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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生66巻8号

2002年08月発行

雑誌目次

特集 老人保健法20周年—新たな展開を目指して

青森ヘルスプロモーションの挑戦

著者: 三上公子

ページ範囲:P.556 - P.558

青森ヘルスプロモーションの誕生
 平成11年に誕生した,「青森ヘルスプロモーション」本事業は,市民主体の健康なまちづくりの実践を目的とした,日本でも数少ないオタワ憲章に基づく正統派ヘルスプロモーションを目指しています.
 本事業への取り組みで,保健師は日々の保健事業のボトムアップを目指してもいます.後追いの,一方的な保健指導のやり方や,出てきた問題にそのつど対応する“もぐらたたきの状態”から脱却したいという気持ち,そして地域の保健力が低下していることへの危機感,介護保険導入をきっかけとした保健師のアイデンティティのゆらぎの問題等に直面したことが動機でした.

「いきいき鶴岡健康プラン」策定を通しての小児期からの計画づくり

著者: 佐藤初子

ページ範囲:P.559 - P.561

はじめに
 山形県鶴岡市では,「高齢者保健福祉計画」を具体化した「実施計画」を平成6年8月に作成した.高齢期も健康で充実した日々を送るためには,なによりも若い時からの健康づくりの実践が重要であるという考えのもと,母子保健を人生80年時代のスタートラインに位置づけ,小児期からの健康づくりの推進をめざしたものであった.
 さらに平成9年3月には,生涯にわたる健康推進計画として「いきいき鶴岡健康プラン」(以下健康プラン)を策定した.策定からの5年間は,計画に基づいた各事業の評価と見直しを課内職員全体のものとするために課内研修会を継続して開催し,グループワークの手法も取り入れながら合意形成に向けて取り組んだ.

老人保健事業における参加型集団健康教育の視点,評価,課題—学習者の内的プロセスを大切にして

著者: 宮野由紀

ページ範囲:P.562 - P.565

狭山市での集団健康教育の変遷
 狭山市における健康問題解決(糖尿病予防など)のための参加型集団健康教育は,昭和58年度の「楽しくやせる教室」から始まった.目的は「肥満を解消しようとする過程を通して,食事の内容,食べ方等食生活,および運動,休養などをも含めた生活全般を見直し,教室終了後も,個々が自らの健康を管理していけること」である.肥満の解消が目的ではなく,肥満の解消という題材(課題)に取り組むプロセスの中で生活を見直し,どうしたらよいのかに気づき,肥満も解消しつつ,学習者自身が健康を管理していく力を高めていけることができたらと考えたのである.
 この背景には,食事や生活は1人ひとりの価値観や生き方が反映しているという考えと,そうした食事,生活を「指導」することへの抵抗感があった.教室は,血液検査やいくつかの調査からアセスメントを行い,個別面接し,学習者がそこでの気づきをもとに行動の目標を立てて取り組むこととし,毎回グループごとに「経過報告と話し合い」の時間をもち,反省し励まし合いながら進められるようプログラム構成した.個別面接では,アセスメント結果とその理解に必要な知識の伝達を行った.

荒川区におけるヘルスプロモーションの検証と今後の課題

著者: 岩谷智子

ページ範囲:P.566 - P.567

東京都荒川区のおもな成人保健事業の推移
 東京の北東部に位置する荒川区は下町地域にあり,約120もの町会組織が発達している.当区では,以前より生活習慣病予防対策を重要施策と位置づけ,様々な保健事業を展開してきた(表).本稿では,主に,「健康づくり推進員制度」(表中●印)について考察する.

機能訓練教室の便益

著者: 樋田美智子

ページ範囲:P.568 - P.569

経済的評価の必要性
 各自治体では,厳しい財政状況の中,限られた資源(人,物,金)の制約の下で,社会的立場からみて望ましい資源配分をいかに行うかが課題となっている.行政は利潤を追求しないとはいえ,サービスの効率性や目標達成度などを客観的に評価する必要がある.このことは,機能訓練教室を含めた地域保健サービスでも同様であり,「効果」だけではなく「効率」,つまり費用と結果の両面からみた「経済的評価」が必要となる.

住民組織と協働した老健事業

著者: 中山照美

ページ範囲:P.570 - P.571

国分寺町の概要
 香川県国分寺町は,県のほぼ中央に位置している.東は高松市,西は坂出市に通じ,周囲を丘陵に囲まれた盆地で,古代天平年間に讃岐国分寺が開基せられ,住民崇敬の地として古来より栄えた.JR予讃線,国道11号・32号,四国横断自動車道といった交通網の発達により,高松市坂出市近郊のベッドタウンとなっている.国分寺町の状況を表1に示す.

地域特性に応じた自主的活動支援とその計画づくり

著者: 今井正人

ページ範囲:P.572 - P.574

はじめに
 人口約40万人の中核市である岐阜市では,都市部にありながら,住民のより近くで保健活動を展開することを目指している.
 老人保健事業については,「岐阜市老人保健福祉計画」(平成12年3月策定)の中で,健康づくりを重点課題の最初に体系づけるとともに,健康づくり支援活動を施策体系の中で位置づけている(図1).この中で,健康づくりを市民運動として展開する必要性,地域ごとに健康づくり支援活動を推進することに言及している.また,このような支援活動が効果的に推進できるのが“ふれあい保健センター”であり,地域住民の理解・要望に応じ,開設を拡大したいと考えている.

ふれあいボランティア養成事業

著者: 林佳江

ページ範囲:P.575 - P.577

 平成12年,高齢者保健福祉計画・介護保険計画が策定され,現在では制度化されたフォーマルなサービスが充実しつつある.しかし一方,それだけでは満たされない部分を,地域の特性に合った,インフォーマルなサービスで充足されることが望まれている.
 奈良県大宇陀町では,その役割を担う人材として地域の住民に注目し,ボランティアとして養成・支援する活動を平成12年度より実施している.

健康都市・堺を目指した「健康さかい21」の取り組み

著者: 池田和功

ページ範囲:P.578 - P.579

 大阪府堺市は人口約80万人の中核市で,現在,保健所1カ所,保健センター6カ所の体制で保健事業を実施している.

高脂血症改善への取り組み

著者: 細川公代 ,   柳本有二

ページ範囲:P.580 - P.581

はじめに
 兵庫県社町では,「健康日本21」で推進している一次予防の充実,壮年期死亡の減少,および健康寿命の延伸などを目標に,ヘルスプロモーションを展開している.特に,生活習慣病予防に有効な健康教育に力を入れており,平成12年度より,個別健康教育と従来から実施していた集団健康教育とを同時に実施している.
 本稿では,高脂血症改善への取り組みを通して,住民のQOLを目指すヘルスプロモーションを推進していくための健康教育のあり方について述べたい.

広域的糖尿病対策の評価と課題

著者: 岩見喜久子

ページ範囲:P.582 - P.584

安来能義地域の概要
 島根県安来能義地域(安来市・広瀬町・伯太町)は,島根県の東端に位置し,多様な農業と高級特殊鋼生産が盛んな地域である.古来より城下町として,鉄や米の積出港として,宿場町として栄えた歴史ある町で,安来節でも代表される民謡の町である.
 その概要は,以下のとおりである.

健康指標策定への取り組み

著者: 谷口千津子

ページ範囲:P.585 - P.587

はじめに
 当宮崎県高城町役場環境保健課では,住民の生活実態を捉えた健康なまちづくりをすすめるために,住民や各課の職員と検討を重ね,健康指標策定に取り組んできた.今年ようやくできあがるところであるが,ここまでの経過を本稿にて紹介したい.

住民パワーは無限大:住民主導型地区活動

著者: 徳永龍子

ページ範囲:P.588 - P.589

鹿児島市の保健事業の特徴
 人口55万人の鹿児島市は,平成12年10月現在,高齢化率16%の保健所政令市である.
 鹿児島市の保健事業の特徴は,昭和30年代から地域の中での保健事業の協力体制づくり,人づくり,および課題の大きい成人病・寝たきり予防等の事業の施策にある.住民組織である食生活改善推進員・運動普及推進員・健康づくり推進員協議会,健康教室リーダーによる「健康まつり」実行委員会,レモンの会,出舞班などは,鹿児島市における保健事業推進の良きパートナーであり,そのパワーはすばらしく,共にエンパワーメントしている.

医療費減少,住民活き活き—走りながら考えた佐敷町の保健事業改革

著者: 浦崎千佐江

ページ範囲:P.590 - P.592

佐敷町の概要
 佐敷町は沖縄県の南部に位置する人口11,600人,世帯数3,600,年間の出生数は100人(率9.2),死亡68人(率6.2),高齢化15%の町です.面積は10.60km2で,地図上では海に面した馬蹄形をしています.保健事業の主な拠点は老人福祉センターで,保健師は3人います(平成14年4月に1人増員).

視点

政令市公衆衛生のビジョン

著者: 福島靖正

ページ範囲:P.554 - P.555

はじめに
 保健所は,地域保健法により,都道府県,地方自治法で定められている指定都市,中核市,地域保健法施行令で定める市(狭義の保健所政令市)および特別区が設置することとされている.これら保健所を設置することとされている市(広義の保健所政令市)における公衆衛生行政を進めるうえでの課題と,それを解決するための方策に関して,それぞれの自治体の置かれている状況は異なっており,保健所政令市を一律に論じることは困難ではあることは承知したうえで,若干の私見を述べてみたい.

トピックス

これからの保健所のあり方—埼玉県保健所長会からの提言

著者: 土屋久幸 ,   青木徹

ページ範囲:P.593 - P.598

はじめに
 「これから保健所はどうなるのだろう」「公衆衛生がどうなっていくんだろう」と,将来を考えると不安になる.今ほど公衆衛生や保健所にビジョンが必要なときはないと思われる.
 私たちの所属する埼玉県は,今や人口700万人を擁する県である.他県に比べてより高度な公衆衛生行政機能が求められている.

連載 地方分権による保健医療福祉活動の展開・8

ノーマライゼーションとまちづくり

著者: 福島恵一

ページ範囲:P.599 - P.603

はじめに
 地方分権推進の流れのなかで,ノーマライゼーションを根底においたまちづくりをどう展開していくことができるのか.これが今回編集部からいただいたテーマです.世田谷区の取り組みを題材としながら,区民に身近な自治体である区が,この問題をどうとらえているかについてお話しさせていただきたいと思います.なお,文責は筆者個人にあり,ここに書かれていることが,すべてそのまま区の見解や方針ではないことを,あらかじめお断りしておきます.

私の見たイギリス保健・医療・福祉事情・8

公正な医療をめざす「健康の不平等」への取り組み

著者: 近藤克則

ページ範囲:P.604 - P.605

 サッチャーらの保守党とブレアのニューレイバー(新しい労働党)の政策のもう1つの違いは,公正な医療や社会をめざす姿勢の違いである.その背景には,イギリス社会に深く根ざした,かつ見えやすい階級社会がある.

地域保健関連法規とその解釈・20

国家補償(1)

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.606 - P.607

はじめに
 公務員が職務遂行上,国民(住民)に損害を与えたとき,あるいは公共施設の運営の不手際などのために同様に国民(住民)に損害を与えたときに,それらを保障する制度が設けられている.前者は国家賠償責任(国家賠償法第1条),後者は損失補償責任(同第2条)と称され,これらは国家賠償法(昭和22年公布)の中に記載されている.
 この制度の根源は,「何人も,公務員の不法行為により,損害を受けたときは,法律の定めるところにより,国または公共団体に,その賠償を求めることができる」と定めた日本国憲法第17条「国および公共団体の賠償責任」に由来した,国民の権利保護を目的としたものである.

シリーズ 介護保険下の公衆衛生活動を考える・5

ホーム・アローン

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.608 - P.609

男性(73歳):パーキンソン病,腰部椎間板ヘルニア,変形性膝関節症,要介護 3,生活保護,木造アパ一ト2階(トイレ共同)

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 東京都南多摩保健所

子どもの虐待予防活動の展開 その2:保健所MCG

著者: 中板育美 ,   工藤充子

ページ範囲:P.610 - P.612

 前号では,「子どもの虐待予防活動」事業の1本目の柱である「スクリーニングシステムの開発とトライアル」について述べた.本稿では2本目の柱である「社会資源の開発」に位置づけられる保健所MCG(Mother and child group)について紹介する.

活動レポート

宮古福祉保健所の言語リハビリ支援:失語症ライブ開催

著者: 大城千代子 ,   宮川耀子

ページ範囲:P.614 - P.618

はじめに
 当宮古福祉保健所(図1)では,平成3年度より脳卒中情報システム事業を開始し,脳卒中の発症状況を把握するとともに,機能訓練の早期開始等により,寝たきり発生防止等,一連の支援を行ってきた.しかし,脳卒中右麻痺に伴う失語症等の言語障害については,言語聴覚士等専門職皆無の状況の中で,どのように対応すればよいのか,その具体的な支援方法が確立しないままで対策が遅れていた.
 平成9年2月,失語症での支援で,関東地域を中心に活躍されている言語聴覚士が来島した.それを契機に,保健師等関係職員を対象に「失語症の基礎的な理解」をはじめ,失語症についての研修会が開催されるようになった.

調査研究をベースにした保健所活動・その2

たばこ問題への取り組み

著者: 三徳和子

ページ範囲:P.619 - P.624

はじめに
 これまで保健所活動の一環として筆者が調査実施してきた項目は,①たばこ問題,②福祉分野との関連問題,③母子保健に関すること,④健康水準の地域格差問題,⑤その他,に分けることができる.以後,シリーズ内でこれらについて振り返り,保健所の調査研究活動という視点からまとめてみたい.本稿では,たばこ問題への取り組みについて取り上げる.

日本学術会議環境保健学研究連絡委員会主催公開シンポジウム 「飲み水の危機」—安全で快適な飲み水を守るために・4

水の浄化と遺伝子の傷害

著者: 渡辺徹志 ,   糠谷東雄 ,   寺尾良保 ,   大江武 ,   若林敬二

ページ範囲:P.625 - P.629

 多くの先進諸国において,がん患者数は依然上昇しつづけている.わが国も例外ではなく,がんでなくなった人数は年間29万人を超え,3人に1人ががんで命を落としている.高齢者のがん患者数は今後さらに増加すると予想されている.
 がんは遺伝子の病気であり,その発生には多くの遺伝子の変化が関与している.すなわち,正常細胞が,がん細胞に変化するためには多くの段階があり,多くの遺伝子変化の蓄積が必要である.言い換えれば,長い年月をかけて,われわれの身の周りにある多くの発がん因子が各々に作用し合って,がん発生に関与する数多くの遺伝子を少しずつ傷害しつづけた結果,がんが発生してくるものと考えられる.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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