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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生67巻4号

2003年04月発行

雑誌目次

特集 感染症法の成果と提言

感染症法の見直しに向けて―保健所長の立場から

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.254 - P.258

 1998年に成立した「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下,感染症法)は,わが国の感染症対策に大きな変革をもたらした.伝染病予防法時代に比べて,事前対応型の感染症予防と危機管理,世界的な新興・再興感症の流行を視野に入れた感染症の類型化と医療体制の再整理,および患者・感染者の人権尊重などの特徴ある法体系が整備され,各地方自治体は感染症対策の新時代に向けて,急ハンドルを切ることになった.特に保健所は,感染症法第9条に基づき策定された「感染症の予防の総合的な推進を図るための基本的な指針」(厚生省告示第115号)の中で,「地域における感染症対策の中核的機関」として位置づけられた.そして,結核を含めた感染症対策は,地域保健法施行後に再編・統合された保健所の業務の中で,最も重要な分野となってきた.最近の日本公衆衛生学会総会において,保健所からの発表で最も多い演題が「感染症」関連であることも,これを裏付けている1)(図).

 抜本的な制度改革であったため,法施行当初は筆者自身も戸惑いが多く,赤痢患者の入院の必要性をめぐって悩んだり,患者発生時に市町村(伝染病予防法時代と比べて市町村長の役割が大幅に縮小)との連携方法で悩んだりの連続であった.法施行後の4年間,人口規模の大きな保健所に勤務し,適度のOJT(on the job training)になる規模の感染症対策事例を繰り返し経験できたことが幸いして,ようやく保健所長としての判断や指示にも自信が持てるようになってきた.また,感染症患者からの各種相談を通じて,医療提供の方法や感染拡大防止策などに関する課題もいくつかあると感じている.

保健所における感染症対策の現状

著者: ⻆野文彦

ページ範囲:P.259 - P.263

 新興・再興感染症の脅威が高まる中,1999年4月に「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下,感染症法)が施行され,感染症からの社会防衛を主眼とした伝染病予防法(1897年施行)から,人権への配慮と蔓延防止を目指す感染症法へと,大転換がなされた.

 このような背景の中で,感染症対策の中心的役割を果たすべき保健所が,感染症法の下で効果的な対策が取れているか,保健所として同法の運用上どのような課題があるか等について,平成13年度に日本公衆衛生学会が全国保健所長を対象にアンケート調査を実施した.

臨床現場から見た感染症法

著者: 相楽裕子

ページ範囲:P.264 - P.266

 1999年4月1日,「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下,感染症法)が施行されてから4年近くが過ぎ,見直しが始まっている.感染症法制定の背景として,世界的な新興・再興感染症の流行,医学・医療,衛生水準や国民の健康状態の向上,人権尊重,行政の公正透明化への要請,感染症の国際化等,感染症を取り巻く状況の変化があった.

 本稿では,感染症法によって感染症医療はどのように変わったのか,臨床現場から見た感染症法の成果と問題点,今後の課題を考えてみたい.

 

臨床現場から見た感染症法制定のポイント1)

 感染症法における主な変更点は,従来の社会防衛という考え方から,個々の国民の予防と,良質かつ適正な治療の積み重ねによって社会全体の予防を推進するという考え方に転換したこと,感染症サーベイランスを行い,あらかじめ基本・予防指針を策定することによって事後対応型から事前対応型へ転換したこと,そして患者・感染者の人権尊重等である.臨床現場においての最も大きな変化は,感染症類型化と,感染症指定医療機関および感染症審査協議会の設置であった.

検疫と感染症法―今後の輸入感染症対策について

著者: 田中義枝 ,   丸山浩 ,   望月靖

ページ範囲:P.267 - P.270

 全国の検疫所は,検疫法(昭和26年法律第201号)に基づき,海外からの重篤な感染症の国内侵入を防止するための業務を行っている.1998(平成10)年に「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(平成10年法律第114号)(以下,感染症法)が成立し,検疫法も併せて,検疫感染症の見直し,検疫所における検疫感染症の情報収集および提供の規定が設けられる等の改正が行われた.しかし,近年の目覚ましい国際化の進展,さらには米国の炭疽菌事件等の病原体が生物兵器または犯罪の手段として意図的に用いられる状況や,プレイリードッグとペストの関係などをはじめとする動物由来感染症の問題などからも,海外からの輸入感染症※に対するわが国の対応として,検疫制度も含め,さらに考慮していく必要があるものと考えられる(※輸入感染症とは,次に述べる「提言」では「海外からわが国に入ってくる感染症で,国内での感染拡大等によって社会的影響をもたらすおそれの高い感染症」を特に対策の必要な輸入感染症として整理しており,本稿でもその概念で用いた).

 本稿においては,全国の検疫所職員の意見を集約した全国検疫所長協議会からの,平成13年12月の「今後の輸入感染症対策に関する提言」および平成14年4月の「提言を踏まえた現行検疫法上の規定に関する意見」を踏まえ,検疫機能も含めた輸入感染症対策の方向性について述べたい.

感染症対策と住民参加

著者: 中瀬克己

ページ範囲:P.271 - P.274

 感染症対策に住民あるいはコミュニティの参加は必須である.ヘルスプロモーションとリスクコミュニケーションという2つの観点から,感染症対策と住民参加を考えてみたい.

 

保育園内で公表し支援を受けた事例 

 ある保育園で,1人の園児が腸管出血性大腸菌O157に感染した.幸い下痢は軽症であったため園児は登園を続けることができ,保健所は保護者への説明会を開いた.園児の検便を含む健康調査と感染を防ぐ注意点を伝えた.園の協力も得られ,保護者の皆さん方の理解もあり,発端となった園児は登園を続けていた.

積極的疫学調査の課題

著者: 橘とも子 ,   小田宏子 ,   照井博之 ,   桑原明子 ,   永見宏行

ページ範囲:P.275 - P.277

 「積極的疫学調査」は,伝染病予防法廃止・感染症予防法成立という感染症予防体系の転換に伴って,法第15条に規定された.「1~4類感染症の患者・疑似疾患者・無症状病原体保有者若しくは新感染症の所見がある者その他の関係者」に対して,都道府県知事などが発生状況・原因などを明らかにする場合に行うことができる.

 Surveillance systemの古典的分類における“active surveillance system”の訳語に相当する概念であるが,わが国では感染症法上,発生届けを待つのみではなく,必要な場合には積極的に質問・調査を行うことが可能という新しい考え方である1,2)

 公衆衛生学的基本手法である疫学調査を,実際に必要とする多くの場面は,感染症アウトブレイクの発生時であるが,発生直後には原則として病因がわからず,感染症であるか否かも不明な集団発生であることが多い3,4).さらに積極的疫学調査は,現場第一線の保健所が担う機能であると同時に,強化が期待される「健康危機管理」機能を保健所が十分に果たすための大きな拠り所である.そのため積極的疫学調査を広く実地疫学(field epidemiology)の観点から解釈する必要があり5,6),より効果的に実施できる積極的疫学調査の条件を探る目的で,本稿では経験事例から課題を考察する.

テロ対策と感染症法

著者: 加來浩器

ページ範囲:P.278 - P.281

 2003年は,「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下,感染症法)が制定され5年が経過し,最初の見直しが行われる年である.この5年間に,2001年米国同時多発テロ,さらに引き続き炭疽菌テロが発生し,国内外で各種生物テロへの対処が必要となった.国内では“白い粉事件”が社会問題となる中,世界中が注目を集める「ワールドカップ2002」が韓国と共同で開催されるなど,生物テロを念頭に置いた危機管理のあり方が真剣に議論された.

 本稿では,国立感染症研究所での実地疫学専門家養成コース(FETP: Field Epidemiology Training Program)の2期生として,感染症サーベイランスや感染症集団発生時の実地疫学調査に携わった筆者の経験から,生物テロに対する危機管理(Crisis management)および結果対処(Consequence management)に関連する現行法の問題点の案出と,見直しへの提言を試みようと思う.

感染症と人権 特にらい(ハンセン病)患者の歴史と復権の過程

著者: 中谷瑾子

ページ範囲:P.282 - P.286

 予想外の冷たい冬を迎えたわが国では,インフルエンザが流行して,少なからず死者も出ているが,「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年10月2日,法律第114号)」(以下「感染症予防等法」と略)によれば,インフルエンザは後天性免疫不全症候群(エイズ)と同じく,4類感染症に分類されている.

 筆者に与えられた「感染症と人権」の課題に関して論ずべきは,何といってもハンセン(らい)病とエイズ問題であり,感染症予防等法の前文にも「ハンセン病,エイズ患者に対する言われのない差別や偏見が存在したという事実」が認められている.

 ハンセン病患者に対する言われのない差別や偏見については,最近の若者たちには無縁のように思われるかもしれないが,特に人権侵害の事実が重く,とりわけ行政の責任が問われなければならないと考えるので,本稿ではこれにウエイトを置いて論ずることとする.

視点

企画調整能力をどう育てるか―技術吏員から管理監督者を育てていくために

著者: 瀬上清貴

ページ範囲:P.248 - P.249

技術吏員に期待される職務遂行能力とは何か

 いわゆる大統領制をとる地方自治体において,職員の職務は法令等による他は,首長の考え方に従ったものとなる.それは翻って,住民の民意に沿った職務を行うことに演繹される.今日において,「地域住民が心豊かな生活を送るため,必要な行政上の支援を最適な方法で提供すること」が地方自治体の仕事として,最も多くの支持を得ている考え方であろう.

 こうした「行政上の支援」を上司の命に従って技術面から輔弼するのが,公衆衛生関連の技術吏員に期待される職務である.これを技術吏員に期待される「職務遂行能力」として読み換えてみよう.すると「地域住民が心豊かな生活1)を送っていくことができるよう,公衆衛生上から見て2)必要な支援3)を最適な4)方法で提供する公的サービス5)組織の一員として6),適切な7)機能を発揮できること」となる.

トピックス

戦争―人々の健康に対する最大の脅威

著者: 若井晋

ページ範囲:P.288 - P.289

イラクに対する経済制裁が人々の健康に及ぼす影響

 1990年8月2日のイラクによるクウェート侵攻に対して,米国を中心とした「多国籍軍」(日本も自衛隊を派遣,総額130億ドルの資金拠出)による湾岸戦争が勃発してから,すでに12年以上が経過した.その後1998年の米・英による大規模爆撃を含め,1999年末までに米・英軍を中心に6,000回以上の出撃,1,800回以上の空爆により,450以上の目標を破壊した.

 湾岸戦争は翌1991年2月27日,イラクの敗北によって終結したが,独裁者サダム・フセインによる支配と,国連の経済制裁によるイラク国内に住む人々の苦しみは終わっていない.否,むしろ経済制裁によって人々は,より苦しみを味わっている.

 これまでに50万人を越える子どもたちが,ワクチン接種で予防できる病気や,治療可能な病気,栄養失調や下痢などで亡くなっている.70年代後半から湾岸戦争までは,石油資源に恵まれたイラクは,経済的にも,また健康指標の上でも,中東の先進国と言われるレベルであった.一人あたりの国民総生産は3,000ドル強であったが,今や500ドル以下となってしまった.

特別寄稿

「Healthy People 2000」の評価

著者: 田那村雅子 ,   三羽牧子 ,   河原和夫

ページ範囲:P.290 - P.295

 1974年,カナダでラロンド報告が発表されて以来,世界のヘルスプロモーションは,医療中心の保健サービスの提供から予防を中心とする保健サービスを重視する方向へと展開してきた1).その中で,米国は,不必要な疾病や障害を予防することですべての国民がより良い「生活の質」を達成できることを目的とする行動計画を作成し,目標管理型健康増進政策のさきがけとして,1979年,「健康な国民:公衆衛生局長による健康増進及び疾病予防に関する報告」(Surgeon General's Report on Health Promotion and Disease Prevention “Healthy People”)が提示された.1980年,「健康増進・疾病予防:国民の目標」(Promoting Health/Preventing Disease: Objectives for the Nation),いわゆる「Healthy People 1990」が発表され,15の優先領域(Priority Area)と226の具体的な目標項目(Objectives)が示された.「Healthy People 2000」2,3)は,この「Healthy People 1990」の内容を継続・進展させるもので,2000年までの10年間にわたるヘルスプロモーションの目標が定められ,1990年より開始された.その経過を追跡記録したものが,2001年10月に最終報告書4)として公表された.

 本稿では,この最終報告書から,「Healthy People 2000」の総括を行うとともに,日本でも2000年より実施されている「健康日本21」5)「健やか親子21」6)との比較を通して,今後の日本における目標管理型健康政策のあり方について検討してみる.

地球温暖化と蚊媒介性感染症デング熱,西ナイル熱とマラリア

著者: 當間孝子

ページ範囲:P.296 - P.300

 最近まで,「感染症の征圧の長い闘いは終わりに近づいた」との楽観論が聞かれた.確かにポリオ,ハンセン病,オンコセルカ症,天然痘などは過去の疾患となった.しかし,コレラ,マラリア,西ナイル熱,結核など,地理的に限られていた疾患が世界各地で勃発し,再流行(再興)している.また,エイズやエボラ出血熱など,世界のあちこちで感染源や病原体の不明な新しい疾患も出現(新興)している.感染症の征圧の闘いは終わりどころか,重要な段階にさしかかっていると言えよう.

 WHO(世界保健機関)の報告書(1996)によると,感染症はまだ世界の主要な死因で,年間の死者数5,200万人のうち,少なくとも約33%が感染症により死亡,また世界人口の半数以上が,感染症の危険に曝されていると報告している.このような現象は,最近特に問題視されている地球温暖化や国際化と,リンクしていると思われる.

連載 医学ジャーナルで世界を読む・4

イラクの健康危機と公衆衛生

著者: 坪野吉孝

ページ範囲:P.250 - P.251

 各地の栄養士の集まりに招かれて,講演をする機会が多い.最近では,神奈川県の行政栄養士会,群馬県の栄養改善学会,東京の勉強会,宮城県の保健所の栄養士会などで話した.「この食べ物が健康にいい」という類のメディアの健康情報について,その信頼性や重要性を判断する方法を解説している.実際の新聞記事をいくつか読んでもらいながら,情報の質を評価するという「練習問題」も行っている.

 メディアの健康報道は,人間集団での検証がきちんとなされていない,培養細胞や実験動物のデータだけに基づく情報が多い.この背景には,科学的に確立しているがありふれた話よりも,未確立でも目新しい話を取り上げて,視聴者の関心を引こうとする報道側の思惑がある.またどんなデータであれ,健康への効用を謳い文句にして,商品を売り込みたいスポンサー企業の意向もある.

水俣病から学ぶ・4

公害における差別の構造

著者: 原田正純

ページ範囲:P.301 - P.305

水俣病が起こったから差別された

 私が最初に水俣を訪れたのは,1960(昭和35)年のことであった.美しい海と空,それと対比的な悲惨な患者の姿,貧困.しかし,その悲惨な症状と貧困にも増して私がショックを受けたのは,患者たちへの差別であった.彼らは村の中で孤立させられて,隠れるように,雨戸を昼から閉めて,息を凝らして生きていた.

 田中アサノさんは「親戚も兄弟も声をかけてくれる人もありません.家に居る子供はなおさらかわいそうなもんでした.家は役所から消毒に来るし,井戸水は検査に来るし,村八分にされる.店に買い物にはやってくれるなと,お金も手渡しに取ってくれないし,いよいよ家のもんは生きた気持ちはしていなかったのです.(略)避病院(伝染病隔離病棟)に移るのに誰一人恐ろしがって,A子を抱いて行ってくれる看護婦も居ませんでした」1)と.

介護保険下の公衆衛生活動を考える・13

スイート・ホーム

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.306 - P.307

男性(75歳):脳梗塞,高血圧,痴呆症の疑い,要支援,一人暮らし,木造アパート1階

高齢者宅の「物あふれ」

 

 今号から数回は,高齢者宅の「物あふれ」をテーマに事例を取り上げてみたい.筆者が大学病院勤務から一転して,保健福祉センター(以下,センター)で様々な在宅訪問に同行するようになって半年ほどした頃から,だんだんと「『ごみ屋敷』と『物あふれ』は違う」,と気がつくようになった.そのきっかけになったのが,今回の主の部屋である.

インタビュー・住民VOICE・1【新連載】

障碍者自身が行う,障碍者支援

著者: 水上浩治 ,   塩飽邦憲

ページ範囲:P.308 - P.309

塩飽 水上さんは小学校5年生で「筋ジストロフィー」と診断され,1982年,29歳で国立療養所近ジストロフィー病棟を退院するまで,施設で生活されていました。

 現在49歳で,病気は徐々に進行して,夜間に人工呼吸器をつけておられます.しかし,電動車椅子とパソコンを武器に,生まれ故郷の出雲市で,障碍者の自律支援に奮闘されています.現在の活動をご紹介ください.

米国の知的障害者サービスと脱施設化に学ぶ わが国の痴呆性高齢者対策への警鐘・7

米国の知的障害者サービスと研究活動(上)

著者: 武田則昭 ,   八巻純 ,   ,   ,   末光茂 ,   江草安彦

ページ範囲:P.310 - P.313

 本稿では,脱施設化の進む米国で新たに取り組まれている関連状況を,利用者のサービスへの参加,研究活動の特徴について紹介し(一部紹介,残りは次号),それらが「わが国の痴呆性高齢者対策への警鐘」となる点について考察する.
サービスへの利用者の参加
 米国の知的障害者サービスは,サービスシステムを運営する行政府や実際の援助を提供する専門家(例:医師,看護師,セラピスト,直接援助職員)のみならず,サービスを受ける側の知的障害者やその家族の参加によって成り立っている.これは「サービスを提供する側よりもサービスを利用する当事者のほうが,サービスの内容やその提供方法を熟知している」という考えに基づいている.米国での知的障害者サービスは,行政・専門家から知的障害者の側に“上意下達”方式で提供されるのではなく,“対等の関係にある両者の協力”によって成り立っている.

世界の公衆衛生に貢献した日本人先駆者たち-次世代へのメッセージ・1【新連載】

連載を始める前に

著者: 神馬征峰 ,   若井晋

ページ範囲:P.316 - P.316

 「第二次世界大戦に負けたのに,原子爆弾を落とされたのに,どうして数十年の間に日本は,アメリカに次ぐ経済大国になり得たのか」「どうして短期間に,私たちを援助してくれるような国にまで成長し得たのか」

 国際協力の仕事で発展途上国に行くと,このような声をよく耳にする.それは賞賛の声であり,「われわれも日本のようになりたい」という羨望の声でもある.もちろん,「私」がそれをしたわけではない.もう一つ上の世代の日本人がしてくれたことだ.それを褒められるのは,嬉しく誇らしい.

世界の結核対策への日本の貢献(上)

著者: 島尾忠男

ページ範囲:P.317 - P.320

 講演は「世界の結核対策と私」と題してとのことでしたが,私は結核予防会に入ったおかげで,その後の日本,ならびに世界の結核対策とその移り変わりを身近で見聞きする機会があり,私なりの国際協力もできたと思っています.それは個人の力ではなくて,結核予防会,あるいは日本の結核病学会が総力をあげてやったことなので,題を「世界の結核対策への日本の貢献」に変えました.結核領域での国際協力は,他領域に比べても日本は早くからよくやっていたと思いますので,そのあらましについてお話しいたします.

 最初に私事になりますが,まずは結核に関心をもつようになった契機から.戦前旧制高校は3年でしたが,戦争がひどくなり,軍医が足りず早めに養成しようということで,旧制高校の3年が半年短縮され,昭和19年9月に2年半で高校を終えて,10月に東京大学医学部に入学しました.

厚生行政ホントの話・4

ある再会

著者: 椎葉茂樹

ページ範囲:P.325 - P.325

 私が本州最北端の下北半島にある青森県むつ保健所に勤務していた平成6年12月21日に,保健所主催でシンポジウム「これからの地域保健シンポジウムin下北」を開催したことがある.このシンポジウムは,下北地域の保健医療計画の最重点項目である“保健医療福祉体制の充実強化”を図ることを目的に企画されたもので,「保健・医療・福祉の連携を効果的に推進するために」をテーマに,むつ市の下北文化会館で開催した.

 このとき基調講演をしていただいたのが,広島県御調町の公立みつぎ総合病院院長の山口昇先生だった.スライドを交えた講演で紹介された広島県御調町の包括ケアシステムと「寝たきり老人ゼロ作戦」の取り組みは新鮮で,大変参考になった.基調講演のあとは,地元・下北の婦人会会長さんや特別養護老人ホーム園長さん,町長さん,総合病院の院長さん,福祉事務所と保健所の両所長といったメンバーで,下北で具体的にどうすれば保健医療福祉の体制強化や連携が図られるのか,についてパネルディスカッションが開かれた.

活動レポート

地方都市の一診療所における診療時間外の対応に関する検討

著者: 小川裕

ページ範囲:P.321 - P.324

 近年,小児の救急医療のあり方が社会的な問題となっている.小児に限らず救急医療は,地域医療体制整備の観点からも重要な柱のひとつであり,その整備が進められつつあるが,救急医療におけるかかりつけ医の位置づけは明確にされていない1)

 一方,地域医療におけるかかりつけ医の機能が重視されているが,地域住民がかかりつけ医に期待する機能として「休日・時間外にもみてもらえる」あるいは「必要な時にみてもらえる」が少なくない割合で挙げられている2).しかし,かかりつけ医が休日や診療時間外の診療においてどのような対応をしているのか,あるいは対応し得るのかについては,明らかにされていない.

 そこで,地方都市の無床診療所における診療時間外の電話とそれに対する対応の分析により,救急医療を休日を含めた診療時間外の初期医療の観点からとらえ,かかりつけ医としての無床診療所が果たし得る役割について検討したので,本稿にて報告する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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