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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生66巻1号

2002年01月発行

雑誌目次

特集 健康日本21と職場の健康管理

健康日本21と産業保健

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.4 - P.8

健康日本21について
 戦後,わが国は経済成長に伴って生活環境や食生活が向上し,また全国を網羅する保健所網を通じた公衆衛生活動の展開や国民皆保険制度の実現で国民の医療へのアクセスが向上したことにより,国民の健康状態は著しく改善し,今日では世界一の長寿国となった.しかしながら,その反面,人口の急速な高齢化により,食生活や運動習慣を原因とする生活習慣病の対策が重要になってきている.現在,生活習慣病は死因の6割に達しており,また健康寿命の延伸および生活の質向上の観点から生活習慣病予防の必要性が高まっている.また,バブル崩壊以後の厳しい経済環境の中,社会保障財政の見直しが急務となっており,年間7兆5,000億円と推計されている生活習慣病関連の医療費を適正化するためにも,その対策が急がれている.しかしながら,生活習慣という個人的要素の強い疾病対策においては,結核検診やがん検診で採用されてきた2次予防的な方法論では限界があり,従来以上に1次予防に重点が置かれる必要がある.このため今回の「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」においては国民の自助努力をベースとして,それを支える社会環境を整えることが基本的な理念となっている.すなわち,その基本方針において「一次予防を重視すること」および「健康づくり支援のための環境整備を行うこと」が示され,さらに,計画の実効性をあげるために「目標等の設定と評価を行うこと」が要求されている.

職場における健康日本21の推進

著者: 依田紀彦 ,   福沢義行

ページ範囲:P.9 - P.13

産業保健活動の推進
1.はじめに
 労働者を取り巻く環境がめまぐるしく変化している近年,安全で快適な職場を形成し,労働者が心身共に健康で働くことができるよう対策を講じることは非常に重要な課題です.
 職場における労働者の健康,労働衛生の現状をみると,職業性疾病の発生はこの十数年間で半減したものの依然として跡を絶っていません.また,本格的な高齢化社会を迎え,労働安全衛生法(以下,安衛法)に基づき実施されている定期健康診断結果においては,脳・心臓疾患につながる所見をはじめとするなんらかの所見を有する労働者の割合は4割を超えているという状況にあり,各職場における労働衛生活動,産業保健活動の充実がますます重要となっています.

職場での個別健康教育の実践と課題

著者: 広部一彦 ,   山下チヨ子 ,   大脇多美代

ページ範囲:P.14 - P.17

 健康日本21の目標でもある生活習慣病の一次予防の観点からは,健康教育による生活習慣の改善が極めて重要である1,2).一方,個人の生活習慣改善において,「知識の受容」には「マスメディア」の効果が大きいが,「行動変容」を生み出すためには「個別サポート」が最も望ましいといわれている.生活習慣の中でも喫煙はがんの原因としての寄与危険度割合も大きいことが確認されており3〜6),虚血性心疾患などの動脈硬化性疾患に対する重要な危険因子でもある7,8).また,わが国ではいまだ男性の喫煙率が極めて高く9,10),効果的な禁煙教育の開発が望まれている.われわれは厚生省がん研究助成金中村班において,定期健診時の個別禁煙教育による介入研究を実施してきたので,この研究を通して職場における個への健康教育の実際と有効性,ならびにその留意点と今後の課題について述べる.

生活習慣と労働との関連

著者: 尾方希 ,   森田徳子 ,   車谷典男

ページ範囲:P.18 - P.21

 2000年4月にスタートした健康日本21は,生活習慣の改善によって,わが国の3大死因である悪性新生物・心疾患・脳血管疾患の減少を図ることなどを目的とした国民的な健康づくり運動である.職域での取り組みにも大きな期待が寄せられている.
 生活習慣は,個人が育った環境に強く影響されることはいうまでもない.しかし,人生の長くにわたって,週5日から6日,通勤時間を含めると11時間近く1)を占める労働の態様にも影響を受けることは,容易に推察されよう.個人の嗜好や趣味的活動とは違って,労働は他律的な側面が強く,それゆえ労働者の生活習慣の改善にあたっては,本人の個人的努力とともに,社会全体として労働のあり方に対する意識を高めることも求められる.

一次予防としての職場の社会環境整備

著者: 埋忠洋一

ページ範囲:P.22 - P.25

 働いている人は5,500万人ともいわれる.また,これらの人たちは,社会の中核をなし,家庭でも中心的な立場である.それゆえ働く人たちの健康は極めて重要であるだけでなく,わが国の高齢化社会をより豊かな社会にするためには,働く人たちの健康づくりへの継続的なアプローチが必要とされる.
 職場では1年に1度の健康診断の実施が義務付けられているし,様々な業務研修が実施されている.職場での生活習慣病対策としては,健康診断後の保健指導,業務研修などの機会を利用した健康教育,独自に実施する健康教育や健康づくりイベントなどが存在する.職場ではわが国の経済的発展とともに,健康の保持増進に対する環境整備が進められてきたが,生活習慣病予防に対する環境整備は必ずしも十分なものとはいえない.

健康日本21実行に向けた社内体制づくり

著者: 浦野澄郎

ページ範囲:P.26 - P.29

 生活習慣病は栄養,運動,休養に関する日常の不適切な生活習慣が大きく影響するが,生活習慣の是正により予防可能とされている.そのためには一次予防に重点をおいた生活習慣病対策の推進すなわち健康日本21が必要である.健康日本21は,学童時代を含めた全ライフサイクルを通じての生活習慣病対策であるが,わが国の小児のコレステロール値が両親のコレステロール値と正の相関関係にあるという結果1)は,とりわけ大人に対する対策の重要性を示している.全人口の83.1%が被雇用者2)であることを考慮するならば,健康日本21における職域の果たす役割は大きい.一方,就業人口の高齢化が進み,健診有所見者の就労が増えることは,企業経営の観点からも大きな問題である.労働組合においては従業員の健康獲得が最優先課題であることは言うまでもない.また,健康保険組合(以下,健保組合)は年々医療費が増大し厳しい運営を強いられているが,安定した財政基盤の上に立って被保険者の健康を守るという使命に邁進するためには,一次予防対策を行い,いっそうの健康増進を図らねばならない.
 当職域では,健保組合から呼びかけた健康日本21に対して,会社,労働組合の賛同が得られることになり,「健康松下21」として三者で全社的に取り組むこととなった.本稿では当職域における取り組みの経過,社内体制作りについて述べる.

健康日本21と地域産業保健センターの取り組み—中小規模事業場の課題

著者: 寺田勇人 ,   高橋恭子 ,   戸澤弘明

ページ範囲:P.30 - P.33

中小規模事業場の特徴
1.膨大な数の中小規模事業場
 わが国には,表1,2に示すとおり,常勤労働者数50人未満の小規模事業場(以下,小規模事業場)が全国約620万企業のうち97.7%(全労働者の約64.6%が就労),中規模(常勤労働者数50〜299人)までを含めると99.9%(全労働者の86.8%が就労)とほとんどを占めている1)

視点

ヒトゲノム研究と公衆衛生学の接点—法的・社会的対応の重要性

著者: 岸玲子

ページ範囲:P.2 - P.3

公衆衛生学の目的とヒトゲノム研究進歩の意義
 成熟した高齢社会において人々はただ単に生きているのではなく,それぞれの持てる個性と能力が花開き,その力を存分に発揮でき,生きがいと満足感をもって人生を送ること,多くの人がそのような社会になることを望んでいる.公衆衛生学・予防医学の究極の目的は,学問としてそれにいかに貢献寄与できるかに尽きるであろう.公衆衛生学のみならず自然科学,社会科学など人間生活の基盤となる諸学問の発展は,それらを支えるものである.最近のヒトゲノム研究,遺伝医学,分子生物学の発展も,当然,それらを担う基礎的な基盤研究の一つとして大きな意義と役割がある.大事なのは,本稿で述べるような種々の社会的な問題点をクリアしながら進めることである.

連載 地方分権による保健医療福祉活動の展開・1【新連載】

地方分権をどう進めるか

著者: 田嶋義介

ページ範囲:P.34 - P.39

 「世界でいま80カ国以上が地方分権化を押し進めている」.昨年5月に来日した国際地方自治体連合のジャック・ジョビン事務局長は語った.その原因を「ここ15年の間に,中央集権の強い国で経済運営がうまくいかなくなった.そこで,ローカルなほうに権限を移して,持続可能な発展を進めようとしている」と話した.
 経済的な理由だけではないだろう.1999年に死去した「地方の時代」の提唱者,長洲一二・元神奈川県知事は生前よく次のように話していた.

疫学 もう一度基礎から・25(最終回)

疫学の社会への応用—最後のステップ

著者: 中村好一

ページ範囲:P.41 - P.44

■ポイント■
 1.保健活動はサイクルとして実施する.
 2.このサイクルの各所で疫学的手法が必要となる.

各国の目標管理型健康政策・5(最終回)

ニュージーランドにおける目標管理型健康政策とその展開

著者: 藤澤由和

ページ範囲:P.45 - P.50

 高齢者の増大,医療ニーズの高まり,医療技術の進展などによる医療費の増大は,現在先進各国に共通する主要な財政的,政治的な問題といえる.ニュージーランドにおいてもこの医療費の増大という問題は,財政面における中心的な課題であり,またしばしば政治的争点ともなってきた.
 1980年代半ばより始まったニュージーランドにおける一連の行政改革は,当然医療分野をもその視野に含むのもあり,その目的は医療制度の抜本的改革を通して医療費の増大をいかに抑えていくかにあったといえる.

公衆衛生院からの発信・24(最終回)

国立公衆衛生院の新しい研修計画

著者: 上畑鉄之丞

ページ範囲:P.51 - P.53

 2002年4月,国立公衆衛生院は埼玉県和光市の新庁舎に移転,国や地方自治体の公衆衛生従事者の新たな教育研修を開始する.本館(5階建),研修研究棟(8階建),寄宿舎(8階建,150人収容)からなる新庁舎は,来年3月の移転を控えて内装が進められている.さらに,2年後には実験研究棟(6階建)も完成することになっている.
 和光の新研究所は,国立公衆衛生院(111名)を中心に,国立医療・病院管理研究所(12名),国立感染症研究所(6名)の職員や研究者で構成される.図のように16部,1センターからなり,職員数は129名(うち研究職88名)である.国立試験研究機関の再編で,国立公衆衛生院の実験系分野がそれぞれの研究所に統合されたため,教育研修では,感染症分野は国立感染症研究所,食品・医薬品分野は国立食品医薬品研究所,そして栄養学分野は独立行政法人の国立健康・栄養研究所などの支援を受けることになる.新組織には,医療関連の3研究部や口腔科学部が加わるほか,新設の福祉サービス部が加わるなど,21世紀の公衆衛生の新体系を考慮した組織になっている.国立公衆衛生院のこれまでの学部も,疫学部,公衆衛生看護学部,公衆衛生行政学部を除いて大幅に再編される.

今,改めて「公衆衛生看護」・1【新連載】

公衆衛生看護の活動方法論(その1)—公衆衛生看護の特性

著者: 平野かよ子

ページ範囲:P.54 - P.55

 ここに改めて公衆衛生看護を取り上げるのは,そもそも公衆衛生看護が依って立っていた「公衆衛生」という言葉がほとんど用いられなくなり,それに伴い公衆衛生看護も曖昧になってきていることがある.このことは平成9年度の保健婦の養成カリキュラムの改正により,いっそう助長されたように思われる.この改正により保健婦の活動の中核であった「公衆衛生看護学」は「地域看護学」になり,保健婦は公衆衛生を土台とする者から,地域において看護を展開する者となった.そのため,看護婦とは異なる保健婦という独自の資格を持つ者の活動のあり方を曖昧にさせ,保健婦の養成に従事する者の中には,果たしてこのままでよいのかと疑問を感じる者も出てきている.
 そこで,このシリーズでは,これから執筆するそれぞれの筆者の保健婦としての実践および教育の体験から,公衆衛生を担う保健婦は何をする者であるかを提示し,保健婦の活動方法を明確に示していきたいと思う.

私の見たイギリス保健・医療・福祉事情・1【新連載】

ブレア政権下で再起を図るイギリスNHS

著者: 近藤克則

ページ範囲:P.56 - P.57

 イギリスのNHS(National Health Service,国民保健サービス)が,危機的状況に陥っている.すべての国民に受診時原則無料で予防から医療まで提供する医療・保健制度として世界中から注目されてきた,あのNHSが,もはや従来の延長線上の取り組みでは,改善の見通しが立たないと,ブレア政権下で再起をかけた改革に取り組んでいる.
 NHSの危機的状況とその原因,大規模な医療費投入を軸とするNHS Planなどの取り組みの大枠を紹介する.

地域保健関連法規とその解釈・13

予防接種法

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.58 - P.59

 感染症予防対策の一環として予防接種が行われている.その起源は種痘苗を竹筒で鼻腔粘膜に噴霧した古代中国の方法やジェンナーが種痘法を発見したときに遡る.免疫学の進歩や各種細菌などの病原微生物の発見により,いろいろな感染症に対する予防接種が開発された.わが国では,江戸未期に福井藩医の笠原白翁により京都から雪が降りしきる北陸街道の栃の木峠を越えて藩の子どもたちの身を挺した行動により種痘苗が福井の地にもたらされ,以後,苗分けされ種痘法として全国に普及していったのが予防接種の始まりである.現在では,予防接種の恩恵により乳幼児を中心に感染症で死亡する者の割合は激減したが,一方で予防接種による副反応などの健康被害ももたらした.予防接種法の規定も時代に応じた見直しが行われ今日に至っている.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 青森県五所川原保健所

地域保健から職域保健へのアプローチ

著者: 寺島豊美 ,   百濟さち

ページ範囲:P.60 - P.61

 五所川原保健所は平成12年度に二つの調査を行った.
 一つは管内の事業所における喫煙対策の実態調査である.これは前号でも触れたが,地域保健医療推進協議会での重点課題の一つを「肺ガン対策」と定め,目標項目の一つに「職場の分煙」を掲げている.この現状を把握するためにも実態調査が必要だったのである.二つ目は,小規模事業所における従業員の検診受診の実態をM村をモデルにヒヤリング調査を行ったことである.

機能訓練事業の危機・4

機能訓練事業を通して得たもの

著者: 村井千賀

ページ範囲:P.62 - P.65

病院でのリハビリテーションアプローチの限界
 昭和61年,市町村が実施する老人保健法に基づく機能訓練事業の取り組みを支援するため,保健所に採用されることとなった.それまではリハビリテーション専門病院にて作業療法士として勤務し,患者が障害を持ちながらも残存機能を高め,潜在的能力を引き出し,できる限りの病前の生活に戻れるよう療法を提供してきた.院内での日常生活動作の自立はもちろん,主婦には掃除・調理能力の獲得,若い男性には職場評価から作業療法室での職業前訓練のシミュレーション,また必要に応じて公共交通機関の利用練習,デパートでの買い物練習,失語症の方たちとの喫茶店利用など,その人の生活に必要な能力の獲得に向け,療法を展開してきた.しかし一方では,体力や活動性の低下による寝たきり状態により再入院が繰り返され,病院外来受診が生活の日課になってしまっている人なども見られ,地域で高齢者や障害のある人々が生き生きと生活できるためには,医学的リハビリテーションアプローチ以外に,地域の受け皿づくりが必要であると感じていた.またさらに,病院という管理組織の中,屋外に出て一人一人の生活のため療法を展開するには病院長の理解,療法士が不在になれる体制(時間的余裕)が不可欠であるが,居住地が病院から遠い場合の支援ができない,どれだけ病院でシミュレーションしても個々に住む環境が違うため退院後様々な生活の問題に適応できないなどの問題があった.

特別企画 日本ふれあい福祉学会 第3回全国大会より

コミュニティづくりを目指して—地域医療と地域ケアの結合—地域医療の立場から・1

著者: 松浦尊麿

ページ範囲:P.66 - P.70

 皆さんは,大学で福祉を勉強されて仕事をされている方が多いとお聞きしました.私も医科大学を出てすぐ大学の社会福祉通信講座を始めましたが,お恥ずかしい話ですが2年で中途退学しました.1年目にはスクリーニングになんとか行けましたが,レポートがなかなか書けず,2年目にはスクリーニングにも行けなくなり頓挫しました.
 大学を卒業し長野県の千曲川のほとりにある佐久総合病院で10年間勉強させていただきました.そこで教えられたことは,農村社会の抱える問題を真っ正面にとらえ,住民とともに医療,福祉を展開していくことでした.当時,院長だった若月俊一という大先生から,「君たちは一体だれのために学問をしているのか」,「技術は一体だれのためにあるのか」といつも怒られていました.医局の中だけにいると,医学の物差しでしか地域社会を推し量れなくなりがちです.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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