9月施行の運びとなった経緯がある.それが,これら3職種の専門職としての社会的な位置づけなどにも影響し,各専門課程受験者の様相にも反映されていると推測される.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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