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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生65巻9号

2001年09月発行

雑誌目次

特集 精神障害者が暮らしやすい地域づくり

地域の人々に支えられて

著者: 広田和子

ページ範囲:P.644 - P.647

 わたしが暮らしている横浜市南区は,人口19万6千人弱で,下町的な雰囲気が残っています.区の中心を大岡川が流れ,川の両側には桜並木が続き,4月はお花見で大勢の人々が集う横浜の名所のひとつです.区のキャッチフレーズは,“南の風はあったかい”.
 区内に住んで約18年,今住んでいる六ッ川地区に移って約12年の月日が流れました.一昨年8月に前の借家から徒歩数分のところへ引っ越しましたが,近くに引っ越したのは六ッ川の街が好きだからです.精神障害者としてカミングアウトし,この街で住民のひとりとして,地域の人々に支えられて生きている姿を精神医療サバイバーと保健福祉コンシューマーの視点で書きたいと思います.

一般ボランティアが支える地域づくり

著者: 藤林詠子

ページ範囲:P.648 - P.651

主婦の軽い思いつき−1枚のちらし
私は精神病院でPSWとして6年間働いた.そしてあこがれの,行動半径100メートルの専業主婦生活も6年目,そろそろ飽きて,3人の育児にちょっとくたびれたころだった.公園の砂場で主婦友だちが「来年この子が幼稚園に入ったら,ボランティアしようかな」と話してきた.「点字,手話,車いす押しとか,わたし,何が向いてると思う?」,「いろいろしてみれば?」私は,“いろいろ”のひとつに手話教室と並んで,精神障害者の作業所見学をすすめた.子連れで見学につきあった
 そのとき,作業所の家族会の方は,「ボランティアもありがたいけど,職員を捜している.でも,つてがなくて困ってる.看護婦をやめた知り合いはいませんか」と言った.看護婦の友人にそのことを話すと「作業所って何?」,「患者さんはよく再入院するけど,外でどんな生活してるの?」と言った.

地域で障害者を支える

著者: 門屋充郎

ページ範囲:P.652 - P.655

 私は公衆衛生の専門家ではない.長く無資格の専門職として精神医学ソーシャルワーカーを名乗りながら,不幸にして精神の病となり精神障害を抱えた多くの人々と出会い,かかわり,彼らから教えられ,励まされ,彼らの求めに大いなる刺激を受け,動機付けられ,彼らのニードを満たすべく活動を続けてきた一人である.私の30年来の精神保健福祉活動は,ただただ,彼らの暮らしを支える条件整備の歴史であった.彼らが市民として生きていくために必要な地域資源作りを中心に展開してきたが,ある時点から,私自身の市民権の必要性を強く感じはじめた.それは自分自身が精神保健福祉分野で役割を果たし,精神障害者により有効に活用されるためには,人的資源としての質を社会的に担保されることが必要と考えるようになった.このことはこの社会にあって精神保健福祉領域に働くソーシャルワーカーとしての国家資格化は欠かせないと考え,資格化に精力的に取り組んでもきた.私は精神保健福祉士が精神障害者の生活を支えるための条件整備の一つとして重要であると考えている.
 振り返ってみると私は大変恵まれた状況にあったと考えている.

ヘルスプロモーションの視点に立った精神障害者のニーズ調査

著者: 宇都宮仁美

ページ範囲:P.656 - P.661

 精神保健福祉に関する法律の整備が進み,精神障害者の自立と社会参加の促進が図られてきている.こうしたなか,精神保健福祉法の改正に伴う平成14年度からの市町村への精神保健福祉業務の一部委譲に向け,保健所は当管内の地域で暮らす精神障害者の実態を明らかにし,市町村をはじめ,関係機関と円滑に連携をとりながら,効果的,効率的に精神障害者への支援を行う必要がある.また,今まで活動や事業を通して,精神障害者の社会復帰を支援してきたが,ニーズとの整合性を図るためにも,効果判定できる明確な指標が必要である.
 そこで今回,プリシード・プロシードモデル(以下,モデル)を用いて精神障害者の自立と社会参加に向けた支援のあり方を検討するため,在宅で生活する精神障害者への実態調査を行ったので,その取り組みの経過を報告する.

精神障害者を支えるシステムづくり—東京都の精神保健の現状と課題

著者: 本保善樹

ページ範囲:P.662 - P.669

 精神保健の領域は,現在国内外で大きく変化しています.具体的には,精神保健関連法規,疫学・精神医学的知見,市民・当事者活動などに相当の変化が生じています.国内では精神保健福祉法が平成11年までに4回改正され,海外では地域生活支援が進み,単位人口当たりの病床数は現在も減少を続けています.精神保健においては,証拠に基づいた政策形成が求められていますが,WHOによると,世界的に精神疾患の社会へ及ぼす影響が,従来考えられていた以上に大きいという証拠が注目され1),一次予防を施策化しようとする試みも始まっています2〜5).他方,障害を持つ方の政策過程への参画が必要と考えられるようになり,障害を持つ人々は,サービスの一方的な受け手から,サービス提供の専門家(プロシューマー;プロフェッショナルコンシューマー6,7))となる動きもみられます.まずは,東京都の現状の紹介から始め,後半で将来のシステムづくりの一端について述べたいと思います.

精神保健福祉センターの役割—市町村支援を中心にして

著者: 白澤英勝

ページ範囲:P.670 - P.673

これまでの宮城県の精神保健福祉活動
 宮城県の地域精神保健福祉活動は1956年に角田保健所で始められ,1970年頃には全保健所で相談・訪問活動が行われている.1975年頃には仙南地域の市町村で保健所の巡回相談を利用しての相談・訪問活動が行われ,次第に市町村事業として取り組まれるようになった.当初,保健所は巡回相談時に保健婦が市町村に出向き,共に相談にかかわったり,必要に応じて同行訪問を行った.また,定例的な事例検討会などを開催し,市町村保健婦の技量育成を積極的に支援した.その結果,市町村単位で家族会,回復者クラブ,小規模作業所などの必要性が痛感され,これらが設置されていった.
 法制度的に十分な裏付けのない段階でこのような先駆的活動が展開された要因として,保健所および市町村保健婦の精神保健福祉に対する熱意,県および市町村行政担当者の前向きな姿勢,さらには県精神保健福祉協会の積極的な支援などがあげられる.

市町村の役割への期待

著者: 松本義幸

ページ範囲:P.674 - P.677

 平成11年の精神保健福祉法の改正により,平成14年度から市町村を中心として精神障害者を支援するサービスを提供していくことになった.
 これは精神障害者の社会復帰を促進し,地域生活の支援を充実させるため,精神障害者の社会復帰対策のうち,身近で利用頻度の高いサービスについては,市町村において利用できるようにするものである.

視点

ジェンダーフリーが個人も社会も健康にする

著者: 水島広子

ページ範囲:P.642 - P.643

 今の日本において私たちの心身の健康を妨げているものはたくさんあるが,その一つが「ジェンダー(gender)」だと思う.
 生物学的な性である「sex」に対して,「社会的に意味づけされた性」を「ジェンダー」と呼ぶわけだが,「男はこうすべき」,「女はこうあるべき」というような価値観とも言えるものである.

トピックス

住まいと健康—建築衛生学

著者: 池田耕一

ページ範囲:P.678 - P.682

 住は衣食と並ぶ生活の3大要素であり,健康で快適な暮らしの実現には,欠くことができない.しかし,医学の分野では食や衣に関する教育に比べ,住に関する教育は極めて不十分である.この原因の一つに,健康で快適な暮らしのための指導を行うべき医学者側の,住に関する理解が十分でないことがある.本稿では,公衆衛生における住教育の重要性を考えるきっかけとして,最近何かと話題になることの多い,いわゆるシックハウス問題などを例にとり,健康な住宅はどうあるべきかなどについて解説する.
 わが国におけるホルムアルデヒドや揮発性有機化合物などの化学物質による住宅などの一般環境室内における空気汚染問題(シックハウス問題)は,極めて大きな社会的関心を呼び,1997年の6月には,当時の厚生省から住宅室内におけるガイドライン値がホルムアルデヒドについて設定された1).また,2000年6月にはトルエン,キシレン,パラジクロロベンゼンのガイドラインについて,9月には,エチルベンゼン,スチレン,クロルピリホス,ブタル酸ジn-ブチルについてもガイドライン値が設定され,さらに「暫定値」とはしながらもTVOC(総揮発性有機化合物)の指針も示されている.このような状況を受け,日本の各業界もこの問題が社会的に知られはじめた1995〜6年頃に比べると,前向きな姿勢で取り組みを開始しているようで,建築物の衛生にかかわる公衆衛生の仕事をしている者としては,一応安堵しているというのが,正直なところである.

連載 疫学 もう一度基礎から・21

疫学に必要な統計(3)—推定の実際(その1)

著者: 中村好一

ページ範囲:P.683 - P.688

■ポイント■
 1.推定とは95%信頼区間を求めることである.
 2.95%信頼区間は「点推定値±1.96×標準誤差」が基本である.

各国の目標管理型健康政策・1【新連載】

ヘルシーピープル—国民健康目標の政策決定過程

著者: 岡村恭子 ,   長谷川敏彦

ページ範囲:P.689 - P.694

 私たち一人ひとりにとって,また私たちの社会にとって,「健康」とは何を意味するだろうか.既に世界最長の平均寿命を達成しているわが国では,健康はもはや従来の「早死」や「疾病」だけでは捉えられない広い分野に及ぶものである(図1).また,介護負担や医療費の増大といった問題が深刻化していることからも,健康を再考する際の鍵は,延びた人生年数をいかにより良く,より健康に過ごすかということである.
 国民の健康を考える際に,疾病予防(disease prevention),健康増進(health promotion),生活の質(QOL;quality of life)といった概念を取り入れ,国民全体で包括的な健康戦略・目標に取り組んでいくという試みが,世界各国で始められている.その草分け的存在である米国の「ヘルシーピープル」政策(正式名称は「健康増進・疾病予防:国民の目標」)は,1980年の誕生から20年を経て現在第3期目を迎えようとしており,2000年1月には「ヘルシーピープル2010」が発表されることとなっている.「ヘルシーピープル」は10年間で達成するべき包括的国家健康目標を掲げ,国民一人ひとりの参加を促すために様々な試みを行っている.

海外レポート 英国・オックスフォード市における在宅難病患者の地域リハビリテーションサービス・6

神経筋疾患患者のケア施設—ビクトリア・ハウス

著者: 長野聖

ページ範囲:P.695 - P.697

 ビクトリア・ハウス(Victoria House)はイギリス南東部に位置する東ケントの都市,マーゲートにある神経筋疾患患者のためのケア施設である.当施設は表題に示す「オックスフォード市」に位置する施設ではないが,難病患者のケアに関して日本と異なる特徴を有するので,あえて紹介する.
 東ケントの人口約60万人のうち多発性硬化症患者は約900人という事実が示すとおり,この疾患の有病率は日本より多い背景から,ビクトリア・ハウス設立時は多発性硬化症患者のための施設であった.ベッド数も約20年前は24床であったが,地域ケアが施設から在宅へ移行している近年の状況に伴いベッド数は減少し,現在11床である.

地域保健関連法規とその解釈・9

母子関連法規・1

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.698 - P.699

 わが国の乳児死亡率などの母子をとりまく健康指標は良好で,近年では世界トップの座が指定席となっている.しかし,戦前は乳児死亡率も高くこれほど劇的に健康改善を成し遂げた国は世界でも例を見ない.現在では,母子関連法規は多々あるが,その時々の時代背景をもとにこれらはいかにして形成され,母子健康指標は改善されていったのであろうか.

公衆衛生院からの発信・20

科学的GMP査察を目指して—薬事衛生管理コース

著者: 森川馨

ページ範囲:P.700 - P.701

GMP,バリデーションとは
 優れた品質の医薬品を製造し,供給し続けることは,医薬品の有効性,安全性に直結する最も重要な課題である.医薬品は生命に直接関係する医療に用いられる重要な使命を持つことから,優れた品質の医薬品を恒常的に生産できる製造プロセスを構築し,そのプロセスを科学的に検証することは医薬品の有効性,安全性と並ぶ最も重要な課題である.さらに現在の急速な科学技術の進歩は,医薬品の製造プロセスを高度化し複雑化している.こうした現状の中で,高い品質の医薬品の製造を保証できる製造管理システムがGMP(good manufacturing practice)であり,また医薬品の製造品質の恒常的な保証を達成するために,科学的根拠に基づいた工程および試験法の設定根拠の科学的妥当性を検証することがバリデーション(validation)である.医薬品製造における品質保証は,行政に密接に関係する一方で,品質,安全性,有効性を科学的に正しく評価するためには,様々な科学の領域,薬学,製剤学,化学工学,統計学,有機化学,毒性学,微生物学をはじめとする広範囲な領域の専門的かつ最新の専門的な知識を必要とする.一方,医薬品は,国際的に流通するものであり,国際的流通に関して品質に差異があってはならず,国際的観点からの医薬品の製造品質の確保が要求されている.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 北海道名寄保健所

名寄保健所における特定疾患への取り組み

著者: 粟井是臣 ,   高野正子

ページ範囲:P.702 - P.703

 現在の難病対策は生活の質の向上を目指した福祉施策の推進が加えられ,地域においては各種事業が展開されているところである.これまでも当所においては,特定疾患治療研究事業の申請に関する相談や保健婦による訪問療養相談および患者家族交流会,学習会などを通じて在宅療養支援を図ってきたが,公的介護保険制度の導入に伴い,当所の難病支援・対策も若干の転換を行った.一般に保健所や保健婦においてはパーキンソン病などのいわゆる神経難病を中心に特定疾患へのケアマネジメントに関するノウハウの蓄積がある.当所においては介護保険制度が実施される前年の平成11年に難病支援の重点項目を大きく二つに絞った.一つは公的介護保険制度実施以後も患者・家族のニードに対応した適切なケアが展開されるに資すること.もう一つは患者・家族のQOLや生活の楽しみが向上するサービスを構築していくことである.平成11年度末に介護保険にかかわる保健所管内の保健・医療・福祉担当者を対象に介護保険制度実施以後の保健所の取り組み方針への理解を得ることを目的に会議を開催した.要介護認定において該当になった特定疾患を有するケースのケア会議に保健所保健婦が積極的に参加をする.必要に応じて保健所に蓄積されている保健情報を適切に提供する.特定疾患にかかわる訪問相談やケースアセスメントを含めた情報や支援ノウハウをケアプラン作成の際に介護支援専門員が活用できることなどの周知を図った.

報告

フィリピン共和国マカティ地区女性性産業従事者におけるHIV感染に関する知識と感染予防行動

著者: 渡部基 ,   湯浅資之 ,   山城吉徳 ,   曽田研二

ページ範囲:P.705 - P.709

目的
 世界保健機関の推計によれば,2000年までに全世界で,エイズウィルス(HIV)感染者の累計は少なくとも3,800万人に達する.今後の感染者の急激な増加は,アフリカ,東南アジアおよび南アジアに集中すると予測されている.
 フィリピンは,タイやカンボジアなどの他の東南アジア諸国に比べると,HIV感染者数の増加は緩やかであり,感染率は低い状態を保っている.しかし,性感染症(sexually transmitted diseases;STD)の罹患率が高く,特に,性産業従事者(commercial sex workers;CSWs)において高率を示し,HIV感染が拡大する可能性が懸念されている.こうした中,フィリピン政府は,国家エイズ・STD対策計画を策定し,CSWsをはじめとしたハイリスク群に対する対策などを積極的に行っている.一方,国際機関や主要な先進国も,フィリピンにおけるエイズ対策を重視している.特に,日本は,アメリカとの協調のもと,人口・エイズ問題に対する協力を推進するための具体的な政策(人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ,GII)として,1994年度〜2000年度までの7年間で30億ドルを目途に,この分野に対する援助を実施している.こうしたGII推進の一環として,国際協力事業団(JICA)の統括の下で,1996年7月から5年間,日本とフィリピンの共同でフィリピンJICAエイズ対策プロジェクトが形成された.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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