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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生65巻6号

2001年06月発行

雑誌目次

特集 放射線被曝のアセスメント

生活環境中における放射線(能)

著者: 出雲義朗

ページ範囲:P.404 - P.408

 原子力発電所など原子力施設の大事故や核爆発実験による環境汚染などが身近な問題として話題にでもならないかぎり,日常の生活(環境)において放射線に常時さらされていることや,やや誇大して言えば生命は誕生以来,地球環境の放射線にさらされ続けながら進化してきたことなど,考えることはあまりない.私たちは被曝を五感に感じとることはできないし,また,被曝による影響を感じてはいないからであろう.しかし,微量ないしごく微量ながら被曝の点で私たちは,実に多くの放射線とかかわっている.しかも,その大部分は事故や核爆発など,人為的に発生させた放射線や放射性核種(以下,人工放射線)ではなく,もともと自然界に存在(賦与)していて被曝は避け難く,普段私たちにはあまりなじみがない放射線や放射性核種(以下,自然放射線)による.本稿では,これら放射線(能)と被曝とのかかわりを中心に,放射線(能)の線源,環境中の存在,被曝線量,被曝の防護などの概要につき述べる.なお,環境中,温泉,居住の環境および飲食物についてはそれぞれの項で述べられる.

食品・飲料水の放射能

著者: 白石久二雄

ページ範囲:P.409 - P.412

食品・飲料水の放射能レベル
1.自然放射性核種と人工放射性核種
 放射線を放出する放射性核種はその発生源から二つに分けられる.“自然放射性核種”と“人工放射性核種”で,社会的に問題になるのは主に後者である.また,放射能とは放射線を放出する元素(物質)の能力を意味するもので,単位としてベクレル(Bq,毎秒当たりの壊変数)を用いる.放射性核種としては約1,000種が知られているが,現在,日本人の“摂取”に関連して30種程度の放射性核種が研究対象となる.

温泉の放射線

著者: 堀内公子

ページ範囲:P.413 - P.416

 19世紀の終わりに発見された放射能は自然界のいろいろなところに存在することが確認され,1903年には温泉水中のラドンの計測が行われた.温泉地域はローマの昔から,保養地として人気があった.放射能が発見されてから,温泉が健康に良いのは新しく発見された放射能という不可思議な物質のために違いないと考えられた.そうして世界各地の温泉,鉱泉で放射能を測定するという一大ブームが巻き起こった.しかし次第に冷静になって考えると放射能の高い温泉のすべてが特に優れた療養効果があるとは限らず,温泉の効果はやはりその他の要素を合わせた総合的なものであるということに落ち着いてきた.

住宅におけるラドン

著者: 池田耕一 ,   塩津弥佳

ページ範囲:P.417 - P.420

ラドンとは
 天然に存在する放射性核種は,地球が誕生してきてからこれまでの間普遍的に存在している.現在でも土中や水・大気・食物・人体の中に存在している.ここで取り上げるラドン(222Rn)とは質量数が222で半減期3.824日の希ガスである.ラドンは,天然の放射性核種で約1,600年という長い半減期を持つ226Ra(固体)がα壊変(放射性物質は壊変のたびα,β,γ線などの放射線を放出する)することで生成される.ラドンはさらにα,β壊変を繰り返して,最終的には非放射性の206Pbとなり安定する.

保健医療による被曝のアセスメント

著者: 菊地透

ページ範囲:P.421 - P.424

 医療による放射線の被曝は,人類が放射線を利用しはじめて以来,人間の諸活動における最大の被曝源である.特にわが国の保健医療による被曝状況は,医療被曝大国「日本」といっても過言ではなく,国民1人当たりの医療被曝は,世界の医療被曝の6倍,先進諸国と比較しても2倍程度も高い.なお今後,発展途上国の医療水準が向上すれば,医療被曝は先進諸国のレベルに近づくと予測しており,医療被曝は医療水準の普及・整備の一つのバロメータとも考えられる.
 したがって,医療被曝は放射線診療に伴う必要不可欠な被曝であり,なくすることのできない必要な被曝である.また,医療機関では国民に高い危険性があると思われている放射線特にX線を当たり前のように日常診療において利用しており,保健医療における被曝が患者と医療従事者および公衆にとって,安心できる被曝としての事前の安全評価が重要である.

放射線の防護

著者: 稲葉次郎

ページ範囲:P.425 - P.428

 日常生活をする上で放射線との付き合いは意外に多い.医療などで放射線利用は今日の社会に定着しているということができる.その一方で,放射線を受けると,人体には健康上の影響がもたらされること,特に受ける線量が高い場合には放射線障害が現れることはよく知られており,放射線被曝に対して特殊な関心がもたれている.しかし,人間を含む生物は天然に存在する自然放射線環境の中で生まれ,進化してきた.管理された放射線や日常生活で出会うレベルの放射線を危険視する必要はない.
 ここでは,放射線利用のための放射線の管理,すなわち放射線防護の基本的考え方について,現在世界的に大きな影響力を持つ国際放射線防護委員会ICRPの考え方にならって概説する.

放射線影響の疫学的研究

著者: 清水由紀子

ページ範囲:P.429 - P.433

 ヒトにおける放射線の影響は,被曝後2〜3カ月以内に現れる脱毛,出血,白血球減少などの急性影響と被曝後数年の潜伏期を経て現れる発がんなどの後影響がある.さらに,放射線の影響がその子孫に現れる遺伝的影響がある.下記のような様々の被曝集団について,主に放射線の後影響を調べるための疫学調査が行われている.
1)原爆被爆者集団

視点

子どものこころの保健対策

著者: 上林靖子

ページ範囲:P.402 - P.403

 第二次大戦後,わが国の母子保健は,乳幼児,妊産婦の死亡率の改善と疾病の予防を主たる目標に,保健指導や健康診査を中心に展開し,めざましい成果を上げてきた.乳児死亡率,出生1,000対3,6という数字,乳幼児の健康診査システムは,世界に誇る実績として認められている.
 しかしながら,ことこころの保健については,まだまだ問題が山積している.この4半世紀,都市化と核家族化,少子化,女性の社会進出,高学歴化などが進行した.加えて,近年では,ひとり親家庭で育つ子どもが増加している.こうして子どもが育つ環境は世界でも例のないほど急速に変化してきた.これらの社会的変化を背景に,子どものこころの問題が続発してきた.

連載 疫学 もう一度基礎から・18

臨床疫学—疫学の応用

著者: 中村好一

ページ範囲:P.434 - P.437

■ポイント■
 1.臨床疫学は臨床の現場での疫学の応用である.
 2.臨床疫学の課題として,疾病の自然史の解明,スクリーニングと診断方法の評価,治療方法の評価,臨床の現場における予防活動などがある.

海外レポート 英国・オックスフォード市における在宅難病患者の地域リハビリテーションサービス・3

地域リハビリテーションに携わるスタッフとその役割—ソーシャルサービスに関して

著者: 長野聖

ページ範囲:P.442 - P.443

 ソーシャルサービスにかかわる専門職は,ソーシャルワーカー,ケア・マネジャーに代表されるが,イギリスではヘルスサービスにかかわる専門職と同様に,同じ専門職でありながら,各々の役割が明確に分かれているのが特徴である.本稿ではオックスフォード市で行われている地域ケアサービスのなかで,ソーシャルサービスにかかわる専門職の現状を紹介する.

地域保健関連法規とその解釈・6

医療法・2

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.444 - P.445

 昭和60年に改正された第1次改正医療法により,医療計画の中で医療圏の設定および必要病床数の算定が都道府県に課せられた.法施行前の駆け込み増床が見られたが,医療供給面での病床数の量的規制がこれによって達成されることになった.しかし,その後数次の改正を経て医療法は現在に至っているが,医療法の今日的意義および将来の課題はどこにあるのだろうか.

公衆衛生院からの発信・17

水道工学

著者: 国包章一

ページ範囲:P.446 - P.447

コースの概要
 水道工学コースは,地方公共団体などの水道関係部局において,水道施設の計画,設計,運転,維持管理,水質監視,ならびにこれらに関する指導監督などの業務に従事する専門技術者を対象としている.本コースでは,水道工学の基本から最新の技術に関する専門知識と併せて,広く水環境全体を視野に入れた総合的な観点から,水道の浄水処理や水質管理に関する知識が修得できるようカリキュラムを設定している.
 本コースの開催は毎年1回6週間で,その内訳は,講義が約3週間,特別研究が約2週間,実地見学およびその他が約1週間である.また,定員は20名であるがほとんどいつもこれを超える応募があり,特に支障がないかぎり応募者をそのまま受け入れている.受講者は,例年,水道の水質管理に携わる者など水道事業に従事する者が半数以上を占めており,その他は,都道府県の水道行政担当部局,保健所,衛生研究所などの職員となっている.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 石川県石川中央保健福祉センター

学校保健と地域保健が手をつないだ生活習慣病予防対策

著者: 田中孝子 ,   寺下謙三

ページ範囲:P.448 - P.449

 生活習慣病の予防は小児期から行う必要がありますが,実行のためには種々のハードルがあり,中でも特に学校保健との連携は難しいといわれています.石川県では平成11年度予算で,厚生部と教育委員会が学童に対する健康教育をそれぞれ独立に企画したところ,財政課から一本化して行うよう指示があり,思いがけず両者が本格的に手を組んだ事業が誕生しました.
 当センターは,各医療圏ごとに一つ選ばれたS小学校と連携して児童とその保護者を対象に様々な試みを行いました.事業の概略は,図1のとおりで,事業の担当はそれぞれに分かれていますが,実際には学校と保健所が協力して行いました.

公衆衛生のControversy 個別健康教育に展望はあるのか

個別健康教育への期待/個別健康教育に展望はあるのか

著者: 坂田清美

ページ範囲:P.450 - P.451

個別健康教育の歴史的位置づけ
 昨年度から老人保健事業の中に個別健康教育が導入された.市町村は戸惑いながら効果的な個別健康教育のあり方を模索している.感染症が主要疾患であった時代には,医療といえば医師や医療スタッフによる治療が中心で,健康教育は従属的な位置づけであった.感染症が克服され生活習慣病が主要な疾患になった現在,優れた降圧剤や高脂血症治療薬の登場にもかかわらず,生活習慣の改善は疾病の発生を防ぐ上で最も重要な課題となった.従来の健康教育は,集団を対象としてなされることが多く,一方的な知識の伝達に終わる現象がみられた.生活習慣はその人個人の成育歴,仕事,家庭生活などにより,長期間かけて確立されており,その改善は容易ではない.老人保健事業における個別健康教育は従来の健康教育の欠点を補い,個々人の生活,仕事に併せて,個別の改善プログラムを提供し,個人の生活習慣改善に寄与しようというものである.

福祉21茅野 住民参加の地域ケアシステム・6

町が変わる,諏訪中央病院が変わる

著者: 鎌田實

ページ範囲:P.453 - P.458

 先週,週刊誌の仕事で藤原新也というカリスマ写真家と対談をした.写真家というよりは詩人といったほうがいいかもしれない.ぼくは,死の思想家だと思って,あこがれを持って彼の作品を見てきた.彼の代表作のひとつ,『メメント・モリ(死を想え)』という作品のなかで,ガンジス河のほとりに置かれた人間の死体を犬がむさぼり食べている写真を撮り,そのキャプションに,「人間は犬に喰われるほど自由だ」という痛烈なセンテンスを載せて,社会にセンセーショナルな話題を投げかけた.
 世の中が表面上,清潔で画一化していく社会のなかで,この一枚の写真はいろいろな人々の心を揺さぶった.

シリーズ 老人保健法にもとづく第2回機能訓練事業全国実態調査報告

〈介護保険制度開始直後調査(平成12年7月)〉2.介護保険制度と機能訓練事業重複者への対応

著者: 澤俊二 ,   大田仁史 ,   岩井浩一 ,   安岡利一 ,   大仲功一 ,   伊佐地隆

ページ範囲:P.460 - P.463

 平成12年7月に介護保険制度開始直後の機能訓練事業実施施設に対する全国アンケート調査を実施し有効回答1,817(53.6%)を得た.今回は,介護保険制度と機能訓練事業重複者への対応などについて報告する.

活動レポート

看護学生の保健所実習を担当して

著者: 岩松洋一

ページ範囲:P.438 - P.441

 保健所は,看護学生,保健婦学生,医学生,社会福祉系学生などの現場実習の場となっている.当所も看護学生および社会福祉専門学校生の実習を受け入れている.これらの保健医療福祉の学生教育における保健所の果たすべき役割は,専門職となる学生の視野を少しでも広げること,行政機関としての保健所の機能を理解してもらうこと,そして,将来どこで仕事をするにせよ地域とのつながりという視点を持つことのきっかけを作ることではないかと考えている.
 さて,学生実習に関しては,当所では例年,直接担当者として保健婦が対応してきた.しかしながら,担当保健婦の業務上の制限から実習内容が限定されたり,自習時間が増えたりしていた.

報告

保健所医師の感染症発生動向調査に関する意識調査

著者: 土田賢一 ,   渡邉哲

ページ範囲:P.466 - P.471

研究目的
 平成10年10月の感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律(以下,感染症新法)公布により,地域における新たな感染症対策の構築が求められている.新しい時代の感染症対策についての報告書1)では,保健所については地域における感染症対策の中核的機関として位置付けている.そこで,地域住民への感染症に関する情報提供者でもある保健所の医師をはじめとした地域保健関係者が,感染症発生動向調査などの各種感染症対策についてどのような考えを持っているかを明確にすることを目的に,保健所に勤務する医師・歯科医師(以下,保健所医師)を対象として,アンケート調査を行った.

健康危機管理の観点からみた中国地方の保健所とその統合組織の分析

著者: 藤本眞一 ,   新村春香

ページ範囲:P.472 - P.477

 疾病構造の変化や少子高齢社会の到来により,行政による保健サービスの提供方法も,保健・医療・福祉の一体的な提供の促進など変化しつつある.そういった社会情勢の中で,都道府県・指定都市などにおける対人分野での保健事業対象者と福祉事業対象者がほぼ同一であることにより,組織を統合したほうが効率的であるとする議論が平成元年ごろから見られ,中国地方の県を中心に保健所と福祉事務所(以下,社会福祉事業法第13条第6項に規定する福祉に関する事務所を,福祉事務所.)の統合を図る動向が見られた1〜4).平成5年4月,広島県は全国で初めて保健所と福祉事務所を統合した.その後,中国地方の隣県(以下,中国5県)の保健・福祉組織はすべて統合された.また平成9年の地域保健法の制定や平成10年の地方分権推進計画の策定5)などにより,地域保健の主体はますます住民に身近な市町村とされるようになり,保健所を巡る制度面での環境も大きく変化していった.一方,保健所は「サービスの供与」よりは,「社会防衛」的機能の信頼維持が重要であると指摘されており6),近年いろいろと話題となっている「健康危機管理」について十分な対応が期待されている.そこで,本稿では中国5県に注目し,各県ごとに保健所およびその統合組織の現状を調査し,「健康危機管理」の観点から,統合組織の長(以下,センター長)や保健所長の権限を分析し,統合組織の機能上の問題点などを指摘することを目的とする.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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