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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生68巻10号

2004年10月発行

文献概要

連載 Health for All―尾身茂WHOをゆく・7

ポリオ根絶に対する取り組み(5)

著者: 尾身茂1

所属機関: 1WHO西太平洋地域事務局

ページ範囲:P.756 - P.757

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 さて,前号までは,ポリオ根絶に立ちはだかる難局にいかに対処したかを書いた.西太平洋地域は2000年10月,京都でポリオ根絶完了地域として宣言されることになるが,今回は,根絶宣言のためにはどのような条件が満たされなければならないか,つまり「“ゼロ”の証明」について語り,ポリオ関連の最後の話としよう.

 “ゼロ”を証明するためには,まず,サーベイランスの質の確保が大前提である.サーベイランスが信頼できなければ,いかに「“ゼロ”になりました」と主張しても始まらない.以前,68巻7号の本欄で書いたように,急性弛緩性麻痺(AFP)のサーベイランスシステムは「システムそのものの中にシステムの機能を評価する仕組み」があり,どんな地域や国であっても,15歳以下の10万人に対し,毎年最低1人の割合でAFP(ポリオであろうがなかろうが)が発生することがわかっていた.つまり,報告されたAFPがその基準より少ない場合は,サーベイランス自体が機能していないことを意味した.われわれがポリオ根絶事業を開始した1990年頃は(68巻6号参照),サーベイランスの質がきわめて不十分であったため,ポリオの日常的な流行にもかかわらず,この10万人に1人という基準を満たしていなかった.当時は,ごく一部の症例しか報告されなかったし,仮に報告されたとしても,発症から報告まで1年以上かかることも稀ではなかった.しかし,ただ単に医療機関従事者からの報告を待つだけではなく,保健関係者が医療機関に赴いて,カルテをチェックするいわゆるアクティブサーベイランスを行うなど,関係者の長く懸命な努力の結果,次第にサーベイランスの質が向上し,1995年頃になると,ポリオ患者が減少しているにもかかわらず,AFP報告は上述の基準を満たし(図),まずは,前提条件が確保されるようになった.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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