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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生68巻12号

2004年12月発行

雑誌目次

特集 喫煙対策はどこまで進んだか

喫煙対策のさらなる前進を目指して

著者: 大島明

ページ範囲:P.932 - P.934

喫煙による疾病リスク

 喫煙が,肺がんをはじめとする多くのがんや虚血性心疾患,慢性閉塞性肺疾患など多くの疾患の原因となることは,すでに多くの科学的証拠がある.このことは,旧厚生省の編集による『喫煙と健康』(喫煙と健康問題に関する検討会報告書,いわゆるたばこ白書)第1版(1987年),第2版(1993年),そしてこれらに続いて2002年6月に出版された『新版喫煙と健康』(保健同人社,2002年)に詳述されている.今年になって,さらに3つの圧倒的な証拠が提出された.

 まず,「IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans」の第83巻では,膨大な資料をレビューして,喫煙およびたばこ煙を「グループ1(ヒトへの発がん性あり)」と認定し,ヒトのがんの原因となる十分な証拠がある部位として,肺,口腔,上咽頭,中咽頭,下咽頭,鼻腔および副鼻腔,喉頭,食道,胃,膵,肝,腎・腎盂,尿道,膀胱,子宮頸部,骨髄(骨髄性白血病)を挙げるとともに,受動喫煙についても「グループ1」と認定し,ヒトの肺がんの原因となる十分な証拠があるとした.

 次に,2004年の米国公衆衛生長官の報告書「喫煙の健康影響」(http://www.cdc.gov/tobacco/sgr/sgr 2004/index.htm)は,最新の文献レビューに基づき,がん,循環器疾患,呼吸器疾患,生殖への影響,その他の影響,喫煙による疾病のインパクトの章を設けて,喫煙による健康影響について詳述した.

日本公衆衛生学会における喫煙対策の取り組み

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.935 - P.939

 日本公衆衛生学会は,2003年10月の第62回総会(京都市)において,「たばこのない社会の実現に向けた行動宣言」(以下,行動宣言)を行った1).同年は,「健康増進法」が5月1日に施行され,世界保健機関(WHO)では「たばこ規制枠組み条約」が採択されるなど,世界的にも国内においても,喫煙対策の大きな前進が期待された年であった.喫煙対策は公衆衛生の重要課題であり,先導的な役割を担うべき専門学会の行動としては“遅きに失す”との声も聞かれたが,この年に行動宣言を行い,同学会会員および関係機関の主体的な取り組みを促した意義は大きいと考えている.

 筆者は,同学会の地域保健委員会の担当理事として,今回の行動宣言の検討にかかわることができたので,本稿にて宣言までの経緯や宣言後の具体的な取り組みなどの概要を報告する.

千代田区「歩きタバコ禁止」条例の効果を検証する

著者: 小川賢太郎

ページ範囲:P.940 - P.944

条例制定の背景―地域の「声」が生んだ新条例

 1. 住民の深刻な悩み

 千代田区は,夜間人口が約4万人ですが,昼間人口は買い物客などの出入りを含めると90万人とも100万人とも言われるほど,昼夜の人口の差が大きいまちです.

 これだけ多くの人々が区内に集中するということは,地域の生活環境も悪化しやすい状況にあると言えます.こうしたことから,「ポイ捨て」や「歩きタバコ」「置き看板」などの路上障害物といった,まちの環境を悪化させているものへの苦情や改善への強い要望が,かなり前から区役所に数多く寄せられていました.また,区民と区長との対話集会である「ふらっと区長室」の中でも,非常に多い要望事項でした.

新たに考えるたばこ対策情報―「国家百年の計」に参画しよう

著者: 望月友美子

ページ範囲:P.945 - P.947

たばこ問題の背景

 現在,たばこによる死亡は,世界全体で年間500万人,わが国でも年間11万人と試算され,今後ますます増大することが予測されている.たばこ消費が現状のまま続くと,20年後には全世界で年間1,000万人がたばこによって生命を奪われ,うち7割が途上国に起こるとされている.たばこ生産に依存した経済体制や多国籍企業の国境を越えた産業活動もあることから,たばこ問題は,環境問題と同様,個人,地域,国家を超えた地球規模の大問題となっており,地球規模の解決策が求められている.

 単一の原因で,これほど多数の死者をもたらす製品や危険行動は未だかつてないにもかかわらず,たばこだけは多くの国々で,リスクの大きさに見合った規制を免れてきた.特に日本では,たばこ産業が提唱する「大人の嗜好品」「個人の嗜好」「社会調和」というような曖昧な言葉の前に,たばこの有害性や依存性を前提にした科学的なリスクマネジメントの議論はきわめて低調であった1)

禁煙治療の制度化の必要性と欧米の動向

著者: 中村正和

ページ範囲:P.948 - P.952

なぜ禁煙治療の制度化が必要なのか

 わが国では,1950年当時,年間わずか1,000人であった肺がん死亡数が現在では5万人を超え,この約50年間に50倍も増加している.この増加傾向は,喫煙が特に流行した男性で顕著である.また,喫煙による超過死亡数は2000年で11.4万人と推計されており,総死亡(96.1万人)の12%を占め,欧米がたばこ対策を開始した1960年代当時の水準に達している(図)1).わが国では最近30年間,1人当たりのたばこ消費量がほぼ横ばいで推移していることから,今後,高齢化と相まって,喫煙による健康被害がさらに拡大するものと予想される.この健康被害の拡大に歯止めをかけるためには,年内にも発効する見通しの世界保健機関(WHO)の「たばこ規制枠組条約」に基づいて,早急にたばこ対策を国家的に推進し,世界的に見て今なお高い水準にあるたばこ消費量を大幅に減少させることが必要である.

 ところで,禁煙対策は喫煙防止対策に比べて即効性があり,最近急速に拡大しつつある喫煙による健康被害の当面の抑制策として期待される.2000年から2050年の期間において,たばこ対策の効果を喫煙防止対策単独の場合と禁煙治療を組み合わせた場合に分けて比較検討した成績によると,喫煙防止対策単独では喫煙による超過死亡数を減少させる効果は小さく,しかも効果が見られるのは2030年以降と推定されている2).今世紀前半の健康被害を防ぐには,喫煙者層へ働きかけ,喫煙率を大幅に低下させることが必要である.そのためには,たばこ税の値上げをはじめ,公共場所や職場の禁煙化,たばこの広告規制や警告表示の強化などの喫煙者の動機を高める対策と,禁煙の動機の高まった喫煙者に対する禁煙治療体制の整備と利用の促進が必要である.

医師・看護師・教師の喫煙問題

著者: 兼板佳孝 ,   大井田隆

ページ範囲:P.953 - P.955

 医師・看護師・教師などは,患者や児童・生徒に対して禁煙指導を行う立場上,自らが喫煙しない態度が求められている.また医療従事者による禁煙指導や教師の喫煙行動が,患者や児童・生徒・学生の喫煙行動に影響を与えるとする報告も認められる1~3).したがって医師・看護師・教師の喫煙問題を理解することは,今後の喫煙防止対策を講じる上で重要である.

 そこで本稿では,筆者らがこれまでに実施した医師・看護師・教師の喫煙に関する疫学研究を中心に概説,これらの職種に対する喫煙防止対策について述べていきたい.

子どもへの喫煙対策

著者: 平山宗宏

ページ範囲:P.956 - P.958

学校における喫煙防止教育

 子どもに対する喫煙防止教育は,当然のことながら学校における健康教育の中で行うのがまず必要かつ効果的である.日本学校保健会でも文部省(当時)の委託を受けて,昭和61年に喫煙防止教育の報告書をまとめ,生徒用のパンフレットを作成している.内容的には喫煙の身体への害を,肺が黒くなりがんの原因になることの他に,イトミミズにたばこの抽出液を入れると死ぬこと,ウサギにたばこの煙を吸わせると耳の血管が収縮することなどを含め,具体的なたばこの害作用を示している.当時これを出すのに,大蔵省から文部省にクレームがつきかけたと聞いており,健康より税収源としての関心が高かったことになる.

 現在ではWHOの強い呼びかけもあり,たばこの害の表示も大きくすることが実現しそうである.

世界の喫煙対策

著者: 浦田剛

ページ範囲:P.959 - P.963

 「たばこが肺がんの最大の原因であり,健康に深刻な被害をもたらすことが科学的に証明された」──米国保健福祉省のルーサー・テリー医務総監が1964年1月,喫煙が肺がんを引き起こすと初めて警鐘を鳴らして以来,2004年でちょうど40年になる.米国国務省内の講堂のステージに立ったテリー氏は,学識経験者で構成する諮問委員会がまとめた「たばこと健康」に関する報告書を発表.医務総監によるプレス発表が全国テレビ中継されたのはこれが初めてだった.この報告書が,米国における喫煙の文化的位置づけを革命的に変化させ,米国人の喫煙率を激減させるきっかけになったといわれている(図).

 この発表は,米国だけでなく,世界各国で喫煙規制をスタートさせ,今日のたばこ対策に与えた影響は大きい.各国では今,どのような対策がとられているのかを検証した.

視点

健康なまちづくりのために行政専門職に期待すること

著者: 二宮忠夫

ページ範囲:P.926 - P.927

 今年の夏は,記録的な猛暑の連続,また,残念ながら豪雨による被害も例年になく多い状況となっている.このような厳しい気象の変化は,人々の健康への影響も大きく,熱中症もいつになく多発した.そうした自然条件も含め,諸々の環境下で,全国では公衆衛生関係の専門職が,国民の衛生環境の向上と健康増進の継続的な活動に取り組んでいる.しかし,市町村の職員に限定すれば,専門職種,人数はまだまだ不足しているのが現状ではなかろうか.

 秦野市は,神奈川県西部に位置する人口約16万8千人の都市である.6年ぶりに地方交付税の不交付団体となったとはいえ,決して財政的に富裕な団体ではない.しかし,保健・福祉などの公衆衛生分野の専門職は,保健師,栄養士,保育士に加え,平成14年度から他市に先駆け,精神保健福祉士を常勤の職員として配置している.

特別記事

[インタビュー]なぜ「乳がん・子宮がん検診」の見直しがなされたか?

著者: 祖父江友孝

ページ範囲:P.964 - P.969

本誌 今年3月,厚生労働省から「老人保健事業に基づく乳がん検診及び子宮がん検診の見直しについて」の中間報告が出されました.今日はその中間報告のまとめに関与された祖父江先生に,乳がんと子宮がん検診の見直しが出された背景,具体的な変更点とその理由などをお聞きします.まず,乳がん・子宮がん検診の見直しが今なぜ必要だったのか,その辺りからお願いします.

祖父江 がん検診の最大の目的は,早期発見して死亡を防ぐことです.特に,乳がん,子宮頸がんのような若い世代で多いがんについては,有効的な方法がある場合,検診の位置づけはかなり重要になります.今回乳がん・子宮がん検診の見直しが行われた直接のきっかけは,マンモグラフィがあまり市町村に導入されていないという新聞報道からと理解していますが,来年から始まる老人保健事業の第5次計画の策定に関連して,指針の見直しを前倒しで行うためという流れがあったようです.昨年の12月から全6回で女性のがん検診についての検討会が開かれました.このとき基本となった視点は,「有効な検診を行う」ことです.すでに有効性の評価に関しては久道班注1)による日本における有効性の判断を示した報告書が出ていて(資料1),検討会はこの報告書を土台に話し合われました.

特別寄稿

「生を全うするまち」を目指して―JICAブラジル“Healthy City”のプロジェクトより

著者: 三砂ちづる

ページ範囲:P.970 - P.971

 パウロ・フレイレ(1921~1997)はブラジルの教育学者である.彼の名前が,いわゆる「開発」や「国際協力」関係者に与える一種独特の郷愁にも似た尊敬の思いは,世界中で共通している.フレイレ,という言葉が出るとき,世界中で同じように,「人々がより生き生きと生きること」が話されるのである.いまや当たり前とも言えるようになった,「住民参加」や「参加型方法」について,彼は具体的な理論と方法を提示した人だった.特に貧困層の「意識化」を目的とした識字教育法を1950年代後半から実践し,そのためブラジルの軍事政権から政治的に危険な人物とみなされて国外追放となる.後に民主化により帰国し,大学などで教鞭をとったり,サンパウロ市教育局長を務めたりした.住民主体の開発思想にもっとも大きな影響を及ぼした1人と言えるだろう.1997年に75歳で死去したとき,私はブラジルにいたが,新聞,雑誌が一斉に提示したしめやかで尊厳に満ちた記事を,今も忘れることができない.

 ブラジルは「世界の矛盾がすべてある」と言われるような国である.いわゆる「南北問題」を国内に抱える.リオデジャネイロ,サンパウロを中心とする裕福な南東ブラジルに比べ,映画「セントラルステーション」の舞台となった北東ブラジルは,旱魃と飢饉を周期的に繰り返す貧しい地域である.そのような北東ブラジルの文化の中心とも言える,ペルナンブコ州レシフェがパウロ・フレイレの出身地である.レシフェには,フレイレとともに考え,実践し,悩んだ人たちが,まだ現場で活動している.ここではフレイレは,過去の人ではなく,今に生きているのである.

「待つ」ことの大切さ―助産と看取りの絆から

著者: 三井ひろみ

ページ範囲:P.972 - P.975

 1992年,1人の女性と出会った.保育園の庭には夕陽がさしていて,黄金色に光っていた.いつものように息をきらしてお迎えに飛び込む.職場と保育園の往来の日々は時間との綱渡りで,「早くしなくては」が私の口癖になっていた.横を小柄で柔和な顔をした女性が通りすぎた.この人は,毎日毎日普段着のまま,ゆったりとお迎えにやってきた.年齢は私よりひとまわり上で,とても企業に義務づけられて働いているようには見えない.たわわに実った柿の木を見上げたりして,娘の手をひきながら夕暮れの道を帰っていく.

 「あの方はどんな仕事をしているのですか?」と保母さんに尋ねたのに対して,「開業助産婦さんよ」という返事が戻ってきた.

連載 Health for All―尾身茂WHOをゆく・9

21世紀の医学・医療とは

著者: 尾身茂

ページ範囲:P.928 - P.929

 21世紀は「心」の時代とも言われているが,今回はこのことを踏まえて,21世紀の医学・医療のあるべき姿について考えてみよう.

 「病は気から」は,多くの人々にとって経験的事実である.人々は昔から,「心」と「身体」の間の相互関係については当然のことと感じていた.しかし,この関係についての科学的証明は難しかった.ところが最近になって,「心」と「身体」の密接な関係が科学的にも明らかにされてきている.もちろん,塩分を過剰に摂取すれば血圧が上昇するというような純生物医学的な関係に比べると,この「心」と「身体」の関係は主観的要素が絡むので,その“証明”は一筋縄にはいかない.しかし最近になって,この2つの密接な関係について主要な医学雑誌に多くの研究成果が発表されてきている.

公衆衛生ドキュメント―「生きる」とは何か・9

水俣病の奉納劇,新作能「不知火」

著者: 桑原史成

ページ範囲:P.930 - P.930

 2004年10月4日,東京・渋谷のオーチャードホールで,新作能「不知火」が上演された.そのほぼ1カ月前の8月28日には,水俣病事件の発生の地・水俣市で奉納公演されている.

 能といえば古典的で難解な演劇と思われがちだが,このたびの「不知火」は,水俣出身の作家・石牟礼道子氏によって,現世に起きた悲劇の事件を素材にして幽玄な美しい物語が作られている.毒により海が汚れ,魚も鳥も猫も人間も死んでいった水俣病の背後に潜む,物質文明に警鐘を鳴らした物語,そしてそこからの回生を願う物語と言ってよかろう.そこには,亡くなったすべてのいのちに捧げる祈りの心があった.舞台での能役者のセリフは独特の“能の言葉”だが,全体の雰囲気から,その意味が理解できるように思われた.

Rapid Review & Topics[最終回]

がん検診の有効性評価

著者: 濱島ちさと

ページ範囲:P.977 - P.980

 近年,諸外国ではがん検診の有効性を評価し,公共政策に活用する動きが見られる.こうした流れを受け,わが国でも平成10年,11年,13年と過去3回にわたるがん検診の有効性評価が行われた.

 その第3回目が,平成13年3月に公表された平成12年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金・がん検診の適正化に関する調査研究事業「新たながん検診手法の有効性の評価」報告書(主任研究者/久道茂)である.その評価方法は,USPSTF(『US Preventive Services Task Force』第2版)を参考にしている.そのUSPSTFにおいて,ガイドラインの更新にあたり,2001年から新しい評価方法が取り入れられた1)

New Public Healthのパラダイム―社会疫学への誘い・12[最終回]

社会疫学の課題(2)―社会のための科学・21世紀のための科学

著者: 近藤克則

ページ範囲:P.981 - P.986

 “根拠に基づいた(evidence based)”という言葉を耳にする機会が増えた.いまや“根拠に基づいた政策(形成)evidence based policy(making)”という言葉も聞かれ,公衆衛生政策・社会政策を形成する上でも根拠が求められる時代になったのである1~5)

 一方,疫学の分野でも,前号で(第1の課題として)考察した基礎科学としての側面だけでなく,「公衆衛生政策のための疫学研究」6)「健康政策に対する疫学の寄与」「政策疫学」7)など,研究成果を社会に還元し現実の政策形成に貢献する側面が注目されている.

「PRECEDE-PROCEEDモデル」の道しるべ・9

PRECEDEの段階で質的情報を利用し診断を行った事例―山口県橘町の「健やか親子橘21」計画の策定

著者: 岩井梢 ,   中村譲治

ページ範囲:P.987 - P.992

 先月号に引き続きPRECEDE-PROCEEDモデルの展開方法を事例を取り上げ紹介する.今回は,当事者である住民代表を中心とした協議会を組織し,協議会の場面で質的情報の収集とPRECEDEの各診断を同時に行った事例である.今回の事例の特徴は以下の3点である.

 ①協議会で出された意見を随時PRECEDE-PROCEEDモデルの枠組みに落とし込み,その質的情報を基にPRECEDEの診断を行った.

 ②当事者の実情が把握しにくい場合は,協議会とは別にインタビュー等を実施し,質的情報の収集を随時行った.

 ③すべてのフェーズに住民が参加した.

衛生行政キーワード・4

株式会社の医療経営参入

著者: 迫井正深

ページ範囲:P.993 - P.995

概要

 現行制度では,営利を目的とする病院(医療機関)開設は認められていない(医療法7条)1).株式会社による医療機関経営の禁止は,この規定を根拠とする具体例である.しかし,この規制を見直し,株式会社の医療機関経営参入を認めるべきだ,というのがこの「株式会社の医療経営参入」問題である.

 社会における規制緩和の流れの中で,平成13年の総合規制改革会議2)においてこの問題が取り上げられ,以降,政府の構造改革議論で大きな焦点の1つとなってきた(表1).

赤いコートの女―女性ホームレス物語・4

聴き語り合うことの試み

著者: 宮下忠子

ページ範囲:P.996 - P.998

テレビ番組放映のあと

 波さんに関するテレビ報道がなされて1週間が過ぎた.路上生活を続ける波さんのもとにディレクターB氏の姿は見えなくなった.波さんは,相変わらず赤いトレパンをはき,赤いコートを着て,いつもの公園のモミの木の下に座っていた.しかし,以前と様相が違っていた.波さんの姿をテレビ番組で見た男たちが流した情報によって,噂は瞬く間に野宿場所の公園を中心に広がった.男たちの波さんに対する関心が一段と強まっていったのである.

 波さんの近くの場所で路上生活を続ける男性のホームレス仲間は,「波さんに対して性的な虐待を含んだ嫌がらせが急増した.どこで聞いたのか見たのかわからない」と言って怒りを露わにした.そこには,どん底だからこそ支え合う友情があった.「俺の子どもを産んでくれ」と言って波さんに迫ってくる男もいたという.また2人で雑踏の中を歩いていた時,「腰が抜けるように痛い」と歩行中の波さんから耐え難いほどの苦痛を訴えられたという.

世界を見て,日本を見る.Public Health Opinion・12[最終回]

WHO発「世界を見て,日本を見る」

著者: 神馬征峰

ページ範囲:P.999 - P.1001

注目のWHO

 昨年来,世界保健機関(WHO)が注目を浴びている.本誌2003年11月号の特集号(67巻11号),“検証「SARS」”でも述べられているように,「WHOを中心とするかつてない国際協力態勢が,病原体の迅速な発見や国境を越えての技術協力を可能にしたこと」は,SARSを世界的に封じ込めた成功要因の1つとなった1)

 また昨年5月21日には,WHO事務局長として韓国の医師,李鍾郁(Jong-Wook Lee)博士が選出された.20年間のWHO勤務経歴を持つベテランである.ハンセン病対策の専門家としてWHO勤務を始めた李医師は,世界の健康格差の問題解決に意欲を示している.世界最大の公衆衛生課題の1つであるエイズ対策としては,2005年末までに300万人の感染者が抗レトロウイルス治療を受けられるように,「3×5戦略」を積極的に進めようとしている2).2004年に入ってからは,鳥インフルエンザの流行に対するWHOの対策がどれだけうまくいくのか,注目を浴びているところである.

活動レポート

肺がん検診の精度管理における成人病検診管理指導協議会の役割―宮城県での自治体に対する調査の経験

著者: 佐川元保 ,   遠藤千顕 ,   佐藤雅美 ,   辻一郎 ,   斉藤泰紀 ,   杉田真 ,   桜田晃 ,   薄田勝男 ,   藤村重文 ,   佐久間勉

ページ範囲:P.1003 - P.1007

 2001年の久道班報告書1)で述べられているように,わが国で行われている現行の肺がん検診は肺がん死亡減少に寄与するが2,3),そのためには精度管理が適切に行われることが必要である.しかしながら,検診の精度は自治体により相当のばらつきがあり4),さらに最大の問題は,精度を評価するシステムが恒常的に活動していないことである5)

 検診費用の一般財源化は,自治体の政策の自由度を増すことが目的であり,どのような検診を行うか,あるいは橋や道路に予算を回すかは,自治体の独自の判断で行うことが可能となった.すなわちコストと効果を秤にかけて自分たちが選択できるようになったわけであるが,現状ではコストは判明しているが精度は不明なので,適切な判断をすることができない.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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