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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生67巻2号

2003年02月発行

雑誌目次

特集 公衆衛生が進めるリプロダクティブ・ヘルス/ライツ

リプロダクティブ・ヘルス/ライツとは

著者: 佐藤龍三郎

ページ範囲:P.92 - P.98

 1994年の国際人口開発会議(カイロ会議),1995年の第4回世界女性会議(北京会議)などを契機に,リプロダクティブ・ヘルス/ライツの語はわが国でも広く流布し,国や地方自治体の文書にもしばしば登場するようになった.しかしその概念や意義については,人により,立場により,受け止め方はまちまちであり,いまだ共通理解が形づくられたとは言い難い.本稿では,リプロダクティブ・ヘルス/ライツの概念と背景を探るとともに,その現状と課題,とりわけ公衆衛生活動において本概念を導入・活用することの意義について考えてみたい.

 なお「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」(性と生殖に関する健康/権利)は,リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康:reproductive health)とリプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利:reproductive rights)を合わせた語である.両者は不可分の関係にあり,かつ重複を含んでいることから一括してそのように呼ばれるのであるが,リプロダクティブ・ヘルス/ライツという言い方はおそらく日本独自のものであり,国連などの文書では“reproductive rights and reproductive health”が一般的である.

諸外国におけるリプロダクティブ・ヘルスへの取り組み

著者: 池上清子

ページ範囲:P.99 - P.103

 1994年,カイロで開催された国際人口開発会議(International Conference on Population and Development, 以下ICPD)が,初めて国際的な合意文書の中でリプロダクティブ・ヘルス(reproductive health,以下RH)を明記してから,8年以上が経過した.その後,北京の女性会議やリオ+10の環境サミット(World Summit on Sustainable Development, WSSD),ミレニアム開発目標の設定などを経て,2004年には国連総会で10年後の見直しをICPD+10として行うことになっている.

 このような世界的な動きの一方で,途上国の現場では,どのようなRH関連の課題に直面しているのだろうか.そこで本稿では,HIV/AIDSなどの感染症を除いた他のRHの課題を見直すことにより,RHを取り巻く共通の問題点を浮き彫りにしたい.

受胎調節実地指導員の役割と課題

著者: 岡本喜代子

ページ範囲:P.104 - P.107

 受胎調節実地指導員(以下,指導員)制度ができて,半世紀が過ぎた.社会情勢の変化と共に,その役割も変わってきている.本稿では歴史的経緯や活動実態を踏まえ,指導員の役割と課題について考えてみたい.

受胎調節実地指導員の歴史的背景

 戦後のベビーブームの到来と共に,望まない妊娠やそれに伴う人工妊娠中絶も急増し,わが国では人口抑制が大きな課題となった.このような社会背景の中,昭和23年に優生保護法(現・母体保護法)が制定された.そして昭和27年に一部改正し,指導員制度が発足,その教育が開始された.

不妊と「自己決定」

著者: 佐藤孝道

ページ範囲:P.108 - P.112

 「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」は,1994年の国際人口開発会議(カイロ会議)や,1995年に北京で開かれた第4回世界女性会議(北京会議)で話題となった.その後,「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」は,わが国の「男女共同参画2000年プラン」にも盛り込まれている.

 「リプロダクティブ・ヘルス」とは,「生涯にわたる女性の健康」,「リプロダクティブ・ライツ」とは「からだと性に関する女性の権利(自己決定権)」と理解されている1)

 「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」に異論を唱えるものはいないだろう.しかし,不妊治療の現場から見る限り,この概念について解決されていない(コンセンサスが得られていない)問題も多いし,何よりも不妊患者の目にはSFフィクション以上に「自分たちには関係がない言葉」に映る現実がある.本稿では不妊治療の現場を紹介しながら,主として「リプロダクティブ・ライツ」にどのような問題があるのか,どんな展望があるのかを検討する.

日本におけるリプロダクティブ・ヘルスの歴史

著者: 迫田朋子

ページ範囲:P.113 - P.115

 新しい言葉を取り入れることが得意だと言われるメディアにおいて,リプロダクティブ・ヘルスという言葉ほど,なかなか定着せず,伝えるのに難しい言葉はないように思う.文字数が多いこともあるし,いい翻訳語がないことや,そもそもリプロダクション(生殖)という言葉になじめないことも理由であろう.

 リプロダクティブ・ヘルスという概念は,1988年WHO(世界保健機関)のファサラ氏が提唱し,WHOの健康の概念をリプロダクションにもあてはめたと言われている.カイロの国際人口開発会議では「人々が安全で満ち足りた性生活を営むことができ,生殖能力を持ち,子どもを持つか,何人にするか,いつ産むかを決める自由を持つこと」としている.厚生労働省の「生涯を通じた女性の健康施策に関する研究会報告書」には「子どもを産む,産まない,産むとすればいつか,何人産むかを女性が自己決定する権利を中心課題として,広く女性の生涯に亘る健康の確立をめざすもの」と書かれている.

対論―ピル問題―①[賛成派]避妊は女性にとっての悲願だった

著者: 北村邦夫

ページ範囲:P.116 - P.118

医学論争

 経口避妊薬(以下,ピル)の作用機序には,①排卵の抑制,②子宮頸管粘液の性状を変化させることによる精子の子宮内進入の阻止,③着床阻害,などの可能性があることが指摘されている.宗教的な立場から,受精こそ生命誕生の瞬間とするグループなどは,着床阻害を作用機序の一つとするピルを早期人工妊娠中絶薬と批判する.筆者が主導している緊急避妊ネットワークにも,同様な評価をして“刑法の堕胎罪に抵触する不当な行為”という言葉を向けてくることがある.しかし,産科学では「着床をもって妊娠の成立」と定義しており,その意味からは,ピルも緊急避妊薬もあくまでも妊娠の成立を阻止する「避妊」であって,中絶薬ではない.受精はしたものの着床に至らないで月経を迎える女性は少なくないが,これを流産とは決して言わない.

環境問題

 ピルの成分の一つであるエチニル-エストラジオール(EE)が内分泌撹乱化学物質,いわゆる「環境ホルモン」の一つとして分類されていることが事実であるとしても,筆者はピルの存在意義を否定するものではない.現在そして未来の住みやすい地球環境をつくっていくことは,私たちの大きな責任であり,豊かさの代償とも言える環境汚染に無関心でいられないのは当然のことだ.しかし,ピルはあくまでも個々の女性が選択して使う避妊薬であり,ダイオキシンのように多数の人間に無差別に影響を与える化学物質ではない.

対論―ピル問題―②[反対派]ピルの安全性は2つの視点から再検討の必要がある

著者: 武田玲子

ページ範囲:P.118 - P.120

 この論は2つの視点に立つ.第一は,従来公正なものと考えられてきた科学や医学の視点が,研究者のよって立つ,財政的基盤などと無関係ではないこと.第二は,環境ホルモンの研究の成果によると,ピルなどのホルモン薬の安全性は根本から考え直さなければならないということである.これらはこれまで多く論じられてきたリプロダクティブ・ヘルスの問題について,異なった,より深い視点からの再考を迫る.

医学論争

 1. 研究者の出す結論は,研究者の利害と無関係ではない

 近年,『Nature』1),『New England Journal of Medicine』2)などの有力科学誌,医学誌が論文を掲載する著者に対し,利害の摩擦がないか(製薬会社などから資金援助を受けていないか)を提示し,財政的基盤を明確にするよう求める方針を決定した.製薬会社やタバコ会社の資金援助を受けた研究の多くは,その会社の利益になる結果を出しているということが判明している3).ピルについての研究もバイアスがかかっている.

視点

公衆衛生の人づくり―ピッツバーグ大学公衆衛生大学院での経験

著者: 竹下達也

ページ範囲:P.86 - P.87

 「公衆衛生の人づくり」のテーマで頭に浮かぶのは,私自身が20年近く前に留学した米国ピッツバーグ大学公衆衛生大学院(以下GSPH)の修士課程での経験である.臨床研修終了後すぐに留学したので,疫学,統計学などの社会医学の方法論を基礎からGSPHで学ぶことになった.私は臨床研修での老人内科,特に消化器科での経験から,がん対策には予防しかないと考え,予防医学専攻を選択した人間である.当時,がんというと,環境発がん物質の染色体傷害研究が華やかなりし時代で,GSPHでは変異原性物質によるマウス染色体傷害に関する研究チームに加わった.

 当時GSPHは,生物統計学,疫学,保健管理学,産業環境保健学,放射線健康管理学,人類遺伝学,栄養学の大講座に分かれていた.もともとピッツバーグは鉄鋼の町であり,GSPHにおいても1948年の設立以来,産業環境保健学が重視されていた.産業環境保健学について特筆すべき点は,修士課程の多くの講義が平日の夕方と土曜日に行われており,働きながら学べるコースであったことである.社会人の学生は産業現場をよく知っており,現場の問題をそのまま講師にぶつけていたのが印象的であった.また,人類遺伝学講座は,遺伝カウンセラーの専門職養成コースを1971年に米国で2番目に開設して現在に至っている.

トピックス

学校における新しい結核対策と保健所の役割

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.121 - P.123

 厚生科学審議会の提言を受けて,小学校1年生と中学校1年生において結核予防法に基づく定期健康診断として行われていたツベルクリン反応検査とBCG接種が,本年4月より廃止されることに伴い,文部科学省では協力者会議を設置して,昨年8月に学校における今後の結核対策について最終報告を取りまとめました.その最終報告の内容を踏まえ,日本学校保健会の結核対策小委員会は,学校における新しい結核対策システムが十分に機能するよう,学校の『定期健康診断における結核健診マニュアル』を作成しました.本号発行の頃には,学校保健関係者のお手元にはこのマニュアルが届いていることと思われます.

 筆者は昨年11月より,この小委員会でマニュアルの検討に携わりました.本稿では本年4月から学校保健法に基づいて行われる「学校における新しい結核対策」について(誌面の都合でマニュアル全文を掲載できませんが),特に保健所の役割を中心に解説を試みたいと思います.

自殺防止対策有識者懇談会報告「自殺予防に向けての提言」について―公衆衛生従事者に期待されること

著者: 植田紀美子

ページ範囲:P.124 - P.126

 厚生労働省に設置した「自殺防止対策有識者懇談会」では,平成14年2月から,自殺の現状と今後取り組むべき自殺予防対策について多角的な検討を重ね,12月に最終報告「自殺予防に向けての提言」(厚生労働省ホームページに掲載中)を取りまとめた(表).本稿では自殺予防対策において,公衆衛生従事者(保健所,精神保健福祉センター,市町村の医師・保健師等,保健医療行政担当者,産業保健スタッフ等)に期待される役割について,提言に沿って解説するとともに,今後の厚生労働省における自殺予防対策について記載する.

 「自殺」は,公衆衛生上の問題であり1),すべての国民にとって身近に起こり得る問題である.1996年のUN/WHOのガイドライン2)では,国家レベルでの自殺予防対策の推進を提唱し,欧米諸国ではすでに,うつ病対策や一般医・保健医療従事者への研修等を中心とした国家レベルでの自殺予防施策が行われている.

特別寄稿

介護予防筋力トレーニング―高齢者の健康づくり

著者: 大渕修一

ページ範囲:P.127 - P.131

ポスト介護保険の重要課題―介護予防

 介護保険も導入されて,はや2年が経とうとしており,地方自治体では見直し作業が本格化しています.この介護保険によって,さまざまな議論はあるものの,身体や精神に障害を持つ人を社会で支えていく枠組みができました.次の課題は,介護を必要とする人をいかに少なくするかにあるように思います.誰しも,人に世話をしてもらいながら暮らしたいとは思ってはいないでしょうが,現在要介護者と要支援者を合わせると約12%の高齢者が,生活に何らかの支援が必要な状態だと言われています.この支援を必要とする人の割合を減少させなければ,高齢人口が増えるに従って,社会保障費を圧迫してさまざまな弊害が広がることが懸念されます.そこで,これからの社会を安心して暮らせるようにするために,要介護となることのないように予防する働きかけが必要となると考えています.

 ところで,介護保険は心身機能が低ければ低いほど,高い給付金を得るシステムです.これは,心身機能が高いことをよしとする定義に従えば負のインセンティブということになります.実際に,介護保険の見直し判定を行っていても,介護度が上がることは少ないのではないでしょうか.また,一次判定で介護度が上がったとしても,給付金を下げることは市民からのクレームにつながりやすいので,行政的な判断を勘案して介護度の引き下げはしないのではないでしょうか.つまり,高齢者が安心して暮らすためには介護保険だけでは不十分であり,健康で自立した生活を送るための,正のインセンティブとなる仕組みが必要ということになります.

資料

乳幼児期になぜ予防接種が必要か

著者: 波川京子

ページ範囲:P.132 - P.136

21世紀の健康づくりにみる感染症対策の位置

 21世紀の健康づくりとして,2000年3月に「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」を国が策定し,2001年度には都道府県版の「健康日本21」が出そろった.これからは健康増進法に基づいた,市町村版「健康日本21」が策定される.

 「健康日本21」で目標設定された分野は,①栄養・食生活,②運動・身体活動,③休養・こころの健康・ストレス,④たばこ,⑤アルコール・薬物,⑥歯科保健,⑦糖尿病,⑧循環器,⑨がんの9つである.これらの目標数値を達成することで生活習慣病予防,健康寿命の延伸と,生活の質の向上を図る計画である.「健康日本21」は幼年期から高年期の健康課題を展開しているが,感染症対策の観点は弱い.

連載 医学ジャーナルで世界を読む・2

「お勉強」も「お楽しみ」も

著者: 坪野吉孝

ページ範囲:P.88 - P.89

 私が栄養疫学を専攻したきっかけの1つは,1990年12月13日号の『New England Journal of Medicine』に報告された,ハーバード大学の前向きコホート研究だ(N Engl J Med 1990; 323: 1664-72).この論文は,米国の女性看護師を対象として1976年に開始されたNurses' Health Studyのデータを使って,肉類や動物性脂肪による結腸がんリスクの上昇を示した.約9万人という大規模な集団に対して,さまざまな栄養素や食品の習慣的な摂取量を,個人ごとに調査していることにまず驚いた.しかもそれを,わずか61項目の食品の摂取頻度を自記式の調査票で質問するだけで評価していることに,さらに驚いた.同じ個人でも毎日変化する食生活を,そんな簡単な方法で,どこまで正確に調べることができるのだろうか.こうした驚きが,栄養疫学の方法論的研究を始める契機になった.

 それから10年以上過ぎた今日でも,栄養と健康についての興味深い知見が,このNurses' Health Studyから次々と報告されている.最近の例として,ピーナツなどの種実類(飽和脂肪酸に富み,インスリン感受性の改善効果が示唆されている)の摂取による,2型糖尿病のリスク低下を示した報告がある(表の3).また,アルコール飲用とホルモン剤使用で閉経後乳がんのリスクが上昇するという論文もある(表の2).

水俣病から学ぶ・2

公害の原点としての水俣病

著者: 原田正純

ページ範囲:P.138 - P.142

水俣病はなぜ公害の原点か

 水俣病はしばしば「公害の原点」と言われている.それは事件が単に悲惨であったとか,規模が大きかったとか,最初に起こった公害であったからという理由だけではない.工場廃水に含まれた化学物質が環境を汚染し,その結果,食物連鎖を通じて起こった中毒事件であったこと,さらに胎盤を通過して胎児に中毒を起こしたことであった.これは人類が始めて経験した中毒であった.水俣病以前に人類が経験した中毒はいずれも,職業病や事故など直接ばく露による中毒であった.

 「公害の影響による疾病の指定に関する検討委員会」(厚生省)は1969年12月17日,「政令におり込む病名としては“水俣病”を採用するのが適当」としている.その理由は,国内・国際的にも文献上にも広く用いられていること,公害的要素が含まれていてこのような疾病は世界のどこにも見られないことを挙げている.公害的要素とは,環境汚染と食物連鎖というキーワードを指している.筆者はこの2つのキーワードの要件を満たすものを「水俣病」と呼んでいる.

地方分権による保健医療福祉活動の展開・14

[座談会]地方分権と地方自治・1―住民自治から評価の時代へ

著者: 塩飽邦憲 ,   山崎史郎 ,   森貞述 ,   佐谷けい子

ページ範囲:P.143 - P.147

塩飽 シリーズ「地方分権による保健医療福祉活動の展開」は,2002年1月(本誌66巻1号)から今まで13回にわたって介護保険,健康日本21,障害者保健福祉,地域医療等の課題別に,地方分権の意義と進め方について連載してきました.本連載から学ばせていただいたことは多くありますが,田嶋義介さんが引用された「日本人の運命は大きくいって,世界と地域で決まるようになった」との長洲・元神奈川県知事の言葉が,特にこころに残っています(本誌66巻1号).

 本日は,分野別に展開してきた本連載を締めくくるために,地方分権の受け皿となっている地方自治体または地域で,これらの諸課題をどのように総合化して発展させるかの戦略をご示唆いただきたいと思います.

介護保険下の公衆衛生活動を考える・11

猫屋敷

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.148 - P.149

女性(88歳):痴呆,要介護2,一人暮らし,木造アパート1階部分

「介護保険」という意外な切り口

 見た目や臭気から環境衛生に問題があり,常々近隣から苦情を言われる家というのはどの地域にもある.特にペットに関連する問題は,保健所の生活衛生担当に通報されるケースが多いが,実際は法的権限がないので,なかなか介入できない.このような事例は一見,介護保険制度と無関係のように見えるが,対象者が高齢の場合,実は重要な切り口になることがある.

 いわゆる「猫屋敷」は以前から近隣で有名だった.猫十数匹と同居する高齢女性は,再三近所から立ち退きを迫られていたが,現在までがんばっていたらしい.実は1年前に保健所の生活衛生課にも苦情が来ていたが,何もできずに終わってしまっていた.ついに本人の痴呆が進行し奇行が出現し始めた.ある日銀行に行ってお金が下ろせず,区民事務所に間違えて現れたため,「靴下も片方しか履いていない.ドブくさい匂いがした」と窓口職員から保健福祉センター(以下センター)に連絡が入り,民生委員からもセンター長に相談があったため,さっそく係長と保健師が訪問した.本人は保健師の「何かお困りではないですか?」という問いかけに拒否せず,「これでは猫の餌を買うこともできない.車に轢かれて死んでしまいたい」と言うので,金銭管理の援助を目的として,翌日の訪問にも同意してくれた.

米国の知的障害者サービスと脱施設化に学ぶ わが国の痴呆性高齢者対策への警鐘・5

米国の脱施設化の軌跡(上)

著者: 武田則昭 ,   八巻純 ,   ,   ,   末光茂 ,   江草安彦

ページ範囲:P.150 - P.154

 本号と次号では,米国の脱施設化の軌跡を米国全体といくつかの州について観察,紹介し,脱施設化をめぐる各種の状況や得られた結果を(上)(下)に分けて検討する.
脱施設化の軌跡―全米
 米国の知的障害者サービスは1950年代以降,隔離・入所型サービスから発達保障・地域型サービスへと転換している.この転換は4つの施策傾向,①州立施設への依存度の低下,②地域型サービスの拡充,③入所型サービスから地域型サービスへの公費支出の振替,④家族援助サービスの拡充,に具体的に表れている1)

日本学術会議環境保健学研究連絡委員会主催公開シンポジウム 環境と健康の危機管理・5【最終回】

企業における危機管理

著者: 豊田伸治

ページ範囲:P.155 - P.158

 一般に危機管理というときには,クラウゼビイツの戦争論ではないが,何と戦うのかという仮想敵の存在を前提におかないと,危機管理の話は前に進まないと思う.

 企業あるいは経営上の危機管理という場合には,ステークホルダー(stake-holder)とのかかわりの中で,企業の存在そのものが問われることが危機である.ステークホルダーとは,利害関係人と呼んでよく,株主であったり,自社の従業員,あるいは得意先,さらに金融関係や同業他社であったりするわけである.

 こうした危機に陥らないためのマネジメントをどうするか,もし仮に危機が発生したときどう回避するかということが,一般的な企業あるいは経営上の危機管理である.

 しかし,本稿では一般的な企業における危機管理には触れず,本シンポジウムの主題である「環境と健康の危機管理」に関して,今日の企業における課題の1つ,中高年勤労者を取り巻く労働環境問題,およびメンタルヘルスの危機管理を取り上げることにした.

シンポジウムのまとめ

著者: 角田文男

ページ範囲:P.159 - P.159

 本シンポジウムは,第18期日本学術会議環境保健学研究連絡委員会(環境保健学研連)が主要な活動行事として企画し,第75回日本産業衛生学会(学会長:住野公昭 神戸大学大学院教授)の関連行事のひとつとして共催されたものである.

 第18期環境保健学研連では,今日の環境保健問題の中で国民の最大関心事の1つである「生存環境の危機管理・安全」について,それぞれの科学分野における第一人者,あるいは専門家を講師とする一連の公開シンポジウムを企画し開催している.

 今回はシンポジウムの共催を快諾いただいた第75回日本産業衛生学会の開催地が神戸であることから,阪神淡路大震災や大阪教育大学付属池田小学校事件,国際都市等々が意識されてシンポジウムの主題を「環境と健康の危機管理」と決めた.当研連委員の圓藤吟史教授(大阪市立大学大学院医学研究科産業医学分野)が中心となって企画,運営いただいた.

厚生行政ホントの話・2

母子健康手帳の話

著者: 椎葉茂樹

ページ範囲:P.165 - P.165

 わが国で最も有名な手帳は,警察手帳ではないだろうか.テレビの刑事ドラマで,「こういう者だ」というセリフとともに差し出される,黒塗りのそれを知らない人はいない.幸いにも(?)実際に実物を見た人は少ないと思うが,知名度ナンバーワンであることは間違いない.

 一方,知名度が高い手帳のもうひとつの横綱は,母子健康手帳だろう.母子保健法に基づき市町村長に妊娠の届け出をしていただいた方に交付される母子健康手帳は,妊娠,出産,育児における健康管理の記録や,保健サービス情報の提供の媒体としての役割を担っている.単なる事務的な手帳というよりは,妊娠・出産・育児における大切な「記念」の1つとして,大事に扱われているように思う.私自身,新聞紙上で「大切な母子健康手帳を失くしてしまったので返して欲しい」といった投書や,女性週刊誌で有名人の母親と共に,有名人の母子健康手帳が掲載されるのを何度か見たことがある.行政が交付したもので,かように親しまれているものが他にあるだろうか?

報告

保健所における健康危機管理のあり方について

著者: 藤本眞一 ,   角有布子 ,   小窪和博

ページ範囲:P.160 - P.163

 地域保健法により基本的な保健サービスの主体は保健所から市町村へと移り,保健所の機能は,保健サービスの広域的・専門的・技術的機関という位置付けになった.こうした中で,平成に入ってから,阪神淡路大震災のような自然災害や,東海村臨界事故,雪印食中毒事件,大阪教育大学附属池田小学校の児童殺傷事件,BSEに関する食品衛生など,重大な健康危機事例が頻発しており,その際活躍した保健所の健康危機管理業務が注目されている.そこで,本稿では保健所における健康危機管理の役割について事例を通じて考察し,その問題点と課題を明らかにする.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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