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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生66巻9号

2002年09月発行

雑誌目次

特集 文化と健康生態・1

健康生態—特集企画の立場から

著者: 林謙治

ページ範囲:P.636 - P.636

 日本列島は縦長に寒帯から亜熱帯まで延び,気候条件に大きなバラエティがみられる.また,地形的にも陸地に起伏が多く山地に富み,四方海に囲まれた島嶼国である.これらの自然条件の違いによって,さまざまな文化や生活習慣が生み出されてきた.近代産業の発展によって,社会・経済的に日本全国はかなり均一化してきたとは言え,太平洋ベルト地帯と裏日本,都会と農山村,北の国と南の国,陸と島とでは,そのライフスタイルはやはり特有なものがある.それを反映して,健康面にも影響がみられることは多くの地域保健活動報告から窺い知ることができる.
 健康指標をみると,今なお地域格差が目立ち,これに取り組むべく生活圏をベースに地域医療計画が立てられたはずであった.しかし,現実的には二次医療圏の設定が諸条件の制約により容易でなかったようだ.とりわけ,地域の生活条件の違いが足かせになったであろうと思われる.

健康:ヒトと生態系と

著者: 鈴木継美

ページ範囲:P.637 - P.639

はじめに
 はじめに余談からというのはいささか気が引けるのだが,本稿のタイトルにかかわるので読者にご勘弁願うことにしよう.編集部からの依頼は“ヒューマン・エコロジーとヘルス”について書けというものであった.
 なぜ“人類生態学と健康”でないのだろう? 編者が人間生態学と人類生態学のデリケートな相違点,すなわちどちらの言葉を使うにしてもヒューマン・エコロジーとしての共通の目標を持っているのであるが,前者はどちらかというとやや人文・社会的立場に重点があり,後者は生物学的視点からのアプローチに寄りかかるという違いに配慮されたのかと勘ぐったのである.この日本語の用法に反映しているデリケートな違いは,異なる専門分野を出自とし,現時点で自分はHuman ecologistであると考えている学者たちの集まる国際舞台において,一応は国際共通語である英語で議論しているときにも,時に強烈に,時にうっすらと感じられる.

大都市の健康生態:東京から

著者: 永見宏行 ,   秋山弘子 ,   阿部晃一 ,   釘本祥子 ,   小林陽子 ,   榊原幸雄 ,   相馬由紀子 ,   高橋千草 ,   橘とも子 ,   奈良部晴美 ,   渡邊裕司

ページ範囲:P.640 - P.644

はじめに
 経済成長期を中心に展開された人口移動は,地方から大都市への若年単身者を中心とするものであった.地方から大都市に移住した若年単身者が世帯を抱えるようになると,最初の住まいの場であった都心の木賃アパートから,郊外の団地・建売などのマイホームを求めるようになった.
 世田谷区は,関東大震災(1923年)以後,第二次世界大戦の時期を除いて1980年代まで,マイホームを求めて大量のホワイトカラーが都心から移住してくることによって発展した都心隣接住宅地である.その発展過程に応じて,自然環境はもとより,住民の生活様式やコミュニティも変遷し,それらに応じて公衆衛生の主要課題も変遷してきた.本稿では世田谷区の主要健康課題の発生要因とその解決策を,このような都市の発展過程との関係に注目して概括したい.

大都市の健康生態:大阪から

著者: 高山佳洋 ,   福島俊也

ページ範囲:P.645 - P.650

はじめに
 生活水準の向上,生活環境の改善,国民皆保険により医療の恩恵が広く国民に行きわたったことなどの様々な環境が整って,わが国の健康指標は急速に改善し,平均寿命が世界一になって今なお伸び続けていることは,国際的に誇りうるわが国の公衆衛生の施策や活動の成果であると言っても過言ではない.
 しかしながら,世界一の長寿国であるわが国にあっても,その改善の度合いは一様ではなく,仔細にみれば地域格差が存在する.その代表例として,大阪府の健康指標の推移は都市部の健康課題として,しばしば注目されてきた.というのも,大阪府における平均寿命の延びは昭和45年頃から鈍化し始め,全国順位でみると,昭和40(1965)年に男性12位,女性13位であったものが,昭和50年にはそれぞれ20位,32位,昭和60年には46位と47位へと下降してきたからである.

農村の健康生態:山村から

著者: 宮原伸二

ページ範囲:P.651 - P.654

はじめに
 健康は遺伝に支配され,自然環境の力,社会環境の力,教育の力と密接に関連しながら育まれていく.
 人間はだれもが,ある時代のある地域社会のなかに生まれ落ちる.その地域社会は一定の地理的空間の中に存在し,その空間が含まれる自然環境(気候,気圧,高度,地形など)や土地柄を風土と呼ぶならば,風土やそれに基づく生活環境が人間の身体や精神状態に直接的な影響を及ぼしてきたことは疑う余地はない.

農村の健康生態:海辺から—静岡県西伊豆地区N町K村からの報告

著者: 野尻雅美

ページ範囲:P.655 - P.661

はじめに
 筆者は1965年より共同研究者らとともに静岡県西伊豆地区の農漁村であるN町K村の地域健康管理を支援してきた.この間に地域疫学に関する多くの研究成果エビデンスを作成し発信してきた.
 今回,健康生態の特集のなかで,海辺からの報告を求められた.これまでの西伊豆研究のなかから,筆者は1994〜1996年の厚生科学研究費による「農村におけるライフスタイルの分析とヘルスプロモーション技法の開発に関する研究」(主任研究者:山根洋右.筆者は分担研究者)1)に本特集企画者の要望に沿う内容が多く含まれていることを確認したので,この海辺に位置するN町K村の生活実態を健康生態として報告する.

雪国の健康生態—新潟県中里村での高床式住居に居住する後期高齢者の生活調査より

著者: 上野春代 ,   安村誠司 ,   芳賀博 ,   新野直明

ページ範囲:P.662 - P.667

 新潟県は日本海側で最も雪の多い地域であり,とりわけ上・中越(群馬県,長野県,富山県側)の山沿いは雪が多く,1日に1m以上もの降雪のあることも珍しくない豪雪地域である.そしてこの豪雪地域である上・中越の山間部では,人口の高齢化,過疎化が著しく,その1例として東頸城郡6町村では,平成13年4月1日現在の高齢化率は35.8%で,人口の推移では平成3年24,480人,平成8年22,382人,平成13年20,480人と,5年ごとに2,000人が減少している.
 こうした環境の中で雪国の生活が育んだ独特の文化があり,各地に伝わる雪中行事,冬の保存食,野菜などの貯蔵方法など,生活の知恵や工夫が受け継がれてきている.そして,雪国に生活する人々の心は,長い冬に耐え,春を待つという忍耐力や明るさ,人情味あふれた住民性が特徴でもある.

島の健康生態

著者: 植田悠紀子

ページ範囲:P.668 - P.672

はじめに
 長崎県は596の島を有し,島の面積は全県の46%を占める1).そのうち有人島は75で,23万9千人(県人口の16%)が生活している.有人島のうち55島が離島振興法の指定を受けており,全国の同法指定島では数で21%,居住人口で34%を長崎県が占めている.県の全自治体数の56%(5市38町1村)が離島に含まれるか離島を有しており,長崎県における島の問題は自治体の問題でもある.
 このような長崎県の特色から,新設の県立長崎シーボルト大学では,2学部(国際情報,看護栄養)4学科(国際交流,情報メディア,看護,栄養健康)のすべてで,島を含む地域への働きかけが活発である.なかでも看護学科は4年次生の総合実習として,「しまの健康」と題する足かけ3週間の島での実習を組んでおり,準備のために開学当初から,看護学科教員がほぼ総がかりで担当する島の保健所と市町から情報を集め,毎年打ち合わせの島訪問を繰り返してきた.お陰で少しは島の実態について情報を得たり考えたりする機会があった.とはいえ,筆者の長崎における経験は1999年4月の大学開設からであり,島の自治体との交流も始まったばかりである.

視点

東京都健康局のビジョン

著者: 長岡常雄

ページ範囲:P.634 - P.635

 平成14年4月,都では財政の危機的状況の中で,保健医療行政の今日的課題に対応し新たな施策展開を図るために,職員1万3百人余の旧衛生局の大幅な組織改正を行い,名称も健康局に変更した.また都立病院の経営責任を明確にし,都立病院の改革を促進してゆくために,職員7千2百人余の病院事業部門を健康局から分離し,病院経営本部を新たに設置した.この健康局の大幅な組織改正の背影と今後の展望を述べてみたい.

トピックス

空洞化するWHO—ブルントラント事務局体制の試練

著者: 迫井正深

ページ範囲:P.673 - P.676

 世界保健機関(WHO)は「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」(憲章第1条)を目的とした191の加盟国(2002年7月現在)を擁する国連専門機関であり,国内外の保健医療政策に大きな影響力を持つ重要な組織である.日本人の中島前事務局長を引き継いだ現事務局長Dr.Gro Halem Brundtland(ブルントラント:元ノルウェー首相)の就任以来,WHOはさまざまな挑戦的取り組みを打ち出し,大きな注目を集めてきた.
 この間,事務局の組織改革,国際社会の中心的課題として保健問題を位置付けたことなどで一定の評価を得た一方,WHOの在り方として,組織の根幹を揺るがしかねない重大な局面を向かえつつあることは,公衆衛生専門家の間でも意外に知られていない.

連載 地方分権による保健医療福祉活動の展開・9

新しい障害福祉サービスシステムの理念とメカニズム

著者: 郡司巧

ページ範囲:P.677 - P.682

新しい障害福祉サービスシステムの背景
 障害福祉の分野では,これまでいわゆる措置制度によるサービスの提供を基本システムとしてきました.この仕組みは,行政が自らあるいは社会福祉法人に委託してサービスを提供するもので,行政の直接関与によるサービス提供です.
 このシステムは,サービスを必要とする障害者に対して,行政の責任により,均質なサービスを公平に提供できるというメリットがあり,障害福祉のサービス水準の向上に一定の役割を果たしてきました.特に,熱意ある社会事業家に支えられた措置制度は,施設関係者をはじめとして障害福祉に携わる多くの専門家の育成に大きな貢献を果たしてきました.

今,改めて「公衆衛生看護」・8

一人暮らし高齢者の生活を支える町の実践

著者: 斉藤恵美子 ,   本田亜起子

ページ範囲:P.683 - P.685

一人暮らし高齢者の現状
 老年人口の増加と,少子化や核家族化などの社会背景の変化もあり,一人暮らし高齢者は年々増加傾向にある.1980年には65歳以上人口の8.5%であったが,1998年には13.2%まで上昇した.また,2010年には一人暮らし高齢者が約430万人に達すると予測されている1)
 一人暮らし高齢者は,他の世帯の高齢者と比較して健康上の問題は少なく,日常生活動作能力が高いことが報告されており2〜5),高齢者が一人暮らしであるというだけで,ただちに支援が必要な状態であるとは言えない.しかし,緊急時や心身の機能が低下した場合には,状態が悪化し,自立した生活維持が困難になりやすく,潜在的な問題に対して,予防的な働きかけが重要となる.

私の見たイギリス保健・医療・福祉事情・9

医療の質・効率・公正のモニタリング

著者: 近藤克則

ページ範囲:P.686 - P.687

 ブレアのニューレイバー(新しい労働党)の医療政策は,保守党時代からの「効率」重視に加え,医療の「質」の改善,「公正」の確保も重視することに特徴がある.一方,「重視する」と宣言し努力すれば必ず成果が上がるというほど現実は甘くない.そこで導入されたのが,成果をモニタリングし必要なフィードバックを行う仕組みである.

地域保健関連法規とその解釈・21

国家補償(2)

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.688 - P.689

はじめに
 公務員が職務遂行過程で故意または過失という違法行為で国民に損害を加えたときの補償については,国家賠償法第1条に定められていることは前回説明した.今回は,国または公共団体が違法行為ではなく,適法行為により国民が損失を被った場合を規定した国家賠償法第2条について述べてみたい.

全国の事例や活動に学ぶ 今月の事例 東京都南多摩保健所

薬物問題への取り組み—予防から相談・援助の体制整備に向けて

著者: 中板育美 ,   細見潤

ページ範囲:P.690 - P.691

はじめに
 薬物問題は過去,第1次・第2次乱用期を経て,平成9年には第3次覚せい剤乱用期の到来と叫ばれた.現在でも検挙者数の多くが覚せい剤事犯であることや,乱用者の低年齢化が大きな問題である.
 当南多摩保健所では,学校や地域との協働でライフスキル教育と薬物教育を兼ねた健康教育を展開してきたところであるが,さらに予防強化と乱用者に対する相談体制を含めた地域ケア体制の整備を目的とし,事業を実施しているので報告する.

シリーズ 介護保険下の公衆衛生活動を考える・6

不思議の国のアリス

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.692 - P.694

女性(80歳):アルツハイマー型痴呆,要介護 2.
独居,2階建て一軒家

活動レポート 調査研究をベースにした保健所活動・その3

公衆衛生と福祉との接点:在宅ケアに関する調査研究から

著者: 三徳和子

ページ範囲:P.695 - P.700

はじめに
 今回は,福祉分野との関連問題への取り組みを紹介しよう.きっかけは1980〜1983年,筆者の岐阜県庁勤務時代,老人保健法成立を前にして高齢者保健活動を考えたことである.当時,有吉佐和子氏の小説「恍惚の人」1)が話題となり,疾病対策は老人保健法により実施されるが,恍惚の人はどうなるのかと素朴な疑問を持った.
 当時日本では急速に高齢化が進んでおり,老人の健康問題が取り上げられていた.なかでも障害を持つ老人,とりわけ痴呆性老人は「ぼけ老人」と呼ばれた,言葉の使い方が不適切な時代でもあった.今でも痴呆性老人に関しては偏見が問題になるが,当時ははるかに深刻であり,痴呆性老人の実態さえも把握されていなかった.昭和55年に東京都が行った実態調査2〜5)があったが,ケアの困難さに関する論文はほとんどなかった.そこで,当時筆者はぼけ老人の在宅介護を支える要因に関する事例の比較研究を手始めに,高齢者・障害者のための住宅改善調査,市町村における福祉保健婦の役割と課題についての調査を行ったので,本稿にて取り上げてみたい.

海外事情

フィンランド・アメリカにみる,知的障害者の疾病,死因・死亡統計

著者: 武田則昭 ,   末光茂 ,   ,  

ページ範囲:P.701 - P.704

 筆者は文部科学省の在外研究員として2001年9月1日より2002年2月末まで,障害者の中でも知的障害者については先進的な研究で知られるイリノイ大学シカゴ校(University of Illinois atChicago)の応用健康科学部(College of Applied Science),障害人間発達学科(Department of Disability and Human Development),ニューヨーク市立大学スタテン島基礎研究所(College of Staten Island of the City University of New York, Institute of Basic Research)に留学していた.主たる研究は,知的障害高齢者の健康づくり・骨粗鬆症予防プログラム開発,加齢問題,死因・死亡統計等である.
 障害者の死因・死亡統計の研究は,関連の健康問題や疾病対策を進めるうえで重要であるが,本邦においては極めて少なく,とりわけ知的障害者については顕著である.欧米諸外国における知的障害者の死因・死亡統計は1930年代の状況分析に始まり,1950年代から多くの論文が発表されている.なかでもダウン症の短命問題や関連疾患,知的障害者全般での経年的な検討は注目される.

日本学術会議環境保健学研究連絡委員会主催公開シンポジウム 「飲み水の危機」—安全で快適な飲み水を守るために・5(最終回)

安全な水の供給

著者: 谷口元

ページ範囲:P.705 - P.709

はじめに
 わが国の近代水道は,国民の公衆衛生と生活水準との向上を目指して,国民の理解と関係者の努力により約100年という短期間に今日の96%を超える水道高普及率を達成することができました.そして,この高普及時代を迎えて,国民の健康で文化的な生活や社会経済活動を支える基盤施設としてますます,その重要度が高まっています.
 水道水源の質的な側面に目を向けると,近年ではトリハロメタン等消毒副生成物の前駆物質,トリクロロエチレン等の有機溶剤,農薬等による水道原水の汚染が広範に認められるに及んでいます.これらの問題に的確に対処するとともに,より良質な水道水を確保するため,平成4年には水道水の水質基準が大幅に拡充・強化され,その後も平成10年と平成11年6月にも一部改正が行われました.さらに平成6年には水道原水の水質保全を目的とした水源二法が新たに制定されたところです.そして,水道水源汚染の進行に対し多くの水道事業体では高度浄水処理施設の導入など,安全でおいしい水の供給に鋭意努力しています.

シンポジウムのまとめ

著者: 角田文男

ページ範囲:P.710 - P.710

 このシンポジウムは,わが国の飲み水が量的に逼迫し,水質にも保健上の問題を有する現状を懸念し,当研連幹事の清水英祐教授(東京慈恵会医科大学)が中心となって企画,運営いただいたものである(平成13年11月29日に開催).
 講演は,第1席の早川哲夫氏による「危機的状況にある環境水と飲み水」,第2席の遠藤卓郎氏による「現在問題となっている飲み水による感染症」,第3席の彼谷邦光氏による「湖沼にいる有毒プランクトン」を清水英祐委員の座長により,第4席の若林敬二氏による「水の浄化と遺伝子の障害」と第5席の谷口 元氏による「安全な水の供給」を小林隆弘委員(国立環境研究所)の座長により進行し,近藤健文委員(慶応大学)による閉会の辞をもって盛会裡に終了した.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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