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特集 公衆衛生対策におけるリスクコミュニケーション
食品安全とリスクアナリシス
著者: 小泉直子1
所属機関: 1内閣府食品安全委員会
ページ範囲:P.516 - P.519
文献購入ページに移動戦後しばらくの間は,冷蔵庫もなく,毎日口にする食品の安全性を疑う時,「これは腐っていないだろうか」と,まず目で確かめ,次いで臭いを嗅いでみたり,なめてみたり,触ってみたりして安全性を確認していた.しかし,冷蔵庫の普及や食にかかわる製品の衛生面が確保されるにつれて,次第に自分の五感に頼ることをやめ,賞味期限や産地,含有成分,加工方法など,すべて表示されている文字を通してその安全性を判断するようになってしまった.すなわち,自らが食品の安全性を判断するのではなくて,行政の監督の下,生産・製造者や流通業者が製品の安全性を保障してくれているはずであるという意識の下に,食の安全を判断するようになった.
したがって,いったんその保障が崩れると,食の安全にはほとんど問題がないだろうとわかっていても,心理的不安に陥ってしまうのである.その結果,消費者は被害者として意識するようになり,一部の消費者は「絶対に安全な食品を提供するのが国の努め」と,猛烈な攻撃を展開するようになる.食品安全委員会に寄せられる意見を見ても,消費者は白黒をつけやすい「表示」という問題を取り上げていることが多い.
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