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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生67巻7号

2003年07月発行

雑誌目次

特集 健康危機における情報ネットワーク

健康危機管理体制の構築をめぐって

著者: 田中良明

ページ範囲:P.494 - P.496

 地域保健の新しい体制整備のため,平成6年に地域保健法が制定されたが,その後の地域保健を取り巻く情勢の変化等を踏まえ,平成10年11月に公衆衛生審議会の下に設置された「地域保健問題検討会」の中では,健康危機事例の頻発が問題点として指摘された.

 平成11年8月にまとめられた同検討会の報告書の中では,「現状でも保健所を中心とした健康危機管理はある程度行われているが,昨今発生した健康危機事例を通し,明らかになった現在の健康危機管理の問題点は,健康危機情報の収集体制が十分でないこと(中略)などの管理体制が十分でないために,健康危機管理上最も重要な初期対応が適切に行われず,結果として被害を最小限に食い止めることができない場合があった」と健康危機情報の収集体制の不備が指摘された.

自治体の健康危機管理―情報ネットワークの視点から―千葉県の取り組み

著者: 北村忠夫

ページ範囲:P.497 - P.501

 わが国における昭和30年代前半までの健康問題は,結核やポリオ(急性灰白髄炎)をはじめとする感染症を主流として,国民病とも言われた結核の罹患率や死亡率を,いかに減少させていくかが喫緊の課題とされていました.したがって,都道府県や保健所の役割・使命としても,結核や感染症問題への取り組みが最優先されており,いわゆる「健康危機管理」と保健所のあり方は,切っても切り離せない関係にあったと言えます.

 その後,高度経済成長期を経て,わが国の健康問題の主流が悪性新生物や心臓病をはじめとする生活習慣病に移行していくことにより,また住民に対する保健サービスの提供主体が都道府県(保健所)から市町村に移管されていくことにより,同時に,地域における健康危機管理の重要性が忘れられがちになった時代があったのも事実です.

国立保健医療科学院における情報ネットワークの取り組み

著者: 土井徹

ページ範囲:P.502 - P.506

健康危機管理支援情報システムの立ち上げ

 平成13年度厚生労働省健康危機管理情報システム検討会からの提言1)を受け,平成14年度より段階的整備を図るものとして,健康危機管理支援情報システムが国立保健医療科学院に設置されることになった.これは,「支援」という言葉が入っているように,地域における健康危機管理について,健康危機発生前,発生後の各時期において必要とされる様々な情報を地方自治体等に提供し,健康危機管理の意思決定,対応等のサポートを行うことを目的とするものである.したがって対象(利用者)は地方自治体衛生主管(関連)部局,保健所,地方衛生研究所等の地域において,健康危機管理に対処する第一線の機関を想定している.

 このシステムは上記検討会の提言に沿うべく,24時間365日の稼働と,SE(system engineer)の常駐を前提にしている.利用者からの要望は,後述する運営委員会事務局を通して運営委員会に諮られ,実行委員会によって実行されることになっている.

―保健所の取り組み①―保健所の情報ネットワーク―二次保健医療圏の健康危機管理センターとして

著者: 長野みさ子

ページ範囲:P.507 - P.509

 保健所は保健所法の下で母子保健事業や結核対策,伝染病対策等の公衆衛生活動を進めてきたが,平成6年7月に保健所法が地域保健法と名称等を改め,市町村という基礎的自治体が責任を持って保健活動を進めることになり,保健所は広域的,専門的,技術的に二次保健医療圏を単位とした保健行政を担当することになった.

 その後同年12月に出された「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」の中では,保健所の役割として「健康危機管理」という直接的表現は全くなかったが,その直後から,阪神淡路大震災(平成7年1月),地下鉄サリン事件(同年3月),堺市O157学童集団食中毒(8年),和歌山市毒物カレー事件(10年),東海村ウラン臨界事故(11年)等,地域における健康危機事例が頻発し,平成12年3月,その指針の改正の際には,保健所は,地域における健康危機管理においても中核的役割を果たすべきである旨が定められた.

―保健所の取り組み②―神戸市保健所の健康危機管理

著者: 井上明 ,   森哲夫

ページ範囲:P.510 - P.512

 平成7年1月17日,阪神淡路大地震が起こり,神戸市内も未曾有の被害を受けた.その後,神戸市保健所では健康危機管理における組織づくりとその強化が進んできたので,本稿にてその概要を紹介したい.

健康危機管理―組織づくりとその強化

 1. 1保健所9保健部体制

 平成10年4月,神戸市は9保健所から1保健所体制とし,各区保健部は区組織であるとともに保健所の保健部とし,全職員を保健所職員としても発令した.大半の保健所長業務は従前どおり保健部業務とし,市民サービスを低下させず,むしろ機能強化や業務の質の向上を目標とした.保健師や監視員以外の専門職種の大半は保健所に集約し,各区事業へ派遣することで合理化した.

―衛生研究所の取り組み①―地方衛生研究所ホームページの現状と課題

著者: 篠原志郎

ページ範囲:P.513 - P.515

 インターネットと電子メールの普及で情報が一瞬のうちに世界を駆けめぐり,情報価値が人・物・金のように見直される時代となってきた.地方衛生研究所(以下,研究所)も時局の要請に応えて情報化を促進し,現在,全国76研究所のうち60機関(78.9%)が自らのインターネットホームページ(以下,HP)を開設するに至っている.ほとんど自前で製作しているところが多く,その内容については地域住民のニーズに応えようと努力し工夫している.

 健康危機問題については,厚生労働省が1997年1月,健康被害の発生予防,拡大防止等の基本指針を定め,関係機関に適切な措置を求めた.それを受けて健康危機管理マニュアル等が整備されてきた.ところが2001年9月のニューヨークの同時多発テロ以来,危機管理情報の重要性が一躍注目され,様々な分野で危機管理システムが見直されてきた.そこで,健康危機に関する情報ネットワークについて,研究所HPの有効活用の視点から検討してみた.

―衛生研究所の取り組み②―地方衛生研究所における情報ネットワークづくり

著者: 上木隆人 ,   荻野武雄 ,   江部高廣

ページ範囲:P.516 - P.518

 都道府県の地方衛生研究所のホームページ開設とその状況について,前稿の篠原論文で紹介した.その現状に基づいて,地方衛生研究所全国協議会(以下,地衛研協議会)では,地方衛生研究所(以下,地衛研)間の情報ネットワークの構築を試みているので,本縞にて内容をご紹介する.

情報ネットワークづくりの経緯

 健康危機管理における地方衛生研究所の役割については,地域保健法基本指針や地域健康危機管理ガイドラインにあるように,地域保健の科学的・技術的中核機関として,健康被害の原因究明や疫学解析により迅速に解決を行うことと,日常の調査研究により被害発生を未然に防止することを責務としている.近年,広域食中毒事件,松本サリン事件,炭疽菌事件,その他多数の健康危機管理事例の発生があり,これらへの対応体制を強化するため,地衛研協議会は研究活動を推進してきている.

地域情報ネットワーク構築の試み

著者: 甲斐充

ページ範囲:P.519 - P.522

 「健康危機管理」が叫ばれ,国においては各種の体制作りが行われており,自治体にもそのシステム作りが求められてきた.私自身その業務に関与してきたが,自治体の健康危機管理体制は日常業務の執行体制の上に築かれた未成熟なものであり,制度,組織を超えた本来の危機管理とは,機能の面でずれが生じていると思っている.

 未だに健康危機管理発生時に,「自治体の保健部門がなすべきことは何か」ということが問題視されていること自体,危機管理体制が不十分であることを示しているのではないか.厚生労働省主催の危機管理研修においても,「自治体(保健所)に求めるものは何か」という自治体参加者からの問いに,「情報を中央へ届けて欲しい」との希望が講師から出されたに過ぎない.これは,“地域のことは自治体で”という地方分権の流れを汲んだものであると思われるが,自治体として「何をすべきか」ということに対する共通認識がないまま指針等が作成されたため,自治体(保健所)内でのスタッフの認識に差が生じているのではないだろうか.

SARSをめぐる情報ネットワーク

著者: 中瀬克己

ページ範囲:P.523 - P.526

SARSでの情報活用

 重症呼吸器症候群(SARS)対策は今年5月の時点で健康危機管理の重要テーマであり,情報ネットワークを活用しておられる方も多いと思う.その一例として,本稿では私自身が活用しているSARSに関する情報ネットワークについてご紹介し(表1),その特徴と役割とを考えたい.

 まず最新のニュースとしては,①yahooが提供するSARSに関するyahoo Japan News,②国立感染症研究所感染症情報センターのFETP研修員が送ってくれる当日のマスメディアニュースのメール,③「SARS(重症急性呼吸器症候群)の情報源」という名の多様な情報源によるリンクサイト,④海外感染症情報ネットワークProMedの翻訳メーリングリスト(FORTH),⑤国立感染症研究所感染症情報センターのSARSのページ,を毎日見ている.①は速報性とメディアの関心点,②は専門家により選ばれたマスコミ情報,③は非公式情報や利用者の声も得られる,④は世界各地からの専門的内容を含む,⑤はWHOなどの公式情報と医療や接触者対策についての専門的見解,という特徴がある.①,②,④は刻々と変わる新しい情報,③,⑤は蓄積された情報という見方もできる.以下若干説明を加えたい.

ハーバード公衆衛生大学院におけるクライシスマネジメント教育

著者: 浦島充佳

ページ範囲:P.527 - P.530

リスクアセスメントからケーススタディへ

 「リスク」という言葉は経済,医療,環境など諸々のフィールドで使われている.疫学においては,ある人がある一定期間にある疾病に罹患する確率を指す.そのため疫学の領域では,喫煙により肺癌発症のリスクが10倍に上昇する,飲酒により乳癌のリスクが1.2倍になるなどといったことを検討してきた.しかし,予防ということを念頭に置いたとき,私たちはリスクという言葉を使って人々にある行動を起こさせなくてはならない.「飲酒により乳癌のリスクが1.2倍になる」ことが事実であり統計学的に有意であっても,この数値だけで女性の飲酒をやめさせることは難しいだけでなく,あまり意味のないことのように感じる.

 一方,経済の領域では,ハイリスク・ハイリターンと呼ばれるように,「リスク」という言葉は不確実性の高いものについて使われる.例えば,「日本でテロが発生するかどうか」「東海地震が3年以内に発生するかどうか」「日本でエボラ出血熱患者が発生するかどうか」といったことは,疫学的には発生するリスクは0に近いかもしれないが,経済の領域で言えば,上記のような例は極めてリスクが高いことになる.そして,発生したときは大変な事態に発展しうることから,リスクマネジメントと呼ぶよりは「クライシスマネジメント」と呼ぶべきかもしれない.

視点

遺伝医療システムと公衆衛生の人づくり

著者: 羽田明

ページ範囲:P.488 - P.489

医療・保健・福祉に求められているもの

 私は,未熟児新生児医療を含む一般小児科,引き続き神奈川県立こども医療センター遺伝科で卒後研修を行った.私の少し前の時代は,例えば,「未熟児,染色体異常児をむりやり生かしてどうするのだ,もっと社会の役に立つ医療をすべきだ」という意見が,小児医療全体の中では支配的であった.

 新生児医療,遺伝医療を研修した私たちの世代は,わが国で初めてこの分野を立ち上げた先駆者たちの弟子にあたる.先駆者たちにとっては,未熟児を育て上げる技術,染色体異常などを診断する技術の開発が大きなテーマであり,事実,彼らの貢献によって技術は急速に進歩し,わが国が世界のトップレベルに躍り出たのは周知の事実である.

トピックス

メチル水銀基準摂取量のゆくえ

著者: 村田勝敬 ,   嶽石美和子 ,   佐藤洋

ページ範囲:P.531 - P.533

 環境中のメチル水銀はほとんどが無機水銀のメチル化によって生じ,世界中至るところで見られる海産物や淡水魚の中に存在している.米国環境保護庁(U.S. Environmental Protection Agency:以下,EPA)は,メチル水銀に感受性の高い特定集団(妊娠中に曝露を受けた胎児など)の健康への影響を防止する目的で,メチル水銀の基準摂取量(毎日摂取しても人体に影響を及ぼさないとされる量:以下,RfD)を0.1μg/kg/日と1995年に定めた.現在,EPAはこのRfDの改訂作業を行っている.

 オーストラリア・ニュージーランド合同食品基準協議会は,2001年1月に「魚は妊娠や授乳に有用な栄養素の良好な供給源であるが,水銀なども含まれているので,科学的根拠は今後の課題であるものの,魚摂取を週600g未満にすることが望ましい」と報じた.同様の勧告は米国連邦食品医薬品局(2001年3月),カナダ食品検査局(2002年5月),英国食品基準局(2003年2月)でも行われ,わが国の厚生労働省はこれらに追随する形で,妊婦のキンメダイなど数種の魚といくつかの歯鯨類に関する摂食制限呼び掛けを出した(2003年6月3日).しかしながら,日本ではRfD値がどのようにして算出されたのかよく理解されないまま,この数値が一人歩きしているように思われる.したがって本稿では,RfD値算出の経緯と,どのような意味を持つのかについて解説する.

母乳育児をすすめるために―「赤ちゃんにやさしい病院(BFH)」をご存知ですか?

著者: 永山美千子

ページ範囲:P.534 - P.537

分娩施設での取り組みが母乳育児成功のカギ

 今,母乳育児を望む母親たちが増えてきている.妊娠すれば,90%以上の母親たちは「母乳で育てたい」と答える(これは学会発表などをみても数々の調査からも明らかである).分娩施設では母乳育児が進んでいない現況だが,しかし,「母乳で育てることが最良」と医療者も話している.

 母乳育児成功の大きなカギの1つは,分娩施設における母乳への取り組みである.「日本母乳の会」は2001年に,日本全国の産科施設での母乳育児アンケート調査を実施した.これは厚生科学研究の一環であるが,これだけ大規模な調査は日本で初めてである.約4,700の産科施設にアンケートを送り,回答は1,480余り,回答率は32%.結果,母乳育児に取り組んでいる施設は約87%で,13%は「母乳でも人工乳でも良い」と答えている.「87%が取り組んでいる」と聞くとかなり母乳が普及しているように思うが,母乳だけで退院していく母子は少ない(つまり,すでにこの時点で人工乳を飲み始めている赤ちゃんはたくさんいるのだ).しかし,「赤ちゃんにやさしい病院」に認定されている施設は,開業産科では95~98%以上,病院産科でも約90%の母子が,母乳だけで退院している.

特別寄稿

米国におけるバイオテロ―日本への提言

著者: 岩田健太郎

ページ範囲:P.538 - P.541

 世界でも稀な,核兵器,そして化学兵器の被害国として,バイオテロの危険は日本にとって極めて現実的な問題である.が,バイオテロは抽象的なイメージで捉えられがちになり,現実味を帯びたイメージを作りにくい.具体的な対策をとるのは簡単ではなく,いったいどこまでやればよいのか?

 危機管理が世界で最も苦手な国,日本に提言する.

バイオテロとは何か

 2001年,米国では郵便物による炭疽菌感染症の患者が続出した.このような生物兵器の使用を,俗にバイオテロという.テロリズムの厳密な定義については長い長い議論があるが,バイオテロについてはこのくらいで了解しておけば実務に支障はない.バイオテロに使用されやすい病原体については,米国疾病管理センター(CDC)がカテゴリー化したリストに見ることができる(表).

報告

老人保健法に基づく第3回機能訓練事業全国実態調査報告―介護保険制度中間年改正前調査(平成14年7月)―1. 機能訓練事業中止と再開の理由

著者: 澤俊二 ,   大田仁史 ,   岩井浩一 ,   安岡利一 ,   大仲功一 ,   伊佐地隆

ページ範囲:P.543 - P.546

 われわれは平成10年7月,介護保険制度開始前に,機能訓練事業未実施の市区町村を除く全国3,334市区町村(98.9%)の機能訓練事業実施施設に対して,郵送法による第1回全国アンケート調査を実施した.発送4,395施設中3,389施設の有効回答を得た.機能訓練事業の必要性を91%の施設が実感しながらも,介護保険制度開始後の事業内容の変化を予兆するものだった1)

 その後旧厚生省からの通達により,今後はA型からB型への移行を進める,すなわち,介護保険制度で寝たきり度A~Cを対象にし,機能訓練事業ではJランクの虚弱老人を対象にしてゆく役割分担が打ち出された.

連載 医学ジャーナルで世界を読む・7

食物繊維とスピリチュアリティ

著者: 坪野吉孝

ページ範囲:P.490 - P.491

・食物繊維と大腸がんをめぐる研究

 「食物繊維を多く食べると,大腸がんの予防になる」.この仮説を,「事実」「常識」と考えている人は多いかもしれない.けれどもこの数年,この「常識」を否定するデータが次々と報告されてきた.例えば,米国看護師(1999年),フィンランド男性(1999年),スェーデン女性(2001年)の前向きコホート研究は,いずれも食物繊維の大腸がん予防効果を認めなかった.また,大腸ポリープの再発予防についてのランダム化比較試験が,2000年に3件報告された(米国2件,欧州1件).いずれも,食物繊維のサプリメントや,食物からの繊維を増やす教育をしても,ポリープの再発率は下がらなかった.そのため欧米の学会などでは,「食物繊維-大腸がん仮説」はもはや「過去の話」であり,「研究を止める時期ではないか」という声すら上がっていた.

 そんな中,食物繊維と大腸がんについて2件の前向きコホート研究が報告された.第1の研究は,カナダ女性45,491人を平均8.5年追跡し,487例の大腸がん罹患を確認した(表の1).食物繊維の摂取量が下位20%のグループと比べて,上位20%のグループの大腸がん罹患リスクは0.94倍だった.つまり,食物繊維による大腸がんリスクの低下を認めず,最近の研究と一致する結果だった.

水俣病から学ぶ・7

公衆衛生行政担当者の反省と教訓

著者: 緒方剛

ページ範囲:P.547 - P.550

 本シリーズでこれまで他の筆者により紹介されてきたように,水俣病は歴史上の悲惨な事件であり,公衆衛生行政にとっては,多くの関係者が解決に向けて懸命の努力をしたにもかかわらず,今日振り返ってみると反省すべき点が多く,「本当に繰り返さない」ために,われわれが学ぶべき教訓が多くあると思います.

 他方,水俣病はあまりに大きな事件であるため,公衆衛生行政担当者や専門家にとって,日常の実務上,どこが参考になるのかわかりにくいとも思われますが,筆者のように行政官として水俣病事件に接した経験をもつ一方,公衆衛生現場の経験の浅い者にとっては,日々生かされる点があると感じています.

 そこで,いくつかのテーマについて,水俣病の経験と筆者が見聞きした最近の実例とを対比しながら,公衆衛生実務者であるわれわれにとっての反省と教訓を考えてみました.

介護保険下の公衆衛生活動を考える・16

病んだ家族,散乱した室内

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.551 - P.553

男性(86歳):痴呆・精神疾患の疑い,一人暮らし,木造2階建て一軒家

不思議な人々の世界

 今回のタイトルは,2001年に医学書院から出版された,春日武彦先生著書の題名を引用させてもらっている.というのは,今回の主人公は,春日先生が東京都立精神保健福祉センターで往診事業,いわゆる通称「老人班」を担当されていたときにお世話になった中で,最も印象に残った事例だからである.

インタビュー・住民VOICE・4

子育てサークルでエンパワメント

著者: 河村広美 ,   塩飽邦憲

ページ範囲:P.554 - P.555

塩飽 出雲市内には現在,子育てサークルが36あり,約1,000人の未就園児が参加しています.河村さんはどんなきっかけで子育てサークルに参加されたのですか.

河村 私は今34歳で,義母,夫,子ども(8,6,4歳)と暮らしています.子どもをしっかり育てようと考えて,第一子の妊娠6カ月で,6年間働いていた銀行を退職しました.そして1997年1月に知人に誘われ,できたばかりの神門地区子育てサークル「スマイルキッズ」に参加しました.

米国の知的障害者サービスと脱施設化に学ぶ わが国の痴呆性高齢者対策への警鐘・10【最終回】

わが国の痴呆性高齢者問題への解決点の模索(下)

著者: 武田則昭 ,   八巻純 ,   ,   ,   末光茂 ,   江草安彦

ページ範囲:P.556 - P.560

(前号より続く)

2. 脱施設化

 米国での脱施設化は20世紀半ばに始まり,州ごとに独自に取り組まれ,進捗状況も異なるが,ピーク時に20万人にいた入所者は30年後(1998年)には5万人になり,現在も進行中である.

 ニューハンプシャー州は州最大のラコニア州立収容施設の閉鎖と進歩的な法案が成立し,長い民事裁判で,1991年に17年かけて完全な脱施設化を実現している.

 ラコニア施設では,職員に対し「価値」訓練やノーマライゼーションに関連した教育を繰り返している.家族援助,雇用援助,早期介入,公教育のような家族援助プログラムが存在し,知的障害者がラコニア施設内での居住を求める必要性はもうなくなっている1~5).また,ラコニア施設にいた知的障害者のひどい自虐行為,奇怪な動作などは,以前の施設での居住により負わされた依存性や傷跡の結果であることを,多くの人が理解するようになっている.「施設は彼らの障害のために作られたものではなく,むしろ,われわれが障害者のもつ真の能力を認め,社会に包含することができないために作られた」との考えに基づき,現在行われている後戻りの予防を公開下に監察することにつながっている2,3)

世界の公衆衛生に貢献した日本人先駆者たち-次世代へのメッセージ・4

疾病根絶対策と私(下)

著者: 蟻田功

ページ範囲:P.561 - P.564

根絶の次のターゲット,麻疹

 南北アメリカ大陸では,Pan American Health Organization(以下,PAHO)が活発な保健活動を行っています.例えば,最後のポリオ患者が出たのは,この大陸では1991年でした.そして1994年には,確かに患者はゼロだと確認できました.それでPAHOは,次の根絶計画として麻疹を考え,その1つの例としてキューバの麻疹対策に注目しました.

 キューバではカストロ氏がしっかり舵取りをしており,保健サービス,保健制度がうまく機能しています.キューバは小さな国ですが,麻疹を「catch up」, 「keep up」, 「follow up」と行って,1994年にはほとんど患者がゼロになりました.「catch up」とは,麻疹ワクチンを15歳まで一斉に行うことです.それによって,ワクチンの未接種者の積み残しをなくします.「follow up」とは,その後,5歳までの子どもに5年ごとに一斉接種を行うことです.その間は「keep up」として,ルーティンのワクチン接種プログラムを行います.このやり方によって,キューバではほとんど麻疹患者がゼロという状況になったわけです.

厚生行政ホントの話・7

WHOのSARS対策に学ぶ

著者: 迫井正深

ページ範囲:P.565 - P.565

 過日の本欄で,今年5月のWHO総会の話題として,たばこ対策枠組み条約草案の議決とリー次期事務局長の任命をご紹介した.しかし,その原稿を書いていたちょうどその頃,中国では,その後世界を席巻することになるSARSが勃発していたのである.そして,実際にWHO総会に出席してみると,SARS対策の審議が大きな注目を集めていた.

 総会では,日本をはじめとする各国の政府代表,ブルントラント現事務局長,リー次期事務局長がそれぞれの演説でSARSを含む新興再興感染症対策の重要性に言及.また,SARSに関するテクニカル・ブリーフィングも開催され,事務局とともにSARS影響国の保健大臣も参加,最新の知見に加え,影響国としての経験や意見も披露,活発な討議が展開された.そこで各国は一様に,これまでのWHOの取り組みを高く評価したのである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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