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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生66巻5号

2002年05月発行

雑誌目次

特集 若者にはびこる性感染症

性感染症と性風俗の現状

著者: 中條洋 ,   小野寺昭一

ページ範囲:P.312 - P.317

現代の性と性風俗の現状
1.性の多様化と性感染症の蔓延
 平成の時代に入り,社会生活の多様化に伴って性生活も同じく多様化の傾向を示しています.最近のIT革命も性生活の多様化に影響していると言えるでしょう.
 性行動に関して言えば,性的交渉相手も従来の限られた相手(決まった相手である場合は以下パートナーとする)のみを対象とする1対1から,1対多,多対多へと変化を起こしてきています.ここで言う1対多とは1人しか性的交渉相手がいない場合(パートナーである場合とそうでない場合とがある)で,その相手が複数の性的交渉相手を持つ場合とし,多対多とは複数の性的交渉相手を持つ人が複数の性的交渉相手を持つ人と,性的交渉を持つこととします.

文部科学省の取り組み

著者: 森光敬子

ページ範囲:P.318 - P.320

思春期における健康課題
 近年,思春期にある児童生徒は様々な問題を抱えており,昨年まとめられた「健やか親子21」においても,その問題のいくつかが取り上げられています.これらの問題には,薬物乱用,性の逸脱行動,摂食障害をはじめ様々なものがあり,この中でも,特に性に関する問題については年々深刻化しています.十代の性交経験率の上昇や無防備な性交の増加を背景に,十代の人工妊娠中絶率の上昇,若年層の性感染症の増加など,緊急に対応していかなければならない課題が山積しています.
 これらの問題は,学校だけの努力では十分に対応しきれないものであり,地域保健との連携が不可欠です.それぞれの特徴を生かし,協力して対応していかなければならない問題であると認識しています.今後,地域保健との協力関係を築くにあたって,まず,文部科学省において,これまで性教育についてどのような取り組みをしてきたかを説明し,その後,連携の可能性について述べさせていただきます.

厚生労働省の取り組み

著者: 新野由子

ページ範囲:P.321 - P.325

 性感染症に対して厚生労働省における担当課は結核感染症課であるが,今回は,そもそも性感染症は,性行為が原因で発生するため,特に思春期保健の取り組みも視点に入れた施策を行っている母子保健課がどのような取り組みを展開しているのかを中心に述べたい.

神奈川県立大和西高等学校のエイズ(性)教育

著者: 阿部真理子

ページ範囲:P.326 - P.330

 「教育こそHIV感染予防の最高のワクチン」と言われてから,かなりの年月が経過した.この間,高校においては文部科学省より予防啓発パンフレットが全生徒に配布されるなどの取り組みにより,ほとんどの生徒が「エイズ」に関する“HOW TO的知識”を持っていると推測される.しかしながら,最近の若者の性行動の早期化,性感染症や望まない妊娠などの増加をみると,知識が彼らの行動には役立っていないのではないかと考えざるを得ない.
 現代は性情報が氾濫し,性に関する観念やモラル,価値観が変化・多様化する一方で,インターネットの“出会系サイト”や“メル友”などによる子どもたちの気軽さの背中合わせに落とし穴がある.コミュニケーション能力が十分培われていない子どもたちの現状から,「性の問題」に関しても単に知識を与えるだけではなく,自己の生き方・あり方を見つめ,互いの性を尊重する心を基盤に性情報を的確に見極め,主体的判断ができる態度や能力を育てる,現実に即した具体的な教育が必要であると考える.

思春期の若者へのセクシャル・ヘルス支援に向けた保健所からのアプローチ—地域モデルプログラムの試み

著者: 内野英幸

ページ範囲:P.331 - P.336

 わが国の高校生は男女ともに卒業までに4〜5割と半数近くが性交経験者と推測される1,2).私たちの2000年の調査では,性交経験のある高校生で直近の性交時にコンドームを使用しなかった者が4割,過去6ヵ月間の性交で一度もコンドームを使用しなかった者が5人に1人,女子高校生の妊娠や人工妊娠中絶の経験者の割合は全体の4.6%,セックス経験者中12%となっていた2)
 事実,わが国の20歳未満の女子人口千に対する人工妊娠中絶率は,1996年に7.0と増加に転じ,毎年1ポイントの上昇があり,1999年には1.5ポイント上昇とさらに加速,2000年の人工妊娠中絶率は12.2と,5年前の2倍に急上昇している3).加えて若者の性行動に伴うリスクとして,10代女性の性器クラミジア感染症の流行が深刻な問題として浮上している.10代妊婦の性器クラミジア感染率が約2割との報告もある4).また,性器クラミジア感染症は女性で5人に4人が無症状であり,発見の遅れによって重篤な後遺症を招きかねない.ましてHIV感染症など治癒できない疾患に罹患すれば,生命を脅かすことになる.したがって,特に若い女性におけるセクシャル・ヘルス(性の健康)はわが国でも非常事態であり,思春期の望まない妊娠・性感染症予防のために緊急かつ具体的な効果の上がる方策を実践段階に移す必要があるのは明白である(図1).

性感染症検診の成果と課題

著者: 大國剛

ページ範囲:P.337 - P.339

 歴史的にみると,花柳病と称された時代から,性病,性行為感染症,性感染症,性関連感染症と呼ばれるようになり,医学の進歩とともに性関連感染症には,多くの疾病が包含されるようになった.従来からの4つの疾病,すなわち,淋疾・梅毒・軟性下疳・第四性病に加えて,クラミジア・性器ヘルペス・尖形コンジローム・トリコモナス症・カンジダ症,さらには人間の性行動に由来して発生するB型やC型肝炎・しらみ・疥癬・アメーバ,そしてエイズと,多くの疾病が含まれて論じられている.
 性病予防法は感染症新法に改正され,性感染症は定点報告,四類の報告で処理されるようになった.また,東京都や大阪市などでは,HIVの無料検診の際に,他の疾病の検査も含まれている.例えば大阪市では,HIVの他に,クラミジアIgA,IgG抗体,HCV(C型肝炎ウイルス),梅毒検査を併せて実施している.2001年7月からの実施で,月間約300人(男女ほぼ同数)が受診していると聞いている.また,男性同性愛者のグループが中心となり,2000年から,5月のゴールデンウィークの3日間に,男性同性愛者の検診を実施し,HIV・HCV・梅毒の検査がなされていて今年も実施予定である.2000年には250人,2001年には400人程度が受診しており,性感染症への関心が高まっている.

■座談会■性感染症は防げない?・1

著者: 北山翔子 ,   竹野守 ,   栗原治久 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.340 - P.345

 岩室(司会) 今日は「性感染症は防げない?」というテーマで皆さんと話し合いたいと思います.このようなテーマにしたのは,今まで多くの方がHIV・性感染症予防の啓発活動をしてこられ,私もコンドームの達人としてそれなりに啓発活動をしてきたつもりでした.しかし,今日出席していただいている北山翔子さんの話をうかがって,知識があれば性感染症を防ぐことが本当に可能なのだろうかと,疑問を抱きました.
 北山さんは保健師として専門的な知識を持ち,コンドームをつければHIVに感染しないと知りながら感染してしまった.

中学校,高校現場での性感染症の相談への対応事例Q&A

著者: 岩室紳也

ページ範囲:P.346 - P.349

 「性感染症が増えている,若者の中で蔓延している」という現実があっても,公衆衛生担当者が実際に性感染症に罹患した若者の声を直接聞く機会は少ない.一方で,学校現場では保健室の養護教諭や一般教諭が生徒から相談を受けても,どのようなアドバイスをするのが適当なのか,戸惑いや不安がある.今後公衆衛生担当者も学校教諭も,若者たちから直接,性感染症に関する相談を受けたり,学校現場で性感染症予防教育を展開する機会がますます増えると思われる.
 本稿では,若者から寄せられる相談などへの対応で,詳細な解説が必要と思われるものについてQ&A方式でまとめてみた.用語に関しては性器クラミジア感染症をクラミジア,淋菌感染症を淋病,などと簡略化し,性に関する表現もできるだけ若者の言葉に近いものを用いた.なお,受診のすすめ,典型的な症状など,常識的なものについては省略した.

視点

健康増進法案と今後の健康増進政策の方向

著者: 高倉信行

ページ範囲:P.310 - P.311

 本年3月1日,医療制度改革の一環として,健康保険法等の一部改正法案とともに,健康増進法案が国会提出された.この健康増進法案は,平成12年から推進している「健康日本21」を中核とする国民の健康づくり,疾病予防の推進の法的基盤整備を図るものである.
 本稿では,この法案の骨格を紹介するとともに,今後の健康増進政策の方向に関し若干付言したい.意見にわたる部分は筆者の私見である.

連載 地方分権による保健医療福祉活動の展開・5

介護保険と自治体の役割

著者: 小林勝彦

ページ範囲:P.350 - P.354

地方分権に向けた自治体の現状と課題
 平成12年4月1日施行の「地方分権推進一括法」(正式には地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律)は,475本の法律をまとめた膨大なものだが,その大宗をなすものは「地方自治法」の大改正である.
 明治21年の市制・町村制施行以来,県や市町村が国の一機関として従属してきた,いわゆる上下主従の関係から,国と地方公共団体の対等の関係を明確にした「機関委任事務」の廃止は画期的な法律改正であった.

今,改めて「公衆衛生看護」・5

市町村福祉部門の保健師として

著者: 斎藤真理子

ページ範囲:P.355 - P.357

 人間は社会的な関係を持ちながら生活をしているので「住民の生命とくらしを支える」取り組みは,様々な生活の実態を無視して考えることはできない.
 高齢者福祉部門における活動の中で強く必要性を感じることは,

シリーズ 介護保険下の公衆衛生活動を考える・2

お引越し

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.358 - P.359

夫(92歳):高血圧症,変形性脊椎症,曼注腎不全(要介護3)
妻(84歳):変形生膝関節症(末申請)

私の見たイギリス保健・医療・福祉事情・5

ブレアの目指すNHS改革—白書「The new NHS」1997

著者: 近藤克則

ページ範囲:P.360 - P.361

 前号まで,イギリスNHS(国民保健サービス)の抱える様々な問題点を紹介してきた.今号から,NHS危機に対するブレア政権下での取り組みを紹介する.ブレア政権の医療政策の特徴を見るために,その前の保守党政権下で行われた改革の基本性格を,まず確認する必要がある.

地域保健関連法規とその解釈・17

介護保険

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.362 - P.363

 わが国の平均寿命は戦後一貫して伸びてきており,表1に示すように男女とも世界で最も長寿の国となっている.つまり人類史上稀に見る速さで人口の高齢化が進行しているが,同時にそれは介護を要する人々の増加をもたらしている.高齢化のスピードが欧州諸国の2〜3倍で進んでいることは,わが国の高齢社会に適する社会制度づくりが,他の先進国より2〜3倍の速さをもって進めなければならないことを意味している.こうした中,制度化されたのが介護保険制度であるが,発足以来様々な問題も指摘されている.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 広島県尾三地域保健所

精神障害者ケアマネジメント事業を実施して

著者: 保田ひとみ ,   吉永智子

ページ範囲:P.364 - P.366

取り組みの契機
 ケアマネジメントとは,利用者の生活全般のニーズと様々な社会資源との間に立って,複数のサービスを適切に結びつけ,包括的にサービス提供をする手法であり,利用者の主体性や意向を尊重することが大前提にあると言われている.
 当所は,管内の三原市が平成11年度から2年間実施した「精神障害者訪問介護試行的事業」を協働して行ってきたが,この活動を通して精神障害者の地域生活を支援するためにはケアマネジメントの手法が必要であると感じ,平成12年度に精神障害者ケアマネジメント事業に取り組んだ.

資料

高齢者施設でのインフルエンザ流行とワクチン接種効果

著者: 板垣朝夫 ,   穐葉優子 ,   松田裕朋 ,   五明田斈 ,   佐藤浩二 ,   成相隆

ページ範囲:P.367 - P.371

目的
 高齢者は肉体的,精神的な衰えとともに免疫学的にも機能の低下がみられ,さらに,様々な基礎疾患を持つこれらの年齢層は弱病原体の感染で,しばしば重篤化がみられる.特にインフルエンザの流行は影響が大きく,一般成人に比し高頻度に肺炎などの重症の経過をとる傾向がみられる1).なかでもA香港型流行期には,その流行規模に応じて人口統計上超過死亡現象の出現として捉えられている2〜4).このような状況下にあって,高齢者のインフルエンザ対策として,高齢者施設における流行状況把握と,罹患あるいは風邪症状による入院者率に及ぼす予防接種の効果などについて調査を行った.

活動レポート

管内の結核院内感染防止対策の現状—保健所の役割を考える

著者: 近内美乃里 ,   芦川良介 ,   谷村めぐみ ,   富岡順子 ,   中井信也 ,   岩室紳也 ,   堀井昌子

ページ範囲:P.372 - P.374

 1980年以降日本の結核罹患率下降傾向は鈍化を示し,最近では上昇の兆しもみられている1).1999年には厚生省(現,厚生労働省)より「結核緊急事態宣言」が出され,国民全体に結核という病気の再認識が迫られているなか,結核患者が最初に訪れる一般病院の果たす役割は大きい.しかし医療従事者の結核に対する理解や認識は低く,1990年以降結核の院内感染事例は全国各地より毎年数件報告されている2).厚木保健所管内でも入院患者が肺結核であることが明らかになり,医療機関内でパニックが起こり,その後の検診においても不適切なツベルクリン反応の実施などの混乱が散見されている.
 今回,われわれは厚木保健所管内にある結核病床をもたない一般病院の結核院内感染防止対策の実態についてアンケート調査を行い,医療機関の実態を踏まえた結核院内感染防止対策を保健所が主体的に行ったので報告する.

日本学術会議環境保健学研究連絡委員会主催公開シンポジウム 「飲み水の危機」—安全で快適な飲み水を守るために・1

シンポジウムのはじめに

著者: 角田文男

ページ範囲:P.375 - P.375

 第18期日本学術会議環境保健学研究連絡委員会主催の公開シンポジウム「飲み水の危機—安全で快適な飲み水を守るために」は,東京慈恵会医科大学と共催する形で会場の確保,設営などの協力をいただき,開催する運びとなりました.
 日本学術会議は,科学の向上発達を図り,行政,産業および国民生活に科学を反映,浸透させることを目的として,日本学術会議法(昭和23年)により,内閣総理大臣所轄下に設置された総理府の特別機関であるが,平成11年度から中央省庁の再編に伴い,総務省に置かれることになった.

環境水と飲み水を守る新たな視点

著者: 早川哲夫

ページ範囲:P.376 - P.379

 われわれは飲用をはじめとするあらゆる生活の場で水道を利用している.現在の日本の水道普及率は96.6%(平成13年度末)であり,日本のほとんどすべての地域で,特別に意識することなく,安心して水道水を利用している.国際的に見ても,日本の水道は,水質,水量ともに世界の最高水準にあると言ってもいいだろう.
 しかし,現在の水道を取り巻く状況を考えると,急速な都市化や工業化などを背景に水道水源の汚濁が進行し,水道水が汚染されるおそれが徐々に大きくなっている.これまで良好な質の水を都市に供給する役割は各都市の水道事業者が担ってきたが,これだけでは十分とはいい難い.ここでは,これからの環境水と飲み水を守るためにどんな政策を講ずるべきかを考えてみたい.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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