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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生65巻7号

2001年07月発行

雑誌目次

特集 21世紀の地域歯科保健の展開

21世紀の地域歯科保健の展望

著者: 尾崎哲則

ページ範囲:P.484 - P.487

 昨年の3月に「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」が策定され,4月から運動が展開されている1〜3).この健康日本21には,「歯の健康」がその各論の一つとして取り上げられており,歯科保健を担当している者にとっては,一つの大きな目標となっているし,順次発表されてきている都道府県計画の中にも歯科保健目標が策定されている.この健康日本21には,地域歯科保健では従来あまり掲げてこなかったフッ化物入り歯磨剤の使用や喫煙と歯周疾患の関係などまで示し,広い観点から国民の歯科保健の目標を設定していると考えられる.

東京都における「西暦2010年の歯科保健目標」

著者: 森律子

ページ範囲:P.488 - P.492

 東京都では,都民の歯と口腔の健康づくりを推進するため,平成5年(1993)に初めて具体的な数値目標として「西暦2000年の歯科保健目標」を設定し,各種の歯科保健医療対策を進めてきた.
 21世紀を迎えるに当たり,従来の歯科保健目標の達成度評価と今後の歯科保健目標の設定について検討が行われ,昨年8月に「西暦2010年の歯科保健目標の提言と西暦2000年の歯科保健目標の達成度評価」(東京都歯科保健対策推進協議会報告書)がまとめられた.
 本稿では,その内容を検討の経緯について概説する。

大阪府における地域歯科保健推進のための具体的な取り組み

著者: 今西秀明

ページ範囲:P.493 - P.496

 大阪府では,「21世紀における国民健康づくり運動」(以下,「健康日本21」)を踏まえ,日本医師会坪井栄孝会長の提唱する健康投資(注1)を実践すべく,1次予防に積極的に取り組むとともに,健康を支える社会的な環境づくりを進めている.そして,その先鞭を付ける領域の一つに歯科保健の取り組みがあるとの認識で,生涯を通じた歯科保健を推進する種々の取り組みを実施している.
 そこで本稿では,大阪府が昭和63年から取り組んできている生涯歯科保健推進事業や大阪府および府内市町村における歯科(口腔)保健推進体制を中心に報告させていただきます.

20世紀に学ぶ21世紀の地域の歯科保健—岩手の食文化を新しいパラダイムで生かす

著者: 田沢光正

ページ範囲:P.497 - P.500

 20世紀の四半世紀を,岩手に暮らしながら,大学の口腔衛生学教室,保健所,県本庁での勤務,また,いくつかの自主グループの活動を通じて,歯科疾患の疫学研究,健康教育,歯科保健対策の立案,ネットワークづくりなど,様々な歯科保健活動にかかわってきた.これらの経験から,21世紀における地域の歯科保健では,「かつて良好な歯科保健状況をもたらしていた地域の食文化」を,ヘルスプロモーションや地元学をはじめとする新しいパラダイムによって生かしていくことが有効な方法の一つではないかと考えている.以下に私見を述べてみたい.

近未来における口腔保健対策

著者: 鶴本明久 ,   宮武光吉

ページ範囲:P.501 - P.505

 「健康日本21」は,かなり具体的な目標値と達成のための方策をもった「健康づくり」運動である.歯の健康においても同様で,ライフ・ステージごとになすべきことが詳細に指示されている.しかし,最終目標はともかくとして,地域の現状に応じて,また科学的な評価と根拠に基づいて内容を変更するというのも「健康日本21」運動の原則のひとつのように考える.つまり,地域の歯科疾患とそれにかかわっている多方面の要因を診断し,その診断に基づいて最も有効な予防手段の選択と効率的な応用を計画することでもある1).ここでは,歯科疾患における疾病構造の変化,その変化に対応した予防対策の必要性,そして,現在応用されている歯科疾患,特にう蝕に対する予防方法の現状と将来について述べてみたい.

地域歯科医師会の取り組み—歯科医療連携(特に障害者,エイズについて)

著者: 森岡俊介

ページ範囲:P.506 - P.509

 東京都において,都民が必要とする基本的な歯科医療提供体制については,人口10万人あたりの歯科診療所数は島しょ地区以外,全国平均を大きく上回っていること,また,成人都民の約65%が「かかりつけ歯科医」を決めている(「保健医療に関する世論調査」による)と回答していることからも,ほぼ確保されているといえる.
 しかしながら,障害者,要介護高齢者あるいはエイズをはじめとする感染症患者の歯科診療体制については,都内すべての歯科医療機関で対応できるわけではなく,また,その情報も決して十分とはいえない.

厚生行政の立場から21世紀の歯科保健を考える

著者: 瀧口徹

ページ範囲:P.510 - P.513

 今回の特集における「国として,21世紀に自治体(都道府県,政令市・特別区および市町村)による歯科保健の展開にはどのようなことを期待するか」をテーマに論ずる前にまず現状はどうかということと厚生労働省として現状で何ができるか,また基盤整備などに関して今後何が変動要因となるかなど21世紀初頭の歯科保健の展開を左右する要因を概説したい.

小児期の地域口腔保健を展望する—特に咀嚼機能の育成について

著者: 赤坂守人

ページ範囲:P.514 - P.519

 わが国の地域歯科保健活動は,従来は主にう蝕,歯周疾患など疾病・異常の早期発見・早期治療といった2次予防を目的にした疾病指向の健康診査であった.しかし今日では,歯・口腔領域を含む住民の健康上の問題を2次予防の考え方で対応することは適切ではなくなってきている.そこで生活習慣病という概念が導入され,ライフスタイルの改善を主体とした1次予防,すなわちセルフケアが強調されているが,1次予防の推進のためには,その動機づけを生活習慣の基礎が形成される幼児・学童期に行うことが重要である.そのため,今後は地域における乳幼児健診,保育所(園)・幼稚園の園児健診,学校健診などを通じて,幼児・学童そして家庭・地域に対し,歯・口の健康教育,保健指導を行うことが不可欠かつ重要な課題になっている.
 また近年,育児の多様化,育児情報の氾濫,そして親としての未熟化などが進み,一方では,核家族化の進行,地域の連帯意識の希薄化を背景にして育児に関する社会的文化的伝承が欠如した結果,親の育児不安はますます増大している.そのため,今後の地域での母子保健活動の理念や目標は,少子社会の中で子育てを行う両親への支援と地域づくりを推進していくことにある.

視点

障害児教育とノーマライゼーション

著者: 山本尚子

ページ範囲:P.482 - P.483

 今年4月に,浦安市で生まれ育った知的障害をもつK君が市内の県立高校に入学した.K君が生まれたのは「国連・障害者の十年」が始まって3年目の年.彼が成長した時期は,わが国が「完全参加と平等」の目標を掲げ,長期計画のもとに障害者施策を推進した時期と重なる.それは,市町村の現場,浦安市にとってもノーマライゼーションの理念を地域の中で具現化してきた過程でもある.
 市町村では,母子保健事業を通して妊娠出産から乳幼児期を通じて母子の健康保持にかかわっている.本市でも妊娠,出産の異常についてはほとんど把握され,乳幼児健診の受診率も90%以上と高いことから子どもの心身の発達・発育の異常の多くが2歳になるまでに発見されている.これらの親子には市の保健婦を核にして,療育機関の様々な専門職がかかわり,子どもの障害を親が受容するのを助け,医療やリハビリテーション・サービスを提供し,子どもの可能性を伸ばす生活環境の整備を援助している.

連載 疫学 もう一度基礎から・19

疫学に必要な統計(1)—標本抽出と標本サイズ—研究計画で最も重要な部分

著者: 中村好一

ページ範囲:P.520 - P.524

■ポイント■
 1.疫学研究を行う場合には解くべき課題を設定し,それに基づいて標的集団を定める.
 2.観察対象集団は標的集団の構成メンバー全員とする(全数調査)か,無作為抽出する(標本調査).

福祉21茅野 住民参加の地域ケアシステム・7

座談会 市民参加のまちづくりに向けて

著者: 矢崎和広 ,   土橋善蔵 ,   伊藤美恵 ,   高木宏明 ,   鎌田實

ページ範囲:P.537 - P.543

 鎌田(司会) 「福祉21茅野」がなぜ始まったのかを,まず市長さんにおうかがいします.市長さんとしてはなぜ住民参加,あるいは市民を中心にしたまちづくりをしようと考えたのでしょうか.

海外レポート 英国・オックスフォード市における在宅難病患者の地域リハビリテーションサービス・4

訪問により実施される地域リハビリテーションサービス

著者: 長野聖

ページ範囲:P.525 - P.527

 前号までに地域リハビリテーションサービスにかかわる専門職の現状を紹介した.本稿ではどのような地域リハビリテーションサービスが提供されているのか,理学療法士が実際にかかわっている訪問サービスを中心に紹介する.オックスフォード地域保健トラスト(Oxfordshire Community Health NHS Trust)の需給計画では,人口10万人に対し1人の訪問理学療法士を配置する計画である.オックスフォード市(人口約13.5万人)における1999年2月現在の訪問理学療法士数は常勤1名,非常勤1名である.

公衆衛生院からの発信・18

特別課程住まいと健康・建築物衛生

著者: 池田耕一 ,   鈴木晃

ページ範囲:P.528 - P.529

 大学の建築学科や住居学科の住教育,建築教育が,基本的に建築する側の技術教育であるのに対して,国立公衆衛生院での住教育,建築教育はそれと異なり,居住者の居住支援を目的とした専門家教育である.既に公衆衛生の現場の経験をもつ保健婦や医師,環境衛生監視員などに対して,住生活問題の発見のための視点や問題解決の技術,コーディネートや住教育,建築教育の方法論を提供しようとしている.その成果は,各自治体の保健・衛生行政の取り組みや看護教育における住教育,建築衛生教育に一部反映されてきている.「住まいと健康」問題が,新しい問題を含みつつ深刻化している要因として,住宅市場の変化を指摘することができる.都市部の住宅市場は住宅の商品化の進行に伴い,「つくり手」と「住み手」が直接対面する機会が少なくなった.住んで後の問題を「住み手」から「つくり手」に直接投げかけていたかつての回路は分譲住宅,建売住宅などという市場によって切断されてしまった「住み手」の生活情報を「つくり手」にフィードバックすることは,個別住宅問題や建築物における衛生問題の解決の支援と同様に公衆衛生専門職の重要な役割となっている.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 高知県中央東保健所

学校保健と地域保健との連携

著者: 石川善紀 ,   斉藤麗子

ページ範囲:P.530 - P.531

「学校保健連携強化推進事業」を始めました
 健康的な生活習慣の確立には,学童期からの健康づくりも重要な取り組みの一つであると思われます.当保健所では平成11年度末に管内の小中学校74校に対して保健所からの支援の要望調査を行いました.その結果,約半数の学校から要望を認めたため,平成12年度には「学校保健連携強化推進事業」を開始しました.この事業では,①従来,各課ごとに取り組んできた学校対象の啓発事業の内容を集めてメニュー化(10項目)して学校にPRする,②支援方法を「保健所スタッフによる出前教室の開催」,「教材の貸し出し」,「技術伝達講習会」,「講師や人材の紹介」の4方法に定める,③申請手続きを統一して申請窓口を企画調整課とする,などの整備を行いました.事業の流れは図1のとおりです.
 学校を支援する保健所のスタッフは,医師,獣医師,薬剤師,歯科衛生士,臨床検査技師,栄養士,保健婦,精神保健福祉相談員,環境衛生監視員,事務職と様々な職種です.所内の各課を超えたチームや,市町村や他の関係機関とのチームなど様々なチーム体制で学校へ出向いています.

公衆衛生のControversy 水道水へのフッ素添加の是非について

公衆衛生としての水道水フッ化物添加/現在の日本に必要な対策か?

著者: 高江洲義矩

ページ範囲:P.532 - P.533

 わが国では無機のフッ化物に対して「フッ素(fluorine)」の用語が慣用的に用いられているが,これは国際純正応用化学連盟(IUPAC)による化学命名法に従って「フッ化物」とすることが正しい.water fluoridationは「水道水フッ化物添加」または「水道水フッ化物濃度調整」であり,「水道水フッ素化」は慣用的な呼称であって適切ではない.一方,テフロンなどの合成樹脂や麻酔薬および抗がん剤などの有機のフッ素化合物では,fluorination(フッ素化)であり,fluoridationではない.このことはフッ化物応用が普及している今日では重要な問題である.実際にわが国の科学論文で,日本語は「フッ素(fluorine)」とし,英語では「fiuoride(フッ化物)」と書き換えている研究者が多い.21世紀に入った現在,科学的な認識を新たにして用語の使い方を大事にすべきである.
 わが国でフッ化物にかかわるcontroversyが出てくる背景には,この用語から極端なバイアス(偏見)を駆りたていることも見過ごせないことである.「水道水フッ化物添加」に関して“公衆衛生のcontroversy”についての解説ということであるが,まず,結論から先に言えば,水道水フッ化物添加は現在約60カ国3億6,000万人の人口規模で実施されているむし歯(う蝕)予防方法であり,その基本的な方法は永遠に続けられていく公衆衛生的施策である.

地域保健関連法規とその解釈・7

精神保健福祉法・1

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.534 - P.536

 明治以来,精神医療体制の整備が進められ,近年その活動はこころの健康づくりをはじめとする予防活動からさらに福祉領域にも施策の対象は広がってきた.
 精神保健福祉の目的は患者が社会生活できるための支援を行うとともに,健常者も障害者も偏見なく生活できる環境を整備することであり,地域保健にも密接に関係している.

シリーズ 老人保健法にもとづく第2回機能訓練事業全国実態調査報告

〈介護保険制度開始直後調査(平成12年7月)〉3.今後の機能訓練事業のあり方(自由意見)

著者: 澤俊二 ,   大田仁史 ,   岩井浩一 ,   安岡利一 ,   大仲功一 ,   伊佐地隆

ページ範囲:P.544 - P.548

 平成12年7月に介護保険制度開始直後の機能訓練事業実施施設に対する全国アンケート調査を実施し有効回答1,817(53.6%)を得た.最終回は,機能訓練事業に関する自由意見をまとめて報告する.

海外事情 From Abroad

西アフリカ・ガーナにおけるブルーリ潰瘍の流行

著者: 福西征子 ,  

ページ範囲:P.549 - P.553

 ブルーリ潰瘍とは,摂氏42度で抗酸菌培地に増殖するMycobacterium ulcerans1〜7)を病原菌とする慢性感染症である.結核,ハンセン病に次ぐ抗酸菌感染症といわれ,近年,西アフリカや中央アフリカ1〜4),およびオーストラリア5,6)などの国々,特に熱帯,亜熱帯の湿地帯で感染が蔓延している.
 ブルーリ潰瘍は,1948年にオーストラリアのMacCallumによって,抗酸菌感染症として初めて報告された8).それ以前は1897年にSir Albert Cookが報告した「大きな皮膚の潰瘍」が,これに相当すると考えられている.

報告

地域精神保健福祉活動における保健所と市町村の役割—保健所管内の市町職員および県職員への調査を通して

著者: 寺添千恵子 ,   野田順子

ページ範囲:P.554 - P.559

 平成5年に障害者基本法が,平成7年には精神保健福祉法が成立し,地域精神保健福祉活動における市町村の役割が示された.また,平成10年には精神保健福祉法に関する専門委員会報告書1)のなかで,基本的な施策の方向性を「従来の都道府県単位での医療保健福祉制度ではなく,より生活に密着した単位で施策を進めることが必要である」とし,加えて平成11年の精神保健福祉法の改正では,平成14年4月から精神障害者在宅福祉サービスを市町村が主体となって行うこととなった.
 今後市町村と保健所が地域の課題を共有し,共通の目標に取り組めるようにするためにも,精神保健福祉施策に関する双方の考え方を明確にすることは重要であると考えた.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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