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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生65巻3号

2001年03月発行

雑誌目次

特集 地域保健の危機管理

地域保健における危機管理の注意点

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.164 - P.166

 今年のお正月にヒットした映画のひとつに「13デイズ」という1962年10月のキューバ危機を描いた作品があったが,「危機管理」=crisis managementという考え方が一般的に定着しはじめたのは,このキューバ危機以後といわれている.この場合の危機管理は国家間の紛争が核戦争に至るのを防止するために,事前に危機回避の仕組みを作成しておく政策を意味していた.
 一方,阪神・淡路大震災やO 157・腸管出血性大腸菌感染症による大規模な食中毒発生時の行政側の対応に関して,危機管理体制の不備などが指摘されたのも記憶に新しいところである.ここでいう危機管理とは震災や食中毒・感染症などの健康危機発生時に,その被害がさらに広がるのを防ぐとともに,被害者の健康障害を最小限のものに抑えるような体制を,あらかじめ作成しておくことを意味するものと考えられる.

雪印乳業製品による集団食中毒事件

著者: 中澤秀夫 ,   杉浦嘉宏

ページ範囲:P.167 - P.170

 近年,食品の製造,加工,保存技術の高度化や消費者ニーズの多様化などにより,輸入食品を含め多種多様な食品が,長期的,広範囲に大量に流通している状況のもと,ひとたび食品事故が発生すると,その影響は広範囲に及ぶことが懸念されている.最近では,堺市での腸管出血性大腸菌O 57(以下,O157)による大規模食中毒(1996年7月),青森県でのいか乾製品を原因食品とするサルモネラ属菌による食中毒(1999年4月)などの事例がある.
 今回の雪印乳業株式会社大阪工場(大阪市都島区,以下,大阪工場)で製造された「低脂肪乳」などの乳製品による食中毒(2000年6月)は,リスクマネジメントとして自主衛生管理が確立されているはずの「総合衛生管理製造過程」いわゆるHACCP(hazard analysis and critical control point,危害分析・重要管理点)の承認工場で起き,有症届出者数は近畿一円で14,780名に達し,近年,例をみない大規模食中毒事件となった.今回の事件について,大規模食中毒発生時の危機管理(crisis control)の視点から,保健所および行政機関の対応について検証する.

東海村臨界事故

著者: 佐藤正

ページ範囲:P.171 - P.174

ウラン加工施設で臨界事故の概況
 平成11年9月30日(木曜日)午前10時35分ころ,茨城県東海村のウラン加工施設でわが国初の臨界事故が発生した.午後3時,事故現場から半径350m圏内住民への避難要請が行われた.さらに,希ガスやヨウ素の一部が大気中に放出され,また,臨界事故の見通しが立たなかったことなどから,午後10時30分には半径10km圏内住民への屋内待避要請が行われた.平成11年10月1日(金曜日)午前6時30分ころ,臨界状態は終息した.午後4時30分ころ,屋内待避要請が解除された.平成11年10月2日(土曜日)午後6時30分ころ,半径350m圏内住民への避難要請が解除された.
 この事故により3名の従業員が重篤な被ばくを受け,内2名の方が亡くなった.また,3名の従業員を搬送した消防署員,臨界状態の停止作業に従事した社員および事業所周辺の住民などが被ばくした.原子力施設の事故規模を示す国際評価尺度(INES)は,レベル4(施設外への大きな危険を伴わない事故)であった.

インフルエンザ集団感染における毒素性ショック症候群の発症

著者: 長坂裕二

ページ範囲:P.175 - P.179

 三重県桑名保健所では,1999年2月に管内のT精神病院におけるインフルエンザの集団感染の疫学調査を経験した.調査開始は,集団発生のピークの約1カ月後であり,直接の原因究明は困難な状況であった(図).その後,1999年9月に,超過死亡の原因の一つとして,インフルエンザ感染,耐性菌による院内感染,その細菌が産生する毒素によるトキシックショック症候群(TSS;toxic shock syndrome)の三者が相互に絡み合った複合的な原因を指摘した1〜4)
 一方,発生場所が精神病院であったことから,多くのマスコミ取材が殺到した.私たちは,一方的なマスコミ報道の中で,直感的に何かあるに違いないと感じた.これは,T精神病院側も同じだった.「私たちが納得できる調査をしてほしい.亡くなった患者さんのためにも再発は防ぎたい.」これは,病院長が私たちに繰り返し述べた言葉である.

高知市における結核集団感染

著者: 豊田誠 ,   森岡茂治

ページ範囲:P.180 - P.184

 かつて国民病としてわが国の健康を脅かし,その後急速に減少した結核が,再び新たな健康危機として注目されている.1980年代以降に学校,職場,院内で多発している結核集団感染事例がそれである1)
 集団感染が発生した場合の対応で最も大切なことは,初発患者の人権に十分留意しながら,2次患者の発生を防ぎ,仮に発生した場合には早期に発見することである.しかし,実際に結核の集団感染が起こった場合,マスコミにも報道され,社会的にも大きな問題となり,結核まん延防止の対策だけでなく,健康危機管理の視点からの対応も必要になる.

少女監禁事件と精神保健福祉業務

著者: 阿部俊幸

ページ範囲:P.185 - P.188

 本件は保健所職員が病院の医師の往診に同行し患者(以下,S被告)の居室に入ったら,そこにはS被告のほかに10年近くも行方不明になっていた女性が居た,という極めて特異な事例である.しかしS被告に関する対応自体は保健所の精神保健福祉業務としては特記すべき事はなく,今後の保健所業務に参考になる点もそう多くないのではと考えるが,現時点において提示できる事実をもとに今回の事例の経過と当所の一連の対応,残した課題について若干論ずる.

視点

地方の公衆衛生行政の真価

著者: 藤内修二

ページ範囲:P.162 - P.163

 21世紀の健康づくり戦略として,「健康日本21」が発表されて1年が経過した.そのアクションプランとして「保健事業第4次計画」が同時に発表され,新たな事業として,個別健康教育やヘルスアセスメント(健康度評価)が登場してきた.また,昨年11月には「健康日本21」の母子保健版といえる「健やか親子21」も発表された.
 「健康日本21」の総論には,ヘルスプロモーションの理念が盛り込まれ,オタワ憲章から14年が経過してやっとわが国でも公衆衛生行政の基本に位置づけられた.そのアクションプランとして「保健事業第4次計画」が打ち出されたことにより,ルーチンワークである老人保健事業で,ヘルスプロモーションの実践ができると大いに喜んだ.とりわけ,その目玉である個別健康教育やヘルスアセスメントへの期待は大きかった.

アニュアルレポート・2001

公衆衛生の動向

著者: 鈴木庄亮

ページ範囲:P.189 - P.192

 1999年,わが国では合計特殊出生率1.34,老年人口割合17%と少子高齢度はいっそう進んだ.経済の低成長下で失業者は依然として4〜5%,企業のリストラなどで中年の自殺者が増えた.児童虐待,家庭内暴力,年少者の犯罪が社会問題になった.
 2000年に公衆衛生制度面で特記されるのは,1)4月から懸案の介護保険が施行されたこと,2)厚生省から国民保健計画「健康日本21」が施行されたこと,および3)日本版の公衆衛生大学院School of Public Healthである「京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻」が先発したこと1)の三つであろう.

産業衛生学の動向

著者: 大久保利晃

ページ範囲:P.193 - P.195

最近の動向
 産業衛生学の主要課題が産業や労働の変遷によって変化するのは当然である.このような観点から,最近の産業動向の特徴を見ると,情報化がますます進みつつあること,その中にあって日本は依然として不況の真っ只中にあることが指摘されよう.情報化については昨今始まったことではないが,政府特別予算枠の新設などによりさらに加速されることが予測される.
 それより後者の影響は極めて大きいものがある.というのも,これは単なる不況ではなく,わが国の経済構造が根底から変わりつつあるあらわれと捉えるべきだからである.経済構造の変化は,労働者の雇用制度に大きな変化を及ぼしている.例えば,わが国の雇用慣行の特徴とされた終身雇用は崩れつつあり,リストラ,ダウンサイジング,アウトソーシングなどにより,従来のパート,アルバイトに加え,派遣労働や在宅勤務など各種の契約労働が急速に普及しつつある.このような流動的な労働力に対しては,継続雇用と固定的な労働の場を前提にして発達してきた従来の産業保健管理手法はもはや通用せず,新たなサービス提供方式の模索が産業保健の大きな課題となっている.

衛生学の動向

著者: 徳永力雄

ページ範囲:P.196 - P.198

 日本衛生学会は,1929年に各地の大学の衛生学教室,研究所,衛生試験所など56団体が参加して発足した日本連合衛生学会から数えて,2001年で71年になり,2001年4月には第71回日本衛生学会総会が福島市で開催される.前身の組織は,1902年(明治35年)4月発足の日本連合医学会の第1回学会第14部(衛生学,細菌学,伝染病学会の連合会)である.日本連合衛生学会として独立した契機は,学問の専門分化,会員の増加,そして健康生活科学という幅広い領域を包含した研究集団の再構成であったと記されている.会員数は1996年には2,900人に達したがその後減少し2001年1月現在では2,475人である.現在の学会の主な事業は,学会総会の開催(年1回),邦文機関誌「日本衛生学雑誌(Jap J Hygiene)」,英文機関誌「Environmental Health and Preventive Medicine」の発刊(各年4回刊行),ワークショップの開催,日本公衆衛生学会と合同の衛生学公衆衛生学教育協議会活動などである.

連載 あなたにもできる調査研究—事例をもとに・12

保健事業の評価方法

著者: 多田羅浩三

ページ範囲:P.199 - P.203

 保健事業は,かけがえのない税金を財源として実施されるものであり,事業の評価が明確に示されることが強く要望されてきた.特に老人保健法による基本健康診査やがん検診については,その効果が明らかにされることが期待されてきた.

疫学 もう一度基礎から・15

因果関係—疫学研究における最後の詰め

著者: 中村好一

ページ範囲:P.204 - P.208

■ポイント■
 1.疫学研究の目的には,疾病の予防法の確立とともに,疾病の原因を明らかにすることも含まれる.
 2.曝露と疾病発生の間に関連がない場合には,因果関係はない.

「健康日本21」と自治体・12

循環器疾患対策の展開

著者: 上島弘嗣

ページ範囲:P.209 - P.213

 脳卒中大国であったわが国は,1965年以来大きくその死亡率を減少させ,一方では,虚血性心疾患死亡率を増加させることなく経過して,世界一の長寿国となった.ここでは,わが国の循環器疾患の動向とその特徴を示しつつ,「健康日本21」の循環器疾患対策の基本戦略についてその要点を概説し,市町村における保健活動に期待する点に触れたい.

地域保健関連法規とその解釈・3

地域保健法・1

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.215 - P.217

 昭和23年に法改正により新保健所法が誕生し,実に47年の間同法は戦後の地域保健の指導原理になっていたが,高度経済成長などの社会の変貌は大きく,新保健所法は徐々に現実の保健医療上の課題に対応できなくなってきた.
 平成6年に法改正され戦後の新保健所法は名前も新たに「地域保健法」となり,その内容も大きく変わることになった.だが,果たして地域保健の機能が強化されたのであろうか.

公衆衛生院からの発信・14

介護サービスマネジメント研修

著者: 筒井孝子

ページ範囲:P.218 - P.219

 国立公衆衛生院は,地域の公衆衛生従事者に対する教育研修を行っており,公衆衛生行政における指導的な役割を果たす人材の教育を行ってきたが,介護保険制度のエキスパートの養成を目的とした介護サービスマネジメント研修は,平成10年12月に第1回目の研修が始められた.この研修は都道府県などの地方自治体において介護保険制度に関する企画・運営・評価などの業務に従事している行政担当者の方々を対象にしたもので,全国から選りすぐりのメンバーがこの研修会に参加した.介護支援専門員現任研修の指導者講習会は介護保険制度施行準備室が行っていたが,それをさらに指導する層,つまり,指導者などからの専門的相談に応じたり,適切な介護サービスの実施を支援する役割を担う行政担当者を対象にした研修であり,全国で初めての試みであった.
 この研修は,新しい研修であると同時に公衆衛生従事者だけでなく社会福祉に関する従事者を受け入れるという新たな試みを行い,平成12年度に行われた第4回の研修までに合計246名の介護保険制度に関するエキスパートが輩出された.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 石川県石川中央保健福祉センター

「こころのホームドクター」支援事業

著者: 梶美恵子 ,   中川正俊

ページ範囲:P.220 - P.221

 近年,児童・生徒の心身の健康問題が複雑・多様化してきており,いじめや不登校などの問題が増加しています.当所では子どもの身体やこころの健康問題にかかわる機会の多い地域の開業医や学校医のお医者様を対象に研修会を開催し,必要時に相談支援ができる地域の受け皿強化を図ろうと「こころのホームドクター支援事業」を実施しました.

公衆衛生のControversy 介護保険の認定はこれでいいのか

調査の技法の力量アップを/主治医意見書はいらない

著者: 樋口恵子

ページ範囲:P.222 - P.223

 友人の母上は86歳.骨折入院後,ようやくつかまり立ち,日によっては屋内を杖で歩行できるのが最高,という状態になった.当然,友人は今回の介護保険施行にあたって要介護認定を申請,ある日訪問調査員がやってきた.例の85項目のアンケート調査である.友人としては母にしっかり介護保険の意義を話し納得してもらったつもりでいた.友人自身,仕事を持つ身である.介護サービスはぜひとも受けたかった.
 母はそもそも機嫌は良くなかったが,最初はおだやかに進行した.15〜16項目あたりにきたとき,何か気に障ったのか,プイと横を向き,答えなくなった.調査員が頼むように質問して25項目ぐらいまでは進んだが,あとは無言.娘と調査員がなだめたりすかしたり励ましたり.ようやく口を開いてくれたものの,答えはすべて,「ああ,できる」,「それもできる」,「みんなひとりでできる.だれの助けもいりまへん」.結局その日は調査不能で,再度来てもらうことになった.ところが後日,調査員が玄関に来たと知ると,ベッドの上から,「入ったらあきまへんでえ.ここは私の家やによって」と呼ばわり,家人はそれに逆らえない.母はものの判断には怪しいところがあるが,家族の目からは,痴呆なのか意地になっているのかわからない.無理に調査員に上がってもらっても前回同様の結果になるのは目に見えているので,当分介護保険利用はあきらめた,という.

海外レポート ニューヨーク州保健省の日常・15(最終回)

人種と健康

著者: ホスラー晃子

ページ範囲:P.225 - P.227

 1年以上にわたって掲載していただいた海外情報シリーズも,これで一応最終回を迎えることとなった.最後を飾るにあたって,今回は「人種」について,健康問題に絡めて考察してみることにする.
 昨年11月に開かれたアメリカ公衆衛生学会のテーマは「健康の不均衡の排除」であった.多くの公衆衛生の関係者にとっては,この「不均衡」はracial disparities(人種間の不均衡)を暗示していることに,すぐピンとくるはずである.アメリカでは,相変わらず非白人の健康状態が芳しくない.特に黒人は平均余命がアメリカ一短く,妊産婦や乳幼児の健康,生活習慣病のリスク,予防接種や定期検診の受診率など,主な健康関係の指数が他のグループに比べ低い.連邦政府では,Office of Minority Healthという特別の機関を設立し,Healthy People 2000や2010でも,人種間の不均衡を縮めることを最重要目標の一つにしているが,それでもまだ望ましい成果は上がっていない.

福祉21茅野 住民参加の地域ケアシステム・3

茅野市型の地域ケアシステム・2

著者: 高木宏明

ページ範囲:P.228 - P.232

茅野市地域福祉計画=福祉21ビーナスプランの基本理念
 ビーナスプランの冒頭では「みんな同じ空の下:住んでてよかったまち=茅野市」というキャッチフレーズに続いて以下のような四つの理念が述べられています.

資料

愛媛県内の精神保健ボランティアグループに対する実態調査

著者: 鷹尾雅裕 ,   青木眞策 ,   小林保一

ページ範囲:P.233 - P.238

 1993年に心身障害者対策基本法が障害者基本法に改正され,わが国の障害者福祉の歴史上初めて精神障害者が「障害者」として福祉施策の対象となった.障害者プランの策定と精神保健福祉法の再三の改正によって社会資源がより充実し,ノーマライゼーションの実現に向けた取り組みが進行しつつある.しかし一方で,精神障害者に対する偏見と差別はいまだに厳しく,地域住民の正しい理解とそれに基づく支援の輪を広げるためには,広範な人材養成も重要となってきた.
 愛媛県精神保健福祉センター(以下,センター)は,1991年度に松山市社会福祉協議会が主催した県内初の精神保健ボランティア(以下,ボランティア)講座の開催にあたり,主催者の理解を得て全面的に協力し,翌年度から愛媛県社会福祉協議会によって事業化された後も県内数カ所で開催されるボランティア講座に対して,引き続き開催地の選定から企画・運営に至るまで,その多くを支援してきた.本研究は,講座終了後有志によって結成された精神保健ボランティアグループ(以下,グループ)の活動が,ノーマライゼーションの進展のため地域住民の中に自然な形で溶け込んで,その目的が達成されるための参考に資することをねらいとしている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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