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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生68巻4号

2004年04月発行

雑誌目次

特集 保健師を考える・1 保健師のニュービジョン

保健師さんへの期待―地域精神医療の現場から

著者: 小峯和茂

ページ範囲:P.274 - P.275

 同期生が次々と定年になり,後輩に跡をゆずって行く年齢になると,期待する内容も変わってきます.

 公務員や,しっかりした組織のできているところでは,世代交代がスムースに行われますが,民間の精神病院に勤めている者は,世代交代を望みながら,しかしなかなか円滑にゆかないのが現状です.

〈保健師のアイデンティティ〉

①行政官と専門職の間で

著者: 朽木悦子

ページ範囲:P.265 - P.267

行政官と専門職の間にいる保健師

 保健師として大阪市に就職した頃先輩から言われた言葉がある.「公務員である前に保健師であること」と.これの意味するところは,主にケースへの支援において,制度や法を適応できない場合も多いことから,型どおりの支援に終わることなく,その人の立場に立って支援するようにという意味である.

 一方,行政職の同僚からは「保健師である前に公務員であれ」と言われたものである.保健師という専門職である前に,公務員としての立場・職業意識を持つようにとのことである.当然のことではあるが,この意味には,専門性を強調しがちな保健師への皮肉も込められていた気がする.

②保健所保健師として

著者: 橋本雅美

ページ範囲:P.268 - P.270

 保健師活動は所属を問わず,看護学,社会学,疫学,公衆衛生学などの知識を用いて,集団の健康の増進と保護を図る活動である.また,公衆衛生活動の一環であり,さまざまな職種との協働により目標を達成していく.

 本稿では,東京都の保健所における活動を紹介し,保健所保健師は何をするのかを考えたい.

③市町村保健師として

著者: 小野美代子

ページ範囲:P.271 - P.273

 相模原市は人口62万人を超え,神奈川県下3番目に人口が多く,市民の平均年齢は39歳と若い市である.平成12年4月に保健所政令市となり,県保健所業務が市保健所へ移管され,平成15年4月には中核市になった.市保健師数は平成11年度末50名であったが,現在は保健所・保健センターを中心に8課に配属され,総勢72名になっている.

 私自身は県保健所で20年間勤務し,相模原市が保健所政令市となった平成12年に県から派遣され,中央保健センター母子保健班勤務となった.そして2年後の平成14年4月に市保健師に身分移管した.

〈保健師教育を考える〉

①大学教育から見た保健師教育

著者: 宮内清子

ページ範囲:P.276 - P.280

平成に入って全国的に看護系大学が急増し,保健師の基礎教育は,数の上では大学教育に負うところが多くなっており,これまでの看護師教育と重ね合わせた形で教育を受ける学生が70%を超える現状にある.

 教育カリキュラムにおいても,平成8年の改正によりカリキュラムの大綱化が図られるとともに,看護職の教育を学士課程で行うことを意図した統合カリキュラムが示され,各教育機関は,独自の教育理念や目標に基づいて特色ある教育ができるようになった.

②保健師の大学院教育

著者: 奥田博子

ページ範囲:P.281 - P.283

 近年の地域住民の健康問題は複雑化し,ニーズの多様化,住民の権利意識の高揚等がみられる.また,地域保健法や介護保険法等の新たな法整備,地方分権や規制緩和など,行政で働く保健師は,これらの社会変化からより確かな専門性が求められている.

 このような社会情勢や,他方国民全般の高学歴化を受け,看護学領域においても高等教育の必然性が高まり,看護系大学および大学院の新設・増設がみられている.保健師の大学院への進路は,看護系大学のみならず,福祉・心理・教育・社会・経済などその領域は多様である.これは昨今の保健師職の就労の場が福祉や医療等へと拡大し,その各々の領域での専門性が求められていることや,職務に従事しながら進学可能な条件の整備(大学院設置基準第14条に基づく教育方法の特例)が大学院にあるかどうかで進路を選択していることも要因になっている.

視点

公衆衛生行政における「健康」のとらえ方

著者: 山田勝麿

ページ範囲:P.250 - P.251

 小樽市は北海道の西海岸のほぼ中央,札幌市の西に隣接し,行政面積は243.13km2の日本海と山に挟まれた東西に細長い,自然環境に恵まれた都市であり,天然の良港を持っていることから,明治中期から昭和にかけて商業港湾都市として大変栄えました.

 その当時に造られた運河や歴史的建造物が建ち並ぶロマンチックな街並みがノスタルジックな雰囲気を醸し出し,現在では毎年,850万人以上の観光客の皆様をお迎えする観光のまちとして,全国的に有名になりました.

特別寄稿

医薬品と安全

著者: 村上陽一郎

ページ範囲:P.285 - P.288

 日本の医療についての評価はしばしば見事に両面的になる.医療の質を示す指標として通常基本的に採用されている,平均寿命や新生児(乳児)死亡率などをとる限り,日本は他の先進圏諸国と比較しても,図抜けた数値を示している.しかも,国民所得に対する医療費の割合は,近年増加する一方ではあるが,それでもまだ先進圏では比較的低いと言える.つまり,この視点から見ると,日本の医療は,比較的低い投資額で,最良の結果を得ている,と言うことができる.もちろん改めるべき点は多々あるとしても(例えば,日本では一人の患者当たりの滞院日数が極端に長い),社会をマスとして見た統計的な視点に拠る限りは,日本の医療の質は高いと言わなければならない.

 しかし,一旦視点を個々の患者のレヴェルに下げると,この評価はきれいに逆転する.例えば,患者の医療に対する「満足度」は,つねに,先進圏諸国の間ではかなり低い数値を示してきた.「三時間待って三分の診療」とは,もう誰も言わなくなってしまったが,では事態が解消されたのか,と言えば,特に大病院や大学病院では,依然として患者はそれを耐え忍んでいる.大規模医療機関に依存し過ぎるという弊が患者の側にあるにしても,その弊自体が,患者の側の医療に対する暗黙の評価をなしている,という点も見逃せない.そして繰り返される医療事故.

特別記事

[座談会]日本の疫学と公衆衛生の未来を考える①―「疫学の未来を語る若手の集い」の足跡を辿る

著者: 水嶋春朔 ,   中山健夫 ,   小橋元 ,   門脇崇 ,   内藤真理子

ページ範囲:P.289 - P.297

水嶋(司会) 本日は,日本疫学会の「疫学の未来を語る若手の集い」(以下,「若手の会」)の新旧の世話人メンバーが集まり,日本の疫学と公衆衛生の未来を考える座談会全3回シリーズの,第1回目をお届けしたいと思います.今回は,創設の頃から「若手の会」の世話人としてかかわった中山先生,小橋先生と,現在ホントの若手として世話人をしている門脇先生,内藤先生にご参加いただき,「若手の会」が始まった経緯や主な活動の成果などについて(表),自由闊達に談論したいと思います.『公衆衛生』の読者の皆さんにも,ご参考になる内容となることを期待しております.

「若手の会」草創の頃

水嶋 「若手の会」の発足の経緯について,ご説明いただけますか?

中山 1996年1月の第6回日本疫学会(名古屋)の時に勉強会として「若手の会」が発足しています.浜島信之先生(現愛知がんセンター)と川上憲人先生(現岡山大学)にミニレクチャーをしていただいて,自由に議論をしました.比較的年代が近い40歳前後くらいから下の若手研究者が分野横断的に自由な集会を開くことは,とても刺激的でした.この第1回「若手の集い」は玉腰暁子先生(名古屋大学)が発起人となって「疫学をやっている若い人たちが大学という枠から離れて,自由横断的に交流を深めようよ」という呼びかけをされたのがきっかけです.日本疫学会ニュースレターの教室紹介欄に,教室の枠を越えた横のつながりの大切さを書かれていたことを覚えています.そしてそれが実現して,「若手の会」がスタートしました.

トピックス

うつ病対策―地域におけるうつ対策検討会報告から

著者: 植田紀美子

ページ範囲:P.298 - P.300

 これまで以上にうつ病に対する関心が高まっている.これは,近年のうつ病の増加が背景にあることは言うまでもないが,加えて,以前よりもうつ病に対する社会的認知が高まってきた表れとも考えられる.受診行動を反映する厚生労働省の患者調査によると,うつ病を含む気分障害の推計総患者数は,平成11年では44万人であったのに対し,平成13年には1.6倍の71万人(多くが外来患者の増加)となり,他疾患も含め,これまでにない患者数の急増を認めている.また,最近の地域調査1)では,うつ病を経験した人は約15人に1人,過去12カ月間では約50人に1人であるにもかかわらず,うつ病を経験した者の4分の1しか医療を受けていないという結果が示された.うつ病は決して一部の人々の問題ではないにもかかわらず,その対応が適切になされていないことが示唆されたわけである.

 一方,うつ病と自殺の関連も周知の通りで,厚生労働省が平成14年12月に公表した「自殺防止対策有識者懇談会」の最終報告2)において,うつ病対策は早急に取り組むべき実践的な自殺予防対策としても,きわめて有効であるとされている.

連載 Health for All―尾身茂WHOをゆく・1【新連載】

「WHOって何?」

著者: 尾身茂

ページ範囲:P.252 - P.253

 「WHO」と聞いて何を想い浮かべますか. 中学校の保健の授業で「WHOの健康の定義」を習ったことを憶えておられる方もあるかもしれません..私は期末試験でこれを丸暗記させられたものです(ちなみに, この定義のあり方に関してはWHO内でも現在議論があります). また, 天然痘の根絶や現在進行中のポリオ根絶計画がWHO主導のもとに行われていることをご存知の人も多いでしょう..高血圧の基準やモルヒネを用いたがん疼痛標準治療法も, WHOの定めた基準をもとにしています.

 したがって, WHOは保健医療関係者の間ではよく知られていますが, 有名女優が親善大使を務めているUNICEFなどに比べ, 社会一般の知名度は今ひとつの感があります. この機会にWHOについて説明してみましょう.

公衆衛生ドキュメント―「生きる」とは何か・1【新連載】

エイズに蝕まれたルーマニアの子どもたち

著者: 桑原史成

ページ範囲:P.254 - P.254

 ヨーロッパの全域でエイズ(後天性免疫不全症候群)に蝕まれた子どもは, 公式(1997年)に7,512名と発表されている. そのほぼ60%に当たる4,376名の子どもが, ルーマニアに集中していることに驚かされる.

 ルーマニアは, 日本の国土と同じ程度の面積だが, 人口は約2,300万人にすぎない. いずれの国においても国家の国力は資源と技術力, それに人口の多さと言われる.

Rapid Review & Topics・1【新連載】

職場のメンタルヘルス―総説2000-2003

著者: 川上憲人 ,   堤明純

ページ範囲:P.301 - P.305

 職場のメンタルヘルスあるいは職業性ストレスに関する研究1)は,2000年に入っても公表論文数がさらに増加しており,この数年を振り返ってもなお新しい知見が蓄積されつつある.

 本稿では主として2000年以降に発表された研究論文を中心に,いくつかの主要なトピックスに絞って,職場のメンタルヘルスに関する研究の動向を紹介する.

New Public Healthのパラダイム―社会疫学への誘い・4

なぜ社会経済的因子が健康に影響するのか

著者: 近藤克則

ページ範囲:P.306 - P.310

 前号まで3回にわたり,社会経済的因子や人間関係などが健康と強く関連していることを示してきた.しかし,2つのもの(例えば貧困と疾病)が強く関連しているからといって,それらが常に因果関係を示すとは限らない.

 例えば,「ライターを持っていた人」と「肺がんによる死亡率」との関係を分析すれば,両者には強い関連があるだろう.しかし,ライターが肺がんを引き起こすわけではないので,これは因果関係ではない.因果関係は喫煙と肺がんの間にあり,ライターは喫煙の代理変数であり,ライターと肺がんの関連は見かけ上のものである.このような因子間の関係を明らかにしなければ,的確な介入策を練ることはできない.

「PRECEDE-PROCEEDモデル」の道しるべ・1【新連載】

[座談会]PRECEDE-PROCEEDモデルの展開とその可能性

著者: 藤内修二 ,   神馬征峰 ,   松野朝之 ,   中村譲治

ページ範囲:P.311 - P.318

藤内(司会) お忙しい中,今日はこの座談会にお集まりくださり,ありがとうございます.PRECEDE-PROCEED Model(以下,モデル)は1991年にL.W. Green氏が提唱して2年後には日本にも紹介され,今日いろいろな場面で適用されるようになってきました.1986年にオタワ宣言で提唱されても,わが国ではヘルスプロモーションがなかなか実践に結びつかなかったのですが,このモデルの登場でその展開に大きく弾みをつけたのではないのかと考えています.

 今日は,このモデルのテキストであるL. W. Green著『Health Promotion Planning an Educational and Environmental Approach』を翻訳し,このモデルを日本に紹介する役割を担った神馬先生,松野先生,そして歯科保健の領域に限らず幅広い領域でこのモデルの展開に活躍されている中村先生の3人にお集まりいただき,このモデルの展開とその可能性について,ディスカッションを進めていきたいと思います.

全国いきいき事例ファイル・9

糖尿病在宅療養支援事業―徳島県穴吹保健所

著者: 中川利津代 ,   斉藤泰憲 ,   福永一郎

ページ範囲:P.319 - P.321

 徳島県は糖尿病による死亡率が全国に比し高く,本事例の穴吹保健所管内も例外ではない.このため,糖尿病を良好にコントロールし,合併症の発生をできるだけ防止し,高いQOLを保った在宅療養を支援する必要性が指摘されていた.しかしながら,糖尿病の療養にあたって,良好に糖尿病をコントロールしてゆくためには,どのようなことが必要で,誰がその役割を果たすのかという点から,十分に患者のためになる療養支援方策を考える必要があった.

 療養支援の主役は,その名の通り支援される糖尿病患者であって,周囲の医療者や支援者ではない.したがって,この事業を始めるにあたって,まず患者を中心に据えることを確認しながら事業を展開してゆくことにした.また,ターゲットは現在糖尿病の療養をしている,ないしは必要とする患者の重症化防止と生活の質の確保に絞り,糖尿病の発生予防は含まないこととした.事業の基本的な考え方は図に示している.

世界を見て,日本を見る.Public Health Opinion・4

日本の公衆衛生の「輸出」の試み

著者: 橋爪章

ページ範囲:P.322 - P.323

 人類は,生物学的には弱い存在であるので,助け合わなければ生きてゆけない.生活にゆとりがある人がそうでない人を助けることを規範として,この社会は成立している.国家と国家との間においても同様であり,富めるものがそうでないものを助けるのは摂理である.

 日本は,生まれてきた赤ちゃんの22人に1人が1年以内に亡くなっていた頃,他国への援助に着手(1954年:コロンボプランへの加盟)している.海外技術協力事業団(JICAの前身)を設立し,援助に本格的に取り組み始めた1962年にあっても,乳児死亡率は出生千対26.4であった.妊産婦も1,000人に1人が命を失っていた.

調査報告

A市内の医療機関における結核予防法による定期健康診断の実施状況

著者: 坂野知子 ,   大井洋 ,   桜山豊夫 ,   上木隆人 ,   森亨

ページ範囲:P.324 - P.327

1985年以降医療機関における院内結核集団感染が増加し,大きな問題として取り上げられている1).その要因として,医療従事者の結核への関心の低下や,結核既感染率の低下等が考えられる2).医療従事者は,結核菌に接触する機会が大きいとともに,結核はひとたび発病すれば感染源として大規模な集団感染の原因となる危険性があり,医療機関における結核感染予防対策の強化が急務である.

 八王子保健所管内においては,2001年に,診療所の医療従事者から感染性肺結核患者が発生したことに端を発し,この患者からの感染が疑われた1都2県の計280名を対象に大規模な定期外健康診断を実施した.この事例では,幸い二次感染者および発病者は発見されなかったが,当該診療所における結核予防法上の定期健康診断体制の不備や患者本人の受診の遅れなどが,問題を大きくした一因と考えられ,医療機関における職員の健康管理意識が不十分であることが懸念された.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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