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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生69巻10号

2005年10月発行

雑誌目次

特集 ウイルス肝炎

肝炎ウイルス感染症の全貌

著者: 赤塚俊隆

ページ範囲:P.776 - P.780

ウイルス発見の歴史

 18世紀以降,戦争があるたびに経口感染で広がる「流行性肝炎」の流行が記載されるようになった.第二次世界大戦になると,これに加えて血液を介する「血清肝炎」がクローズアップされてきた.大戦が終了し,細胞培養技術の進歩と共に多くの新しいウイルスが発見されていったが,肝炎については,その正体を見つけることはできなかった.

 そういった技術の代わりに肝炎ウイルスの発見に貢献したのは,人体実験である.1967年精神薄弱施設の園児を対象にKrugmanらが行った接種実験により,「流行性肝炎」と「血清肝炎」にそれぞれ対応する,MS1,MS2の2つの異なるウイルス株が得られた.この2つの株は後に他の研究者によるウイルスの発見に大きく貢献した.

輸血,血液製剤の安全性の現状

著者: 岡田義昭 ,   水沢左衛子 ,   種市麻衣子 ,   梅森清子 ,   斉賀菊江

ページ範囲:P.781 - P.785

血液製剤というと,一般的には血漿分画製剤を指すことが多いが,正確には輸血に用いられる赤血球濃厚液,濃厚血小板液,新鮮凍結血漿等の成分製剤と,血漿から製造される血漿分画製剤の総称である.過去に凝固因子製剤によってHIVやHCV(C型肝炎ウイルス)の感染が発生し,大きな社会問題になった.また,かつては受血者の約50%が輸血後肝炎になった信じられないような時代から,年間百数十万件の輸血によって数十例の肝炎(疑い例を含む)感染にまで激減した現在を考えると,確かに安全性は飛躍的に向上したといえる1).しかし,血液製剤は新薬事法において「特定生物由来製品」に指定され,各医療機関では投与記録の20年間の保管と使用にあたっては,患者へのリスク等の説明が求められており,今後もさらなる安全性の向上を目指すことが求められている.

 本稿では,輸血用血液および血漿分画製剤の安全性確保のために実施されている,対策の現状を解説したい.

血液製剤の安定供給と安全対策

著者: 河原和夫

ページ範囲:P.786 - P.789

現在輸血に用いられる輸血用血液製剤はすべて,国内の献血由来血液によって賄われているが,過去には輸入された血液製剤によるHIV感染事件もあったことは,多くの読者の記憶にも残っていることであろう.また,輸血事故も時折報道されるが,これらはいったん生じると重篤な結果を生じるとともに,行為自体が可視化しやすい面があるため,マスコミや国民の関心が高い事象である.輸血医療の安全性向上は,輸血という医療行為を改善するのみで向上するものではなく,血液製剤自体の安全品質を高めることも重要な要素となっている.

安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律(旧:採血及び供血あっ旋業取締法)の制定

 血液事業に関する法律である「採血及び供血あっせん業取締法」ができたのは,売血が主体であった1956年のことである.2002年に「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律(以下,血液法)」と名称も新たに,実に46年ぶりに改正された.改正のポイントは,①血液製剤の安全性および安定供給のための国内自給に関する国の責務に言及したこと,②血液製剤の医療現場での適正使用を推進すること,である.これらを厚生労働大臣は基本方針に定めることとなった.また,採血事業者や製造販売業者は,製造,輸入する予定の血液製剤の量や,原料血漿の確保見通しなどを厚生労働大臣に届け出て,これをもとに厚生労働大臣は,血液製剤の安定供給のための需給計画を定めることとなった.あわせて,血液製剤等の生物由来の製剤を使用する際の安全管理体制を強化するために,薬事法も改正された.

ウイルス肝炎の自然史と発がん

著者: 津熊秀明

ページ範囲:P.790 - P.797

肝がんの主要病理組織型は肝細胞がん(以下HCC)と胆管細胞がん(以下CCC)の2種類である.大阪府がん登録(1993~97年罹患患者)によれば,病理組織型が判明している肝がんの内,男では前者が90%,後者が9%,女では各々82%,16%を占めた.わが国のHCCは,B型肝炎ウイルス(以下HBV)またはC型肝炎ウイルス(以下HCV)の30~40年以上の持続感染を経た後,慢性肝炎,肝硬変に併発するものが大多数である.

 本稿では,わが国における肝がん発生の動向とその特徴について述べるとともに,肝炎ウイルス感染との関連,肝炎ウイルス感染における肝発がん発症までの自然史について述べる.また肝がん予防対策として,肝炎ウイルスのスクリーニングをどこまで行っていくべきかについて考察する.

ウイルス肝炎治療の到達点

著者: 小池和彦

ページ範囲:P.798 - P.802

肝炎ウイルスとは,ヒトに感染した時に,主に肝臓で増殖して肝臓の傷害を起こすウイルスをいう.現在までに,B,A,D,E,C型の順に5種類の肝炎ウイルスが発見され,診療の対象となっている.これらの肝炎ウイルスによって引き起こされるものがウイルス肝炎である.C型肝炎とB型肝炎で慢性化が起こるが,現在わが国においては,C型肝炎ウイルス(以下HCV)により引き起こされる慢性肝炎が最大の問題となっている.

C型慢性肝炎

 HCVキャリア,すなわちHCV持続感染者は,世界中におよそ1億7千万人,日本中におよそ180万人存在すると推定されている.

 HCVは,血液が直接体内に入ることによって感染する.その経路は,昔の輸血,HCVの混入した血液製剤,覚醒剤の注射,鍼治療,入れ墨,などである1).民間療法や脱毛処置などでも,観血的な行為でデバイスがディスポーザブルでない場合には,感染の可能性があると考えるべきである.

 HCV感染の問題点は,非常に高い慢性化率である.通常の感染で60~70%が慢性化する.輸血による感染では,ウイルス量が多いためか,慢性化は80%に達すると言われる.

ウイルス肝炎対策における地域の現状と課題

著者: 佐藤牧人 ,   吉田菊喜 ,   関根雅夫

ページ範囲:P.803 - P.807

行政はこれまでにもB型肝炎の母子垂直感染防止等の施策に取り組んできたが,ウイルス肝炎予防のために知識の普及啓発,生活習慣の見直し,ワクチンの予防接種,および環境衛生向上などの公衆衛生対策が重要なことは言うまでもない.しかしC型肝炎による肝がんが増加している現在,平成14年度の厚生労働省「C型肝炎等緊急総合対策」を契機として,行政の取り組みはウイルス検査体制の充実や治療ネットワークの構築などを目標とする,新たな段階に突入したと言える.本稿では,仙台市の最近の状況と課題を説明したい.

仙台市におけるウイルス肝炎の疫学的状況

 1. 感染症発生動向調査

 1999(平成11)年4月より施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)に基づく感染症発生動向調査において,全数把握の4類感染症として急性ウイルス性肝炎患者の診断に際して,全医師による届出が義務付けられた.人口約100万人の仙台市では,平成11年30件,12年18件,13年27件,14年30件,15年12件の届出があった.

 ウイルス別では14年はA型13件,B型16件,C型1件であった.16年からはA型とE型は4類感染症,その他はウイルス性肝炎として5類に分類が見直されたが,A型1件,B型5件,C型1件,E型1件の8件であった.仙台市においてはこれまでにE型肝炎患者が2名報告され,糞便と血液からE型肝炎ウイルス遺伝子を検出している(うち1例はⅢ型であることが判明)が,いずれも海外渡航歴やブタ・シカ・イノシシ等の臓器や肉の生食は否定され,原因は不明であった.

医療現場における輸血,血液製剤の使用に関する問題点と今後の課題

著者: 浜六郎

ページ範囲:P.808 - P.813

医療現場における輸血の問題は,きわめて複雑多岐な問題を抱えている.大きく分けて,生体成分を他者の体内に注入する臓器移植としての側面(それによる免疫的反応)と,血液を介する感染症の問題である.

 本特集はウイルス肝炎の特集であり,本稿では血液製剤の感染症を中心に,現場での使用上の問題点を述べる.

 筆者は非A非B型輸血後肝炎の院内多発に端を発し,1980年から約10年間,医療現場で輸血後肝炎問題に集中的に取り組んだ.当時の輸血にかかわる問題がその後どのように解決され,2002年の血液新法の制定(2003年施行)を経てどのように解決されてきたか,あるいはまだ解決されずに残されているのかを見た上で,その後新たに発生してきた重要な課題についても考察してみたい.

視点

青の洞門

著者: 原田久

ページ範囲:P.770 - P.771

先日,10年ぶりに高校の同級生から電話があった.仲の良かった一人が死んだという連絡だった.舌がんだったそうだ.高校時代,私は彼と一緒に授業をサボって,タバコを吸いながらテレビゲームに興じていた.彼は結婚1年目で,3カ月の赤ん坊がいるそうだ.私にも1歳半になる子どもがいる.もしかしたら,その死は彼ではなく,私だったかもしれない.

 タバコは,安全規制がない特殊な商品である.生涯に,その使用者の半数を殺す異常な商品である.タバコ対策は,公衆衛生上の最重要課題のはずである.

特別寄稿

21世紀の健康増進―QOL Promotion

著者: 野尻雅美

ページ範囲:P.815 - P.819

20世紀,生命の量を求めて

 20世紀は疾病対策の世紀であり,その成果は生命の量の大幅な増大となった.1986年,WHOはオタワ憲章を採択し,「Health for All by the year 2000」の実現に向けて,Health Promotionを世界に発信した.健康づくりへの歩みである.しかしながらその夢は果たせないままに21世紀を迎えた.そこで急遽,WHOは「Health for All in the 21st Century」1)と着地点を先延ばしにした.わが国はこれを受けて2000年に第三次国民健康づくり対策である「健康日本21」を立ち上げた.そして現在,国民の幅広い力を結集して大展開中である.

 ところで,健康とは摑めそうで摑めない概念である.21世紀はゲノムの世紀,科学・医学は健康を手に摑むことができるであろうか.20世紀半ばにフランスの細菌学者として有名なRune’ Dubosが「健康は幻想である」2,3)と明言した.筆者は30年ぶりにその本を書棚から取り出して読み直した.その論旨は,21世紀にも生きていた.

 筆者は幻をもつことを否定しようとは思わない.だが,いつ得られるかわからぬ未知への飽くなき追求もさることながら,生を受けた人間として,その生存に満足し,幸福に,安寧に生きることができれば,それで良しとすべきでないかとも考える.QOL(生活の質,人生の質,生命の質)の高い生活を求めることが,幻を求めることよりも,より現実的な生き方のように思えるからである.

連載 Health for All―尾身茂WHOをゆく・19

深刻な健康問題―自殺

著者: 尾身茂

ページ範囲:P.772 - P.773

図に示すグラフを見ていただきたい.これは,日本における人口10万人あたりの自殺による死亡者数であり,平成5~9年の5年間の17.6人から,平成10~14年の5年間の24.6人と約4割の増加を示している.このような急激な死亡数の増加は,インフルエンザのような感染症の大流行や,戦争のようなきわめて特殊な要因でしか起こらないのが通常であるが,近年,日本での自殺者の数が増大し,大きな社会問題になっていることは承知のとおりである.

 実際,日本の自殺者は年間約3万人を推移しており,1日あたり約80人が自殺している計算になる.その背景として,失業者の増加など,昨今の厳しい社会・経済状況が指摘されている.しかし,こうした自殺の増加は,不況に悩む日本のみの現象ではない.例えばサンゴ礁に囲まれた地上の楽園といったイメージの強いマーシャル諸島などの南太平洋島嶼国や,北欧の成熟した豊かな国として知られるフィンランドなどでも自殺が増えている.

公衆衛生ドキュメント―「生きる」とは何か・19

―水俣病から50年①―水俣病を記録して45年

著者: 桑原史成

ページ範囲:P.774 - P.774

来(2006)年の5月1日に,水俣病の公式的な発見から50年を迎える.

 私が初めて水俣を訪れたのは,1960年の夏であった.この時点ですでに発生から4年が経過していた.当時,水俣病は不知火海の奇病とも言われた段階を過ぎ,チッソ(新日本窒素肥料)の水俣工場から排出された有機水銀が原因ではないかと報じられ始めていた.患者が多発した地域や住民は,漁村部落の漁民家族が主で,水俣湾内で獲れた魚貝類に起因しているであろうことは素人の私にも想像できた.

グローバリゼーションと健康・10

グローバリゼーションと食

著者: 丸井英二

ページ範囲:P.821 - P.824

問題のありか

 食べることは,あらゆる人間にとって避けることのできない日々の営為である.いかなる高邁な哲学も,政治も経済も,食べることを前提としている.まさしく「腹が減っては戦はできぬ」なのである.その意味だけからでも,食の問題は世界の人々すべてに共通するグローバルな問題である.

 食の問題はさまざまな側面をもっている.個人が生物として生存するための最低基礎条件であるとともに,グルメに代表されるような付加価値としての文化的意味づけがなされている.きわめて広いスペクトラムの中で語られなければならないテーマである.さらに,モノとしての食料は農業や漁業を基盤として,健康が自然環境とかかわるもっとも基本的な経路であるはずである.にもかかわらず,先進国を中心とした大規模な近代工業化によって,おびただしい種類と量の加工食品が世界的に流通していることも,別の側面として忘れてはならない.

日本の高齢者―介護予防に向けた社会疫学的大規模調査・10

ストレス対処能力SOC(sense of coherence)と社会経済的地位と心身健康

著者: 吉井清子 ,   近藤克則 ,   平井寛 ,   松田亮三 ,   斎藤嘉孝 ,   村田千代栄 ,   「健康の不平等」研究会

ページ範囲:P.825 - P.829

本稿では,健康に影響する個人のストレス対処能力とされているSOC(sense of coherence)に注目し,分析を進める.

 人々は人生を健康に生き抜くために,いろいろな健康資源を活用している1,2).ここでの健康資源とは,人々が健康を保つために活用できるモノ・情報・対人関係などである.例えば,ある重大な疾患に罹ったとき,お金や人脈がある人ほど,適切な医療機関にかかり死や障害を免れる可能性が高くなると考えられる.このような健康資源には外的資源と内的資源がある1,3).内的資源としては,ヘルス・ローカス・オブ・コントロールや自己効力感がよく知られているが,最近日本でも注目されてきているのが,ストレス対処能力SOC1,4,5)である.

医師が保健所研修にやってくる―ピンチをチャンスに変える保健所を目指せ!・5

健康危機管理

著者: 古屋好美

ページ範囲:P.830 - P.834

とうとう研修医がやってきた

 とうとうわが保健所にも研修医がやってきた.医師は所長1人という保健所に,研修医と言えども同職種が来るのである.うれしくない訳がない.本音を言うと,大部分はうれしいが,保健所に研修医を迎えるのは初めての体験なので,ちょっとだけanxiousだった.なにしろ全人的医療ができる医師を育てるという目標の「地域保健・医療」研修である.私が臨床医だった時代には大勢の研修医が大学病院にいるのは当たり前で,周囲には大勢の仲間の医師がいた.指導医が1人だけの保健所で日常業務をこなしながら,うまく研修を指導できるだろうか.そういうときに威力を発揮するのが,石川中央保健所川島ひろ子所長が書いた,本シリーズ1~4(本誌69巻6~9号)である.まだお読みでない方は是非ご一読いただきたい.また,同保健所のホームページに研修医による研修後の感想が載っているので,お読みいただきたい.

 私は「全人的医療,公衆衛生マインド,公衆衛生と医療の接点,医療を外から見せる」と,研修が始まる前から職員に何度も唱えてきた.「公衆衛生マインドを持ち,衛生法規をよく理解して実践し,生活者としての地域住民や患者の心がよくわかり,保健・医療・福祉の連携において地域のリーダーになれる医師」になってもらうために,何をどのように研修してもらうか,職員もそれぞれ考えてくれた.そして,その視点での研修が始まった.

 開始後,すでによい影響が双方に芽生えているように思う.研修医は公衆衛生,衛生法規,そして保健所の仕事を理解しようとひたむきに研修している.職員も自ら勉強し,医師に必要な視点を考えながら対応してくれている.人に何かを教えようとすれば,その何倍も勉強せざるを得ないのである.職員もこれまで法規という,ある意味では一見狭い出入り口に見えていた医療と保健所との関係が,実は間口が広いものだという感覚を持ち始めている.所長はいつも職員に唱えるとよい.「全人的医療,公衆衛生マインド,公衆衛生と医療の接点,医療を外から見せる」と.

現場が動く!健康危機管理・5

自然災害―沖縄の台風対策

著者: 高江洲均

ページ範囲:P.835 - P.838

地域で発生した健康危機に関して,迅速に対応できる体制づくりや自然災害への取り組みが,保健所機能としての課題となっています.平成15年に大型台風14号が宮古島(図1)に襲来し,まさに危機管理現場となりましたが(写真1),宮古福祉保健所では,トライアスロン宮古島大会医療救護部の仕組みを活用して,被災患者に対応しました.今回はその取り組みの報告と,台風災害を教訓に災害対策マニュアルを作成しましたので紹介します.

台風14号の概況と被害状況

 平成15年9月10~11日にかけて宮古島を襲った台風14号は,宮古島気象台で最大瞬間風速74.1m/sが記録され,中心気圧も912hpaと低い値を観測し,宮古島地方の被害はここ数十年以来の甚大なものとなりました.死傷者は死亡1人,重傷7人,軽傷89人となり,住家では全壊18棟,半壊86棟,一部損壊1,206棟の被害を受けました.また,宮古島のほぼ全世帯に当たる21,400世帯(ピーク時)で停電し,さらに伊良部町と城辺町では,ほぼ全世帯に当たる4,926世帯で断水しました.通信関係では,4,038世帯で電話が不通になった他,基地局の停波(停止)で,携帯電話もつながりにくい状態でした.

 当福祉保健所では,停電によりサーバー・FAXが使用不能になったため,自家発電機を備え,非常電源が使用できる宮古病院で9月11日13時30分,宮古地区医師会,県立宮古病院,宮古広域消防組合と合同で「宮古地区医療救護本部」を設置し,災害弱者(高齢者・一人暮らし障害者・透析患者・在宅酸素療養患者)の安否の確認を市町村と連携をとりながら把握し,処遇に努めました.民間の医療機関・福祉施設についても被害状況調査を実施するとともに,被害を受けた施設の患者の受け入れ体制等を確保し,関係機関に情報提供を行いました.

性のヘルスプロモーション・4

[インタビュー]家族,地域社会の機能再生を

著者: 山谷えり子 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.839 - P.844

岩室 私は公衆衛生医として学校現場で子どもに向けて性の話をし,また泌尿器科医として臨床現場で性感染症やエイズの方の診療もしていますが,日本の若者が直面する性の問題を克服するには,子ども一人ひとりを,性教育と,家庭や地域社会の力という2つの側面から支えていく必要があると考えています.山谷先生が繰り返しご指摘なさっておられるように,現在コンセンサスが得られていない性教育があることも事実ですし,先生が政策理念に掲げられているように,家庭や地域社会の機能を再生することが,性の諸問題の解決に不可欠だと思います.

 しかし,ではどうすればよりよい方向に向かえるのかとなると,具体的な方法論がなかなか見えてきません.今日はそのあたりについて,先生のお考えを伺えましたらと思います.

衛生行政キーワード・12

結核予防対策の最近のトピックス

著者: 前田光哉

ページ範囲:P.845 - P.847

関係者皆様のご協力を得て,平成17年4月に改正された結核予防法が施行されていますが,関係者におかれましては,法改正の趣旨,その内容および法解釈などを踏まえ,法令遵守,適正な法律の執行および公費負担医療の確保を図られるよう要請いたします.

ツベルクリン(ツ反)の廃止

 改正前は,ツベルクリン(以下ツ反)は結核に感染している者を特定し,感染者に接種をせずに,結核に対し免疫のない者(陰性の者)に限り,接種を行うために実施されてきた.

赤いコートの女―女性ホームレス物語・14

ホームレス仲間の支援

著者: 宮下忠子

ページ範囲:P.848 - P.849

モミの木の下で

 同居者の平沢さんをアパートから追い出した波さんは,衣類をバックに詰めて,毛布2枚を持って,昼間に姿を消していた.

 波さんは「アパートから出て行く」と言い続けていたそうだ.行き場所はわかっている.以前から野宿していた公園に違いない.どうすべきか思案した.福祉関係や保健所関係の専門家たちと,連係プレーでやっと辿り着いたアパート生活だった.やはりあの公園のモミの木の下にいると思われる波さんを迎えに行くか,自主的に帰宅に導く方法を考えるしかない.強引に帰宅を促すことは逆効果だと考えた.方法は1つ,私は実行に移した.

フォーラム

ローカル・マニフェストを通じた地域の健康づくりの推進方策

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.850 - P.854

ローカル・マニフェストとは何か?

 「ローカル・マニフェストを通じ,国民にとってわかりやすく,参画しやすい選挙と政治の実現を目指す」.18の都道府県知事を含む185人の地方自治体の首長は高らかに宣言した.宣言が行われたのは,2005年2月4日に東京都内で行われた「ローカル・マニフェスト推進首長連盟」結成大会でのこと.首長連盟は,増田寛也岩手県知事,石田芳弘犬山市長,おお坂誠二ニセコ町長(当時)を代表発起人に,早稲田大学マニフェスト研究所(所長:北川正恭前三重県知事)などが呼びかけを行って結成された組織である.

 最近,選挙の際に政党や首長立候補者が政権公約を行う「マニフェスト(政策綱領)」を掲げる動きが出てきている.マニフェストは,具体的に政策実現の時期と財源を示し,「いつまでに何をやるか」を有権者に約束する契約である.候補者同士がそれぞれ「マニフェスト」を掲げて政策を競い合うことにより,選挙の質とその後の政策運営の質を高めることを目指す.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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