icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生66巻3号

2002年03月発行

雑誌目次

特集 国立保健医療科学院への期待・提言

公衆衛生院の果たしてきた役割

著者: 髙石昌弘

ページ範囲:P.148 - P.151

 公衆衛生院の歴史を概観した上で「公衆衛生院の果たしてきた役割」につき述べるよう依頼を受けた.国立公衆衛生院に就職し,退官まで40年近い日々を白金台で過ごしたものの退官後のことはよくわからないので,戸惑いもあるが,大学卒業後,国立公衆衛生院正規医学科で1年間の研修を受け,長年白金台庁舎に勤務した者として,今回の移転および国立保健医療科学院の発足には,複雑な思いがあるので受諾することにした.「国立公衆衛生院創立五十周年記念誌」1)などから過去を振り返り,在任中のことを思い出しながら記述するが,私見が入ることをご寛容願いたい.

新生公衆衛生院の理念と目指すべき方向

著者: 小林秀資

ページ範囲:P.152 - P.153

 昭和13年(1938)以来,東京都港区白金台において,地方自治体に働く公衆衛生従事者などの研修,および国の施策に貢献する研究を実施してきた国立公衆衛生院は,昭和63年(1988)の多極分散型国土形成促進法に基づく閣議決定によって対象機関となり,和光市に移転することとなった.
 その後,平成7年(1995)に旧厚生省の「国立試験研究機関の重点整備・再構築計画」により,国立公衆衛生院は国立医療・病院管理研究所と統合されて,「国立保健医療科学院」となって国民の期待に応えるよう再出発することとされた.

新生公衆衛生院の機構・組織

著者: 林謙治

ページ範囲:P.154 - P.156

 公衆衛生院は昭和13年(1938)ロックフェラー財団の寄贈により,厚生省所管の教育・研究機関として発足した.設立当時,公衆衛生という分野は存在せず,わが国における初めての試みであった.周知のようにロックフェラー財団は米国のハーバード大学およびジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生学校の設立に当たって多大な援助を行い,海外においても多数の公衆衛生学校の設立に寄与してきた.国立公衆衛生院と前後して創設されたのは国立フィリッピン大学の公衆衛生学校,旧ユーゴスラビアのスタンパー公衆衛生学校である.同財団がかかわった海外の公衆衛生学校は現在まで40以上にのぼる.これらの学校のほとんどは現在でも活動を続けており,財団の国際協力・貢献はまことに刮目すべきものがある.
 本院の設立以来,63年の歳月を経たが,その間多数の公衆衛生研究者,行政官,現場従事者を養成し,公衆衛生の発展のために尽力してきた.戦時中一時名称の変更があり,また,戦争直後GHQの指導により組織の改正も行われたが,公衆衛生の教育・研究という中心となる業務は一貫して堅持してきた.一方,公衆衛生の重点課題は時代とともに変わり,結核・感染症の時代から母子保健へ,そして高齢者保健へと移り,今日では保健,医療,福祉の連携・統合化の方向が模索されている.

保健所長としての期待

著者: 川元孝久

ページ範囲:P.157 - P.159

 人は共同生活をするために,家族をもち,地域に集まり,地域社会をつくり,ひいては国を形成している.このために国は,国民が生きるための各種の弊害を取り除くべく,努力をしている.これが国の責務としての行政で,国民の健康を守る行政が衛生行政である.その国民(公衆,地域住民)を「守る」衛生行政を地域で実施する機関が保健所であり,その活動を保健所活動といい,公衆衛生活動ともいっている.
 ところで,急激な人口の高齢化および出生率の低下,疾病構造(慢性疾患の増加など)の変化,住民ニーズの多様化(豊かな生活を求め),生活環境問題への住民意識の高まり(廃棄物など)などにより,保健所法が抜本改正され,平成9年に「地域保健法」(以下,法)として全面施行された.この法は新たな地域保健の目指すべき方向を,1)市町村の役割重視,2)保健所の機能強化,3)保健と医療と福祉の連携,4)マンパワーの確保と充実に求め,「ゆとり,安心,多様性のある国民生活」を目標とした.

市行政からの期待

著者: 田中茂

ページ範囲:P.160 - P.162

 国立公衆衛生院がこのたび完成し,平成14年4月1日に開校の運びとなりましたことは,まことに喜ばしく感無量であります.
 顧みますれば,昭和63年7月,多極分散型国土形成促進法に基づき国立公衆衛生院が移転対象機関となり,平成4年3月の国有財産関東地方審議会において,現在の和光市の敷地が建設予定地として適正であるとの答申が出されてから,ちょうど10年の歳月が経過しております.

地方衛生研究所から望むこと

著者: 加藤一夫

ページ範囲:P.163 - P.165

 地方衛生研究所は,地域保健対策を効果的に推進し,公衆衛生の向上および増進を図るため,都道府県または指定都市における科学的かつ技術的な中核機関として,関係部局,保健所などと緊密な連携の下に,調査研究,試験検査,研修指導および公衆衛生情報などの収集・解析・提供を行う機関とされている(厚生事務次官通知:平成9年).すなわち,各地方自治体がそれぞれの地域における衛生行政施行上での問題点解決,加えて行政執行に対する科学的根拠を得る必要性に基づき設置し,保有している行政機関としての研究所である.それゆえに,多くの衛生研究所は調査研究,試験検査,研修指導および公衆衛生情報などの収集・解析・提供の業務を4本柱の基本機能として備えるべく努めている.しかしながら,研究所の設置には法的根拠がないこと,標準的研究所の組織体制は示されているものの,その組織構成は各地方自治体にまかされていることから,ほとんどの研究所は人的にも施設・設備的にも十分な体制にあるとは言えないのが現状である.さらに近年の財政事情の悪化により,充実する方向にはなく,むしろ弱体化を余儀なくされる傾向すら存在している.
 一方,健康に対する住民の関心が高まり,あるいは遺伝子組み換え食品の出現,各種化学物質による環境汚染などが明らかになるに従って,住民の食や健康に関する不安の高まりを受け,地方衛生研究所に対して,これらの事象への対応が求められつつある.

卒後教育への期待

著者: 多田羅浩三

ページ範囲:P.166 - P.170

 今日,わが国の公衆衛生が大きな改革期にあることは周知のとおりである.この時期に,国立公衆衛生院が,名残深い白金台から和光市に移転するということは,極めて重要な意味を持つように思える.国立公衆衛生院が,新生国立保健医療科学院として装いも新たに,21世紀のわが国の公衆衛生を担う中枢の機関として大きな発展をするよう,寄せられる期待は非常に大きいものがあると思われる.特に,公衆衛生専門職の卒後教育体制の構築については期待が大きいのではないかと思われる.

研修派遣元からの期待—東京都

著者: 阿部弥栄子

ページ範囲:P.171 - P.173

 先頃,厚生労働省から「保健専門技術職員の効果的活用に関する検討会報告」(委員長:竹中浩治)が公表された.保健・医療・福祉のパラダイム・シフトが進むなか,自治体の保健専門技術職員に共通する役割を再確認し,新しい時代に対応するための能力開発について検討した意欲的・かつ大胆な「今後の人づくり」提言であり,これに応える全国の動きが期待されるところである.
 さて,現行の国立公衆衛生院の教育目的をみると,「公衆衛生に関する業務に従事している技術者や,これから従事しようとする技術者に対し,専門的な教育を行い,わが国の公衆衛生の向上を図ること」としている.また,専攻課程の看護コース(1年間)の目的としては「対人保健分野における公衆衛生看護の幹部技術者として必要な専門的知識,技術,技能を修得させる」とされ,3年以上の実務経験を有する者とされている.卒後教育機関として分野の異なる16の研究部門をもち,学際的・実践的であることを明確な教育方針として掲げ,60数年の伝統をもった教育・研究機関は唯一国立公衆衛生院のみである.最近では看護系の大学・大学院も多くなってきたが,「幹部技術者の育成」を明確にした教育方針は高く評価されており,各自治体の研修制度にも位置づけられたものとなっている.

研修派遣元からの期待—北海道

著者: 一色学

ページ範囲:P.174 - P.175

 北海道保健福祉部では,部内に地域保健関係職員研修委員会を設置し,地域保健関係の北海道職員や保健所が実施する市町村関係者の研修について計画的,体系的に研修事業を実施しています.その中で,委託派遣研修として毎年約40名の職員を研修に派遣し,そのうち国立公衆衛生院にも,様々な職種から約20名の職員を研修に派遣しております.
 多くは技術吏員で,日常の自己学習では限界のある最新の情報,技術を習得しておく必要からか,他の部局に比べて,地域保健関係職員の研修機会は多いほうかもしれません.当然,研修期間中の事務は他の職員が負担しますし,また北海道は遠隔地で派遣研修にも経費がかさみます.今後も派遣元としては,研修を受けた職員がその成果を地域保健行政に活かすだけではなく,他の職員へも効果的に伝達されるよう,系統的な研修効果の活用方法についての工夫が必要かと思います.

国として国立保健医療科学院(仮称)に期待すること

著者: 佐栁進

ページ範囲:P.176 - P.179

 2002年4月1日,国立公衆衛生院は国立医療・病院管理研究所などと統合再編し,埼玉県和光市を新キャンパスに施設設備も新調し,国立保健医療科学院(仮称)(以下,科学院)として新たなスタートを切る.1938年にロックフェラー財団の寄贈によって設立されて以来,60年余になるが,この間に3万人を超える種々の公衆衛生従事者の養成などを通じて,まさしくわが国の公衆衛生活動の根幹を担ってきた.その成果は,わが国が今や世界一とWHOから評価を受ける保健医療システムを育て上げ1),平均寿命がトップであることに,いかんなく表されている.
 しかし,今日われわれが直面している新しい世紀の様々な健康テーマを克服していくためには,今後なおいっそうの積極果敢な取り組みが必要である.今回の科学院の発足は,今日までの素晴らしい歴史を踏まえつつも,さらなる飛躍を目指す絶好の機会であり,科学院の発足までを振り返るとともに,今後の活動への期待を述べたい.

視点

『環の国』—21世紀の環境政策ビジョン

著者: 岩尾總一郎

ページ範囲:P.146 - P.147

 2001年初頭,省庁再編によって環境省が誕生し1年あまりが経過した.環境庁の成立は,公害国会といわれた第64通常国会(1970年)で公害関係14法案が可決され,環境関連法制の抜本的整備がはかられた後の1971年7月1日であるから,ちょうど30年目になる.その後,組織としては72年に公害研修所,73年に国立公害研究所,そして74年に環境庁環境保健部が設置された.このように,20世紀最後の30年は公害対策が環境政策の大きな柱であった.
 さて,21世紀の環境政策は何かと問われれば,人類と人類存続の基盤たる地球との共生であるといえる.われわれは20世紀を「大量生産・大量消費・大量廃棄の社会」として経済発展させた.地球に大きな環境負荷を与えた結果が,産業公害であり,自然破壊であり,地球温暖化であった.これを改め,21世紀を「簡素で質を重視した,活力ある持続可能な社会」にすべく,環境省は「地球と共生する『環(わ)の国』日本をめざして」というスローガンを掲げた.「環の国」とは,わが国の伝統(和)に通じ,人々が協働する「環」,生態系との「環」,国際社会との「環」という意味を込めている.

アニュアルレポート・2002

公衆衛生学の動向

著者: 實成文彦

ページ範囲:P.180 - P.183

2001年の主な動向
 21世紀の公衆衛生の幕開は国の省庁再編(1月6日,厚生労働省,文部科学省,環境省など)から始まった.その後,荒れる成人式,えひめ丸事件と続き,やがて小泉内閣の誕生と構造改革路線がスタートした.ハンセン病訴訟の和解と国によるお詫びという歴史的出来事がある一方で,大阪教育大学附属池田小学校の児童殺傷事件や幼児虐待などの痛ましい事件が続き,地球温暖化防止のための京都議定書からの米国の離脱問題に地球環境の未来を憂えている中,9月11日に米国での同時多発テロ事件が勃発した.その後の炭疽菌事件やアルカイダ・タリバン攻撃の中で日本中が緊張する中,国内で初のBSE(牛海綿状脳症,狂牛病)発生の確認がなされ,緊張と不安がよりいっそう高まった中,第60回日本公衆衛生学会が香川県高松市で開催された(10月31日〜11月2日,学会長:實成文彦).その後も各種の経済不安と失業率の上昇が続き,自殺の増加が報じられる中で幕を閉じた.21世紀の幕開の年は,今世紀の社会と公衆衛生の多難さを予感させるに十分であったように思う.特に人の心と行動に起因する様々の事象や,社会・環境を介してもたらされる健康問題や健康危機など,様々な場面での危機管理の重要性が強調された1年であったように思う.

産業衛生学の動向

著者: 大原啓志

ページ範囲:P.184 - P.186

産業衛生学の課題
 産業衛生学の動向は,産業現場の課題やこれに対する産業保健活動と深い関連をもつ.20世紀後半は産業衛生学を基盤とした産業保健活動が,法的規定の整備ともあいまって本格的に進展した時代といえるであろう.しかし,近年の産業社会の産業構造の変化や就業構造の多様化,また,作業態様の変化など,労働生活と健康の関係にも新たな課題が生じており,その対応でも法的規制だけでなく産業現場での自主的な活動の必要性が認められてきた.
 産業衛生学の課題について,2000年12月に3年間の検討を経て「21世紀の労働衛生研究戦略」(以下,研究戦略)協議会の報告が発表された.21世紀初頭の10年間に重点的に実施すべき研究課題を検討したもので,三つの重点領域と優先的に取り組むべき研究課題が示されている(表).重点領域Iは,第三次産業の伸長,就業形態の多様化,情報技術革新,労働力の高齢化,女性労働者の職域拡大などの急速な進展の中で,労働負荷と健康影響を把握することを課題とする領域とされている.IIは,有害因子に関する領域で,それらの生体影響の範囲,作用機序,複合影響,生態側の感受性など,および,作業態様における生体負荷因子,すなわち人間工学的因子とこれに対する生体側の負担との解明の究明を重要な課題としている.

衛生学の動向

著者: 田中正敏

ページ範囲:P.187 - P.190

 健康に生き,健やかに老いることは,21世紀の高齢社会において最大の問題である.健康の保持・増進,健康的な環境条件の確保のためには広く社会の組織的な取り組みと活動が必要である.しかし昨今,人類を取り巻く環境の変容は著しく,生活・産業廃棄物は空気,水,土壌を汚染し,生活環境にとどまらず,地球全体の環境にも多大の影響を与えている.
 21世紀の初年,いろいろな変革や事件が生起した.1月には省庁の再編が実施され,大学においても教育行政の変革により,大学院大学も発足し,看板の掛け替えが進んでいる.1992年に地球サミットで地球温暖化防止の「気候変動枠組み条約」が採択されたが,京都会議でのCO2排出逓減目標の達成には,ほど遠い状態にある.世界を震撼させたアメリカでのテロ事件,炭疽菌騒動は,社会医学の立場からも大きな出来事である.

トピックス

精神保健福祉法第32条による通院医療費公費負担についてのレセプト調査

著者: 三宅由子 ,   伊藤弘人 ,   佐名手三恵 ,   竹島正

ページ範囲:P.191 - P.195

 精神障害者通院医療費公費負担制度は,精神障害者の社会適応性の低さ,障害者家族の被る精神的・経済的損害の重さ,適正な医療が行われない場合の措置入院を要する程度に増悪する可能性,急速に発達した地域精神医療を普及させる必要性などの理由から,昭和40年に創設された.創設以来,在宅精神障害者の医療の継続性保持に大きな役割を果たしてきたものの,創設から35年を経て,医療保険制度や精神保健福祉を取り巻く社会状況の変化に伴い,事業のあり方の見直しが必要な時期にあるものと思われる.
 利用者数は,制度創設時(昭和41年)には約3万3千人であったが,平成元年には30万人と,年々増加の一途を辿り,平成11年には60万人を超えた.それに伴いこの制度にかかる事業費は,平成5年から10年にかけて2倍近くにまで増加し,事業費の拡大が続いている.平成10年度には予算額が360億円を超えており,本制度の利用の実態と効果などに関して早急に調査・分析することが必要と思われる.

連載 地方分権による保健医療福祉活動の展開・3

高齢者ケアと介護保険制度

著者: 塩飽邦憲 ,   樽井惠美子

ページ範囲:P.196 - P.199

高齢者ケアにおける地方分権
 先進工業国や新興工業国で,人口の高齢化が急速に進行している.増加する高齢者は疾病と障害を高い割合で有するため,「寝たきり老人」,「老人虐待」,介護する女性の「介護地獄」,医療機関への「社会的入院」や高騰する老人医療費などの社会問題を引き起こした.高齢者介護問題を深刻にしたのは,経済成長の停滞である.持続的な経済成長によって吸収されていた老齢年金や医療費の増加が大問題となったために,1980年ごろから先進工業国では,高齢化に対応した保健医療福祉システムの改革が試みられた1〜4)
 第一の改革は,高齢化や慢性疾患化に対応した効率的な医療システム実現のために,高コストの病院中心の医療システムから地域医療への移行である.第二は,保健医療と生活支援(福祉)のサービス統合である.高齢者では老化や慢性疾患に身体・心理・精神的な障害が加わっており,医療の他に,生活支援,生きがいを引き出すコミュニティ活動の重要性が増している3).第三は,高齢者の保健医療福祉システムの設計・運用を国から地方自治体に移すことであるが,改革の方法は,国によって異なっている(表1).

今,改めて「公衆衛生看護」・3

公衆衛生看護の活動方法論(その3)

著者: 山崎京子

ページ範囲:P.200 - P.202

保健婦活動の原点としての公衆衛生看護
 わが国における保健婦活動は,公衆衛生看護活動として発展してきた.公衆衛生看護活動は,看護学と公衆衛生学の両方を基盤としており,看護サービスを提供するとともに公衆衛生の担い手として公衆衛生の技法を駆使して展開される.
 公衆衛生の基本理念を示すものとしては,「1)環境衛生の改善,2)伝染病の予防,3)個人衛生についての教育,4)疾病の診断と治療のための医療と看護サービスの組織化,5)すべての人の健康保持のための生活水準を保障する社会制度の開発,などを行うため,組織化された共同社会の努力を通じて,a)疾病を予防し,b)生命を延長し,c)身体的・精神的健康と効率の増進をはかる科学であり技術である」というウインスロウ(1949年発表)の定義が代表的である.「組織化された共同社会の努力」とは社会構成員が協力して行う営みである.したがって,「健康障害を発生させる根源を追求し,それを根絶しつつ,健康な生活の条件を確保する」という公衆衛生の目的は社会構成員(国民・地域住民)の理解や協力がなければ達成できない.

私の見たイギリス保健・医療・福祉事情・3

医療従事者の不足と士気低下

著者: 近藤克則

ページ範囲:P.204 - P.205

 待機者リスト問題に象徴されるNHS(国民保健サービス)の危機的状況の原因は何か? 私が尋ねると,何人もの医療政策研究者やNHS職員,患者・市民が口をそろえて「長期にわたる医療費抑制」と答えた.それに加えて,(元)医療従事者たちの「良い医療ができるはずがない」という口ぶりや態度から,医療従事者の量的不足,さらには,彼(女)らが疲弊してしまい士気も低下していることがうかがわれた.
 英国医師会雑誌(BMJ)やBBC,全国紙Guardianなどから集めた人員不足や士気低下を示すデータやその背景を紹介しよう.

地域保健関連法規とその解釈・15

栄養改善法

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.206 - P.207

 大正9年に国立栄養研究所(現独立行政法人国立健康・栄養研究所)が設置されるとともに,栄養業務は厚生行政の一環に位置づけられてきた.昭和13年には,栄養士規則が定められ,戦後の昭和27年に栄養改善法が定められ現在に至っている.その間,日本人の栄養摂取状況は特に戦後,劇的に改善してきた.栄養改善法は,国民の栄養状況の改善を通じて,健康の維持増進に大きな役割を果たしたが,科学技術の進歩や複雑化する社会の実情に対処しているのだろうか.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 広島県尾三地域保健所

精神保健福祉の市町村定着化促進事業

著者: 安武繁 ,   後藤宏美 ,   中康

ページ範囲:P.208 - P.210

市町村を中心とした精神保健福祉の時代へ
 精神障害者の社会復帰のいっそうの推進を図るため,1999年6月に市町村による在宅福祉事業などを主な改正内容とする「精神保健福祉法の一部改正」が行われた.2002年4月の法一部改正の施行を前に,広島県尾三地域保健所では,住民に身近な市町村で精神保健福祉事業が定着化することを目指して,1999年度から管内市町と連携して「市町村定着化促進事業」に取り組んできた.

機能訓練事業の危機・6(最終回)

機能訓練事業全国調査と介護保険調査から見た危機と展望

著者: 澤俊二

ページ範囲:P.211 - P.215

 介護保険制度開始前後の全国調査から,機能訓練事業の現場には今後への危機感ととまどいがみられた.また,介護保険サービスで,うつ状態の軽減やQOLの向上が図れるのか,脳血管障害者の追跡調査を通して得られた結果から機能訓練事業の必要性について言及したい.

特別企画 日本ふれあい福祉学会 第3回全国大会より

コミュニティづくりを目指して—地域医療と地域ケアの結合—地域リハの立場から

著者: 山本和儀

ページ範囲:P.217 - P.220

地域リハビリテーション活動の目的と視点
 地域リハビリテーション活動(以下,地域リハ)における具体的な目的は,生活を営むうえで起こりうるあらゆる障害(生活障害)を改善することにあり,その人らしい生活を保障していくことです.そのことを具現化する手段として,直接的サービス(訪問介護などの各種サービス)があるが,単にサービスの提供そのものが目的ではありません.また,生活障害の改善という目的を達成していくためには,その人を疾病などの発症直後から一連の流れのなかで支援していく必要があり,施設や在宅といったサービス提供者側の都合で生活を分断するようなことがあってはなりません.すなわち,生活の場が異なるだけであり,生活自体は連続性を保っていなければならないということです(無論,急性期であればリスク管理が必要になってきます).
 一方,生活維持期であれば,施設で提供されていたサービスは在宅でも提供される必要があり,逆に在宅生活者が入院,入所したならば,在宅でのサービスあるいは生活状況を踏まえた施設サービスが提供されなければなりません(短期入所などを利用する際も同様です).

海外事情

ブラジルにおけるHIV/AIDS対策—世界のモデルとして

著者: 大西真由美

ページ範囲:P.222 - P.225

 ブラジルで最初のAIDS患者が確認されたのは,1982年であった1).この20年間,ブラジル保健省,国際援助機関,NGOらは,積極的にHIV/AIDSに関する啓蒙・普及,予防,調査,治療,ケア活動を展開し,現在その活動は「世界のモデル」といわれている.ブラジルで展開されているHIV/AIDS対策の根底には「共生」があり,HIV/AIDS対策のポリシーおよび実際の活動の中にそれが反映されている.
 現在,ブラジルでは,抗レトロウイルス剤および妊婦へのAIDS予防薬は無料で提供されている.また,保健省,州政府,市政府,NGOが同じ基本政策の下,パートナーシップを持ちながら活動している.こういった,すべての人々と平等に共生していこうとするポリシーは,ブラジルでは10年以上前に生まれ,常に新しい問題にチャレンジし,世界をリードする対策を実践している.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら