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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生68巻10号

2004年10月発行

雑誌目次

特集 人と動物の共通感染症・1 鳥インフルエンザ

鳥インフルエンザとは何か

著者: 喜田宏

ページ範囲:P.760 - P.763

インフルエンザは人獣共通感染症

 鳥インフルエンザとは,家禽のインフルエンザAウイルス感染症である.家禽,家畜,野生鳥獣とヒトのインフルエンザAウイルスの遺伝子は,そのすべてがカモの腸内ウイルスに由来する.すなわち,インフルエンザは典型的な人獣共通感染症であり,水禽,特にカモがインフルエンザウイルスのレゼルボア(reservoir)である.したがって,当面,インフルエンザを根絶することはできない.家禽の感染を早期に摘発,淘汰することにより,被害を最小限にくい止めるとともに,ヒトの健康と食の安全を守ることが,鳥インフルエンザ対策の基本である.グローバルサーベイランスを軸とする先回り戦略によってのみ,鳥とヒトのインフルエンザを克服することができる.

 インフルエンザAウイルスは,ヒトを含む哺乳動物と鳥類に広く分布する.なかでも水禽,特にカモからはすべてのヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)亜型(それぞれH1~H15とN1~N9)のウイルスが分離されている.カモは夏にシベリア,カナダやアラスカの北極圏に近い営巣湖沼でインフルエンザウイルスに水系経口感染し,結腸陰窩の上皮細胞で増殖したウイルスを糞便とともに排泄する1).8月中旬に,カモは渡りに飛び立ちはじめ,温帯・亜熱帯地域で越冬する.カモに害を及ぼすことなく受け継がれているウイルスは,カモの渡りの飛翔路に沿って,あるいは越冬地で家禽や家畜に感染,伝播して,病原性を獲得することがある.特に,ウイルスがニワトリ集団に侵入し,数カ月にわたってニワトリからニワトリに感染を繰り返すと,ニワトリに対する病原性を獲得することが経験されている.このような高病原性鳥インフルエンザウイルスのHA亜型は,H5またはH7に限られる.

高病原性鳥インフルエンザに対する農林水産省の取り組み

著者: 早山陽子

ページ範囲:P.764 - P.766

 わが国で79年ぶりに発生した高病原性鳥インフルエンザは,養鶏関係者,家畜衛生関係者のみならず,公衆衛生分野にも大きな影響を与えた.農林水産省では,発生当初から,厚生労働省,関係府県と連絡をとりつつ,法律と防疫マニュアルに基づいた防疫措置を進めてきた.大規模発生となった3例目以降,関係省庁対策会議も設置され,政府が緊急総合対策を取りまとめるなど,かつてない連携体制が構築された.

 本稿では,農林水産省の今までの取り組みについて振り返ってみたい.

鳥インフルエンザの流行とヒトインフルエンザパンデミック

著者: 西藤岳彦 ,   田代眞人

ページ範囲:P.767 - P.773

 2003年のSARS騒動が一段落したのも束の間,2004年は国内では1925年以来という高病原性鳥インフルエンザが3カ所(山口県,大分県,京都府)で発生したのみならず,世界各地でも高病原性鳥インフルエンザの流行が報告された(図1).さらにタイ,ベトナムでは,ヒトでのH5型高病原性鳥インフルエンザ感染が確認され,6月末現在で34名(タイ12名,ベトナム22名)の感染者のうち23名(タイ8名,ベトナム15名)の死亡が確認されている.

 ヒトでのH5感染の発生は,タイ,ベトナム当局の懸命の努力によって一応の終息を見たようだが,家禽でのH5型高病原性鳥インフルエンザ感染は,依然東南アジア地域でくすぶり続けているため,いつまたヒトへの感染が起きるかもしれないという状況である.表1に示すように,東南アジアでの鳥インフルエンザの流行は実に同時多発的であり,影響を受けた国もしくは地域は,11に及んでいる.

わが国における鳥インフルエンザ発生時の対策の検証:保健所編

著者: 弓削マリ子

ページ範囲:P.774 - P.779

 2004年2月,京都府T町の養鶏場において高病原性鳥インフルエンザが発生した.本稿では,事案が発覚した2月26日からすべての防疫作業が完了した3月22日まで,関係機関が連携して実施した25日間の健康危機管理活動の概要を紹介する(表1).

 2004年2月26日19時30分に,京都府南丹家畜保健衛生所に匿名の電話があった.同所職員が現場に急行,立ち入り検査や簡易キットによる検査により陽性を確認した.これを受け京都府では,翌2月27日午前6時に山田知事を本部長とする京都府対策本部を本庁に,京都府園部地方振興局長を本部長とする現地対策本部を同局にそれぞれ設置した.

わが国における鳥インフルエンザ発生時の対策の検証:家畜保健衛生所編

著者: 地脇準一

ページ範囲:P.780 - P.783

昨年12月,韓国で高病原性鳥インフルエンザが発生し,京都府南丹家畜保健衛生所(以下,当所)は病気の特徴や予防対策をリーフレットにまとめ,管内養鶏農家へ配布し注意を呼びかけた.

 年が明けた2004年1月,日本でも79年ぶりに鳥インフルエンザが山口県で発生,2月には大分県でも発生した.発生のたび,リーフレットで養鶏農家へ情報を発信するとともに,農家巡回や電話で異常の有無を確かめ,異常鶏発見時は直ちに当所へ通報するよう注意を喚起した.

人獣共通感染症にかかわるヒトの公衆衛生体制

著者: 岩﨑惠美子

ページ範囲:P.784 - P.787

これまで,人類が悩まされてきた感染症は,人が動物を家畜として身近に飼うようになった結果,動物の感染症に人が感染したものであると言われてきた.すなわち,現在の感染症のほとんどが,人と動物の両方に感染する人獣共通感染症ということになる.

 さらに,近年の森林開発は,今まで人と接点を持たなかった動物と接触する機会をも増やし,それによって,人は今まで経験したことのない,新しい動物の感染症に罹患することになってしまった.しかし,私たちがこのような感染症の変化を認識したのは,実は1970年以降,新しい感染症が次々と出現するようになってからである.

人獣共通感染症にかかわる動物の公衆衛生体制

著者: 加地祥文

ページ範囲:P.788 - P.792

公衆衛生分野における人獣共通感染症とは

 人獣共通感染症が公衆衛生に深く関係する分野が2つある.1つは,畜産,水産食品などの動物性食品(食肉,乳,魚介類等)から,食品を媒介として,動物の感染症が人に感染することを防止する分野,つまり「食品衛生対策」である.もう1つが,動物から人に病原体が直接伝播することを防止する体制,つまり,「感染症対策」の分野である.前者には,食中毒の防止や,食肉検査があり,「食品衛生法」「と畜場法」および「食鳥検査法1)」によって体制がつくられている.後者の代表は,狂犬病の予防対策である(犬を飼う場合には市町村に登録し,毎年狂犬病の予防注射を受けなければならない.また,海外からわが国に犬を連れて入る場合には,その犬は検疫を受けなければならない).

 このように,公衆衛生分野における人獣共通感染症は,食品を介した間接的な感染症,すなわち「食品媒介性感染症」と,動物から直接的に感染を受ける「動物由来感染症」に分類することができる.伝統的に,食品媒介性感染症は,「食あたり」あるいは「食中毒」と呼ばれてきたものである[食中毒は人から人に病原体が伝播する伝染病(または感染症)には含めてこなかった.赤痢,コレラなども食品を介して感染するが,糞口感染もあるので,これらの感染症は伝染病として,食中毒としては扱われてこなかった].したがって,公衆衛生分野における人獣共通感染症対策と言えば,食品を介した感染の機会が最も多いので,一般にこれまでは食品衛生分野を指すことが多かった.

風評被害の実態と対策

著者: 廣井脩

ページ範囲:P.793 - P.797

 最近,「風評被害」という言葉をしばしば聞くようになった.しかしまだ明確な定義はなく,筆者はこの言葉を,おおまかに「些細な事実,あるいは局地的に発生した事実が新聞,テレビなどのマスコミによって誇張して取り上げられ,その結果,事故や事件と無関係の観光業者や農業関係者(時には商工業者も)を中心に経済的な被害が発生すること」と考えている.風評被害は,事故や事件が生み出す人的・物的被害でなく,事故や事件が公表され,世間に拡がっていく過程で発生する経済的被害であり,テレビ・ラジオ,携帯電話,インターネットなどがあまねく普及している高度情報社会固有の現象であるとともに,農作物や工業製品等の消費者,観光地へのレジャー客などの不安や心配にかかわる,社会心理的な問題でもある.また,風評被害は新しい社会問題だから,その発生や拡大のメカニズム,風評被害の防止法,あるいは風評被害が発生した場合の対処法など,今後解明あるいは解決していかなければならない課題も数多い.これらすべてをこの小論で触れるわけにはいかないので,以下,いくつかテーマを選び,管見を述べていきたい.

最近の風評被害

 まず,最近発生した風評被害の実態について概観しておく.そのような風評被害としては,①日本海ナホトカ号重油流出事故,②O157カイワレ大根問題,③埼玉ハム・ソーセージ問題,④テレビ朝日による所沢ダイオキシン報道事件,⑤茨城県東海村JCO臨界事故,⑥BSE(いわゆる狂牛病)事件,⑦重症急性呼吸器症候群(SARS)事件,そして今回の⑧高病原性鳥インフルエンザ事件などがある.

視点

公衆衛生のビジョン-地方自治体からの提言

著者: 阿部弘樹

ページ範囲:P.754 - P.755

 平成13年に39歳の筆者が町長に就任した津屋崎町は,福岡市と北九州市の中間に位置し,人口約1万4千人,高齢化率23.6%,農業・漁業を基盤産業とした町です.江戸時代は製塩業(塩田)や海運が盛んで,廻船宿場町として栄え,津屋崎千軒と呼ばれていました.町は,古墳時代から大陸との交易を行い,宗像神社の玄関口としての役割も兼ね備えていました.鎌倉時代には,源義経の妻,静御前が義経の子を産み,その生涯を終えた町でもあります.

市町村合併―重要だった住民投票

 古くからの歴史のあるこの町にも,市町村合併の波が三位一体改革とともに押し寄せ,地方自治体の重要財源である地方交付税の削減に後押しされ,本町を飲み込んでしまいました.来年1月には隣町の人口約4万2千人の福間町と合併し,新市「福津市」が誕生します.合併の協議は,各町の代表者で構成する合併協議会で行われますが,そこには町民の意思が直接反映されないため,本町においては,新市の青写真である新市建設計画案ができたところで,住民の意思を問う住民投票を行いました.その結果,合併賛成が多数を占めたため合併協議に賛成し,本年5月に合併の調印を行ったところです.

特別記事

[インタビュー]BMJ編集長Richard Smith氏に聞く

著者: ,   福井次矢 ,   佐瀬恵理子

ページ範囲:P.798 - P.805

福井 本日は,『British Medical Journal』(BMJ,英国医師会雑誌)の編集長兼BMJ出版グループ(BMJ publishing group)の最高経営責任者であるリチャード・スミス先生をお招きして,どのような経緯でBMJの編集長になられ,またどのような編集方針でBMJを発行されているのかをお聞きしたいと思います.まずはスミス先生のご経歴を伺いたいと思います.

BMJ編集長になるまで

スミス 私はロンドンで生まれ育ち,医学教育はスコットランドにあるエディンバラ医学校で受けました.エディンバラ医学校では,実験病理学(experimental pathology)の学位を取得し,1976年に卒業しました.ちなみに私は医学生時代には医学雑誌も編集していました.

海外事情

カナダにおけるヘルスプロモーションの現状から学ぶこと

著者: 中山貴美子

ページ範囲:P.806 - P.810

 筆者は,保健師として活動後,大学で地域看護学の教育と研究を行っている.今回,現在取り組んでいる研究の一環として,2004年1月12~25日にカナダでヘルスプロモーションに関する研修に参加した.研修のコーディネータは,カナダのヘルスプロモーション研究の第一人者であるプライマリヘルスケアコンサルタント(British Columbia大学臨床教授)であるNora Whyte氏と,Victoria大学準教授のLynne E. Young氏にお願いした.研修先は,両大学とBritish Columbia州(以下BC州)の保健所等であった.

 1978年のWHOによるプライマリヘルスケアでは,健康が基本的人権の1つであることが明示され,住民の主体的参加,地域資源の有効利用,適正技術の導入,保健活動における協調と統合の4原則が示された.その後,オタワ憲章(1986年)が発表され,ヘルスプロモーションの戦略は,健康的な公共政策づくり,健康を支援する環境づくり,地域活動の強化,個人技術の開発,へルスサービスの方向転換であり,健康の保持・増進のためには,個人の技術の開発とそれを支援する公共政策や環境づくりが重要であることが明示された.これらの中核に位置する理念が,住民参加による健康づくりである.

連載 Health for All―尾身茂WHOをゆく・7

ポリオ根絶に対する取り組み(5)

著者: 尾身茂

ページ範囲:P.756 - P.757

 さて,前号までは,ポリオ根絶に立ちはだかる難局にいかに対処したかを書いた.西太平洋地域は2000年10月,京都でポリオ根絶完了地域として宣言されることになるが,今回は,根絶宣言のためにはどのような条件が満たされなければならないか,つまり「“ゼロ”の証明」について語り,ポリオ関連の最後の話としよう.

 “ゼロ”を証明するためには,まず,サーベイランスの質の確保が大前提である.サーベイランスが信頼できなければ,いかに「“ゼロ”になりました」と主張しても始まらない.以前,68巻7号の本欄で書いたように,急性弛緩性麻痺(AFP)のサーベイランスシステムは「システムそのものの中にシステムの機能を評価する仕組み」があり,どんな地域や国であっても,15歳以下の10万人に対し,毎年最低1人の割合でAFP(ポリオであろうがなかろうが)が発生することがわかっていた.つまり,報告されたAFPがその基準より少ない場合は,サーベイランス自体が機能していないことを意味した.われわれがポリオ根絶事業を開始した1990年頃は(68巻6号参照),サーベイランスの質がきわめて不十分であったため,ポリオの日常的な流行にもかかわらず,この10万人に1人という基準を満たしていなかった.当時は,ごく一部の症例しか報告されなかったし,仮に報告されたとしても,発症から報告まで1年以上かかることも稀ではなかった.しかし,ただ単に医療機関従事者からの報告を待つだけではなく,保健関係者が医療機関に赴いて,カルテをチェックするいわゆるアクティブサーベイランスを行うなど,関係者の長く懸命な努力の結果,次第にサーベイランスの質が向上し,1995年頃になると,ポリオ患者が減少しているにもかかわらず,AFP報告は上述の基準を満たし(図),まずは,前提条件が確保されるようになった.

公衆衛生ドキュメント―「生きる」とは何か・7

生み残されたベトナム戦争孤児たち

著者: 桑原史成

ページ範囲:P.758 - P.758

 ベトナム戦争の終結は1975年だが,それまでの約10年間にアメリカ軍は南ベトナムの,ほぼ全域に布陣していた.南北のベトナムが統一する2年前の1973年に,約50万人のアメリカ軍は撤収してベトナムを去ったが,兵士たちが残した戦争孤児は,南ベトナムの各地で生み残された.その正確な数字は公表されていない.が,海外のジャーナリズムの推測では,数万人とされる.孤児を出産した母親はベトナム女性であることは言うまでもないが,その多くの女性たちが,戦乱の中,孤児たちを養育することは不可能だった.それに統一後の社会主義国の中で,敵兵の白や黒の肌色の子どもを連れて歩くことは,憚れたようである.

 一方,ベトナム戦争に派兵していた韓国軍兵士の戦争孤児の場合は,東洋人の黄色のため,孤児院などの施設に引き取られる数は少なかったようである.ベトナム戦争の終結の直前に,アメリカ政府は,戦争孤児たちを首都のサイゴンから航空機でアメリカに移送している.里子としてアメリカに渡った子どもの数は,全体の10%程度とされる.

Rapid Review & Topics

食品に起因する感染症の動向

著者: 谷原真一

ページ範囲:P.811 - P.814

 食中毒とは,一般に微生物や有毒物質に汚染された食品や飲料水を摂取して起こる健康被害を指す.食品衛生法施行規則に規定されている食中毒病因物質の多くは,感染性病原体である(表).また,感染症法で届出が義務づけられている疾患の中にも,食品を媒介物として伝播することがあるものが存在しており,1999年には食品衛生法施行規則が改正され,病因物質にコレラ菌,赤痢菌,チフス菌およびパラチフスA菌の4菌が追加された.

 本稿では,食中毒事件として届出された事例で,細菌によるものが占める割合の推移,および食中毒に関する調査研究の動向を紹介する.

New Public Healthのパラダイム―社会疫学への誘い・10

社会のありようと健康(3)―介入すべきは個人か社会か

著者: 近藤克則

ページ範囲:P.815 - P.820

 19世紀の中頃,ロンドンでコレラの流行を制圧したのは,住民に対する飲み水の煮沸や手洗いの指導など健康教育ではなかった.ジョン・スノウ(John Snow)が行ったのは,飲料水の供給源のポンプのハンドルを外してしまい,その水を使えなくすることであった1,2).つまり,個人への介入でなく,社会への介入である.

 20世紀半ば以降の先進国においては,公衆衛生上の問題が伝染病から生活習慣病へ移ったのにつれ,減塩食指導や禁煙指導に代表される個人の生活習慣や行動の変容をめざすアプローチが対策の中心となっている.しかし,意外なことに,このような健康教育を軸とする個人へのアプローチの効果は,RCT(無作為化臨床試験)ではほとんど否定されている.イギリスのワンレス(Wanless)レポート3)では,有効だという根拠もなしに健康教育のキャンペーンに巨額の予算が費やされていると批判している.それを報じるBBCが「無駄なキャンペーン(wasteful campaign)」という小見出しまで使っているほどである4)

「PRECEDE-PROCEEDモデル」の道しるべ・7

実行と評価

著者: 神馬征峰

ページ範囲:P.821 - P.825

教科書にはできないことがある

 アセスメントごとの解説も今回でいよいよ最後.次回からは日本各地での事例紹介がなされる.

 まず実行に関して,原書第2版では永続可能性と制度化が大きな課題であった.原書第3版では実行の質の保証に力点が置かれている.変わらない点としておもしろいのは,いわゆる教科書の限界の指摘である(邦訳書1)p235).

 教科書を読んだだけで,よく考え抜かれた計画を作ったり,適切な予算を組めるようになれるわけではない.強力な組織政策支援を得たり,職員の役に立つトレーニングや監督ができるようになるわけでもない.プロセス評価のモニタリングもしかりである.実践的な活動のためには,経験が必要である.住民のニーズをくみ取る敏感なセンス,状況の変化に直面したときの柔軟な対応力,長期目標から目を離さない忍耐力,ユーモアのセンス,なども重要である(邦訳書1),p235).そのためには教科書や事例集を読むだけでは不十分である.時間をかけて,現場で小さな成功を積み重ねながら学んでいくこと.実践力とはそうやって身に付いてくるものである.

衛生行政キーワード・2

総合科学技術会議

著者: 迫井正深

ページ範囲:P.826 - P.828

概 要

 1. 位置づけ

 平成13年1月の中央省庁再編は,総理のリーダーシップによる国政運営機能の強化が1つの柱とされた.このため,内閣総理大臣を長とする内閣府が設置され,国政上重要な政策についての企画立案・総合調整を総理が直接行う仕組みが導入された.そして,この総理および内閣の役割を支援するため,重要政策に関する会議が内閣府に設置された.総合科学技術会議はこの会議の1つである(図1).

 総合科学技術会議の他,経済財政諮問会議,中央防災会議,男女共同参画会議の4会議が設置されたが,特に経済財政諮問会議と総合科学技術会議は,国家の経済財政運営と科学技術政策が今後のわが国を左右する最重要事項と位置づけられ,省庁再編の目玉とされたのである(図2).

赤いコートの女・2

波さんとの出会い

著者: 宮下忠子

ページ範囲:P.829 - P.832

 実は,女性ホームレスに関するテレビ番組放映の2カ月前に,私はこの女性ホームレス,波さんと面識があった.

 2001年10月某日,東京都M区は特別対策事業として路上生活者の生活相談を実施した.場所は区役所近くの公園である.いくつものテントが張られた.すでに多くのホームレスと見受けられる人々が集まっていた.すでに第1回目は5月に実施されているが,今回は女性2名を含む110名が相談に訪れている.

世界を見て,日本を見る.Public Health Opinion・10

ネパールの女性と子どもの健康は改善するか

著者: 坂井スオミ

ページ範囲:P.834 - P.835

 2000年9月,147人の国家元首を含む189カ国の代表がニューヨークの国連本部に集まり,21世紀の国際社会の目標として国連ミレニウム宣言を採択した.この宣言と,1990年代に開催された主要な国際会議で採択された国際開発目標を統合し,ミレニアム開発目標(以下MDG)が開発共通枠組みとして成立した.1990年をベースラインに2015年までの目標が8つ決められた.そのうち母子の死亡率の目標は下記のとおりだ.

 ・2015年までに5歳未満児の死亡率を2/3減少させる.

 ・2015年まで妊産婦の死亡率を3/4減少させる.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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