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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生66巻4号

2002年04月発行

雑誌目次

特集 これからの国際保健医療協力

国際保健医療協力の視点—世界のなかの日本—どこから,どこにいくのか

著者: 宮城島一明 ,   中原俊隆

ページ範囲:P.232 - P.238

 「何のために,誰のために,国際保健医療協力を行うのか」という問いは,発展途上国の空の下で,あるいは援助機関本部の机の上で,これまで何度となく発せられてきた.同じく,「なぜ,ほかの誰でもなく,われわれが援助をするのか」という問いも多くの援助関係者を悩ませ続けている.
 広義の国際保健医療協力には,先進国も途上国も建前上は平等の立場で参加する国際基準策定作業,人間開発や社会開発のための世界規模での唱導活動,あるいは,発展途上国が相互に知識や経験を交換する活動も含まれるが,本稿では,先進工業国が発展途上国に対して行う資金・技術・機材の供与という狭義の国際保健医療協力について,その存在意義を探ってみたい.

世界保健機関(WHO)が取り組む主要課題と戦略

著者: 千村浩

ページ範囲:P.239 - P.242

 WHOでは,従来よりマラリアや結核などの感染症やがんや糖尿病などの非感染症,食品保健や医薬品の安全性などに重点的に取り組んできた.1998年にDr. Gro Harlem Brundtlandが事務局長に就任して以来,これらに加えて保健システムの機能評価,各種インターベンションの費用対効果に関するデータの整備などを通じて,加盟国が限られた資源をより効率的に活用できるような支援を進めてきた.
 このような活動は,①DALE(disability-adjusted life expectancy)を用いた健康の評価,②generalized cost-effectiveness analysisの手法を用いたインターベンションの費用対効果に関するデータ整備,③health system performance assessment,④commission on macroeconomics and healthによる開発途上国の健康への投資が世界の経済成長と貧困の解消に寄与するとの議論の整理(macroeconomics and health:investing in health for economic development)の4点に要約できる.

わが国の保健医療技術協力の動向と課題—情報発信とより良い協力の実施を目指して

著者: 藤崎清道

ページ範囲:P.243 - P.247

はじめに
 わが国のODAによる保健医療技術協力は1974年に設立された外務省所管の特殊法人である国際協力事業団(JICA)が実施機関として中心的な役割を果たしてきた.この間JICA実施事業は技術協力実施額・件数の増加に加え種々の協力スキームの拡大,評価制度の拡充,課題別指針の作成,WHOなどの国際機関やUSAIDなど他国援助機関との協力の実施など量・質両面にわたる拡充を遂げている.一方,保健医療技術協力の基盤となる専門家の養成や国際保健医療の学問分野についても,厚生省所管の国立国際医療センターの創設と国立病院のネットワーク化や国際保健学会の設立,大学における国際保健医療関係学科設置の増加など着実な進展が見られてきた.また,2000年沖縄サミットでの感染症イニシアティブのように,国際政治における日本の戦略的アプローチとして保健医療協力を活用していく傾向も強まっている.
 一方,わが国のODAをめぐる環境は近年厳しさを増しており,実施機関側での対応が急務となっている.小泉内閣における「聖域なき構造改革」はODAも例外とせず2002年度予算案では前年当初予算比10%の減となり,今後もさらに減額が続く可能性があることから,ODAのより効率的な活用がいっそう求められている.併せて事業実施計画策定段階から実施後の評価に至るまでのすべての段階における情報の透明性が求められてきている.

国際協力における大学の役割

著者: 上原鳴夫

ページ範囲:P.248 - P.251

 保健医療分野に限らず開発援助としての国際協力には数々の難しい問題があり,どの国も国連機関も問題を抱えている.とはいえ,「援助の難しさ」の多くは途上国の抱える種々の制約や援助国と被援助国の関係性に起因するのに対して,日本のODAが抱える問題の大半は援助国としてまだ発展途上にある日本の側の要因に起因する.保健医療分野における日本の国際協力の課題と,その発展のために大学が果たすべき役割を考える.

国際協力における地方自治体の役割—神戸市の場合

著者: 金光清行

ページ範囲:P.252 - P.255

 自治体の国際活動への取り組みは,親善から交流へ,そして交流から協力へという流れが認められる.自治体の国際協力が注目され,活発になったのは1980年代後半からである.
 国際都市を標榜する神戸市は,1970年に入って国際活動への積極的な取り組みを始めたが,その充実を図る方策の一つとして,1980年に神戸国際交流協会を設立した.その後地域の国際化が開発途上国への協力へと進展するのを受けて,1994年に神戸国際協力センターを設立したが,1999年に両団体を統合し,旧神戸国際協力センターを神戸国際協力交流センターに改組した.これは国際協力と交流を一体的に進める組織体制を整えるためのものであった.これによって,外務省,国際協力事業団(JICA)などの公共機関はもとより,企業,民間団体(NGO),市民など広く民間活力を活用し,地域の国際活動の調整またネットワーク化を機動的に推進することができるようになった.また,開発途上国の多様で個別なニーズに対して柔軟に対応することが可能になり,市とは独立した財団として専門的に業務を実施することにより,国際活動に関するノウハウを蓄積することもできるようになった.

国際協力におけるNGOの役割—国内と国外をつなぐ掛け橋として

著者: 中村安秀

ページ範囲:P.256 - P.260

アフガン難民キャンプで学んだこと
 私が国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)保健医療担当官としてパキスタンの首都イスラマバードに赴任したのは,1990年3月であった.わずか1年間の在任だったが,国連機関,NGO(non-government organization),難民の人々から得たものは大きかった.
 当時は,約320万人といわれる世界最大の難民集団であったアフガン難民キャンプの保健医療は,パキスタン政府が管轄する診療所131カ所とNGOが管轄している診療所90カ所が担っていた.国境なき医師団,セーブ・ザ・チルドレン,ケア,オクスファムなど,世界中から国際NGOが集結していた.

PHCの人材養成—国際保健の視点から

著者: 林謙治

ページ範囲:P.261 - P.264

 プライマリ・ヘルスケアのための人材育成は各国の保健医療事情により様々なアプローチがある.国によっては正規の教育を受けた医師,保健婦,助産婦,看護婦が重視されることもあるだろうし,他方,上記の補助職のほうがむしろ緊急な課題となっていることもある.国際保健の立場から考えたとき,外国政府の助言者として人材養成の立案に携わることもあれば,実際の現場でトレーニングにあたることもあろう.さらに,日本に外国人研修員を迎え入れることや,あるいは海外派遣予定の日本人に対して研修を行うこともある.途上国のプライマリ・ヘルスケアのための人材養成は国それぞれの特殊事情があるものの,基本的なコンセプトは先進国と同様にどこにおいても共通するものがある.

疾病負荷測定と優先順位決定の考え方と問題点

著者: 渋谷健司

ページ範囲:P.265 - P.269

1978年度のアルマ・アタ宣言とそれに伴うプライマリ・ヘルスケア(PHC)概念の提唱から早くも四半世紀になろうとしている.この間,平均寿命などに示される絶対的健康状態は(それが保健セクターの効果によるものであろうとなかろうと)確実に改善されてきた.一方,「2000年度までにすべての人に健康を」というスローガンは結局達成されず,相対的健康状態は国家間・国内での格差が広がりつつある.経済的状況は不透明であり先進国は内向き思考になっている.このような状況のもとで国際保健協力はどうしたらよいのだろうか?
 ここではある発展途上国にどのような保健サービスを導入したらよいかを考えてみることにしよう.まず貧困をなくすこと,独裁体制をなくすこと,軍事費用を削減することが先決であるなど,お題目的には極めて聞こえの良い,しかし現実を無視したイデオロギー的議論は別として,国際保健協力入門の第1章であるPHCを学んだ人ならば,おそらく「包括的でかつ公平性を重視した住民参加型の現地に根ざした自立支援保健プログラム」という模範解答を示してくれるはずである.しかし,これはすべてを含む一方であいまいな提言に陥りがちである.いったい何を行えばよいのかという問いには残念ながら答えてはいない.

エイズ治療薬の援助と製造ライセンス問題

著者: 喜多悦子 ,   平川オリエ ,   古賀節子

ページ範囲:P.270 - P.274

 アフリカでは,時にエボラ出血熱が流行する.また,元来この大陸になかったコレラが毎年流行し,いわゆる髄膜炎ベルトとよばれる北部アフリカ諸国では,相変わらず髄膜炎が広がる.ほとんどの国で,マラリアその他の熱帯寄生虫疾患が風土病化している1).これらは,医学的には,ウイルス,細菌,寄生虫の感染症である.アフリカ南部で猛威を振るっているAIDSの原因は,いうまでもなくHIVである.
 開発協力は東南アジアをはじめ世界各地に改善をもたらした.平均寿命は62歳となり,乳幼児死亡率は半減し,初等教育就学率も倍増した.絶対数では,最大の貧困者を抱えているものの,アジアは前進した.それに対して,アフリカはひとり開発の波から取り残され,二重三重の負担にあえいでいる.

視点

公衆衛生学のビジョン

著者: 小林廉毅

ページ範囲:P.230 - P.231

 公衆衛生学とは,社会の組織的な取り組みによって人々の健康やQOL(quality of life)を維持・増進するための実践活動,ならびにそのための知識・技術の総体などと定義される.学問的な真理や厳密さを追求する一方で,現実的な便益や柔軟さも重視することから,公衆衛生学の面白さや難しさ,醍醐味が生じる.

トピックス

精神疾患の医療保険入院外診療の動向

著者: 佐名手三恵 ,   三宅由子 ,   竹島正

ページ範囲:P.276 - P.281

目的
 昭和40年に創設された精神障害者通院医療費公費負担事業は,利用者が年々増加し,平成11年度利用者数は64万人1)を超え,平成10年の精神障害者通院医療公費負担医療費は620億円2)を超えている.本研究においては,通院医療費公費負担増加の背景をなす医療保険入院外診療点数の動向を明らかにする.

連載 地方分権による保健医療福祉活動の展開・4

地方分権と介護保険—地方分権の新たな時代

著者: 舞立昇治

ページ範囲:P.282 - P.287

 平成12年4月から施行された介護保険は,老人福祉と老人医療に分かれていた高齢者の介護に関する従来の制度を再編成し,利用しやすく公平で効率的な社会的支援システムを確立することとなったが,それにとどまらず保険者である市区町村(以下,市町村)をも大きく変えようとしている.介護保険が地方分権の試金石といわれるゆえんである.以下,平成13年10月から高齢者の保険料の本来額の徴収も始まり,いよいよ本格実施となった介護保険について,その導入の成果などを述べるとともに,地方分権の時代の中での介護保険制度の持つ意義に触れつつ,これからの課題や展望を検討していくこととする.なお,文中意見にわたる部分は私見である.

シリーズ 介護保険下の公衆衛生活動を考える・1【新連載】

介護保険制度施行後の保健医療行政の役割

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.288 - P.289

 東京都豊島区において,要綱により「保健福祉センター(以下,センター)」が設置されたのは,平成8年にさかのぼる.当時区内に民間の訪問看護ステーションや訪問リハビリテーションがなかったことから,これを補う形で区が非常勤看護師の委託派遣を行い,また,福祉事務所においては措置制度に基づいてヘルパー派遣を行っていた.これらを集約することで,高齢者の在宅サービス提供における保健と福祉の統合を目指したのである.
 センターの設置にあたり,以前より高齢者にかかわっていた現場職員から,在宅サービスにおける医学的立場からの客観的指導助言,課題の調査研究と普遍化,高齢者福祉施策への医学的視点の導入と提言の必要性が提案された.このような声によって,福祉対人サービス現場における係長級の医師の配属が全国で初めて実現した.福祉分野に医療職を配属することは,0次予防こそが保健行政の役割と考えるものにとって大きな挑戦であった.そして褥創に関連する課題,在宅と施設にまたがる疥癬対策,高齢者虐待の発見と介入方法,住宅改修後の活用状況調査,痴呆性高齢者の財産管理・権利擁護問題などが抽出され,各分野の研究者と連携して調査研究し,また現場職員のスキルアップのため研修会を開催するなど先進的な取り組みを行ってきたのである.

私の見たイギリス保健・医療・福祉事情・4

NHS医療の質—安全性と満足度

著者: 近藤克則

ページ範囲:P.290 - P.291

 医療費抑制がもたらしたNHS(national health service,国民保健サービス)の危機的状況を,待機者リストや医療従事者の不足など量的側面から主に紹介してきた.今回は,NHSの抱える問題の質的側面を見てみよう.医療の質の捉え方には様々あるが,ここでは医療事故に象徴される安全性や国民の満足度について紹介する.

地域保健関連法規とその解釈・16

難病対策

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.292 - P.293

 わが国の難病対策は,昭和30年代から見られた原因不明の奇病が,後に整腸剤キノホルムが原因であるスモンとわかり,大きな社会問題となったことから始まる.
 この事件が契機となり,「難病対策要綱」が昭和47年に定められ,全国レベルで難病問題に対する取り組みが行われ,以後指定疾患数が増加し,都道府県レベルでも独自の制度が設けられ現在に至っている.

今,改めて「公衆衛生看護」・4

都道府県の公衆衛生看護活動

著者: 大竹ひろ子

ページ範囲:P.294 - P.296

 地域保健法の全面施行から4年が経過し,平成12年には「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」が改正され,保健所機能が新たに示されている現在,保健所保健師による公衆衛生看護活動も時代の変化に適応した展開が期待されている.
 本稿では,保健師が担当する業務を平成10年4月に厚生省から出された「地域における保健婦及び保健士の保健活動指針」に照らし合わせることで,現在の神奈川県の公衆衛生看護活動を概観し,その変化と特徴について述べてみたい(表).

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 広島県尾三地域保健所

思春期精神保健における保健所の役割

著者: 岡本洋子 ,   那須淳子

ページ範囲:P.297 - P.299

世羅地域精神保健事業の経過
 激しい社会の変化に伴い,子どもたちを取り巻く環境は,子育て・子育ちが難しい時代となり,親子関係や社会関係が思春期の心の問題に大きく関与している.当所では,専門の医療機関や相談機関の少ない管内北部に位置する世羅地域4町(人口26,040人,児童・生徒数2,614人高齢化率31.9%)において,昭和61年度から精神保健相談を開始し,地域のニーズの変化に伴い平成元年度から思春期相談も開始した(図1).昭和63年頃から不登校など学校が抱える教育問題などの増加をきっかけに思春期にかかわる関係者が連携し,分野を越えて総合的に取り組むことが必要となった.そこで平成4年度から,母子保健対策事業を実施している市町をはじめ,医療・保健・福祉・教育関係者,県立総合精神保健福祉センター,児童相談所の参加を得て,調整会議を実施し連携を図ってきた.現在相談事業は保健所主体で実施しているが,保健所の広域的役割を認識しつつ,平成14年度から運営委員会を設置し世羅地域4町で主体的に実施できるよう検討を進めている.

特別企画 日本ふれあい福祉学会 第3回全国大会より

■鼎談■コミュニティづくりを目指して—地域医療と地域ケアの結合

著者: 松浦尊麿 ,   山本和儀 ,   硯川眞旬

ページ範囲:P.300 - P.306

 硯川 この鼎談にご登壇いただいた松浦,山本両先生は,ご存じのように医療・地域ケアへの「熱き想い」を濃厚にお持ちです.あわせて,両先生は,利用者,住民に対して心温かく,冷静にしかも住民と目線を合わせたサービス提供をなされており,「生活者」としての住民(利用者)を余すところなく把握されるお方でございます.
 また,一人一人の住民が人権主体であるということ,今,置かれている状況で差別されたり,不公平な対応がなされてはならないということを,絶対的な前提としてご認識されてのお仕事ぶりに感服・敬服しました.また,日ごろから主人公である住民の参加について繰り返し強調されております.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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