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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生68巻7号

2004年07月発行

雑誌目次

特集 公衆衛生対策におけるリスクコミュニケーション

公衆衛生対策とリスクコミュニケーション

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.504 - P.507

コミュニケーション新時代の到来

 テレビの地上デジタル放送がスタートし,現在の地上アナログテレビ放送から,平成23年7月には地上デジタルテレビ放送に完全移行することになっている.デジタル放送とアナログ放送の最大の違いは,番組提供者と視聴者が双方向でコミュニケーションできることにある.テレビ受信機が最先端のメディアステーションに生まれ変わる可能性があるのだ.

 すでに普及しているインターネット,携帯電話などにより,現代社会は急速にコミュニケーション社会に向かって突き進んでいる.このようなコミュニケーション社会に対応した公衆衛生対策の推進が必要になっている.

リスクコミュニケーションとは何か

著者: 関澤純

ページ範囲:P.508 - P.511

リスクコミュニケーションとは

 リスクコミュニケーションとは,市民,行政,産業界,専門家など,関係者の間で,情報や意見を交換するプロセスである.関係者間の情報共有と役割を持った参加を保証し,コミュニケーションを行うことにより,すべての関係者の情報や意見をリスクマネジメントに生かすことを目指す.

 国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)は,食の安全に関し,生産から食卓に至る(From Farm to Fork)すべての段階で,適切に安全を確保するプロセスをリスクアナリシスと呼び,リスクアナリシスはリスク評価,リスク管理,リスクコミュニケーションの3要素から構成されるとしている.このうちリスクコミュニケーションは,リスクアナリシス・プロセスにおけるすべての関係者の情報共有と役割を持った参加を指している.

リスクコミュニケーションの方法

著者: 吉川肇子

ページ範囲:P.512 - P.515

個人的な健康リスクに対する人々の理解

 リスクについて,人々が主観的にどのように判断しているのか,その判断を心理学では「リスク認知(risk perception)」と呼んでいる.主観的な判断を問題とするのは,そのリスク認知が,しばしば科学的なリスク評価と一致しないからである.

 個人の健康リスクについては,リスク認知の一般的特徴として,リスクを甘く見積もることが知られている.これは,「非現実的楽観主義(unrealistic optimism, Weinstein, 1980)1)」と呼ばれている.

食品安全とリスクアナリシス

著者: 小泉直子

ページ範囲:P.516 - P.519

食品安全委員会設立までの背景

 戦後しばらくの間は,冷蔵庫もなく,毎日口にする食品の安全性を疑う時,「これは腐っていないだろうか」と,まず目で確かめ,次いで臭いを嗅いでみたり,なめてみたり,触ってみたりして安全性を確認していた.しかし,冷蔵庫の普及や食にかかわる製品の衛生面が確保されるにつれて,次第に自分の五感に頼ることをやめ,賞味期限や産地,含有成分,加工方法など,すべて表示されている文字を通してその安全性を判断するようになってしまった.すなわち,自らが食品の安全性を判断するのではなくて,行政の監督の下,生産・製造者や流通業者が製品の安全性を保障してくれているはずであるという意識の下に,食の安全を判断するようになった.

 したがって,いったんその保障が崩れると,食の安全にはほとんど問題がないだろうとわかっていても,心理的不安に陥ってしまうのである.その結果,消費者は被害者として意識するようになり,一部の消費者は「絶対に安全な食品を提供するのが国の努め」と,猛烈な攻撃を展開するようになる.食品安全委員会に寄せられる意見を見ても,消費者は白黒をつけやすい「表示」という問題を取り上げていることが多い.

環境保健対策とリスクコミュニケーション

著者: 戸高恵美子

ページ範囲:P.520 - P.523

環境保健対策とリスクコミュニケーション

 生体内に取り込まれると本来のホルモン作用を撹乱する内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)によるヒトの健康への影響については,いまだ明確な評価が確定していない.米国立公衆衛生院(NIH)の下部組織,国立環境健康科学研究所(NIEHS)発行のジャーナル『Environmental Health Perspectives(環境健康の展望,以下EHP)』誌には,毎号必ずと言っていいほど内分泌撹乱作用のある物質についての論文が掲載され,各国の科学者が動物実験や疫学調査の結果から,これらの物質の健康影響について明らかにしようとしている.

 一方,日本における臍帯を使った調査では,多くの環境汚染物質が母体から胎盤を通じて胎児を汚染していることが明らかになってきたものの,これらの物質による汚染がどのように日本人の健康状態に影響しているのか,その因果関係はいまだ明らかではない.しかし,多くの国民が不安を感じているのも事実である.

たばこ対策とリスクコミュニケーション

著者: 中村正和

ページ範囲:P.524 - P.528

 たばこは有害性のきわめて強い依存性薬物であり,かつ環境汚染物質である.しかし一方で,その流行を作り出す産業があり,わが国ではその産業を保護する法律が存在する.

 本稿では,一般の人々の喫煙に対するリスク認知の現状をはじめ,喫煙による健康被害の実態やたばこ問題の特異性について述べた上で,たばこ対策におけるリスクコミュニケーションの役割とあり方について考えてみたい.

HIV対策とリスクコミュニケーション―「性生活習慣病」という概念の必要性

著者: 岩室紳也

ページ範囲:P.529 - P.533

 リスクコミュニケーションという考え方は,リスクに遭遇する可能性のある人のリスクがゼロにならないことを理解し,リスクの低減や回避に向け,個人や組織の責任だけを問うのではなく,個人,企業,組織,地域,行政等の関係者が,情報提供,行動変容,環境整備,施策の方向転換といった多様な側面から対策を考えようとするものです.

 インターネットで「リスクコミュニケーション」を検索すると,環境省のホームページで「リスクコミュニケーションとは,化学物質による環境リスクに関する正確な情報を住民,産業,行政等のすべての者が共有しつつ,相互に意思疎通を図ることです」と紹介されています.リスクを避けるためにリスクを共通の課題として認識した上で,様々な立場や視点からコミュニケーションを図り,住民を含めてそれぞれが納得の上で効果的な対策を見出していくプロセスが,リスクコミュニケーションです.

感染症対策とリスクコミュニケーション

著者: 中瀬克己

ページ範囲:P.534 - P.537

日常業務での感染症リスクコミュニケーション

 感染症対策におけるリスクコミュニケーションの出発点は,保健所における身近な日常的業務の内容で言えば,住民,団体,事業者と感染症リスクについて意見交換をし,よりよいコントロールを目指すことであろう.例を挙げて考えてみたい.

 例1) ノロウイルスによる食中毒が修学旅行中に起こった.保健所は原因調査のための生徒への聞き取りとともに,学校での伝播防止を目的に手洗いや嘔吐物の処理上の注意などを教員に伝え資料を渡した.しかしその後,生徒の家庭内での感染が起こり他の家族が発症,保護者から学校へ「指導不足」とのクレームがあった.学校から保健所に相談があり,「家庭内感染防止への注意喚起も行ってほしかった」との要望をいただいた.

視点

大阪府健康福祉アクションプログラム(案)に基づく公衆衛生行政の展開

著者: 太田房江

ページ範囲:P.498 - P.499

 わが国は世界に比べて急激な人口構造の変化に直面しつつあり,様々な制度やシステムのあり方を含めた社会経済全般にわたる改革が求められています.

 公衆衛生分野においても,地域保健法の改正や感染症予防法の制定・改正などの大きな動きがあり,国と地方,都道府県と市町村の役割分担の見直しを図るといった,基本的枠組みの改革が進んでいるところです.

トピックス

緊急のお知らせ!風疹流行とその予防―風疹ワクチン接種のお願い:生まれ来る子どもたちのために

著者: 岡田晴恵

ページ範囲:P.538 - P.539

 風疹は,発熱とともにピンク色の発疹が出て,「三日はしか」とも呼ばれます.小児の軽い病気と考えられがちなウイルス感染症です.しかし,風疹は単なる子どもの病気ではありません.妊娠初期の女性が風疹に罹ると,ウイルスが胎児に感染して先天性の障害を持つことがあります.また,現在高校生から25歳の年齢層は,風疹に対する免疫を持っていない方が多くいます.今,風疹が地域流行を起こし,全国に広がる兆しを見せています.

 風疹の流行

 風疹の主な感受性層である幼児に対するワクチン接種が功を奏し,ここ数年,全国の風疹患者数はきわめて少なく推移していました.しかし,今年になって流行が認められ,平成16年第20週(5月上旬)時点で,大分県,福岡県,群馬県,栃木県,鹿児島県,沖縄県,埼玉県などで地域的流行が起こっており,これが全国に広がることが懸念されています.さらに今年の流行では,年長者や20歳以上の若年成人の患者の割合が多くなっています.

特別寄稿

科学的根拠とリスク評価

著者: 緒方裕光

ページ範囲:P.540 - P.543

 われわれの身の周りには,意識しているか否かにかかわらず,人間の健康を脅かす様々な要因(健康リスク要因)が存在している.これらの要因が社会に及ぼす影響は年々多様化の傾向にあり,その影響が及ぶ範囲も拡大化しつつある.近年の健康リスクに関する問題の多くは,特定の地域に限定されるものではなく,人間社会全体の問題として認識されるべきものである.このような健康リスクに対して適切に対処するためには,リスクに関する科学的分析や客観的情報が必要となってくる.特に公的政策においては,より合理的な根拠が求められることは言うまでもない.

 リスク評価は,リスクへの対応とその科学的根拠を繋ぐ役割を持っており,その過程は客観的な方法に従っている.しかし,科学的情報からリスク評価を経て現実の意思決定に至るまでの経路には多くの要素が複雑に関係する上に,各段階で必ず不確実性を伴っている.このような問題に対して科学的なアプローチを行うことは,公衆衛生学上大きなテーマの1つであると言えよう.

「環境病」への新しい研究視角―医学的に説明できない症候群の環境要因の解明に向けて

著者: 水野玲子

ページ範囲:P.544 - P.547

 「環境病」(Environmental Illness: EL)という言葉が聞かれるようになった.それは,疲労,頭痛,集中力低下,筋肉痛,胸痛,不眠など多器官,多症状に悩まされる健康被害の総称である.大気や水など生活環境の化学物質により引き起こされる症状群として“20世紀アレルギー”1),“化学エイズ”2)などと呼ばれることもある.現在米国では,人口の約6%が医師からELあるいは化学物質過敏症(Multiple Chemical Sensitivities: MCS)と診断されているという3).医学コミュニティの中では正式に認知されていないが,わが国でも化学物質によって身体的,精神的に不健康な生活を強いられている人が増加しており,関心が高まりつつある.

 化学物質による健康被害は,かねてより水俣病を始めとする“公害”が大きな社会問題となってきた.だが今日,われわれは何千という化学物質に微量ながら同時にさらされており,従来の“公害”のように単一化学物質による影響,という単純な因果関係図式が当てはまらない事例が増えてきた.しかも,われわれが化学物質に暴露される仕方が慢性的かつ超低レベルであるという点においても,急性毒性や比較的大量の暴露を問題としてきた従来の毒性学や産業医学では,新事態に対応できなくなってきた.

高齢化率日本一地域における「ゆる体操」の効果

著者: 高岡英夫

ページ範囲:P.548 - P.552

高齢化率日本一地域の危機感

 三重県の南端に位置する,熊野市を中心とした御浜町,紀宝町,紀和町,鵜殿村の1市3町1村により構成される紀南地区は,高齢化率日本一,その値は30%に達し,20年後のわが国の高齢化率を先取りした,高齢社会のモデル地域とも言われる.この紀南地区では,三重県と五市町村の合弁事業として,平成9年より第一次,同14年より第二次の計10カ年の健康長寿推進事業が動いているが,第一次では平成13年の終了時点で,高齢者には数本の趣味もしくは生きがいサークル的活動が残ったものの,全住民を巻き込んだ地域横断的,相互連携的な,住民主体の永続性ある健康長寿推進活動の実現は,第二次の実施に期待されることとなった.

 第二次計画では,第一次で達成することのできなかった目標達成を是が非でも実現したいという機運が,責任主体である紀南健康長寿推進協議会(会長:川上敢二熊野市長)のメンバーの中に高まっていたようだ.高齢化は,その結果として疾病罹患率の増大と医療経済の疲弊をもたらすばかりが問題なのではなく,そもそも若者と子どもたちの明るく元気な声の消えた,年寄りばかりの社会の中で「静かなる不幸」を招くことこそが問題の本質と言われるが,こうした現実にきわめて立脚した痛切なる思いが,担当サイドにあったということであろう.第二次計画のプランナーとして外部から招聘された公衆衛生医,落合正浩氏,杉谷俊明同協議会事務局長,山下成人熊野保健所長は,この地域の深刻な状況を筆者に訴えてこられた.根幹から人を心身ともに健康にし,根幹から地域を元気にすることのできる画期的方策が必要なのだと語られていた.

精神障害者男性における性の問題

著者: 広田和子

ページ範囲:P.553 - P.556

 私はこれまで2度にわたり,本誌に精神医療サバイバーとして執筆させていただいております.今回新たなテーマをいただいて,あらためて私のサバイバーに至るまでのプロセスを書かせていただいた後,本題に入らせていただきます.

 精神医療サバイバーまでの道のり

 1988年3月1日に,私は通院先のK病院で薬を飲み忘れることを理由に,何のインフォームドコンセントもないまま注射を打たれました.それから何日かして会社で仕事をしていても歩き出したい気持ちになり,フラフラ歩いていました.座ろうと思っても立ち歩かずにはいられなかったのです.

連載 Health for All―尾身茂WHOをゆく・4

ポリオ根絶に対する取り組み(2)

著者: 尾身茂

ページ範囲:P.500 - P.501

 さて,前回はポリオ根絶のための戦略を立て,何とか専門家会議までこぎつけた話だったが,今回はその会議の顛末を話そう.

 1991年4月3日,世界各国からポリオの専門家,援助機関からの代表者,西太平洋地域のポリオ発生国の担当官などの参加者が,会議場である東京・市ヶ谷のJICA研修センターに姿を現し,予定通り開会式が始まった.祝辞,記念撮影などが無事進行し,まずは一息ついた.昼食をはさんでの午後,私が発表した40分程度の「ポリオ根絶に向けた戦略」に対する参加者の反応も良好で,会議初日の手応えは上々,RD(WHO西太平洋地域事務局長)のDr. Hanも満足した様子だった.

公衆衛生ドキュメント―「生きる」とは何か・4

戦乱の後で,新たに広がるHIV(カンボジア)

著者: 桑原史成

ページ範囲:P.502 - P.502

 アジアの中で最貧国などとも言われるカンボジアは,東西の冷戦の狭間で長きにわたって戦乱が続いた.今,カンボジアは国連の介入から解かれ,やっと平和を取り戻したと言っても過言ではなかろう.

 世界で超一級の文化の遺産と称えられるアンコールワット寺院を訪れる海外からの観光客は,年々増えている.日本から訪れる観光客は,首都のプノンペンよりアンコールワットのあるシェムリアップの方が多いと言われる.

Rapid Review & Topics

全ゲノム遺伝子解析

著者: 山﨑暁子 ,   程雷 ,   因正信 ,   藤田大輔 ,   白川太郎

ページ範囲:P.558 - P.561

家系を用いた連鎖解析法

 全ゲノム解析とは,連鎖解析法に基づく染色体の候補遺伝子座の決定を全染色体レベルで行う手法である.連鎖解析とは,複数の遺伝子座間の連鎖を利用して特定の表現型に関係する染色体上での遺伝子領域を調べる方法である.アレルギーなどの多遺伝子疾患においてしばしば用いられている手法が,兄弟発症症例を用いた罹患同胞対解析である.この解析に用いるゲノム全領域の多型マーカー(CA)nがキットで販売されているので,ゲノム全領域から候補領域を挙げることができる.しかし,この解析手段としているノンパラメトリック解析では,遺伝子の相同的組替えの情報が入っていないため,この方法で絞り込める候補領域は10-20cM(センチモルガン)と考えられている.

 1996年に初めてOxford大学のグループが喘息における全ゲノム遺伝子解析を行って以来1),今日まで喘息で10グループ,皮膚炎で3グループ,鼻炎で1グループが家系サンプルを(CA)nマーカーで解析する全ゲノム解析(physical mapping)を行ってきた.したがって喘息に関する研究が最も進んでおり,人種を超えて喘息に関する原因遺伝子座として認められているのは5番,11番,12番染色体の連鎖である.しかし最初の報告以来すでに7年以上が経過したが,この方法論で最終原因遺伝子に到達したのはわずかに1つ2)(adam-33遺伝子と英国人,米国人の喘息)であり,しかもこの遺伝子座は染色体20pに存在し,その他の全ゲノム解析では連鎖が認められなかった領域に存在する.

New Public Healthのパラダイム―社会疫学への誘い・7

生き抜く力―社会と身体的健康をつなぐもの・(3)

著者: 近藤克則

ページ範囲:P.562 - P.568

 生きるのは,大変である.仕事もだが,家事も育児も,職場・家庭内の人間関係も,私たちに緊張をもたらす.それらを上手くこなさなければならない.さらに病気や左遷,死別など,喪失・挫折体験を伴うライフイベントに加え,将来への不安(筆者の場合には迫ってくる連載原稿の締め切り)など,緊張やストレスの原因(ストレッサー)を数え上げたらきりがない.しかし,端から見ると「ストレスに強い」あるいは「まるで緊張感を楽しんでいる」ように見える人すらいる.ストレスに対処する能力,あるいは「生き抜く力」には,人により大小があるように思われる.

 前号まで,社会経済的因子が身体的健康に影響しており,その間をつなぐものとして,うつや主観的・心理的因子・認知が重要であることを述べてきた.その根拠は,①同じ健康状態でも,それをネガティヴにとらえ(認知し)ている主観的健康感が低い人では死亡率が高いこと,②逆にポジティヴに認知すればうつ状態も改善しやすいなど,健康を維持・回復しやすいことが実証されていること.そして,③社会経済的条件に恵まれない人ほど,ネガティヴな認知をしていることが多く,うつ状態や不安で苦しんでいる人が多い傾向があることであった.

「PRECEDE-PROCEEDモデル」の道しるべ・4

教育・生態アセスメント

著者: 神馬征峰

ページ範囲:P.569 - P.572

ヘルスプロモーションはたまねぎか?

 PRECEDE-PROCEEDモデルは,多くの健康教育理論やモデルから成り立っている.どの段階で何が用いられているか? Glanzが要約したものを表1に示す1)

 「ヘルスプロモーションはたまねぎか?」という問いは,ここから発せられる.PRECEDE-PROCEEDモデルに限らない.他のヘルスプロモーション活動モデルもまた,多くの理論を取り込んでいる.

全国いきいき事例ファイル・12 [最終回]

事例からの学び―「全国いきいき公衆衛生の会」の15年

著者: 森岡聖次 ,   金子仁子

ページ範囲:P.573 - P.575

 昨年8月の第1回から前号まで,11回にわたって事例から学ぶいきいきとした公衆衛生活動を紹介してきた.事例は,やや西日本に多かったが,岩手県1)から沖縄県2)まで日本を縦断して取り上げることができ,現場で奮闘されている読者の応援事例になったことと確信している.

 「全国いきいき公衆衛生の会」の歩み

 「全国いきいき公衆衛生の会」が設立されてから15年以上が経過している.今でも,セミナーと公衆衛生学会時の自由集会には,多くの人が集まっている.事例から学ぶこと,これは会設立以来の伝統でもあり,かつて1989年には事例集3)も刊行されている(資料)(すでに絶版).この本では,保健所の機能という側面に注目して,“保健所の10の機能”を明らかにした(表).それまでの事例報告は,単に事例が物語風に述べられているだけのものが多かったが,この本では事例を横断的に分析し,これらの10の機能を明らかにしたということが重要であった.幅広い公衆衛生活動の中から,この解明が,ひいては地域保健法の中に生かされたのではないかと考えるのは,筆者らだけではあるまい.

世界を見て,日本を見る.Public Health Opinion・7

ベルギー国の公衆衛生事情―教育機関を中心に

著者: 小川寿美子

ページ範囲:P.576 - P.577

 ベルギー国は,1830年にオランダから独立してできた,人口1,029万人ほどの九州よりやや小さめの国であり,フランス,ドイツ,オランダ,ルクセンブルクと国境を接する.ゲルマン系のフラマンとラテン系のワロンの両民族が一国に統合される形で国が成立したため,言語区的に首都ブリュッセルより北部がフラマン語(オランダ語)圏,南部がワロンのフランス語圏とに大別される1).このように小さな国でありながら,文化・言語圏が二分されており,かつ周囲を大国に囲まれている地理的影響もあり,国民は通常3~4カ国語を自由に使いこなせる.

 ベルギー国の保健医療体系は,頂点に保健省(Department of Health)があり,国立研究所としてルイ・パスツール公衆衛生科学研究所(Scientific Institute of Public Health―Louis Pasteur)がある.同研究所は,元来1897年に各種検査所が合併し設立,その後1948年に衛生・疫学研究所と改名,1997年より現在の名称となった.実際の活動は,モニタリング,疫学サーベイランス,食品・医薬品の質管理,リスク評価,保健医療データ評価など,検査に基づく公衆衛生活動が特徴である2)

資料

「高齢者」呼称の世代間差異に関する調査

著者: 勝亦百合子 ,   新井明日奈 ,   紺野圭太 ,   玉城英彦

ページ範囲:P.578 - P.582

 日本語で「高年齢に達した人」を表わす言葉は,表1に示すように40個以上もある1~4).男の老人を表す「翁(おう・おきな)」,女の老人を表す「嫗・媼(おうな)」から有吉佐和子氏の小説で流行した「恍惚の人」,その他「長老」「年寄り」「高齢者」など多岐にわたる.それぞれ,老いを客観的にとらえたもの,単に時間の長さを表したもの,老いを敬っているもの,老いを軽視したものなど,様々な意味合いが込められて使われている.最近ではほとんど使われない言葉も数多い.一方では,時代を反映した新しい造語や流行語も日常に使われるようになって,「高年齢に達した人」を意味する日本語の数は増える傾向にある5,6)

 それでは,「高年齢に達した人」を果たして何と呼ぶのが適切だろうか.昭和38年に制定された「老人福祉法」や昭和57年に制定された「老人保健法」といった一昔前に制定された法には,「老人」という言葉が使用されている.それに対して近年制定された法である「高齢者,身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(ハートビル法)」(平成6年制定)や「高齢者の居住の安定確保に関する法律」(平成13年制定)には「老人」に代わり「高齢者」という言葉が使用されている.これは,「老」という字のネガティブなイメージに対する配慮と言えるだろうが,「老」という字は元来どのような意味合いを持っているのだろうか.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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