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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生66巻6号

2002年06月発行

雑誌目次

特集 食品の安全について考える

食品の安全

著者: 丸山務

ページ範囲:P.384 - P.388

はじめに
 最近,大腸菌O 157やブドウ球菌毒素による大型食中毒事故が相次ぎ,またBSE(牛海綿状脳症,いわゆる狂牛病)の国内発生などから,食に関わる安全性についての社会的関心は極めて高い.
 食品の第一の機能は栄養,すなわちnutritional functionであると言われる.しかしながら,その機能は同時に,安全であることに裏打ちされていなければならない.食品が空腹を満たし,栄養があり,しかも第二,第三の機能を備えていても,それによって健康障害や致死的な原因となるならば,その食品は食品としての役目を果たさない.つまり,食品は安全性が最も基本的な要件なのである.

食品中の化学物質による健康影響評価—食ライフスタイルと変異原発がん物質の摂取

著者: 森本兼曩 ,   戸田雅裕

ページ範囲:P.389 - P.392

はじめに
 食品中に含まれる有害化学物質は多種多様であるが,さて,その健康リスクはどのように評価するべきであろうか.
 歴史的にみると,水銀,ヒ素,鉛などの重金属や細菌毒素が主要な有害化学物質であった,急性中毒中心の時代は遠く過ぎ去り,近年の重金属による長期微量の慢性毒性(腎障害や肝機能障害等のみならず,胎生期・小児期における精神神経学的機能障害など),食品添加物や残留農薬によるアレルギー(アトピー)や,突然変異,発がん影響をはじめ,10-10Mレベルのホルモン量による内分泌撹乱物質(環境ホルモン)の生殖障害,性分化異常,精神神経学的な不安定状態など,作用が微量複合かつ長期的であり,その健康影響の科学的定量的評価が困難な場合が多い1,2)

食品衛生—疫学的アプローチ

著者: 渡邊昌 ,   君羅満 ,   羽場亮太

ページ範囲:P.393 - P.397

はじめに
 近時,狂牛病の発生や雪印食品の食肉生産地の不正表示等,食品の安全性に関して消費者の懸念が強くなっている.食事によって起きる疾病は,細菌やウイルス汚染によりひき起こされる感染症としての食中毒のみならず,食物連鎖を通じて濃縮される化学物質や重金属中毒など,悲惨な例が繰り返されてきた.大勢の患者が発生し,長期間の疫学調査が行われた例として,有機水銀による水俣病,鉱山の排水に含まれていたカドミウムによるイタイイタイ病,森永砒素ミルク事件,カネミ油症等がある1〜4)
 食中毒の定義は,厚生省(現厚生労働省)で食品保健と感染症対策に別れていたため,わかりにくい面がある.一応「飲食物を介して体内に侵入した食中毒原因菌や有毒・有害な化学物質などによっておきる健康障害」と定義される.従来コレラ,赤痢,腸チフスのような伝染病は食中毒としては扱われなかったが,平成11年12月の食品衛生法施行規則の改正によって,飲食に起因することが疑われる疾病が発生した場合には,病因物質の種別にかかわらず,食中毒として原因究明,被害の拡大防止がなされることになった.表1に,食品衛生法により届け出が必要な「食中毒事件票」に記載される病因物質の種別を示す.

食品由来の健康被害の歴史と保健所への期待

著者: 西正美

ページ範囲:P.398 - P.404

 生命維持,健康確保のための食が,時には健康を阻害し,生命をも奪う.自然界の食物について先人達は経験的にその有益,有害を識別してきた.また,飢饉や季節的な食対策のための幾多の保存食など,地域性豊かな食文化を育て上げてきた.しかし,時として,ケアレスミスなどで健康被害も生じた.劣悪な生活環境や未熟な食品管理では,経口ないし食品関連疾病が発生し,また,栄養的欠陥による健康阻害も見られた.
 一方,経済発展や生活水準の向上は,食への欲望が単なる生命維持や健康保持を超えて,多様な食文化を構築する.食品製造・加工の発達を促し,保存料,着色料など多種多様の添加物が使われ,食糧需給の合理化,食品関連企業の大型化,流通機構の拡大,食品の多様化と相俟って,食品の生命.健康保持の価値への配慮より,経済的観点が重視されてくる.

牛海綿状脳症(BSE)対策の考え方

著者: 小野寺節

ページ範囲:P.405 - P.410

はじめに
 牛海綿状脳症(いわゆる狂牛病,以下BSE)と変異型クロイツフェルト.ヤコブ病(以下vCJD)については,いずれも致死的である上,その感染のメカニズム,病原体の性質,両疾病の関連性等,科学的に解明されていない部分が多く,このため生じるリスクの不確実性も国民の不安を増大させる要因となっている.筆者らはこのような不確実性にかかわらず,あえてこれらのリスクの考察を試みた.
 本病のわが国での発生に伴うリスクには,家畜衛生上および公衆衛生上のリスクがある.家畜衛生上のリスクは,本病が,今後わが国で飼養されている牛で4頭の発生にとどまるか,もしくは大規模な発生となるかの可能性である.一方,公衆衛生上のリスクは,BSEの病原体に汚染された牛肉が流通し,vCJDの患者が出現する可能性である.この2つのリスクは,密接に関連している.

食品由来の健康被害に対する危機管理—健康危機管理研修における紙上シミュレーションの試み

著者: 山口亮

ページ範囲:P.411 - P.415

保健所における食中毒対策の初動
 「何らかの有毒・有害物質が食品(飲食物)の中に入っていて,それを飲み食いしたヒトが急性胃腸炎(腹痛・下痢・嘔吐などの症状を伴う)などの急性障害を起こした場合に食中毒といいます」1)とありますが,これはレトロスペクティブに見た定義であり,保健所における食中毒の初動では,この定義の後半部分を探知するところから始まります.すなわち,「急性の胃腸炎症状を呈したヒトが,病院に多数受診しているようだ」ということです.
 食品衛生法では,「医師は食中毒患者(擬似症も含む)を診断,またはその死体を検案した場合には,直ちに最寄の保健所長に届けなければならない」ことになっているからで,多くの場合は,この届出によって対策が開始されます.他の例としては,学校給食を原因とする食中毒の場合には,父母からの保健所への相談から探知される場合があり,また,一般住民から保健所への有症苦情から探知される場合もあります.

視点

母子保健と国立成育医療センター

著者: 北井暁子

ページ範囲:P.382 - P.383

はじめに
 少子化が急速に進むなか,次代を担うこどもとその家族の健康は国民的課題となっています.昭和40年,わが国初の小児総合医療施設としてスタートした国立小児病院は,国立大蔵病院と統合され,わが国5番目のナショナルセンターとして“国立成育医療センター”が今年3月1日オープンしました.
 本稿では,当センターの紹介をしつつ,母子保健行政との関わりについて述べることとします.

特別企画

■座談会■性感染症は防げない?・2

著者: 北山翔子 ,   竹野守 ,   栗原治久 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.416 - P.420

パートナーへの感染をどう防ぐ?
 岩室 AIDS検査で感染していることがわかれば,当人はパートナーにうつさないようになっていくとよく言われますが,竹野さんの場合はどうですか.
 竹野 今つき合っている相手には,知り合った最初に言いました.病気を理由に拒否されたら嫌だという思いがあるので,「言う」「言わない」はすごく悩みます.その一方で,言うことには自分にとっては逃げの部分もあるんです,言って受け入れてくれたら私が楽という.そういう意味もあって,先に言うことが多いですね.

連載 地方分権による保健医療福祉活動の展開・6

「健康日本21」と厚生労働省の役割

著者: 高宮朋子

ページ範囲:P.422 - P.426

根拠に基づく政策決定と「健康日本21」
 厚生労働省では,平成12年度より,中長期的な国民健康づくり対策の第三次の運動として,21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)を推進している.「健康日本21」の策定の経緯を振り返ってみると,平成9年の公衆衛生審議会健康増進栄養部会・成人病難病対策部会合同部会専門委員会によりまとめられた「今後の生活習慣病対策について(中間報告)」の中で,国民の健康に対して大きな影響等を与える疾病等について,総合的かつ具体的な達成目標,およびそのための手順を示した「健康日本21」の策定の必要性が謳われている.このような達成目標(ターゲット)を用いた公衆衛生施策は,経営学において用いられてきた目標管理手法を保健医療セクターに応用したものである.この手法は,明確な目標を設定することにより,関係者がこれを共有し,活動がより効果的に行われうるという考え方に基づいている.
 同時に,根拠に基づく医療「Evidence-Based Medicine(EBM)」に呼応するように,健康施策における目標設定や健診サービスなど,個々の保健施策の実施にあたっても,これまで蓄積された知見を総合的に評価し,その結論に基づいて評価・実施するべきとの認識,すなわち「Evidence-Based Healthcare(EBH)」が広まりつつある.

今,改めて「公衆衛生看護」・6

精神病院33年間入院から社会復帰実現—個別支援から健康で豊かな地域づくり

著者: 若木茂子

ページ範囲:P.427 - P.430

はじめに
 平成4年当時,三沢保健所では「生き生き健康三沢会議」を開催し「健康で豊かな街づくり」を進めていた.
 保健師は組織の一員として,地域づくりの設計者および唱導者となり,所内の各課にまたがる横断的取り組みと地域関係者との協働のシステムをつくる者,との認識で活動していた.

シリーズ 介護保険下の公衆衛生活動を考える・3

お出かけ

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.431 - P.433

母(86歳):痴呆,要介護 2.2階建て一軒家に娘夫婦[娘(53歳)],孫と三世代同居

私の見たイギリス保健・医療・福祉事情・6

ブレア政権のNHS改革の枠組み—ニュー・パブリック・マネジメント

著者: 近藤克則

ページ範囲:P.434 - P.435

 ブレア政権のもとで,いくつもの新たな仕組みがNHSに持ち込まれた.これら一つ一つの説明を詳しくすればするほど,かえって全体としての意味がわかりにくくなってしまう.そこで,ブレアのNHS改革の全体像をとらえるために,「新しい公共サービスマネジメント(New Public Management)」とその背景にある「第三の道」の考え方を見ておこう.

地域保健関連法規とその解釈・18

情報公開法(1)

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.436 - P.437

はじめに
 過去17回の連載の中で,地域保健に関わる関係法規について概説を行ってきたが,ほぼ網羅したことと考えている.そこで,今回からは,地域保健行政を含む行政施策の遂行において関係が深い法規などについて解説を加えたい.今回は1999年に制定された「情報公開法」の制定までの経緯や,思想的背景を中心に取り上げてみたい.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 新潟県糸魚川保健所

ケーブルビジョンの活用による住民参加型健康づくり

著者: 西脇京子 ,   松浦尊麿

ページ範囲:P.438 - P.439

 「健康日本21」の目標達成には,市町村段階の健康づくりを含めた対人保健サービス提供システムを,住民主体とした効率的なしくみに再構築する必要がある.そのためには従来より言われてきた学校職域との連携だけではなく,地域にある社会資源と住民参加を導入した健康関連グループを,いかに形成させるかが課題と考えられる.
 糸魚川西頚城地方は,人口6万人弱,高齢化率30%,かつては行政の谷間とも言われ,現在に至るまで国県の医療福祉施設はない.昭和から平成にかけて,地域医療計画高齢者福祉計画に基づく病床特養整備が急速に進み,施設や人材不足の問題の多くは解消された.しかし,この10年間の諸制度改革は市町村にとって負担が大きく,保健事業は前年度踏襲か削減傾向が続いている.最近では市町村合併問題もあり,現場の混沌とした状況は当面避けられない.

資料

運動の評価と保健指導

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.440 - P.444

 わが国では平成12年度より「健康日本21」が展開され,生活習慣や生活習慣病について,食生活,身体活動・運動など9つの分野で取り組んでいる.このうち身体活動・運動については,従来から健康増進施設の整備や,健康運動指導士の養成などが進められている.適度な運動は健康に有益であることは誰もが経験している.一方,どのような運動をどの程度行うのが健康によいかについて,各種の研究調査が発表されている.
 近年,EBM(Evidence-based medicine)に沿った医療が注目されているが,予防医学の分野でも当然重視されるものである.そこで,運動について,特に疫学的評価の最近の知見を紹介し,運動に関する保健指導に関して考察してみたい.なお,運動(exercise)に関する用語には身体活動(physical activity),フィットネス(physical fitness)などがあり,定義も多少異なりがあるが1),ここでは「運動」を一元的に使用した.

市町村自治体に勤務する保健師および栄養士の研修に関する調査研究

著者: 福永一郎 ,   中山照美 ,   亀山千枝子 ,   實成文彦 ,   平尾智広

ページ範囲:P.445 - P.448

はじめに
 市町村自治体は地域での公衆衛生の第一線の機関であり,重要な役割を担っている.ことに本格的な高齢社会の中で,「寝たきりにならないための対策」が求められており,市町村自治体においては,その第一線機関として若年世代からの科学性・計画性を保った公衆衛生政策,地域での従事スタッフの質の向上,地域の人的資源の活用,活動への住民の主体的参加と,住民ボランティア活動の活性化などの包括的保健政策が必要である.そのためには,市町村で公衆衛生に従事する保健師,栄養士等が,これらの活動のマネジメントができる公衆衛生専門家として資質を確保し,また養成することが求められる.
 しかしながら,現状ではこれらの健康政策立案や,活動遂行・活動評価をはじめ,公衆衛生現場で活動するための人材育成システムは十分には作られてはいない.また,介護保険制度などの導入に伴う業務量の増大によって,市町村現場では,疫学・公衆衛生学,健康政策科学的観点を取り入れた活動企画・実施・評価は,これまで以上に困難になりつつある.

活動レポート

「健康日本21」の推進—地域でのウォーキング定着を目指して

著者: 丸山明美 ,   中本陽子 ,   小野郁代 ,   玉木友子 ,   橋本しげ子 ,   中野清一 ,   北村純

ページ範囲:P.449 - P.453

はじめに
 「健康日本21」の地方計画として,当部では,管内の17市町村と協働で「豊かにあれ健康づくり運動」を策定しました.その中で,運動を重点課題の1つに選び事業展開しています.その一環として,今回,運動習慣の定着を目指し,虚弱な高齢者や腰痛のある人など,誰もが安全で健康的なウォーキングが楽しめるような身体づくりのプログラムを策定しました.この策定から,実施,評価を通して,地域での健康づくり運動を効果的に推進しています.
 「豊かにあれ」とは,ユ(有効)タ(達成感がある・楽しい)カ(簡単)ニ(日常に溶け込む)ア(安全)レ(廉価)という意味で,ウォーキングの効果を表し,楽しく日常に定着していく健康づくりを目指しています.

海外事情

病院が中心となったオーストラリア・北部シドニー地域の公衆衛生

著者: 生田清美子

ページ範囲:P.454 - P.457

 日本公衆衛生協会発行の『世界の公衆衛生』1)を目にしている人は多いと思う.しかし,筆者を含めて多くは,近代公衆衛生の始まりであるイギリスと,戦前のわが国に影響を及ぼした環境衛生の国・ドイツと,戦後のわが国に大きな影響を及ぼしたアメリカ合衆国に目をとめただけではないだろうか.早くから国際情勢に注目された方には申し訳ないが,私たちが目を向けてきたのは,国内問題で手一杯だったと思う.今では少し状況が異なり,身近で,さまざまな国に援助に出かける人によく出会う.福祉との関連で北欧各国やオセアニアなどへ出かける人も多い.
 改めて私たちの国を振り返ると,平均寿命世界一・健康寿命世界一・乳児死亡率の低さ世界一に感嘆する.この状況の中だからこそ,例えば“日本こそ高齢社会のモデルに”2)なり得ることもでき,今,健康先進国としての役割をもっと果たすことができると思う.私たちはこれから,さらに公衆衛生を世界に広げて考えていきたい.

日本学術会議環境保健学研究連絡委員会主催公開シンポジウム 「飲み水の危機」—安全で快適な飲み水を守るために・2

飲料水と健康—現在問題となっている飲料水を介した感染症

著者: 遠藤卓郎 ,   八木田健司 ,   泉山信司

ページ範囲:P.458 - P.461

はじめに
 近年,あらためて感染症に対する関心が高まっている.1996年の大阪堺市で発生した腸管出血性大腸菌O157の集団感染は記憶に新しいところであるが,大腸菌の仲間による感染症で犠牲者が出たことによる驚きは相当なものであった.
 それまでのわが国といえば,巷に抗菌グッズなるものが氾濫しており,専門家にあっては「感染症不要論者」が大手を振ってまかり通るご時世であった.この時期は,地球規模でのグローバル化が進行し,社会の仕組みや個人の生活形態が変わっていった時でもあった.当然のことながら,グローバル化がもたらすものは良い面ばかりではなく,ネガティブな影響もあるものである.人の往来や物流が盛んになれば,それに伴い未体験の病原体が侵入してくる機会が増えるであろうし,生活形態の変化は,これまでには考えもつかなかった別のリスクを生み出すことにもつながるわけである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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