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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生66巻12号

2002年12月発行

雑誌目次

特集 公衆衛生における医療

21世紀の医療の方向

著者: 黒川清

ページ範囲:P.888 - P.891

はじめに
 21世紀を迎えて,日本の医療制度は大きな転換期を迎えている.問題は何か,なぜ問題なのか,そして解決策への課題は何か.しかし,医療は国の基本的な制度の1つであり,日本の制度そのものの問題という認識と改革なくしては,医療制度改革は不可能であろう.これらを踏まえて,21世紀を迎えて日本の医療制度改革へのいくつかの具体的な提案を試みよう.

医療行政における保健所の役割

著者: 佐藤牧人 ,   嵐田光宏

ページ範囲:P.892 - P.897

はじめに
 院内集団感染や医療事故,そしてO 157の集団感染など医療の安全や健康危機にかかわるニュース報道がなされ,届出や原因解明の調査など,保健所の名前を耳にする機会が多くなった.しかし,われわれ保健所や公衆衛生分野で働く者は,これまでややもすると予防医学を中心とする公衆衛生の実践である「保健」と治療医学を基盤とする「医療」の分野を大別し,医療にかかわることに対して関心が薄かったり,遠慮があったり,あるいは専門外として意識的に避けて通ってきた感も否めない.しかし,保健所はもともと医療にかかわる業務を数多く行っており,また否応なしに院内感染事例などに直面する現実がある.国民の健康確保に携わる第一線行政機関として保健所の公的責任は大きく,医療の安全などを願う国民やマスコミの期待と批判の目が注がれることは当然と思われる.
 本稿では,現在医療行政と保健所のかかわりが重要な転換期を迎えているとの認識に立ち,保健所が積極的に果たすべき役割について述べる.

二次保健医療圏を基盤としたエイズ医療連携推進事業の取り組み

著者: 向山晴子

ページ範囲:P.898 - P.902

はじめに
 エイズの医療システムは,拠点病院・連携病院・地区医師会等の病病・病診連携はもとより,医科・歯科・薬科の連携や保健福祉サービスとの整合なくしては構築できない.しかし,「エイズ診療」は多くの医療従事者にとって「未だに遠い存在」であり,拠点病院と一部の保健医療従事者の個人的なネットワークに支えられているのが現状であろう.
 エイズの保健・医療・福祉連携システムの推進は,慢性感染症の地域ケアにいくつかの重要な示唆を与える.また,この疾患を取り巻く社会医学的問題は,他の疾患や障害に共通する「医療連携システム」の象微的モデルになると思われる.

保健所における医療監視の位置付け

著者: 岡田尚久

ページ範囲:P.903 - P.907

はじめに
 近年の医療事故の多発や院内集団感染事例は,国民の医療に対する信頼を大きく揺るがしている.患者の権利意識が大きく向上する中で,国民が安心して良質な医療を享受できるためには,各医療機関が不断の努力を積み重ね,良質な医療を提供することが必須である.一方,保健所は,これら医療機関に対して患者の立場から立入検査を実施し,監視・指導し評価することができる.この両者の協働作業は,地域の医療の向上のために不可欠なものである.
 しかし,現在の立入検査の視点は,医療機関の人的および施設基準等の外的基準に留まっており,医療の質についてどこまで踏み込めるかという課題を抱えている.また,保健所の立入検査を担当する職員が「実施することに意義がある」という考えでは,医療事故等を減らすことは困難である.

院内感染予防を支援する保健所の試み—院内感染を予防するためのチェックシートとネットワークを中心に

著者: 池田和功 ,   安井良則 ,   福田雅一

ページ範囲:P.908 - P.914

セラチアによる院内感染事例への対応
 平成12年6月30日,大阪府堺市内の病院から「院内でセラチアに感染したと思われる患者が3名おり,うち1名が亡くなった」という内容の連絡が保健所に入った.このような院内感染事例が発生した時には,表1のような対策が必要であると考えられる.
 堺市がとった具体的な対応(表2)であるが,院内感染が発生した旨の通報があり,これに対してまず迅速に情報を収集し,状況を把握する必要があると考え,この通報から4時問後には現地調査班を編成し,病院に立入検査を実施した,立入検査では,ふき取り調査,患者カルテの閲覧,聞き取り調査等を実施し,患者の隔離・治療等の指導を行った.また,翌日には保健所に対策本部を設置すると同時に,専門家からなる専門調査班を編成して対応に当たった.

視点

保健医療技術評価へのレセプト情報の活用

著者: 岡本悦司

ページ範囲:P.886 - P.887

 健康増進と予防を目的とする保健事業と,発症後の治療を目的とする医療保険とは連続したものであり,後者は前者のアウトカムという関係になる.つまり保健事業のあり方で医療保険は影響されるが,その逆はない.医療費の額や治療成績といった医療のパーフォーマンスは保健事業によって左右されるが,医療のパーフォーマンスがどんなによくなっても,それは保健事業の効果に影響しない.語順が保健医療であって医療保健でないのも,それなりに意味がある.
 見方を変えると,医療従事者は保健事業の内容を知らなくても仕事はできるが,保健事業従事者は医療保険の内容を知らなければ事業を効果的に行うことはできないことになる.医療保険の給付内容が集約されるのがレセプトであり,保健事業従事者にとってのレセプトは,その成果が評価される一種の試験のようなものである.

連載 地方分権による保健医療福祉活動の展開・12

環境問題と地方分権

著者: 宮田秀明

ページ範囲:P.915 - P.918

21世紀における環境問題の様相
 一昨年,米国科学アカデミーは,この2年間の地球温暖化のスピードは過去50年間の25倍にもなったことを明らかにした.このような状況であるため,地球温暖化問題はわが国をはじめ世界各国にとって最重要課題の1つである.同様に,オゾンホール,砂漠化,地球資源の枯渇化,酸性雨などが大きな国際問題となっており,現在の環境実態は極めて深刻な状態にある.さらに,世界諸国の急速な経済発展および年間に約8,000万人にも及ぶ人口の急増は,この深刻な状況を加速させることになる.したがって,現在の状況が続けば,近い将来にわれわれの子孫が生存不可能になる懸念さえ指摘されている.
 「21世紀は環境問題の世紀である」との世界各国の位置づけは,正に当を得ている.環境問題を解決し,生存持続可能な循環型社会を形成することは,人類にとって最も重要な緊急課題である.

私の見たイギリス保健・医療・福祉事情・12(最終回)

ブレアのNHS改革の評価と日本医療への示唆

著者: 近藤克則

ページ範囲:P.919 - P.923

ブレアのNHS改革は成功したのか
 ブレア政権が,1997年からNHS改革に取り組んで早くも5年が経った.果たして一連の改革は,成果を上げているのであろうか.賛否両論の評価がある.

地域保健関連法規とその解釈・24[最終回]

環境法

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.924 - P.925

はじめに
 2年間にわたって連載してきたこのコーナーも,今回で終了することになりました.
 これまで,保健・医療・福祉・介護等の分野で,人間がそれぞれの地域で健康に生きる上で重要な法律について解説してきたが,環境問題に起因する健康被害も公衆衛生上の重要な課題である.

全国の事例や活動に学ぶ・[最終回] 今月の事例 大分県中津保健所

地域の「分煙化対策」の取り組み

著者: 遠入玲子 ,   大神明

ページ範囲:P.926 - P.927

 きっかけはタバコの煙にまかれる妊娠中の役場女子職員の姿だった.「タバコを吸わないで欲しい」と言えずに1日中我慢しているこの女子職員を救えないで,健康なまちづくりはないだろうと思った.
 平成11年当時,当保健所管内の市町村役場や保健所以外の県の地方機関は分煙対策に全く手つかずの状態であり,保健所として何らかの対策を講じなければならないと強く感じた.折しも大分県では科学的根拠に基づく調査研究事業に全保健所で取り組んでいた.分煙意識に関する調査研究事業をとおして地域の実情を把握し,根拠に基づいた事業展開ができるのではと保健所全体の士気が高まった.

シリーズ 介護保険下の公衆衛生活動を考える・9

シベリア

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.928 - P.930

父(84歳):腰部椎間板ヘルニア,変形性膝関節症,要介護 3,双子の息子(52歳):統合失調症,木造2階建て一軒家

米国の知的障害者サービスと脱施設化に学ぶ—わが国の痴呆性高齢者対策への警鐘・3

米国の知的障害者対策の歴史的展開(上)

著者: 武田則昭 ,   八巻純 ,   ,   ,   末光茂 ,   江草安彦

ページ範囲:P.931 - P.933

はじめに
 米国は連邦制をとっており,合衆国憲法に「憲法に定められていない事柄については,各州でこれを定める」と示されているごとく,多くの政策決定は州,郡あるいは市町村など地方自治体によってなされている1).それを受けて知的障害者サービス,財政,保険年金制度,医療保険制度なども州の独自性,自主性を尊重してその施策,運営全般にわたり州政府にゆだねられている2,3).その意味でも,地方分権が言われる日本にとって,米国の状況は大いに参考になると考えている.
 今回の報告はタイトルを「米国」としているが,読者におかれては日本のような単一国家のイメージではなく,51(50州+ワシントン特別区)の集合体として認識していただきたい.本文中の米国での知的障害者問題については,全体像に併せて,可能な範囲で特徴ある州の施策や成果および課題を紹介し,説明を加える.

活動レポート

保健所(健康福祉センター)における企画調整機能強化の促進条件に関する検討

著者: 小中綾子 ,   岡田尚久

ページ範囲:P.940 - P.945

はじめに
 平成6年,保健所法の抜本的な改正があり,地域保健法が制定された.その中で保健所は,地域保健医療に対する総合的な企画機能を有する中核機関として位置付けられ,地域住民のニーズに合致した施策を展開できるようにすることが望ましく,その役割を果たすために人材の確保等を含めた企画および調整機能の強化が必要であると謳われている1〜3)
 そこで,島根県では平成6年度から,それぞれ分散されていた機能を一体的に推進するため,保健所と福祉事務所を一体化した健康福祉センターを設置した.この健康福祉センターには,基本指針に盛り込まれた企画調整機能の強化を狙った企画情報課を創設した.

調査研究をベースにした保健所活動・その5[最終回]

健康水準における地域格差の問題に取り組んで

著者: 三徳和子

ページ範囲:P.934 - P.939

はじめに
 最終回の本稿では,健康水準の地域格差について取り上げる.筆者が最初に地域格差の研究に取り組んだのは,岐阜県の保健師だった当時,1982年の老人保健法制定を前にして高齢化問題を考え,人口構成の中で岐阜県民の平均余命の男女差について疑問を抱いたのがきっかけであった.翌年,平均余命の地域差に関する検討1)を行い,それ以来集団の健康水準に関する地域差を考えるようになり,要介護(支援)認定者の地域差検討,山県郡の高齢者生活実態調査についてもまとめたのでここに報告する.

報告

地域特性を踏まえた在宅精神障害者の生活支援についての検討

著者: 鈴木由美子 ,   北野和子 ,   春原美智子 ,   柳沢茂 ,   佐々木隆一郎 ,   畑山善行

ページ範囲:P.946 - P.951

はじめに
 精神障害者は,平成5年に制定された「障害者基本法」の中で,障害者施策の対象となる範囲に明確に位置づけがなされた.これにより精神保健施策は,従来の保健医療に加え福祉施策の充実が求められ,平成7年に成立した「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)」には,この考え方が盛り込まれた1).さらに,平成11年の精神保健福祉法の改正で,市町村等を実施主体とするホームヘルプサービス等の居宅生活支援事業が法定化され,在宅福祉事業の整備を図ることとなった2)
 これらの施策の基本は,精神障害者のノーマライゼーションを推進しようとするものである.しかしながら,地域においては精神障害者が地域で自分らしく生活するために,現在どのような制度や施設が不足しているのか,今後どのような支援や整備が必要かについての報告が少ないのが現実であり,また,地域の特性を踏まえながら推進することは重要である.

日本学術会議環境保健学研究連絡委員会主催公開シンポジウム 環境と健康の危機管理・3

海外生活における心の危機管理

著者: 鈴木満

ページ範囲:P.952 - P.957

はじめに—環境と心
 「環境と心」は精神医学における基本的な問題の1つである.われわれの脳は環境の変化に対して柔軟に適応する可塑性という能力を持っており,自然環境の変化を克服し移動と定着とを繰り返しながら子孫を増やしてきた.しかしながら,交通機関の発達により,一生涯の間に人が移動できる距離は飛躍的に大きくなり,短時間でいきなり大きな環境の変化に曝される機会が著しく増加している.「環境と心」という問題では,そういった生物学的基盤の上で複雑に展開する心理社会学的現象を取り扱う.
 生活環境の変化というストレス要因に曝された結果として生ずる心身の徴候がストレス反応である.この反応は個人によって実に多様な形を示す.そしてストレス要因としての負荷がその人の適応力を凌いだ場合に,「心の危機」に陥ることがある.その症状として最もよく見られるのは,不眠,不安,抑うつであり,さらに症状が進めば回避傾向,欠勤,退職願望,希死念慮といった症状が出現する.

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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