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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生67巻6号

2003年06月発行

雑誌目次

特集 現代の保健所論・2

[座談会]保健所と関係機関との協働

著者: 藤崎淳一郎 ,   伊藤善信 ,   細川えみ子 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.414 - P.421

岩室(司会) 保健所に今,何が求められているのか.関係機関との協働,市町村等への支援という視点で考えた時に,保健所はどういう存在であるべきかといった議論は,今まで数多くなされてきましたが,保健所は地域保健法の狙いどおり,関係機関の期待に本当に応えているのでしょうか.

 本日は「保健所と関係機関との協働」をテーマに,今保健所に何が求められているのか,関係機関の期待に応えられているのかどうか,応えられていないとしたら何が問題なのかについて,率直な意見交換ができればと思います.よく「マンパワーがあれば」,「予算があれば」という愚痴を耳にしますが,みなさんが保健所長として多くの制約を受ける中で,どのように期待される保健所機能を発揮し,地域住民のニーズに応えているのか,そして関係機関が求めている情報,課題解決についても,ご意見をいただければと思います.

保健所の協働―アラジンの魔法のテーブルを機能させるために

著者: 川島ひろ子

ページ範囲:P.422 - P.425

 行政に入って,14年余りがたった.もうすぐ臨床医としてより公衆衛生医として働いてきた期間の方が長くなる.この間,社会も大きく変わったが,保健所も変わった(というより,変わらざるを得なかったという方が正しいかもしれない).

 本稿では,現在の筆者の勤務場所である石川中央保健所での6年間を振り返りながら,「協働」という視点から,保健所はどうあるべきかについて述べてみたい.

保健所の市町村支援

著者: 山口亮

ページ範囲:P.426 - P.428

北海道網走保健所の概況

 北海道網走保健所は,道内に26カ所ある道立保健所(他に政令市,中核市の保健所が4カ所)の1つで,スタッフは総勢30名.道内では比較的小規模な保健所であり,1市4町1村を管轄し,管内人口は約7万人である.網走はオホーツク海に面した港湾都市であるが,網走刑務所や流氷見物など観光産業も盛んである.また,海産資源に恵まれカニ類が特産品になっている(一昨年,上海で食べた上海ガニも,そして昨年,境港で食べた松葉ガニもうまかったが,豪快に食べるならオホーツク海のタラバガニ(king crab)に勝るものなし!).

網走保健所の市町村支援

 原稿を引き受けてから,ハタと考え込んでしまった.赴任してはや3カ年が経とうとしているのに,「これが網走保健所の市町村支援です」と力を込めてご紹介(自慢)できるテーマが思いつかない.「これにておしまい」では,依頼された枚数まで,到底たどりつかない.では,枚数を埋めるためにはどうしたらよいか考えた.そこでなんとかひねり出したのは,保健所の能力として比較的力を発揮しやすい情報収集や,評価支援についての具体的事業を取り上げて,そこでの市町村支援について触れてみたらどうかということだった.そうすればミニマム・スタンダード(minimum standard)を示すことができて,私に求められている課題もクリアできるのではないか.ある意味では,どこの保健所でもできる,最低限の仕事という意味で,網走保健所の事業を具体的に字句に残そうと意気込んで,とにかく升目を埋めることにした.

介護保険制度と県型保健所の機能―介護保険広域連合との協働

著者: 澁谷いづみ

ページ範囲:P.429 - P.433

 平成12年に介護保険制度が導入され,保健所はどのような役割を果たすことが求められてきたのだろうか.それぞれの市町村の保健と福祉が連携すれば,果たして社会保障制度の大きな変革であった介護保険の円滑な運用ができるのであろうか.この制度の見直しに当たって,本稿においてこの間の保健所活動を振り返ってみることとした.

 保健所には,地域の公衆衛生の新たに生じる課題を予測し,ニーズとして明らかにする重要な機能があると考える.さらに人に身近な医学的または科学的な問題の調整ができる機能があり,地域により特徴のある活動ができる地方機関である.

 介護保険制度導入後のこの3年間を通じ,保健所の持つ機能の意味を考えたい.

保健所と市町村の協働―保健計画策定を通して考える

著者: 中俣和幸

ページ範囲:P.434 - P.438

 鹿児島県徳之島保健所は,徳之島(徳之島町,天城町,伊仙町),沖永良部島(和泊町,知名町),与論島(与論町)の3島6町(人口約5万人)を管轄している保健所です.

 各町は平成8年度末にそれぞれ母子保健計画を策定していますが,諸般の事情等により,5年後見直しの新計画書は,予定よりも1年遅れて平成14年度末に完成する予定です.

 この各町が行う母子保健計画の見直しに管轄保健所としてかかわる中で,「保健所と市町村の協働」について考えたことを,本稿にて記したいと思います.

「子ども虐待予防活動」を通した市町村支援の1例について

著者: 井口ちよ

ページ範囲:P.439 - P.442

 戦後,日本の公衆衛生の第一線機関として活動してきた保健所の存在をめぐり,今,多くの議論がある.急速な社会の変化は,保健所のあり方を大きく問い直しているが,この時代に築き上げた保健所の功績は,今でも十分評価されるものである.代表的なものをいくつか挙げてみると,保健所が地域の公衆衛生の現場を受け持つ意義が明らかになると考える.

 第一には,全国に張り巡らされた保健衛生行政のシステムがある.一地方で起きた食中毒の事件が,食材の流通調査や患者調査の中から,全国規模の事件を浮かび上がらせることがある.これは全国の保健所間のレベルやシステムがほぼ同じであり,保健所職員同士の信頼感が背景にあってこそ可能になることである.結核予防法に基づく,定期外検診システムなども同様に,感染が推定される者の全国調査が可能であり,他の感染症発症時にも,十分生かすことのできるシステムとなっている.

視点

保健所における医師づくり―百年河清を挨つ

著者: 大井田隆

ページ範囲:P.408 - P.409

 最近,多くの保健所が福祉事務所と統合して保健福祉事務所(名称はそれぞれの都道府県による)といった県庁や市役所(地域保健法政令市)の出先機関として機能している.しかしその実態は,小さな福祉事務所が保健所の中に入り込むことによって「統合」と称しているに過ぎず,保健福祉事務所の中に法律上必置義務のある保健所と福祉事務所が入っており,二重,三重行政が行われているのである.多くの保健所長が,行政がやりにくくなったことを訴えている.

 また,保健福祉事務所のトップには地域保健法政令第4条の規定「保健所長は医師である」という条項とは違って,他職種(特に事務職)の場合が多い.知人の保健所長がこのような状態を指して「人事権が自分になくなってしまったので,食中毒のような緊急事態になっても事務職は知らん顔,一緒にやってくれるのは保健師など限られた人だけ」と嘆いていた.この話を聞いて,保健所長という行政機関の長から,マネジメント機能が奪われてしまった,と思った.

トピックス

カネミ油症女性被害者健康実態調査報告―日本最大のダイオキシン被害

著者: 佐藤禮子

ページ範囲:P.444 - P.447

 カネミ油症事件をご存知の読者は多いだろう.35年前の1968年,西日本を中心に,当時はPCBが主な汚染原因だと言われたカネミ倉庫発売の米ぬか油を食べ,酷い吹き出などの皮膚症状が出たと14,000人ほどの届け出があった食中毒事件である.その販売期間は明確ではない.悲惨な健康被害状況は連日新聞を賑わせ,水俣病裁判に続く大きな裁判闘争にもなった.国は食中毒にもかかわらず,主に皮膚症状を基準に1,900人足らずを患者と認定,残りの被害者は切り捨てられ,その後検診も追跡調査もないまま,現在も放置されている.

 事件の少し前,北九州で,この毒油の絞りかすの飼料で数百万羽の鶏が死ぬというダーク油事件が起きていたが,十分に検証されないまま,引き続き人間への被害が起こってしまった.

特別寄稿

地域ケアシステム構築の手法について―企画書と計画書の重要性

著者: 工藤啓 ,   右田周平 ,   菅沼靖 ,   荒井由美子

ページ範囲:P.449 - P.451

 最近,地域ケアシステム構築論が注目されている.ケアシステムという言葉でわかるように,これは単独の保健事業というよりも,総合的な系をイメージしている.すなわち,成人保健ケアシステムなどのように,複数の保健事業を束ねるものである.ケアシステム構築については今まであまり意識されることはなかったが,今後は,既存の複数の保健事業を束ねることを基礎とする地域ケアシステム論が重要となるだろう.

 本稿では改めて,構築の概念を整理して紹介することにする.

路上生活者問題を見つめて

著者: 宮下忠子

ページ範囲:P.453 - P.456

山谷地域との出会い

 バブル景気の崩壊と共に,巷で路上生活者の姿を多く見かけるようになったのは1991(平成3)年頃からである.人々の動きが集中する主要ターミナルの片隅に座り込む路上生活者は,流動しながら日々増加していった.このような社会状況が起きる以前から,路上生活者問題は,私にとって仕事を通して問題解決するための重要な課題だった.

 1974(昭和49)年夏,私は東京・山谷地域の中心部にある泪橋交差点をわたり,医療相談員として働くために,東京都城北福祉センターへと向かった.

連載 医学ジャーナルで世界を読む・6

SARSと肥満,2つの疫病

著者: 坪野吉孝

ページ範囲:P.410 - P.411

 重症急性呼吸器症候群(SARS)の伝播が,世界規模で急速に拡大している.WHOの報告によれば,本稿執筆の5月1日までの時点での感染症例(疑い例を含む)は,30カ国5,865例に及び,死亡例も391例に達している.

 SARSの急速な拡大に対応するため,医学専門誌も,かつてないスピードで最新の知見を報告し続けている.特に『ニューイングランドジャーナルオブメディシン』誌は,一連の論文を,通常の誌上発表を待たずに,ウェブサイト上で次々と公表している(表の2).3月31日には,香港とカナダにおける最初のSARS症例に関する報告を掲載した.4月10日には,SARSの原因として疑われる,新型コロナウイルスの同定についての論文を公表した.

水俣病から学ぶ・6

高度技術社会と専門家の役割―「2.5人称の視点」の確立を

著者: 柳田邦男

ページ範囲:P.457 - P.461

他者の悲惨を「わかる」とは

 今年(2003年)の年明け早々に,名古屋市科学館で開かれていた水俣・名古屋展で,水俣病と闘いながら生き抜いてきた水俣市茂道在住の杉本栄子さんの講演を聞いた.杉本さんは1938年生まれだから,すでに60代半ばになっている.1959年に21歳で結婚した頃に発症して以来,40年以上も水俣病と闘ってきて,今でも時折ひどく体調が悪くなるときがある.それでもはるばる水俣から日帰りの日程で名古屋まで駆けつけてきたのだが,語る口調には,長年の闘病と訴訟の闘いなどで培われた,後に退かない意思と積極的に生きることへの確信に満ちた力強さがあった.しかも明るささえ漂わせている雰囲気に,私は深い感銘を受けた.

 水俣病が原因不明の伝染病と言われた時期,すべての水俣病患者・家族がそうだったように,杉本さんとその一家も,苛酷な症状に苦しめられただけでなく,周囲の人々から残酷なまでの迫害を受け,それが病気以上に辛いことだったと言う.その状況について,杉本さんは栗原彬(編)『証言水俣病』のなかで詳しく証言している1).私は杉本さんのその証言を何度も読んで,水俣病の患者・家族が経験した拷問と言うべき仕打ちの日々について,理解できた気持ちになっていた.

介護保険下の公衆衛生活動を考える・15

大掃除

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.462 - P.464

女性(78歳):不整脈,アルツハイマー性痴呆の疑い,要介護2


クレジットローンの危険な香り

 その日保健福祉センター(以下センター)のカンファレンス中に持ち込まれた相談は,何やら物騒な香りがした.というのも,それは議員を通じた大家からの相談で,「店子に痴呆,奇行が出現している.宝石や呉服などをカードで買い物して借金があり,数社のカード会社から督促通知が届いていて,年金が入る頃になると取り立て人が何人も来ている」という内容なのだ.早速保健師が実態調査に訪問したところ,大家は「正直,すぐに出て行ってほしい.できれば施設に行ってほしい.しかし高齢だし,よく知っている方なので……」と困っている様子だった.

米国の知的障害者サービスと脱施設化に学ぶ わが国の痴呆性高齢者対策への警鐘・9

わが国の痴呆性高齢者問題への解決点の模索(上)

著者: 武田則昭 ,   八巻純 ,   ,   ,   末光茂 ,   江草安彦

ページ範囲:P.465 - P.469

 高齢者問題は医学(基礎,臨床,社会),保健,福祉,工学等の各分野で積極性な取り組みがなされている1~3).また,わが国の高齢者対策は介護保険制度施行,各種関連法制度,計画の充実に伴い,医療,保健,福祉の壁を取り去り,それぞれが互いに学び与え,参加,協力するといった,真の保健・医療・福祉の連携の動きが見られている2,4).中でも痴呆性高齢者問題は,その複雑・多様・困難性から,より一層,十分で適切な連携が必要と考えられる.しかしながら,痴呆性高齢者対策は,超高齢社会の急激な到来を目前に,その取り組みの歴史が浅いこともあり,ある意味,試行錯誤の状況が見られる.

 わが国は地方分権,コミュニティの脆弱化,若年層の少数化・個人主義・マニュアル人間化など,米国を想起させる現状がある.一方,わが国の社会・経済状況は当面,右肩上がりは期待できず,各種の制度,対策が効果的に運営される必要がある.そのためには,幼児・青少年教育の見直し(知育,徳育など)はもちろん必要であるが,国民全体にノーマライゼーション,自己決定の考え方(人間尊重が基本)を浸透させ,痴呆性高齢者問題に対しても適切な各種の政策を確立,推進していく必要がある.

インタビュー・住民VOICE・3

住民が創る,地域の健康づくり

著者: 須合昭子 ,   三島美智子 ,   佐谷けい子

ページ範囲:P.470 - P.471

佐谷 東京都中野区高齢者会館「しんやまの家」では,1994年に中野区の保健師・歯科衛生士・食品衛生監視員などを講師とした月2回の講義と実習からなる「ナイスミドル健康講座」をはじめました.この講座自体は高齢者会館の利用者拡大,寝たきり老人の防止を目標にしていましたが,スタッフは身体への関心を入り口に,地域みんなの健康づくりへの発展を考えていました.この健康講座の生徒で,中心的役割を担っておられる須合昭子さんと三島美智子さんにお話を伺います.

 「ナイスミドル健康講座」では,住民のみなさんに健康についての知識や技術を学んでいただくことと同時に,学習をきっかけに仲間づくりなどを通して,「地域の暮らしを良くする」ことも大切な目標としていました.この点は,どのように感じていましたか?

須合 “健康学習”というと,身体を鍛える健康づくりと思いがちで,私たちも病気の予防に関心を持って参加しました.でも,「ナイスミドル健康講座」で学んだことは,病気に負けない身体づくりだけではなく,柔軟な心を育て,知識欲を持ち,何事にも興味深く取り組める柔らかな頭を持つことでした.健康学習が始まった頃,参加者はほとんどが女性で,「できるだけ長く,この地域で普通に暮らして行きたいね」とよく話し合っていました.

世界の公衆衛生に貢献した日本人先駆者たち―次世代へのメッセージ・3

疾病根絶対策と私(上)

著者: 蟻田功

ページ範囲:P.472 - P.475

天然痘をなくそうではないか!

 今ご紹介いただきましたように,私はプロダクティブな時代を,疾病の根絶のために過ごしてきました.今日は疾病の根絶とはどういうものなのか,現在のように混乱した時代の中,疾病の根絶はどのような状況にあるのかについて,お話ししたいと思います.

 天然痘とは,昔から非常に恐れられていた疾病です.治療法,予防法がないということで,西アフリカでは“サポナ”,インドでは“シトラ・マタ”といった天然痘の神様が礼拝され,人々はそれによって,最悪の事態から逃れようとしていました.

厚生行政ホントの話・6

リハビリテーションは国民の努力義務!

著者: 椎葉茂樹

ページ範囲:P.485 - P.485

 関係者には既知のことだが,介護保険におけるサービスの給付は,本年4月から新しい介護報酬単価に基づいて行われている.今回の介護報酬の改定は,介護保険制度が発足して初めてのものであり,居宅サービスはプラス0.1%,施設サービスはマイナス4.0%,全体としてはマイナス2.3%の改定となった.

 これは,平成15年度からの3年間の第二期の介護サービスの増大とこれに伴う保険財政への影響が大きいこと,近年の賃金・物価の下落傾向,介護保険施行後の介護事業者の経営実態を踏まえ,市町村が設定する保険料の上昇幅をできる限り抑制する方向で行うこととされたためである.ただし,制度創設の理念と今後の介護のあるべき姿の実現に向けて,必要なものに重点化するというメッセージも発せられている.

資料

広島県における「ひきこもり」対策支援体制に関する研究―行政機関におけるひきこもり支援体制の実態

著者: 高林史佳 ,   藤本眞一 ,   烏帽子田彰

ページ範囲:P.478 - P.481

 近年,増加する青少年の「ひきこもり」に対する社会的関心が高まっている.「ひきこもり」とは,さまざまな原因で社会的な生活への参加の場面が狭まり,自宅以外での生活の場が長期にわたって失われている状態を指し示す言葉である.単一の疾患や障害の概念ではない,というのが一般的な見方である1).ひきこもっている者は,そのこと自体に自己嫌悪感を抱きやすく,時には家族ぐるみで悪循環に陥ってしまうことがあるため,何らかの形で,ひきこもり者や家族に対して支援する必要がある.

 これまで,公的機関は「ひきこもり」に対する有効な支援機関にはなっておらず,支援のほとんどは民間の支援機関が担ってきた.しかし,90年代半ばを過ぎた頃から相談件数が増え続け,民間支援機関だけでは対応できなくなっており,その頃から一部の公的機関では「ひきこもり」に対する支援を試みる動きが始まった2)

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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