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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生66巻2号

2002年02月発行

雑誌目次

特集 思春期の薬物乱用予防—生きる力をやしなう活動を求めて

当事者が考える予防と回復

著者: 近藤恒夫

ページ範囲:P.76 - P.77

 薬物乱用予防教育の目標を達成するためのプログラム,①薬物に対する正しい知識の獲得,②誘いに対して「ノー」と言える危険回避のスキル,③対人関係葛藤の解決スキル,④セルフエスティームを守るスキル,⑤ストレスへの対処行動の学習などは学校保健で行われていなければならない.特に薬物乱用予防教育は喫煙,飲酒と深く結びついており,そのためには喫煙,飲酒の開始を遅らせることが重要なことになる.
 また,薬物乱用予防教育において,薬物の害の知識を教えて恐怖心をあおるだけでは成功しないことは既にアメリカの学校などで実証されている.回復途上にあるダルクメンバーの体験の話は恐怖心をあおるためではない,人は破滅の繰り返しの中にも救いを求めているというメッセージが,学生たちに共感をもたらすのである.

共に生きることを通して見える予防

著者: 和高優紀

ページ範囲:P.78 - P.81

 人に話せない未解決の問題を抱え,病的心理を持っていたり,家庭・学校および職場・地域社会から孤立していたり,誰からも,どこからも必要とされていない子どもたちはどうなるでしょう.孤独で,どう生きていけばいいのかわからない状況の中で子どもたちは,心の痛みを感じて,自分自身の人生および,周囲の大人たちに不信感を持ちつづけます.そのため生き延びるために何かを強く求めだします.そこにドラッグが現れ,彼らの未解決の問題や心の痛みなどの現実から逃してくれます.それでなくても子どもたちは好奇心のかたまりです.その子どもたちが心の痛みから解放されるならば,無意識のうちに,それこそ真剣に薬物を使用しつづけるでしょう.どんなに恵まれた環境にいても,本人の心の中に不調和が生じていたなら,感謝の気持ちや,健康的な発想や行いは生まれてきません.いつの日からか子どもたちは自分自身を受け入れられなくなります.どこで何をしていても,つきまとう心の中の不調和が,子どもたちの生活を汚染していきます.そこで薬物などが子どもたちをとりこにしてしまうわけです.子どもたちが薬物を使用しやすい状況は,家族から孤立できる時間とスペース,そして多額のお小遣いを所有できることです.その子坊には家庭の中・学校の中・地域社会の中で孤立しないことがベストだと思います.しかし,大人たちの孤立化の見直しが優先なのかもしれません.

宮崎県精神保健福祉センターの薬物問題に関する活動状況

著者: 細見潤

ページ範囲:P.82 - P.84

精神保健福祉センターの概要
 精神保健福祉センター(以下,センター)は精神保健福祉法第6条に設置根拠が規定されており,各都道府県,政令指定都市における精神保健および精神障害者福祉に関する総合的技術センターとしての位置付けがなされている.現在,全国には49の都道府県立センターと11の政令指定都市センターがあり,医療施設や社会復帰施設を併設したものから,スタッフがセンター長以下数人といったものまで,その規模には大きな差異が認められる.
 センター運営要領によると主な業務は精神障害者の社会復帰などの地域精神保健福祉活動を推進するために都道府県主管部局や関係諸機関に対して専門的立場から提案や意見具申をする企画立案業務,保健所・市町村などの関係機関に対する教育研修事業および技術指導援助事業,精神障害者家族会や患者会・地域精神保健福祉活動を行う市民団体などの育成事業,精神保健福祉の知識や精神障害者についての正しい知識の普及啓発事業,地域精神保健福祉の推進のための調査研究事業,そして心の健康や社会復帰に関する診療相談事業などとなっている.

薬物乱用対策における保健所の役割

著者: 平井愼二

ページ範囲:P.85 - P.90

 現在,日本で広く乱用されており,種々の分野で対応の対象あるいは原因となる依存性物質の主なものは,文化への浸透度およびこの特集の目的などからアルコールとニコチンを除くと,覚せい剤と有機溶剤である.また,これらは両者とも規制の対象である.これらの物質を依存の対象にし,一次的な病態に規制法違反を持つ者に対して,地域の精神保健の向上にも責務を負う保健所がとるべき態勢などを,薬物乱用対策という観点から検討し,示す.

薬物乱用予防教育の具体論

著者: 水谷修

ページ範囲:P.91 - P.95

 1998年1月,警察庁は,日本が「第三次覚せい剤乱用期」に突入したことを宣言しました.この問題に対する危機感が,政府や各機関の上層部で非常に深刻に捉えられ,21世紀のわが国の存立と未来にかかわる重大な問題だとされている一方で,一般市民,それどころか現場で日々この問題と対峙すべき,各地方自治体の職員や教師の問題意識は希薄であり,この薬物の問題を,一部の限られた地域の限られた人々の問題としてしか捉えていません.
 なぜ,今回の「第三次覚せい剤乱用期」は,私たちの日本の存立や未来にかかわる重大な問題なのでしょうか.それは,ただ一つの理由によります.すなわち,私たちの社会の明日を担う若者たちに,覚せい剤を中心とする薬物の乱用が急速に広まっているからです.

薬物事件の弁護を通して見えること

著者: 小森榮

ページ範囲:P.96 - P.99

「下町ドラッグ」と「山の手ドラッグ」
 私は,毎日のように首都圏の警察署で薬物乱用者と会っていますが,使う薬物の種類や使い方には,実は地域差があります.私はこうした地域差を「山の手ドラッグ」と「下町ドラッグ」というふうに呼んでいます.
 東京のなかでも,荒川や浅草といった,いわゆる下町といわれるところで逮捕される人たちは,若者でも,覚せい剤を「シャブ」,「ブツ」などと呼び,しかも最初から注射使用の人が多いのです.これが「下町ドラッグ」です.

マスコミの視点から見る薬物乱用

著者: 小国綾子

ページ範囲:P.100 - P.104

等身大の若者を描く難しさ
 薬物問題を取材するようになって5年が過ぎた.1996年,警視庁詰めの生活安全部担当記者として,事件としての薬物問題を取材したのをきっかけに,薬物依存と回復,背後にある家族関係などをテーマに取材を重ねてきた.
 私が薬物問題にのめり込んだのは,実は一つの後悔がきっかけだ.警視庁詰めだった5年前のことだ.当時はまさに10代の若者の覚せい剤乱用が社会問題となりはじめた頃で,高校生の覚せい剤事件などが新聞やテレビをにぎわせていた.警察は,少年の覚せい剤事案を記者発表するたび,判で押したように同じ動機を口にした.「被疑者は覚せい剤に手を出した動機について『好奇心から』と述べている」と.その結果,新聞やテレビは「好奇心から覚せい剤」という趣旨の記事を垂れ流し続けた.私もそのうちの一人だった.

行政としての取り組み

著者: 鈴木達夫

ページ範囲:P.105 - P.108

 覚せい剤や大麻などの薬物乱用による全国の年間検挙者数は,平成8年に2万人を超え,警察庁が,平成10年1月に突入を宣言した「第三次覚せい剤乱用期」は,現在も続いている.検挙者数も,平成5年以来毎年3千人を超えており(図1),次世代を担う青少年が薬物乱用に手を染めることは,大きな社会問題であり損失である.
 東京都における薬物乱用状況をみると,長期的な乱用拡大傾向が続いている.また,一般市民のみならず,特に若年層への乱用の拡大が深刻な問題となっている.平成12年度では,都内での覚せい剤事犯の検挙者の約4割,大麻事犯の検挙者の約6割を30歳未満の青少年が占めている(図2).

視点

環境保全にむけた取り組みをもっと進めよう

著者: 宇田英典

ページ範囲:P.74 - P.75

 平成13年7月に内閣府が行った世論調査によれば,「ゴミ問題に関心のある」者の割合が9割,その原因に「大量生産,大量消費,大量廃棄といった生活様式」をあげた者の割合が7割と,国民の大多数がゴミ問題に関心を持ち,しかも自分たちの日常生活に関連が深いと認識している.
 ゴミ対策は一般廃棄物と産業廃棄物で処理責任の所在や処理体制に若干の違いはあるものの,排出事業者や処理業者,国民,行政が一体となって取り組む課題であるという点では一致している.

トピックス

こころの健康づくりのニーズとその目標—平成12年度保健福祉動向調査から

著者: 島井哲志

ページ範囲:P.109 - P.113

こころの健康づくりの背景と課題
 こころの健康づくりを推進する場合に,二つの立場があると考えられる.第1は,こころの健康そのものが,その人の生活および人生の質(QOL)を左右している決定的な要因であるので,それを実現することが,当然,重要であるという立場である.この場合には,どのような状態をこころの健康と定義するのかという点や,それはどのようにQOLに寄与するのかという点が議論される必要がある。また,喫煙者がストレス解消を言い訳に使うように,こころの健康を追求することが,身体的な健康増進の方針と矛盾するという可能性も考えられる.
 第2は,身体的な健康状態の阻害要因あるいは疾患の危険因子として,こころの不健康状態があるという立場である.そこでは,阻害要因あるいは危険因子を取り除くという目的のために,こころの健康づくりをするべきだとされるのである.この立場にたてば,具体的な目標は,疾病の予防やそれを通じた身体的な健康の実現であると考えられる.もちろん,この場合にも,最終的には,身体的な健康の実現を通じて,その人のQOLが高められることが目標であると考えることができるが,こころの健康の重要性は,最終的にはQOLを加味した余命を短縮するかどうかで判断することができるので,その定義を厳密に細かく議論する必要性は,第1の立場ほどにはない.

連載 地方分権による保健医療福祉活動の展開・2

保健医療福祉の地方分権と自治体の役割

著者: 山根洋右 ,   塩飽邦憲 ,   北島桂子

ページ範囲:P.114 - P.119

構造改革の痛みの中で
 アメリカの経済学者が,日本を3C国家と呼び,その政治経済の特徴を「土建国家(construction)」,「大量消費国家(consumption)」,「ソフトな支配国家(control)」と指摘したことがある.日本は,驚異的な経済発展を遂げたが,やがてバブル経済破綻,そして今,国家倒産ともいうべき重篤な病状を呈し,外科手術ともいえる「構造改革」の痛みを耐えしのいでいる.
 その痛みの中で,ひとつの救いは,自律的な地域民主主義の時代的要請,「地方分権」への力強い胎動が見られることではないだろうか.振り返れば,地方分権の最初の胎動は,地方の政治的経済的リソースとそれを利用する技術の蓄積が始まった1960年代の革新自治体登場であった.「地方分権パイロット自治体」が盛んに提唱されたのもこの頃である.

今,改めて「公衆衛生看護」・2

公衆衛生看護の活動方法論(その2)—地域社会の仕組みをとおして考える

著者: 池田信子

ページ範囲:P.120 - P.121

 今,市町村保健婦・保健士(以下,保健婦)の活動は,少子化,高齢化,低迷する経済の影響をまともに受けた現場の中で,従来の保健事業の大胆な見直し,新体制の構築,モデル事業や研究事業結果の検証などを通して,健康なまちづくりの将来像をどのように描くかの課題を背負っている.
 現状の保健婦が,地域の住民ニーズに対応した公衆衛生看護活動の展開を課題とする時の背景には,二つの要素が考えられる.一つは激動する社会の中で生活している住民の健康を阻害する因子が複雑に変化していること.もう一つは,活動内容が,住民の生活現場と乖離していることである.今,その波が一気に押し寄せている.

私の見たイギリス保健・医療・福祉事情・2

深刻な待機者リスト問題

著者: 近藤克則

ページ範囲:P.122 - P.123

 待機者リスト(waiting list)問題は,NHS(国民保健サービス)の危機的状況の象徴である.問題が数値でわかりやすいだけではない.病床不足や人員不足など,NHSの供給能力の量的不足を原因とし,結果としてもたらされている医療の質の低下を表している.まさにイギリスNHS全般の状況を反映しており,現状を概観するのにふさわしいテーマと思われる.救急医療,一般医療,専門医療の順に,待機者リスト問題の深刻さを見てみよう.

地域保健関連法規とその解釈・14

採血及び供血あっせん業取締法

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.124 - P.125

 近代医学以前から体力が消耗した者に対しては新鮮な血液を与えることにより体力や生命の延長が図られると考えられ,初期には羊などの動物の血液がヒトに投与された.1900年(明治33)にランドシュタイナーのABO血液型の発見をきっかけとして近代医学に立脚した輸血学が始まった.しかし,今日に至るまで,その進歩は未知の病原微生物対策などの歴史と言っても過言ではない.わが国での本格的な輸血は1919年(大正8)に九州大学の後藤教授と東京大学の塩田教授により行われたのが最初とされている.1930年(昭和5)に時の浜口首相が暴漢に襲われ輸血を受けたことが報道され,国民に輸血という医療行為が広く知れわたることとなった.現在では,輸血に用いられる輸血用血液製剤はすべて,国内の献血由来血液によって賄われているが,過去に血液製剤によるHIV感染事件が起こったことは記憶に新しいところである.献血から輸血に至る一連の行為を規律しているのがこの法律である.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 高知県本山保健所

地域の資源としての精神障害者小規模作業所づくりと保健所の役割

著者: 黒岩節子 ,   向山晴子

ページ範囲:P.126 - P.128

地域の状況
 当保健所管内は,面積のおよそ9割を山林が占め,主な交通手段はバスとタクシーで,最寄りのJRの駅まで1時間以上かかる,過疎化と高齢化(高齢化率39.6%)が進む地域である.管内には精神障害者の働く作業所がなく,社会復帰事業として保健所が町村と共同で月3回デイケアを実施していた.

機能訓練事業の危機・5

地域保健活動としての機能訓練事業の重要性

著者: 吉永智子

ページ範囲:P.129 - P.131

介護保険と地域保健活動
 介護保険は,その施行によって介護サービス利用者が大幅に拡大するなど,多くの課題を抱えながらも,介護に対する人々の意識を大きく変えてきた.しかし,高齢者の生活の中心がまるで「介護」であるかのような介護保険優先の現状には疑問を感じる.高齢者は介護状態によって区別され,要介護高齢者は介護保険サービスの中に閉じこめられたという声も少なくない.介護の必要な高齢者や障害者の社会性や人間としての暮らしはどのように保証されるのだろうか.これまで保健活動は「誰もが安心して暮らせる地域づくり」を目標に,医療や福祉の活動を補完したり,必要なサービスを開発する役割を担ってきた.しかし,医療や福祉の活動と比べて保健活動は地域の実態に合った事業の取り組みが可能な反面,活動目的や効果がわからない,介護保険が導入されれば不要な活動などと評価されにくい側面ももっている.機能訓練事業がそのよい例である.
 機能訓練事業は単なる通所サービスではない.

活動レポート

難病対策—災害時における難病患者支援ネットワークづくり

著者: 岩間真人 ,   松田田鶴子 ,   杉山和子

ページ範囲:P.134 - P.137

 平成9年4月の地域保健法の全面施行により,全国的に保健所の再編や機能強化が検討実施されている.その中で,国は平成10年度から重症難病患者対策に重点を移した施策を展開しており,在宅難病患者に対する支援の強化など,保健・医療・福祉サービスの提供を推進している.
 当センターでは,難病患者地域対策推進事業〔医療相談・訪問指導(医療)・訪問相談・在宅療養支援計画策定・評価〕を難病患者・家族を中心に事業展開しているが,平成11年度「大震災下における健康福祉センターの役割及び災害マニュアルの検証」において,災害弱者の情報把握の必要性を提示した.

特別企画 日本ふれあい福祉学会 第3回全国大会より

コミュニティづくりを目指して—地域医療と地域ケアの結合—地域医療の立場から・2

著者: 松浦尊麿

ページ範囲:P.138 - P.142

 私は五色町の健康福祉総合センターに所属していますが,このセンターは五色町の健康づくり,住民のケアなどを,健康,福祉面からトータルにマネジメントしています。私たちは住民の自主的実践組織にもかかわっていますし,このグループ活動をしている人たちから,これからのあり方などについていろいろと提起を受けています.
 地域で実践をする際に,この活動が果たして効果があるのか,良いことかどうかを検証しながらやらなければなりません.私たち地域実践者はただ事業をこなしているだけに陥ることが多く,その点が欠けがちです.大学などの研究者と一緒に,私たちが行っていることを検証していくことも大切です(図3).その中で個々のテーマについて疫学的分析などにより課題を提起していただき,それを次年度の計画に反映していくというように,アカデミズムと実践現場が手を組んで実践のレベルを上げていくことが非常に大事です.日本では地域実践とアカデミズムの共同推進体制が今なお十分にできていません.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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