特集 人と動物の共通感染症・1 鳥インフルエンザ
風評被害の実態と対策
著者:
廣井脩1
所属機関:
1東京大学大学院情報学
ページ範囲:P.793 - P.797
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最近,「風評被害」という言葉をしばしば聞くようになった.しかしまだ明確な定義はなく,筆者はこの言葉を,おおまかに「些細な事実,あるいは局地的に発生した事実が新聞,テレビなどのマスコミによって誇張して取り上げられ,その結果,事故や事件と無関係の観光業者や農業関係者(時には商工業者も)を中心に経済的な被害が発生すること」と考えている.風評被害は,事故や事件が生み出す人的・物的被害でなく,事故や事件が公表され,世間に拡がっていく過程で発生する経済的被害であり,テレビ・ラジオ,携帯電話,インターネットなどがあまねく普及している高度情報社会固有の現象であるとともに,農作物や工業製品等の消費者,観光地へのレジャー客などの不安や心配にかかわる,社会心理的な問題でもある.また,風評被害は新しい社会問題だから,その発生や拡大のメカニズム,風評被害の防止法,あるいは風評被害が発生した場合の対処法など,今後解明あるいは解決していかなければならない課題も数多い.これらすべてをこの小論で触れるわけにはいかないので,以下,いくつかテーマを選び,管見を述べていきたい.
最近の風評被害
まず,最近発生した風評被害の実態について概観しておく.そのような風評被害としては,①日本海ナホトカ号重油流出事故,②O157カイワレ大根問題,③埼玉ハム・ソーセージ問題,④テレビ朝日による所沢ダイオキシン報道事件,⑤茨城県東海村JCO臨界事故,⑥BSE(いわゆる狂牛病)事件,⑦重症急性呼吸器症候群(SARS)事件,そして今回の⑧高病原性鳥インフルエンザ事件などがある.