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特集 自殺予防
自殺と文化
著者: 布施豊正1
所属機関: 1ヨーク大学
ページ範囲:P.654 - P.658
文献購入ページに移動自殺と文化の相関関係を示す例として,まず「自殺」の語源を調べると,比較文化論の面白い実例に対面する.英語・フランス語で自殺をsuicideと言うが,この単語はラテン語のsui(己れ,自分)とcide(切る,殺す)の複合語からできている.イタリア語とスペイン語では発音こそ少々違っても共にsuicidio,ドイツ語ではselbstmorde,その他すべてのヨーロッパ語でも一律に「自己殺害」という,宗教的,道徳的,倫理的評価の意味を持つ.インド=ヨーロッパ系の言語に属さぬセム語系の言語(アラブ語,ヘブライ語)でも同様に「自己殺害」という意味を持っている.
ところが日本語の場合,自殺の語彙が非常に豊富であり,原則的に宗教的,道徳的な評価を避けた中立的,描写的表現が多い.すなわち,自死の動機,方法,性別,数,あるいは人間関係といった面を表現・記述していることが多い.昨年オランダのライデン大学日本学部で博士論文を書いているオランダ人大学院生からの要請で,自死に関する日本語の表現をまとめたことがあったが,最低36の単語を探し出した記憶がある.
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