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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生65巻4号

2001年04月発行

雑誌目次

特集 ヘルスプロモーションの実践・1

ヘルスプロモーションの理念

著者: 島内憲夫

ページ範囲:P.244 - P.249

 21世紀を迎えて,世界中の人々は人類の夢の実現に向かつて大きく羽ばたこうとしている.その夢とは,ヘルスプロモーションである.ヘルスプロモーションは,まだ15歳の思春期真っただ中の中学生である.ようやく周りから認められ,自らの存在価値に自信を持ちはじめたところである.
 ヘルスプロモーションは,今から15年前の1986年11月17日〜21日にカナダのオタワで開催されたWHO主催の「第1回ヘルスプロモーションに関する国際会議」で生まれた1).本稿では,このヘルスプロモーションについて,まず「定義・目標・原理・活動」,次に「ヘルスプロモーションを展開する時の注意点」,そして「ヘルスプロモーションの日本的な展開」,最後に「リスクファクター探しからハッピーファクター探しへのシフト」と題して説明をしていこう.

健康日本21とヘルスプロモーション

著者: 北窓隆子

ページ範囲:P.250 - P.254

「健康日本21」の概要と特徴
 21世紀における国民健康づくり運動1)(健康日本21)は国が打ち出す中長期的な健康づくり対策の第3弾である.昭和53年に始められた第一次国民健康づくり対策および昭和63年から開始された第二次国民健康づくり対策(アクティブ80ヘルスプラン)に続く第三次国民健康づくり対策の性格を持っている.また,「健康日本21」は従来の健康づくり対策と比較して,いくつかの新しい試みが取り入れられ,運動の特徴となっている.以下にその特徴を紹介する.
 まず,目標設定型の健康づくり施策である.「健康日本21」では,国レベルでの目標として,生活習慣と生活習慣病からなる9領域について70項目の目標設定を行っている.具体的な数値目標を提示したことにより,政策評価の先取りをした施策となった(「公衆衛生」64巻4号からの連載「健康日本21と自治体」参照).

ヘルスプロモーションの実践に向けて—行政サイドの視点

著者: 赤穂保

ページ範囲:P.255 - P.262

 WHOのヘルスプロモーションに関するオタワ憲章(1986年)のなかで,「ヘルスプロモーションとは,人々が自らの健康をコントロールし,改善することができるようにするプロセスである.」という定義が示され,ヘルスプロモーション活動の方法として,①健康的な公共政策づくり,②健康を支援する環境づくり,③地域活動の強化,④個人技術の開発,⑤ヘルスサービスの方向転換,の5項目が掲げられて久しい.その究極目標は,「すべての人々があらゆる生活舞台で健康を享受することができる公正な社会の創造」にあるという.まさにヘルスプロモーションは,一方ではライフスタイルに直結した健康に対する生活戦略であり,他方では政策に直結した政治戦略1)なのである.
 ところでヘルスプロモーションが「プロセス」であるかぎり,その実践に際しては,最終目標やそれに到達する道筋(総合戦略と広範で多彩な戦術)をいかに描くかが重要であり,そのなかで現段階の活動がいかなる役割・機能を担うのか,そしてその到達点(戦線の広がり)と次なる課題は何かなどを常に明らかにしておく必要がある.

健康日本21の効果的な展開方法—保健所の役割

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.263 - P.267

健康政策こそ「地方主権」の時代
 昨春,21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)の公表と同時に,地方分権推進一括法が施行された.これは偶然というより,とても時宜にかなった二人三脚のスタートであった.21世紀の健康なまちづくりは,「地方分権」あるいは「地方主権」の時代を迎えたといってよい.
 この背景としては,国民の生活様式や価値観の多様化が予想以上に速く進み,かつ,その地域格差が極めて大きくなったことがあげられる.がんや脳卒中などの生活習慣病の発生状況についても,地域格差が目立っている.超高齢・少子化の波は日本全域に及んでいるものの,高齢化率などの市町村格差は拡大し,住民の健康感についても地域ごとに相当の違いが予想される.このような状況のなかで,地方主導の健康政策が求められるのは当然といえる.しかも,健康日本21でターゲットにしている生活習慣病は,原因が多因子性で複雑なので,国一律の政策よりも,疾病や生活習慣などの地域特性に応じて,地域ごとに重点的な対策を講じたほうが効果的である.つまり,国の政策に依存し,あるいは国の政策転換を待っていたのでは,地域住民に満足してもらえる保健サービスができず,地域の健康度を向上させることができない時代を迎えたのだと思う.

座談会 ヘルスプロモーションを実践するために—日常業務,ルーティンワークでの実践に向けて

著者: 藤内修二 ,   日隈桂子 ,   廣畑弘 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.268 - P.278

 岩室 ヘルスプロモーションという言葉がいろいろな場面で言われています.これは理解し納得できれば当然ともいえる理念ですが,ヘルスプロモーションという言葉だけがひとり歩きしていたり,この言葉にアレルギーを示す人もいたりということがありそうです.
 一方,現場での実践を見ると,意識していなくても,実際にやっている事業がヘルスプロモーションに沿ったものである,という地域もたくさんあります.

視点

衛生行政の魅力

著者: 高杉豊

ページ範囲:P.242 - P.243

 21世紀を迎えて,衛生行政はまさに大きな変革の渦の中にある.
 これまで衛生行政の根幹を成してきた法制度が次々に改変されており,われわれにも,意識の改革や新たな時代に即した取り組みが求められている.
 こうした流れの中で,衛生行政に携わる喜びなどについて,筆者のこれまでの経験も交えて述べてみたい。

連載 疫学 もう一度基礎から・16

スクリーニング—疫学の集大成

著者: 中村好一

ページ範囲:P.279 - P.283

■ポイント■
 1.スクリーニングの導入や有効性の判断は疫学研究の集大成である.
 2.スクリーニングの対象とする疾患は特定の要件を備えていなければならない.

「健康日本21」と自治体・13(最終回)

がん

著者: 山口直人

ページ範囲:P.284 - P.288

生活習慣とがん
 がん発症が生活習慣と密接な関連を持つことは,生活習慣の異なる国,地域でがん罹患率が大きく異なること,移民の研究によって移民元から移民先へとがんの発症パターンが変化することなどによって明らかにされてきた.Doll & Petoによれば,米国におけるがん死亡の35%は食生活,30%は喫煙によって説明できるとされ,食生活と喫煙でがん死亡の実に2/3が説明可能であることが明らかにされた.
 健康日本21は,21世紀において日本に住む一人ひとりの健康を実現するための新しい考え方による国民健康づくり運動であると規定されている.特に,慢性疾患発症における生活習慣の重要性に注目し,生活習慣の改善によって疾病罹患を未然に防ぐ1次予防に重点を置くべきであることが明示された.がん発症に対する生活習慣の影響が極めて大きいことは上述のとおりであり,がんは最も大きな効果を期待できるターゲットであるといえる.

海外レポート 英国・オックスフォード市における在宅難病患者の地域リハビリテーションサービス・1

イギリスにおける地域ケア・サービスの概要

著者: 長野聖

ページ範囲:P.294 - P.295

 平成12年度から施行されている介護保険では,パーキンソン病や脊髄小脳変性症などが特定疾病として保険給付の対象となり,難病患者に対する地域リハビリテーションサービス提供のあり方,身体,精神機能を含めた障害の評価は,今後ますます重要な課題になってくるものと思われる.
 このような背景を踏まえ,このシリーズではリハビリテーションに関連する地域ケアの提供がイギリスにおいてどのように行われているのか,オックスフォード市(人口約135,000人)の状況をもとに,難病患者の地域ケアにかかわる専門職の役割,行われているサービスなどを中心に紹介する.なお,本稿では,イギリスにおける地域ケアサービスの全体像について,その概要を述べる.

地域保健関連法規とその解釈・4

地域保健法・2

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.296 - P.297

 実に47年ぶりの法改正によって地域保健法が生まれ,その名のとおり保健所や市町村保健センターの業務が明確となったが,この法律が効果を発揮し,地域保健の実情は変化したであろうか.

公衆衛生院からの発信・15

特別課程 食品・食肉衛生管理研修

著者: 山崎省二

ページ範囲:P.299 - P.301

 国立公衆衛生院が行っている教育訓練事業の一つである特別課程(研修期間約1カ月)の食品衛生管理コースおよび食肉衛生検査コースを衛生獣医学部が担当している.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 石川県石川中央保健福祉センター

子ども虐待のない地域づくりへの第一歩

著者: 竹本玲湖 ,   二宮正人

ページ範囲:P.302 - P.303

事業に取り組んだ背景
 近年子ども虐待が急増しているといわれますが,相談としてあがってくるのはほんの一部です.これまでは福祉系の役所を中心に対処されてきましたが,虐待は母子保健の大きな問題でもあり,今後は予防活動が何より重要となってきます.また,ケースには公衆衛生上の様々な問題が集約されたものが多く,保健領域の人間にとってもかかわるには相当の技術を要するともいわれています.そこで,当所では地域の被虐待児とその予備軍の実態を把握し,さらに虐待のない地域づくりへの提言をまとめた報告書を作成しました.

公衆衛生のControversy 神経芽細胞腫のスクリーニングの是非

神経芽腫マススクリーニング事業は中止するべきである/神経芽細胞腫マススクリーニングの問題点

著者: 大島明

ページ範囲:P.304 - P.305

 わが国では,がん予防の決め手は早期発見との考えが,臨床医,衛生行政の政策担当者や一般国民に広く行きわたっている.このため,6カ月児を対象とした神経芽腫マススクリーニング(以下,マス)も,他の成人を対象としたがん検診と同様に,早期発見が可能ということだけを根拠として,事前に死亡率減少の効果を確かめることなく,1985年以降公衆衛生施策として実施されてきた.1998年度には,104.2万人が受検し受検率は86.9%もの高さであった.しかし,今日では,マスが,偽陽性や偽陰性による害だけでなく,過剰診断・過剰治療による害を多くもたらしていることも明らかにされている.
 最近まとめられた,小児がん学会神経芽腫委員会報告(小児がん36(1):107-113,1999)や厚生科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)久繁班「神経芽腫スクーリニングの評価」平成11年度報告書に示された後向きコホート研究には,神経芽腫罹患症例や死亡症例の把握が完全でないことと,受診・非受診の誤分類などの問題点があることを指摘しなければならない.両者で結論はくい違っているが,前者の報告に対する「問題点で最も重要な点は,神経芽腫患者数の完全な把握であると思われる.

福祉21茅野 住民参加の地域ケアシステム・4

茅野市型の地域ケアシステム・3

著者: 高木宏明

ページ範囲:P.307 - P.311

 前々回,福祉21茅野での議論の中で,私たちケアマネジメント部会は,地域福祉のあらゆる分野で「ケアマネジメント」の手法を取り入れることを構想したと書きました.そして前回,その具体的現れとして茅野市を四つの「保健福祉サービスエリア」に分割し,それぞれにケアマネジメントの拠点となる「保健福祉サービスセンター」を置くことにしたことを記述しました.
 今回は「福祉21ビーナスプラン」のかなめと思われるこの「保健福祉サービスセンター」について,少し詳しく述べたいと思います.

活動レポート

痴呆対策—病診連携からのアプローチ

著者: 内野英幸 ,   河村吉郎

ページ範囲:P.289 - P.293

経緯とその目的
 長野県大町保健所では,平成9年度から3年間,厚生省「健康科学総合研究事業」として,痴呆性老人の早期発見・早期対応による在宅支援システムに関する研究事業に取り組んできた.研究初年度の診療所調査結果から,管内診療所の大半が痴呆患者とかかわっている中,診断後の対応も様々であることがわかつてきた.また,痴呆の患者を診察した際,3人に1人の診療所医師が,診療技術不足やどう対応してよいか困ってしまう,と答えていた.
 そこで,痴呆性老人に最初に接する機会の多い診療所での適切な対応および診療所と専門医療機関などとが早期から連携し,痴呆性老人へのきめ細かい対応や継続的な支援が強く望まれた.

海外事情

オーストラリア・シドニー郊外住宅地—連携と統合の高齢者ケア

著者: 生田清美子

ページ範囲:P.312 - P.316

 『厚生白書』は,平成8年版から世界各国の社会保障制度を紹介するようになった.平成11年版からは,オーストラリアの制度も紹介されている.オーストラリアは,北欧に代表される高福祉とアメリカ合衆国に代表される民間自由競争への期待の大きい制度の中間にある.「中負担中福祉」などといわれる,両者の長所を取り入れた高齢者ケアシステムは興味深く,交流すれば日豪両国の向上を期待できると思う.
 筆者は,1998年9月末から半年間の在外研究をはじめとし,シドニー北部郊外住宅地の保健サービスの調査・見聞を続けている.この地域の高齢者ケアの概要を紹介する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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