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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生65巻8号

2001年08月発行

雑誌目次

特集 市町村の保健と福祉の専門職

市町村の保健と福祉を支える人たち—マンパワーの課題

著者: 塩飽邦憲 ,   山根洋右

ページ範囲:P.564 - P.568

保健福祉が直面するもの
 日本人の健康状態は良いのだろうか,保健医療福祉サービスはうまく働いているのだろうか.WHOは,日本人の寿命,健康状態,保健医療福祉サービスは良好と評価している1).しかし,新聞を見ると,青少年による暴行,保険金目当ての殺人,幼児虐待,不登校・引きこもりなど,暗いニュースばかりである.テレビでも健康番組が高視聴率を稼ぎ,番組で商品が取り上げられるとあっという間に売り切れる.がんや老後の不安につけ込んだ生命保険や健康グッズの宣伝が1日中放映されている.健康と暮らしに不安を抱えていないと日本人でないかのようにさえ思えてしまう(図1).
 マスメディアで報道される健康と暮らしの不安は,急速な少子高齢化,核家族化,コミュニティの崩壊,生活習慣病や社会関連疾患の増加を如実に示している.日本国中に広がる健康と暮らしの不安に,コミュニティに最も近い市町村の保健福祉に携わる人たちはどのように対応しているのであろうか.

行政マンにとっての保健と福祉

著者: 田中実

ページ範囲:P.569 - P.572

最上町の概要
 東北新幹線古川駅で下車,JR陸羽東線に乗り換え,さらにトンネルや谷川に架かるいくつもの鉄橋を通過すること約2時間,奥羽山脈の山岳丘陵に囲まれ,のどかな田園風景が広がる小国盆地,ここが筆者が住む最上町である.冬の長くて厳しい試練からやっと解放され,延々と連なる神室連峰の山々が濃淡の緑一色に染まる春から初夏にかけてが,最上の地で暮らす者にとって,一年中で一番心が安らぐと同時に,地域全体が躍動しはじめる瞬間でもある.
 当町は,山形県の東北部に位置し,宮城・秋田と隣接する農林業と観光(温泉)の町である.平成13年4月1日現在の人口が11,700人,高齢化率は26.6%と高く,少子化・高齢化・過疎化と常に戦い続けている町である.清流「小国川」と四季折々に醸し出す大自然はまさに絶景であるが,自然の恩恵も多い地域である反面,冬期間は日本海特有の気象環境の極めて厳しい地域でもある.

市町村の保健婦にとって何が課題か

著者: 笹谷志げ子

ページ範囲:P.573 - P.575

 昭和52年に国保保健婦から市町村保健婦に身分が移管されて,四半世紀を経過しようとしている.
 身分移管前は,国保被保険者世帯の全戸訪問,また,長野県の特徴ともいえる住民組織を設置し,住民と行政が育て合いながら公衆衛生活動を進めてきた経過があり,常に住民とともに予防活動に取り組んでいるという実感を持ちながら活動していた.その後も老人保健法が施行されるまでは住民との関係や活動の方法に変化はなかった.

市町村理学療法士の展望—大東市の地域リハビリテーション活動を通して

著者: 山本和儀 ,   伊藤晴人

ページ範囲:P.576 - P.579

 介護保険制度が導入され,高齢者に対するサービスのあり方も大きく変化し,それに伴い従来から実施されてきた老人保健事業の位置づけも少なからず変化してきています.
 大阪府大東市では,老人保健法が制定された昭和58年(1983)以前より高齢者に対する地域リハビリテーション(以下,地域リハ)活動を展開してきました.具体的には,昭和54年(1979)の「老人憩の家」開設に伴い,老人福祉法に基づき現在の機能訓練事業に相当する事業を開始し,必要に応じて訪問指導(訪問リハビリテーション)も実施してきました.

市町村の作業療法士の展望

著者: 慶徳民夫

ページ範囲:P.580 - P.584

 1965年(昭和40)の理学療法士及び作業療法士に関する法律公布から36年が経過した.作業療法士は心身障害者のリハビリテーションにかかわる国家資格の専門職種として成長を続け,現在では有資格者数が17,000人を超えるまでになった1).1999年度の(社)日本作業療法士協会会員統計資料2)によると,会員の平均年齢は31.1歳,資格取得年別会員数を10年前の1989年と比較してみると約2.8倍増となっており,近年になっての著しい伸びを示唆している.この一因として,地域における訪問リハビリテーションサービスが拡大されてきたことなど,障害者などの自立支援の担い手としての需要が高まっていることが挙げられる.また,近年では医療機関だけでなく,行政職として働く作業療法士の活動も散見されるようになってきた.
 本稿では,福島県須賀川市における市作業療法士の業務を一例に挙げながら,市作業療法士の現状を報告した上で,その活動の効果と課題を整理し,今後の市町村の作業療法士のあり方について展望したい.

介護支援専門員(ケアマネジャー)への期待

著者: 車谷典男 ,   東裕子

ページ範囲:P.585 - P.588

 最初に介護支援専門員の登場の背景を述べ,現状と職務を概括した上で,期待と課題を述べてみたい.

市町村の公衆衛生医の役割と展望

著者: 國枝寛

ページ範囲:P.589 - P.591

 もうずいぶん年月が経過してしまったが,平成7年,私が県型の保健所長を辞して市役所へ移籍した当時,若干話題にもなり,話題性といった点で県内だけでなく県外からも講演依頼をいただいた時期があった.その中でどこでの講演だったかよく覚えてないが,ある保健婦から印象に残る質問を受けたことがあった.一言一句は覚えていないが,内容は「医者もいいが自分たち保健婦が今まで築き上げてきた保健センターをこれからも自分たちの考えでやっていってはいけないのか?」というものであった.もっと保健婦を信じてくれという意味であったと思う.
 この質問がすべての保健婦の考えを表しているとは思わないが,私はあくまでも一緒にやっていこうと考えていたわけであったし,もし保健婦を信じていないなら市への移籍は考えなかったと思う.逆に私は15年間在籍した県で,保健婦に対して批判的な立場をとる人たちと一線を隔した立場をとっていたので,なんとなく裏切られたような残念な気持ちを禁じ得なかった記憶がある.

保健婦活動の現状と育成課題

著者: 星野ゆう子 ,   山多美代子 ,   弘中千加

ページ範囲:P.592 - P.595

保健婦の活動
 保健婦・士(以下,保健婦)は,地域保健活動を推進していく中核的な人材として様々な分野の担い手である.
 昭和58年度より老人保健法に基づく保健事業の実施,平成9年度からの母子保健法の改正,また12年度には介護保険法の施行,老人保健法による4次計画,介護予防・生活支援事業が実施された.さらに14年度からは精神保健福祉法の一部改正により居宅支援事業などが実施される.

視点

歴史を紡ぐ男と女

著者: 潮谷義子

ページ範囲:P.562 - P.563

考えすぎ?
 ちょっと面白い発見をした.それは,「思いやり」という言葉に関してのことである.夫は日本語と英語両方のニューズウィーク誌を購読していて,私はもっぱら日本語版をナナメ読みするのが常である.ブッシュ氏が大統領に就任した時の演説に「弱者に思いやりを」というフレーズがあった.一方,女性フェニミズムにかかわったアメリカの女性たちによる「希望する社会とは思いやりが生かせる社会の実現に女性が貢献できること」というフレーズがあった.たまたま同時に目にしたこの二つの「思いやり」という文言に魅かれて英字をたどってみた.ブッシュ氏のほうは,compassion,後者の表現はcareとなっていた.そこには共通して「他を思う」という意味合いがあるものの,行動を伴うか否かの違いを感じ取ることができる.少し理屈っぽいが,同情や憐れみのニュアンスの思いやりよりも,実際に行為を通して他を省み,自分の能力を用いる生き方に女性が充実感を抱く姿に共感を抱いた.また,この使い方に「性差」を覚える,と思うのは考え過ぎだろうか.はたまた,アメリカにも旧来からの社会制度・慣行・ライフスタイルなどの影響が言語にもジェンダー形成をしている由縁だろうか.

トピックス

健康日本21市町村地方計画策定の展望と課題

著者: 工藤啓 ,   佐々木裕子 ,   右田周平 ,   荒井由美子

ページ範囲:P.596 - P.600

 健康日本21が昨年からスタートし,現在は各都道府県で都道府県版地方計画が策定されている段階である.都道府県地方計画については策定が義務とされる一方で,市町村版の健康日本21地方計画は努力目標とされている.もともと地域保健法では市町村が直接的な対人サービスの要であることから,市町村でこそ地方計画の策定が望まれるのであるが,地方計画策定の取り組みは市町村間でまだばらつきがある.このばらつきの原因の一つは,市町村における策定方法論が確立してないことである.そこで,本稿ではいち早く市町村版の地方計画を策定した事例を実際に取り上げながら、策定方法についての知見を述べてみたい1)

連載 疫学 もう一度基礎から・20

疫学に必要な統計(2)—推定と検定—検定よりは推定を

著者: 中村好一

ページ範囲:P.602 - P.607

■ポイント■
 1.データをわかりやすく提示する記述統計のほうが,分析統計(推定や検定)よりも重要である.
 2.検定よりは推定のほうが意義が大きい.

福祉21茅野 住民参加の地域ケアシステム・8

座談会 市民参加のまちづくりに向けて・2

著者: 矢崎和広 ,   土橋善蔵 ,   伊藤美恵 ,   高木宏明 ,   鎌田實

ページ範囲:P.620 - P.627

 鎌田 昨年の4月から介護保険が施行され,そのうたい文句がこの1年でどう展開されたかについてお聞きします.
 女性が担ってきた介護を社会的介護にしようというのが介護保険のうたい文句の一つですが,高木先生,この点はどうですか.

海外レポート 英国・オックスフォード市における在宅難病患者の地域リハビリテーションサービス・5

施設における地域リハビリテーションサービス

著者: 長野聖

ページ範囲:P.609 - P.611

 前号に引き続き地域リハビリテーションサービスのなかで,理学療法士が実際にかかわる施設サービスについて,その概要を紹介する(図).また,難病患者に対するケアのうち,装具,自助具などの提供は重要なサービスのひとつであるが,難病患者を含めた重複障害をもつ患者に対して車いす,座位保持装置,特殊な自助具・装具を評価,作成している施設についても紹介する.

地域保健関連法規とその解釈・8

精神保健福祉法・2

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.612 - P.613

 先日,大阪教育大学附属池田小学校で起こった悲劇は,精神障害者対策について国民的な議論を巻き起こしているが,今回の事件も踏まえながら地域の精神保健福祉活動と法律の問題について考えてみたい.

公衆衛生院からの発信・19

医療放射線監視

著者: 山口一郎

ページ範囲:P.614 - P.615

医療監視とは
 医療監視は,医療機関が医療法その他の法令により規定された人員および構造設備を有し,適正な管理を行っているかを検査することで,医療機関を科学的で,適正な医療を行う場にふさわしいものにすることを目的としている.医療の質の保証のあり方には様々な議論があるが,医療監視は,行政機関が医療法の遵守状況を確認するため系統的に医療現場に入ることができる唯一の制度であり,これまで一定の役割を担ってきた.
 医療監視は医療監視員によって行われる.医療監視員は,都道府県知事あるいは保健所を設置する市の市長や特別区の区長によって任命される.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 高知県中央東保健所

「ひがちゅうサマーフェスタ」の取り組み

著者: 石川善紀 ,   中澤秀夫

ページ範囲:P.616 - P.617

 当保健所では関係者のネットワークづくりと地域に根ざした保健所の運営を目的に平成11年度から「ひがちゅうサマーフェスタ」を開催しています.「ひがちゅう」とは中央東のニックネーム.学校が夏休み中の1日,地域の子どもたちや管内の市町村の方々の熱気で庁舎内は活気づいています.

公衆衛生の Controversy 遺伝子組換え食品は安全か

遺伝子組換え食品は安全性評価/遺伝子組換え食品の安全性とメリットは,もっと吟味されねばならない

著者: 三木朗

ページ範囲:P.618 - P.619

 現在,厚生労働省においては,組換えDNA技術を用いて作られた植物(農作物)および組換え体からつくられた添加物を対象として,「組換えDNA技術応用食品・添加物の安全性審査基準」に基づき,科学的に安全性審査を行っている.従来,これらの食品などについてはガイドライン(行政指導)による評価を行ってきたが,平成13年4月1日からは食品衛生法に基づく義務となったものである.
 審査の手続きとしても,申請者(開発者であることが多い)は,審査基準の各項目について記載したデータなどとともに申請書を提出し,この申請を受けた後に,厚生労働大臣から薬事・食品衛生審議会に諮問し,審議会の意見を聴きながら,安全性審査を行うもので,この過程において,植物バイオや毒性,アレルギーなどの専門家による最新の知見に基づくデータの評価が行われている.当然のことながら,データに不明な点があれば申請者に照会し,回答を求めるとともに,不十分な場合には必要に応じた追加試験や再試験の実施を求めている.この審査基準に基づき,現在,除草剤の影響を受けない大豆やとうもろこしなど35品種の食品および7品目の添加物について,人の健康に影響がないことを確認している.

海外事情 From Abroad

ブラジルにおける日系高齢者の生活に関する調査研究

著者: 井ノ上俊介 ,   大山慶子 ,   田口徹也 ,   柳修平

ページ範囲:P.628 - P.633

 この報告は1996年から1998年にかけてサンパウロ州,北パラナ,サンタ・カタリーナ州,リオ・グランデ・ド・スール州において日系高齢者の生活の実体について調査したものである.われわれは本報告で,今後ますます問題になるであろう日系高齢者の保健,医療,福祉に焦点を絞って分析し考察を加えた.
 調査によりブラジル日系高齢者の保健,医療,福祉の現状は極めて難しい社会的環境条件のもとに置かれていることがわかった.そうしてこの現実をとらえ将来の課題と実現を図るべき具体的目標について述べた.

調査報告

路上生活者結核治療の現状—西新宿保健センター管内の実態から

著者: 早川和男 ,   都筑和子 ,   河野弘子 ,   渡邉紀明

ページ範囲:P.634 - P.638

 平成11年6月,公衆衛生審議会から厚生大臣に21世紀に向けての結核対策に関する意見書が提出された1).そのなかで今後の結核対策の方向として,路上生活者(意見書では住所不定者と表現)の結核対策が盛り込まれ,今後DOTS(direct-Iy observed treatment,short-course)を含めた結核対策が実施に向けて検討される予定である.路上生活者の結核対策を検討するにあたってはその治療の実態を理解することが不可欠である.現在,いろいろな方面からの研究がなされ2)情報が蓄積されつつあるが,その実態はまだ十分には把握されていない.
 今回われわれは,路上生活者の結核対策を考えるうえでの基礎資料とするため,新宿区保健所西新宿保健センター管内における路上生活者の治療成績の評価を行うとともに入院中および退院後(外来通院中)の治療がどのように終結するか(以下,治療経過と表現)についての検討を行ったので報告する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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