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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生65巻5号

2001年05月発行

雑誌目次

特集 ヘルスプロモーションの実践・2

ヘルスプロモーションの進め方—都会と農村での違い

著者: 岩永俊博 ,   鳩野洋子 ,   カマル AM モスタファ ,   石井敏弘

ページ範囲:P.324 - P.331

 今回の課題を考える前に二つの点を明らかにしておく必要がある.一つは,ヘルスプロモーションの進め方とは何かということである.そしてもう1点は,そのヘルスプロモーションの展開方法を考える際の都市と農村との違いはどのように捉えるべきかということである.
 ヘルスプロモーションについては,1988年WHOからヘルスプロモーションに関する憲章として提示され,「人々が自らの健康をコントロールし,改善することができるようにするプロセスである」1,2)と記載されている.つまり,公衆衛生活動を進める際に,その戦略プロセスとしての重要な考え方が示されているといえる.本稿のテーマについてもヘルスプロモーションの進め方というより,ヘルスプロモーションの考え方に基づいた保健活動の進め方としたほうが適当なのかもしれない.

東京都三鷹市の実践

著者: 櫻井尚子 ,   藤本真弓 ,   星旦二

ページ範囲:P.332 - P.340

 三鷹市では,2001年に策定される三鷹市の基本構想・基本計画に向けて,平成11年10月より延べ323回の会議,市民約400人の参加を経て,従来のような行政の作成した原案の検討ではなく白紙の段階から市民自らの手で作成した「みたか市民プラン21」の最終報告書を,平成12年10月に市長に提言として提出した.こうした市民主導の基本計画づくりは,全国でも初めてのことである.

岩手県滝沢村の実践

著者: 尾崎米厚 ,   柳村純一

ページ範囲:P.341 - P.346

滝沢村の概況
 滝沢村は岩手県の内陸部県都盛岡市の北西に位置する日本一人口の多い村である(2000年6月1日現在50,337人).盛岡市のベッドタウンになっており,老齢人口比率は県下で最も低く10.7%,出生率10.3,1999年の出生数は509人にのぼる.村の産業は農業である.
 保健婦は健康推進課補佐1名,成人保健担当4名,母子保健担当3名,福祉課の基幹型在宅介護支援センター高齢者担当2名の計10名である.その他,保健関係者として健康推進課に栄養士,看護婦,在宅介護支援センターに看護婦,ソーシャルワーカーがそれぞれ1名配属されている.

愛媛県中山町の実践

著者: 櫃本真聿

ページ範囲:P.347 - P.351

ヘルスプロモーションで斬る
 ヘルスプロモーションを言葉で説明することは思ったよりも難しい.WHOがオタワで提案してから15年経過した今も,わが国での普及状況はそれほど芳しくない.「健康日本21」や「健やか親子21」などを通じて,ヘルスプロモーションがにわかに脚光を浴びることになったが,いざ地方での計画策定となると,目標数値の設定や「作文」に精力を奪われ,ヘルスプロモーションの考え方が影を潜めることを懸念している.いくら「ヘルスプロモーションとは」のお題目を唱えても,それぞれの実践や感性において,それぞれ自ら身につける以外,ヘルスプロモーションを地域に定着させることは困難と考えている.愛媛県中山町のヘルスプロモーションを基盤に置いた取り組みを,筆者の考えに基づいて実際に「斬る」ことにより,「ヘルスプロモーションとは」を実感する一助となれば幸いである.
 筆者のいう「ヘルスプロモーションで斬る」とは,以下のような点に注目して,各事業を分析することであり,その結果をもとに,各施策を見直し適用することである.各地域の事業を自ら「斬る」ことが,ヘルスプロモーションの推進につながることは間違いない.

熊本県蘇陽町の実践

著者: 福本久美子 ,   門川次子 ,   飯法師直美

ページ範囲:P.352 - P.355

 熊本県蘇陽町は,昭和63年度からWHOの提唱するヘルスプロモーション(蘇陽町の取り組みは「健康な地域づくり」という言い方をしている)を取り組んできているといわれています.この取り組みを開始するきっかけとなった経緯と継続し推進している理由について考えてみたいと思います.
 まず,蘇陽町の活動が,WHOの提唱するヘルスプロモーション活動といわれる理由について3点ほど整理してみたいと思います.第1点目は,地方自治法第2条に基づく町の基本計画(そよトピア)が健康政策を基盤としたものになっていること,第2点目に,「健康むら長」制度などによる住民参加によって推進していることです.第3点目は,高齢者対策から始まった活動が,子どもの問題や耳のバリアフリー,環境問題などへと幅広く拡大し,その課題を住民とともに模索し,少しずつ解決の方向へと進めていることが挙げられます.

大分県佐伯市の実践—PRECEDE-PROCEED MODELを用いた栄養改善計画の策定

著者: 田中久子 ,   津田克彦 ,   田村恵 ,   藤内修二

ページ範囲:P.356 - P.360

 地域保健法においては,地方公共団体の責務として,企画・調整,調査・研究,情報収集・提供などを掲げており,今後ますますこの機能が求められる.地域栄養活動において,これら一連の流れは,地域保健・栄養体制の整備であり,先を見通した地域保健活動を栄養の視点から効果的・効率的に行うには,ヘルスプロモーションの考え方による,新しい国民健康づくり運動(「健康日本21」)の中にしっかりと位置づけられている栄養・食生活分野の地方計画(地域栄養計画)の策定と,その計画の推進があげられる.
 一方,地域保健法の施行に伴う栄養改善法の一部改正により,栄養改善業務が,市町村の業務として明確に位置づけられた.これに伴い,市町村では,健康づくり・栄養計画の策定が行われている.しかし,人々が行動するにはどうしたらよいかわからない栄養素レベルの目標値を示したスローガン的な計画であったり,乳幼児相談や栄養教室などの開催回数など,事業量の目標値を示した年間計画・事業計画を栄養改善計画として示していることろが多く見受けられた1)

沖縄県宜野湾市の実践—子育て応援本「ぽけっと」ができるまで—「住民参加」から「住民主体」へ

著者: 糸数公

ページ範囲:P.361 - P.364

 子育て中の親にとって,育児情報は重要な意味を持つ.マスメディアや出版物などにより様々な情報が氾濫してはいるが,本当に有用な情報は届いているのだろうか.沖縄県宜野湾市では,母子保健計画策定をきっかけに育児情報について議論し,その結果住民が主体的になって情報に関する本を出版した.そのプロセスを振り返り,ヘルスプロモーションがどのように展開されたかについて検討する.

視点

公衆衛生「学」は大事だ

著者: 水嶋春朔

ページ範囲:P.322 - P.323

健康日本21地方計画の策定過程の地域格差にみるわが国の公衆衛生「学」の現状
 わが国の新しい健康づくり政策である「21世紀における国民健康づくり運動」(健康日本21)には,いくつかの新しい特徴があります.
1)健診主体の2次予防重視から健康づくりの1次予防重視へのシフト

連載 疫学 もう一度基礎から・17

サーベイランスと疾病登録—恒常的に実施されている疾病頻度調査

著者: 中村好一

ページ範囲:P.365 - P.369

■ポイント■
 1.サーベイランスは疾病発生やその推移を継続して監視し,疾病対策の基礎とする目的で実施されている.
 2.わが国では感染症に関するサーベイランスが全国規模で約20年間にわたり実施されてきている.

海外レポート 英国・オックスフォード市における在宅難病患者の地域リハビリテーションサービス・2

地域リハビリテーションに携わるスタッフとその役割—ヘルスサービスに関して

著者: 長野聖

ページ範囲:P.373 - P.375

 地域ケアにおいてリハビリテーションを担う専門職として,理学療法士,作業療法士が存在する.イギリスでは同じ専門職でありながら,病院に勤務する者と地域ケアにかかわる者,さらに地域ケアにかかわる者でも,各々の役割が明確に分かれているのが特徴である.本稿ではオックスフォード市で行われている地域ケアサービスのなかで,ヘルスサービスにかかわるリハビリテーション専門職の現状を紹介する.

地域保健関連法規とその解釈・5

医療法・1

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.376 - P.377

 わが国の医療体系の根本規範である医療法は,戦後間もない昭和23年に制定された.この法律は,病院や診療所の定義,病院の種別,医療現場の管理体制,構造設備基準,診療標榜科目などの医療基準を示すなどの医療の提供体制の確保および医療水準の向上を図り,もって国民の健康の保持に寄与することを目的としている.昭和60年の第1次医療法改正以降は,地域医療計画の策定を都道府県に課し,必要病床数(基準病床数)の算定に見られるように,医療の総量規制的な特色が今日的意義として見られる.また,医療監視や保健の内容も取り入れた地域保健医療計画が策定されるなど地域保健業務とも関連する法律である.
 制定当初の性格と現在ではかなり異なってきたが,医療提供体制の変化なども踏まえこの法の意義および課題を解説したい.

公衆衛生院からの発信・16

特別課程 細菌・ウイルスコース

著者: 西尾治 ,   伊藤健一郎

ページ範囲:P.378 - P.379

コースの目的
 地方衛生研究所・保健所の微生物担当者は病原体の分離・同定が主業務である.ポストゲノムやIT革命といわれるように技術の進歩が早い現代では,現任者の卒後教育として体系的な感染症理論や新しい知識・診断技術の習得が不可欠である.本コースでは実習を多く取り入れ,診断法の基礎から最新の技術を習得させるとともに,基礎感染症学から病原体各論までの知識を与え,IT技術による迅速な感染症対策に寄与できる人材の養成を目的としている.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 石川県石川中央保健福祉センター

急がばまわれの人づくり

著者: 宮下基子 ,   和田秀樹

ページ範囲:P.380 - P.381

 「ノーマライゼーション」の言葉が社会に浸透するとともに,一般の人々の障害者への考え方も大きく変わってきました.しかし,精神障害者に対しては,依然として理解不足からくる偏見が強く残っています.石川県では精神障害者への理解と地域支援強化を目的として,平成8年度より県下すべての保健所でメンタルヘルスボランティア育成事業(以下,メンボラ事業)という「人を育てる」事業を実施しています.
 メンボラ事業は育成講座と活動講座の2本立てで,その後の修了生によるボランティア活動も,継続的に保健所が支援しています.受講生には児童民生委員や婦人会会員など,地域のキーパーソンが多く,その後の地域啓発の大きな力となっています.例えば,修了生によるボランティアグループ「たんぽぽの会」が,毎年メンタルヘルスに関する講演会を自ら行ったり,平成11年度には保健所に代わって,自分たちでメンボラ講座を開催し,新たな仲間を育成するなど活躍しています.

公衆衛生のControversy 公衆衛生看護か地域看護か

公衆衛生看護か地域看護かの議論に向けて/公衆衛生看護である

著者: 平山朝子

ページ範囲:P.382 - P.383

 表題が議論の対象となるのはなぜか.保健婦士が本来の専門性を見失うことなく,住民への責任を果たしてほしいと願う人の問いかけであろう.免許にかかわる教育内容は,保助看法の学校養成所指定規則に最低基準が示されている.筆者は,平成元年改訂にかかわって「公衆衛生看護学」として体系化の作業をした.しかし,その後平成8年改訂の現行基準では,地域看護学に変更されているので,この議論は大学だけの問題ではない.筆者の立場を考え,大学教育に限定しておく.

福祉21茅野 住民参加の地域ケアシステム・5

茅野市とデンマークの高齢者社会サービスの相違点

著者: 吉澤徹

ページ範囲:P.384 - P.388

 私は昨年4月から7月までの3カ月間デンマークで高齢者の在宅ケアを研修する機会を得た.高齢者とともにケア付き住宅に住み込み,ホームヘルパーや訪問看護婦に同行するなかで多くのお年寄りや福祉スタッフと触れ合い,世界最高水準の高齢者ケアの実際を見ることができた.これまでデンマークと日本の福祉制度の比較は数多く報告されている1,2)が,今回は私が見聞したデンマークの福祉制度と茅野市の現状を比較しながら,私たちの選択すべき方向について検討してみたい.

活動レポート

地域保健の情報化推進の取り組み

著者: 大江浩 ,   吉田智子 ,   松倉知晴 ,   前波和子

ページ範囲:P.370 - P.372

 富山県では平成10年7月,保健所再編により各保健所に企画調整班が新たに設置され,情報化の推進を担当しているが,LAN整備を機にインターネットの活用促進について検討した.平成12年度版通信白書によると,インターネットは携帯電話を上回るスピードで普及し,平成11年のわが国のインターネット人口は約2,706万人,世帯普及率は19.1%に上るとしている.保健医療福祉分野でも各機関のホームページの公開や電子メールの利用が急速に進んでいる.これらを踏まえ,インターネット関連の情報化推進の取り組みについて報告する.

シリーズ 老人保健法にもとづく第2回機能訓練事業全国実態調査報告

〈介護保険制度開始直後調査(平成12年7月)〉1.機能訓練事業を中止した理由

著者: 澤俊二 ,   大田仁史 ,   岩井浩一 ,   安岡利一 ,   大仲功一 ,   伊佐地隆

ページ範囲:P.389 - P.392

 われわれは,介護保険制度開始前の平成10年7月,機能訓練事業実施施設に対する全国アンケート調査を実施し,現場の現状と意識を12回にわたって報告した(63巻4号〜64巻3号参照).91%の施設が機能訓練事業の必要性を実感しながらも,介護保険制度開始後の事業内容の変化を予測していた.その後,厚生省からの通達により,介護保険制度開始後はA型→B型への移行を積極的に進める,すなわち,介護保険制度で寝たきり度A〜Cを対象にし,機能訓練事業でJランク虚弱老人を対象にしてゆく役割分担が打ち出された.平成12年4月1日より介護保険制度が開始されると,あちらこちらからA型の継続が困難になったとか,対象者の減少が著しいとか,厚生省の方針は40〜64歳までの様々な疾患と障害を持つ利用者を切ることになるとか,とまどいの声が聞こえだしてきた.
 そこで,平成12年7月,前回調査で有効回答を得た機能訓練事業実施施設に開始後の変化と展望について緊急アンケート調査を実施した.介護保険制度がどう影響を及ぼしているのか,機能訓練事業の動きとそのあり方を含めて,前回の結果と比較しながら3回にわたって報告する.

調査報告

滋賀県内の病院における腎臓移植に対する考え方

著者: 嶋村清志 ,   籔内尚子

ページ範囲:P.393 - P.398

 平成9年10月16日の臓器移植法の施行を受けて,脳死下での臓器移植が開始され,医療現場の意識も変遷していくことが予想される.
 そこで,法施行前の医療現場の状況を事前に把握しておく必要があると考えられたことから,滋賀県内の59全病院の院長,婦長,医師および看護婦を対象に腎臓移植に関する考え方について調査を実施したので報告する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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