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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生67巻8号

2003年08月発行

雑誌目次

特集 公衆衛生とプライマリ・ケア

公衆衛生とプライマリ・ケア

著者: 多田羅浩三

ページ範囲:P.574 - P.578

 公衆衛生とプライマリ・ケアは,ともに地域にあって住民の健康の保持,増進,疾病の予防,克服を目指すという貴重な役割を担っている.しかしその制度は,各国においてそれぞれ固有の特徴を有しているのが現状である.その中でイギリスのプライマリ・ケア体制は,長い歴史の中で世界のモデルともなっており,典型的な発展の系譜を有しているといえる.

 そこで本稿では,イギリスにおけるプライマリ・ケア体制のあゆみについて考察し,わが国の公衆衛生,第一線医療の特徴を明確にして,その上に立って日本の第一線医療を担う医師に対し,公衆衛生から何を期待するか論述したいと思う.

公衆衛生の担い手としてのプライマリ・ケア医

著者: 鈴木荘一

ページ範囲:P.579 - P.582

 人間の痛みや苦しみを治したり和らげる技術,つまり医療は,古今東西を問わず地球上の人間の歴史とともにあった.当初は,一般人の中から,祈祷や呪いのような“癒し人”が選ばれていたが,19世紀より科学的な医学が誕生し,“医師”という科学的な専門職が社会的に認知されてきた.だが,その医師もジェンナーの種痘成功に学び,医療の中に,予防接種や公衆衛生の活動が,個人のみならず社会の健康を守るために必要であることを認識し,各国とも保健公衆衛生活動に力を入れ,その結果,保健専門職が生まれてきた.しかしながら,住民が健康問題を懐くと,最初に接するのは,近接性と継続性に富む,地域・家庭医機能のプライマリ・ケア医である.

 プライマリ・ケアの思想は,1920年代初頭の英国ドーソン報告に源があると言われるが,WHO(世界保健機関)が世界に大きく「2000年までに世界中すべての人に健康を!」をスローガンに開催された旧ソ連アルマ・アタ宣言は,記憶に残る公衆衛生活動の発展であった1)

公衆衛生とプライマリ・ケアの協働

著者: 藤内修二

ページ範囲:P.583 - P.587

 公衆衛生とプライマリ・ケアの協働の必要性やその可能性については,別稿ですでに述べられており,本稿では具体的な協働事例を紹介しながら,公衆衛生とプライマリ・ケアの協働におけるポイントについて論じてみたい.

 

協働事例1:糖尿病患者情報システム

 「健康日本21」の一領域に挙げられるほど,糖尿病対策はわが国の保健医療行政の重要な課題となってきている1).特に,糖尿病の合併症は医療費の高騰につながるだけでなく,患者のQuality of Lifeを著しく損なうものであり,糖尿病のコントロールはプライマリ・ケア従事者にとって重要な使命である.しかし,糖尿病患者のうち,実際に定期的に通院をし,食事制限を守っている者は一部に過ぎない.教育入院や外来での指導があったにもかかわらず,コントロールがうまくできない患者は少なくない.こうした患者に対して訪問看護を行い,家庭での食事指導まで行っている医療機関もあるが,対象者も限られているのが現実である.

プライマリ・ケア医と公衆衛生医の連携のあり方

著者: 石橋幸滋

ページ範囲:P.588 - P.591

 世間は重症急性呼吸器症候群(SARS)で大騒ぎをしているが(2003年5月13日現在),その影響は人命だけでなく,海外旅行や経済貿易活動など様々な分野に及んでいる.医療の分野では,SARS治療に世界中の医学者が全力で取り組んでいるし,行政や地域医療機関は,いかに発症や蔓延を予防すべきか,もし患者が発生した場合にどう対処すべきかなど対策に大わらわであり,今,まさにプライマリ・ケア医と公衆衛生医の連携が不可欠な状況にある.

 時代を紐とけば,結核感染が蔓延していた頃,公衆衛生医は生き生きと地域の開業医と連携しながら,結核撲滅に奔走していた1).このように感染症予防は,最もプライマリ・ケア医と公衆衛生医が連携すべき活動分野のひとつである.しかし,結核その他の感染症が抗生物質の登場で死亡原因の上位から徐々に姿を消し,生活習慣病が医療の中心となってきたのと時を同じくして,公衆衛生医は予防,プライマリ・ケア医は治療,という役割分担が明確になり,お互いの活動がわからなくなってしまった.これに,開業医が持つ衛生行政への不信感や無理解などが相まって,公衆衛生医とプライマリ・ケア医との連携が十分に行われていない現状となっている.

医学教育におけるプライマリ・ケア/公衆衛生教育

著者: 藤崎和彦

ページ範囲:P.592 - P.596

急激に変化する医学教育

 ここ十年くらいで卒前,卒後の医学教育が急激に変化してきている.来年の平成16年からは卒後初期研修が必修化され,従来のストレート入局を中心としたスタイルから,ローテート研修を中心としたスタイルに大きく変わることになる.また,現在試行中の共用試験が平成17年から正式導入されることになり,すべての医学生は臨床実習に出る前に,医学知識についてはCBT(Computer Based Test)で,技能,態度面の実技についてはOSCE(Objective Structured Clinical Examination)で,それぞれ評価を受けて合格することが求められるようになる.

 また多くの大学で,従来型の大講義室での講義に変わって,少人数グループによる問題解決型チュートリアルの導入が行われるようになり,また臨床実習においても,従来の見学型/模擬体験型のものから,徐々に診療参加型のクリニカルクラークシップと呼ばれるものへと変化してきている.

プライマリ・ヘルスケアの視点で考える地域保健活動における保健師の役割

著者: 森口育子

ページ範囲:P.597 - P.601

WHO/UNICEFが提唱したプライマリ・ヘルスケアとわが国の地域保健の動向

 WHO/UNICEFが,「2000年までにすべての人に健康を(Health For All by the year 2000)」(以下,HFAと略)との目標を掲げて,1978年にアルマ・アタ宣言でプライマリ・ヘルスケア(以後PHCと略)を提唱してから四半世紀が経過した.この間国際的には,多くの国がPHCを保健政策の中核とし,保健制度・システムの整備,社会基盤の整備,人材育成などによりPHCを推進してきた.WHO/UNICEFの提唱するPHCの本質は「住民の受けられる方法によって,住民の充分の参加によって,地域や国が予算化できる範囲内で,すべての人が恩恵を受けることができる保健サービスを提供すること」1)である.

 わが国においても,アルマ・アタ宣言の出された1978年に,わが国のPHC施策とも言える第1次国民健康づくり対策が開始された.そして1986年のヘルスプロモーションに関するオタワ憲章後の1988年に,第2次健康づくり対策(アクティブ80ヘルスプラン),また1998年WHOの「21世紀におけるHFA政策(HFA21)」と時を同じくして,21世紀の国民健康づくり対策が検討され,2000年には「健康日本21」計画が具体的な目標値を含み策定された.またこの間,地域保健をめぐる政策として,老人保健法の成立,介護保険法の成立,地域保健の基盤となる保健所法から地域保健法への改正,地方分権法の成立等,目まぐるしい変化があった.このような地域保健の転換期にある現在,行政の保健師は,行政の組織再編成や各種の調査,計画策定,新たな活動への取り組み等,多くの問題に直面しながら,保健師本来の役割について考えているのではないか.

海外におけるプライマリ・ケアと公衆衛生の実情

著者: 國井修

ページ範囲:P.602 - P.606

 「プライマリ・ケア」というと,一般医や家庭医による個人に対する予防および治療活動を示すプライマリ・メディカル・ケア(Primary Medical Care,以下PMC)と「2000年までにすべての人々に健康を(Health For All by the year 2000,以下HFA)」の戦略として1978年のアルマ・アタ宣言で導入されたプライマリ・ヘルス・ケア(Primary Health Care,以下PHC)を混同するので,本稿では前者を含む広い概念である後者に焦点を絞って述べる.

 また,「海外」といっても先進国と途上国でPHCの実情は大きく異なるため,本稿では,世界人口の約8割を占める発展途上国を中心に,私の現場での経験も踏まえながら稿を進めていきたい.

視点

少子化対策-新「子育て」教育の提案

著者: 西尾久英

ページ範囲:P.568 - P.569

 近未来の日本においては,急激な少子化のために労働を担う人口が著しく減少し,かつ高齢化が進むことより,経済発展が強く制約された社会状況が出現するものと予想されている.政府も少子化問題を解決するための施策を次々と打ち出しているが,少子化の進行を止めることができない.人口問題の難しさは,妊娠・出産行動が当事者の自由な選択に委ねられるべきものでありながら,社会の価値観や慣行に強く影響される点にある.社会がすでに少子化の方向へ流れている時には,それが圧力となって,当事者の選択も「子どもを持たない」方向へ片寄らざるを得ない.そのため,ますます少子化が進行することになる.

 本稿では少子化の原因について特に社会の価値観という視点から考察し,少子化対策の一環として「子育て」に関連した新しい教育を提案する.

特別寄稿

少子化と家族政策

著者: 阿藤誠

ページ範囲:P.607 - P.610

 先進国全体で少子化が進行し,その結果として急速に高齢化が進むとともに,一部では人口の自然減(年間出生数<年間死亡数)すら始まっている.日本もその例外ではない.

 国立社会保障・人口問題研究所の最新の将来人口推計によれば,日本の人口は2006年から減少を開始し,2050年には1億人に逆戻りし,65歳以上の高齢者は2050年に国民の3人に1人を超えるものと予想されている1).このような「超高齢・人口減少社会」のもたらす衝撃を緩和するため,日本政府は「少子化対策」を続けてきたが,今日までのところ,その効果ははっきりしない.

滋賀県草津市における教師・警察官・医師による自主研究会参加報告記

著者: 神田秀幸

ページ範囲:P.611 - P.614

 近年,少年犯罪の凶悪化や学級崩壊,不登校など,子どもをめぐる問題が複雑化し,学校や警察,病院といった従来の個別の枠では対応しきれない状況となりつつある.そこで,滋賀県草津市では,異なる職業のプロが対等な立場で,複数回にわたって意見を交わし,子どもをより多面的に理解することを目的に,平成14年度教師・警察官・医師の三者による研究会「異なる職種のもの同士が自由に語り合う自主研究会」を開催した.

 本研究会は,平成14年度から学校週5日制が導入され,教師に対して子どもの生きる力を養成する指導力がより求められるようになったことから,草津市立教育研究所が事務局となり運営にあたった.子どもの生きる力を養成する他の社会資源として,防犯や診療といった側面から,教師のみならず警察官・医師の異なる「子どもを見つめる」立場との交流の場が設けられた.教師・警察官・医師の三者による合同研究会は全国でも極めて珍しい取り組みであり,本自主研究会に医師の立場で参加した者として本稿にて報告する.

連載 医学ジャーナルで世界を読む・8

日本発の前向きコホート研究

著者: 坪野吉孝

ページ範囲:P.570 - P.571

「いまの仕事をこのまま続けて,将来後悔しないだろうか」.

 中年になると一度は悩む問題について,ハーバード・ビジネススクール前教授による優れたガイドブックが翻訳された(『ハーバード流キャリア・チェンジ術』,翔泳社).精神科医を辞めて仏教の僧侶になった,フランス人男性のエピソードから話は始まる.仕事をめぐる問題を,狭い意味での「転職」ノウハウに限定せず,「職業人の役割を果たす自分をどう見るか」という,より広いアイデンティティ論の視点で論じている点が興味深い.「本当の自分を見つけようとするのはやめる.“将来の自己像”を数多く考え出し,そのなかで試して学びたいいくつかに焦点をあわせる」「“小さな勝利”を積み重ねる.…一気にすべてが変わるような大きな決断をしたくなるが,その誘惑に耐える.曲がりくねった道を受け入れることだ」など,最後にまとめられている「新しいキャリアを見つけるための型破りな9つの戦略」も新鮮だ.

 

性格とがん

 さて今月の論文だが,米国立がん研究所ジャーナルに報告された,日本発の前向きコホート研究を2つ紹介する.第1は,性格とがん罹患についてのわれわれの研究だ(表の4).1990年,宮城県の14町村に住む40~64歳の男女30,277人に調査を行った.1960年代に性格とがんの関連性を提唱した,英国の心理学者アイゼンクの調査票を用いて,「神経症的傾向」「外向性―内向性」「逸脱傾向」「律儀さ」という4種類の性格傾向を点数化した.この調査の時点で,すでにがんにかかった既往のある人が671人いた.調査の時点でがんの既往のない健康な人たちを,その後7年間追跡したところ,986人が新たにがんに罹患した.

水俣病から学ぶ・8

地域社会の崩壊から再生へ―水俣はこうして「誇り」を取り戻した

著者: 吉本哲郎

ページ範囲:P.615 - P.618

タブーだった水俣病のこと

 私は1971年に水俣市役所に勤めることになったが,当時水俣病のことを話すのはタブーだった.地域住民の間では,水俣病患者に対する悪口が飛び交うなど,人々の悪感情がむき出しになり,とても人間の住む所ではないと感じる場面に出くわすことがたびたびあった.人の気持ちが荒んでいたのである.私の母親も「本当の患者は可愛そうだけど……」と悪口を言い出すので,「そんなことは言うな」と言ってきたけど,止められなかった.私自身は個人的に水俣病患者に会い,話を聞いたりしていたが,「市役所を辞めさせろ」という声が聞こえてきて,水俣病について口をつぐむようになっていった.

 それから20年が経ち,今は亡き郷田實さん(前宮崎県綾町長)が私の家に来てくれたので,郷田さんに会いたがっていた水俣病患者で網元の杉本栄子さんと,夫の雄さんを自宅に招いた.はじめて患者に会った母親は,それからは一言も悪口を言わなくなった.わかったことは「距離を近づけ,話し合い,対立のエネルギーを創造のエネルギーに転換すること,そのためにはお互いの違いを認め合うこと」の大切さだった.1991年のことである.

全国いきいき事例ファイル・1【新連載】

すこやか幡豆21の「健康通知表」

著者: 端谷毅

ページ範囲:P.619 - P.622

 「すこやか幡豆」は,国における「健康日本21」と「健やか親子21」の地方計画として,幡豆町に住む町民全体が,「一時予防に重点をおいた健康づくり」と「親と子が健やかに暮らせるまちづくり」を目的とした,幡豆町の健康行動目標政策である.幡豆町の計画作りの事業として,①40歳以上の人々に対する健康アンケート調査,②子どもと家庭を中心とした個人の健康目標設定(健康通知表)を計画した.本稿で紹介させていただく「健康通知表」は,この計画の中心であり,家族全員が家庭の中で子どもたちと一緒に「自分」「家族」「地域」「地球」の健康を今一度見直し,家族すべての健康と連携を強めていただくきっかけとなることを願って企画した.

 

すこやか幡豆の特徴 

 以下の基本的考えを踏まえ,「健康通知表」を企画し,子どもを中心とした健康づくりプランを作成した.その特徴は,①子どもたち主役の健康づくりの視点,②町民主役の健康づくりの視点,③主観的健康感の向上,具体的な健康目標の設定,④家族と共に健康を考える力の向上,⑤個人だけではなく地域に住む町民としての健康感の確立,⑥環境も考慮した地球号の一員としての健康感の確立,⑦自らの選択した健康目標を実現するための環境整備,の7点である.

介護保険下の公衆衛生活動を考える・17

閉じこもり

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.623 - P.625

男性(80歳):痴呆,結核性股関節炎,要介護3,マンション1人暮らし

 

1週間以上つながらない電話

 保健福祉センター(以下,センター)の時計が17時を回り,皆がそろそろ帰る準備をし始めたころ,その電話はかかってきた.「申し訳ないのですが,安否確認に行っていただけないでしょうか……」.

 そもそも午前中「何度も電話をしているのだが,1週間以上応答がなく,死亡しているのではないか心配」と,遠方に住む親族から本人の相談があった。午後13時30分ごろに保健師が本人の様子を見に訪問したところ,ベルを鳴らしても本人の声は聞こえず,テレビと電気はついていたが反応がなかった.これを親族に連絡したところ,親族は本人が15年間医師として勤めていたクリニックへ連絡した.クリニックの看護師が「先生はプライドが高い方なので,他の人では応答しないのかもしれない」と言い,「自分が安否確認へ行く」とのことだったので,センターは安心していたのである.

インタビュー・住民VOICE・5

まちを健康にしよう!-大津市健康づくり応援団

著者: 平野文子 ,   西本美和

ページ範囲:P.626 - P.627

西本 大津市では,平成14年4月から健康づくりのために,商店街各店舗が主体的に健康づくり活動に参加する「大津市健康づくり応援団」事業を行っています.喫茶「プロスパ」の経営者である平野文子さんは,大津市の「健康づくり応援団」に登録され,健康づくりに取り組んでいらっしゃいます.どんな取り組みをなさっておられますか.

平野 私の店では,何よりも手作りにこだわっています.もう一つの工夫は,健康づくりに野菜をとることが大切だと考えていて,お昼の日替わりランチに野菜料理を一品入れ,毎月1・15日に日替わりランチを注文された方に,野菜ジュースを無料で提供しています.また,車椅子の方も利用していただけるように,入口に段差解消のスロープを設置しました.

世界の公衆衛生に貢献した日本人先駆者たち―次世代へのメッセージ・5

世界の保健人材育成と私(上)―アジアの人々のために働きたい

著者: 川原啓美

ページ範囲:P.628 - P.631

 本日のテーマは「世界の保健人材開発と私」と“私”という言葉がついていますので,私自身のことをお話すればよいかと思っております.

 私は1980年に(財)アジア保健研修所を立ち上げました.なぜこういうことを始めるようになったのか,それからアジア保健研修所ではどのような活動を行っているのか,今日はお話ししたいと思います.

厚生行政ホントの話・8

「公衆の」衛生考

著者: 椎葉茂樹

ページ範囲:P.645 - P.645

 中国を中心に猛威をふるった重症急性呼吸器症候群(SARS)は,公衆衛生全般のみならず,政治・経済面まで大きな影響を及ぼしている.厚生労働省内でもSARS対策を直接担当する健康局などでは,ほとんど休日を返上して,わが国への新たな脅威となった疾患への対応に明け暮れた.少なからず混乱もあったが,わが国では,検疫所,地方自治体,医療機関などの関係者や海外旅行者,出張者やその家族の方々の努力のおかげで,幸いなことに患者発生の報告は届いていない(6月17日現在).これはわが国の「公衆の」衛生のレベルの高さを物語っているのだと,私は思っている.

 一方,アジアの超大国である中国の「公衆の」衛生システムは,奈落の底に落下した感がある.中国はおそらく世界で最初にこの新型の肺炎「非典(非典型肺炎)」の患者に遭遇した.本来であれば,人類の新たな脅威となる感染症の発生を,WHOに対して速やかに報告するとともに,全世界に向けて注意を促すべきであった.しかしながら,中国政府は,患者発生のWHOへの報告を約3か月もの間隠し,WHOからの専門家調査団を受け入れず,また,WHOの報告に際して患者の発生数を実際の数より低くごまかすという,信じ難い対応をした.WHOから中国広東省への渡航自粛勧告が出され,中国人の入国拒否や中国へ進出した外国企業の閉鎖,中国への外国人観光客の激減など,問題が拡大するに至って,中国政府は,衛生相ら幹部を更迭し,これまでの対応を修正した.この一連の報道により,国内外での中国の公衆衛生に対する信頼のみならず,行政機構に対する信頼も失うことになったと私は思う.

報告

老人保健法に基づく第3回機能訓練事業全国実態調査報告-介護保険制度中間年改正前調査(平成14年7月)―2. 介護保険制度と機能訓練事業重複者への対応

著者: 澤俊二 ,   大田仁史 ,   岩井浩一 ,   安岡利一 ,   大仲功一 ,   伊佐地隆

ページ範囲:P.634 - P.636

 平成12年7月の第2回調査から2年を経て,機能訓練事業に対する介護保険の影響はどのような進展をたどったのだろうか.前号に引き続き第2回目の本稿では,平成14年7月に行った第3回機能訓練事業全国実態調査の中の特に介護保険制度と機能訓練事業重複者への対応について報告する.

 

結果

1. 利用者と介護保険の影響

 厚生省(現厚生労働省)は「要介護者等は機能訓練の対象とならないことを原則とする」3)としたことにより,中止の施設が増えたことを前号で報告した.そこで,利用者の実態を調べたところ,表1のように,介護保険を使用できる資格を持ちながら,介護保険を使用すると機能訓練事業を利用できなくなるために,介護保険の申請をせずに機能訓練事業を利用している者がいる施設は,A型で80.3%,B型で60.5%いた.また施設によっては,介護保険利用者でも機能訓練事業への参加を認めているところがあり,そのような施設は,A型で87.5%,B型で55.9%であった(表2).

資料

札幌市におけるバリアフリーの現状と課題に関する考察

著者: 新井明日奈 ,   勝亦百合子 ,   紺野圭太 ,   玉城英彦

ページ範囲:P.637 - P.641

 近年わが国では,「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」という言葉とともに「福祉のまちづくり」が社会福祉施策の中で積極的に推進されている.その背景には,1970年代からの高齢化の進展や,1981年の国際障害者年をきっかけとした障害者の社会参加促進によって,福祉に対する社会的な需要や関心が高まり,地域福祉およびまちづくりへの課題が明確化してきたことがある.

 法律面でも,「ハートビル法(高齢者,身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律)」(1994年制定)によって,「バリアフリー」の概念が初めて法律内に位置付けられた.各自治体においても「福祉のまちづくり条例」によって,基盤整備が徐々になされてきている.また2000年には公共交通機関を利用した移動の利便性を促進する「交通バリアフリー法(高齢者,身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律)」が施行された.

海外事情

老人看護2002メッセ(ハノーファー)見学記

著者: 華表宏有

ページ範囲:P.642 - P.644

 わが国と同様に,高齢社会の様々な課題に直面しているドイツ連邦共和国(以下ドイツ)では,ヴィンセンツ出版社(Vincentz Verlag,本社ハノーファー)が毎年「老人看護」(Altenpflege)のメッセを開催し,多くの参加者を集めている.筆者は前回,1999年3月にニュールンベルクで開催されたこのメッセに参加して,見聞を広めながら,ドイツの看護教育の動向についての最新情報に接する場としても貴重な存在であることを経験した(本誌64巻4号で報告).

 2002年5月中旬,ハノーファーで開催された「老人看護2002」に3年ぶりに参加したので,本稿にてその様子を簡単に報告する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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