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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生69巻10号

2005年10月発行

文献概要

特別寄稿

21世紀の健康増進―QOL Promotion

著者: 野尻雅美1

所属機関: 1桜美林大学大学院国際学研究科老年学専攻

ページ範囲:P.815 - P.819

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20世紀,生命の量を求めて

 20世紀は疾病対策の世紀であり,その成果は生命の量の大幅な増大となった.1986年,WHOはオタワ憲章を採択し,「Health for All by the year 2000」の実現に向けて,Health Promotionを世界に発信した.健康づくりへの歩みである.しかしながらその夢は果たせないままに21世紀を迎えた.そこで急遽,WHOは「Health for All in the 21st Century」1)と着地点を先延ばしにした.わが国はこれを受けて2000年に第三次国民健康づくり対策である「健康日本21」を立ち上げた.そして現在,国民の幅広い力を結集して大展開中である.

 ところで,健康とは摑めそうで摑めない概念である.21世紀はゲノムの世紀,科学・医学は健康を手に摑むことができるであろうか.20世紀半ばにフランスの細菌学者として有名なRune’ Dubosが「健康は幻想である」2,3)と明言した.筆者は30年ぶりにその本を書棚から取り出して読み直した.その論旨は,21世紀にも生きていた.

 筆者は幻をもつことを否定しようとは思わない.だが,いつ得られるかわからぬ未知への飽くなき追求もさることながら,生を受けた人間として,その生存に満足し,幸福に,安寧に生きることができれば,それで良しとすべきでないかとも考える.QOL(生活の質,人生の質,生命の質)の高い生活を求めることが,幻を求めることよりも,より現実的な生き方のように思えるからである.

参考文献

1) WHO homepage. Health For All in the 21st Century-HOME, 1998
2) Rene’ Dubos: Mirage of Health, Utopias, Progress, and Biological Change. Rutgers University Press. New Jersey pp258-282, 1959(Fourth printing1996)
3) ルネ・デュボス:健康という幻想. 田多井吉之介(訳), pp193-211, 紀伊国屋書店, 1964
4) 臼井寛, 玉城英彦, 河野公一:WHO憲章の健康定義が改正に至らなかった経緯. 日本公衛誌47: 1013-1017, 2000
5) Downie RS, Tannahill C, Tannahill A: Health Promotion, Model and Values. pp20-21, Oxford University Press, New York, 1996
6) 野尻雅美:生態的健康観―21世紀の健康観. 日本公衛誌 50: 79-82, 2003
7) 野尻雅美:高齢者の健康増進, QOLプロモーション. 桜美林大学シナジー 4: 57-69, 2005
8) 柴田博:高齢者のQOL. 日本健康医学会雑誌 6: 12-13, 1997
9) 柴田博:中高年健康常識を疑う:講談社選書メチエ p114, pp160-164, 2003
10) Larson R: Thirty Years of Research on the Subjective Well-Being of Older Americans. J of Gerontology 33: 109-125, 1978
11) 野尻雅美(共同研究者):厚生科学研究費補助事業, 農村におけるライフスタイルの分析とヘルスプロモーション技法の開発に関する研究―静岡県西伊豆地域住民の健康と生活(第二報)(山根班), pp34-44, 1995
12) マズロー(著), 小口忠彦(監訳):人間性の心理学. 産業能率短期大学出版部, 1971
13) グリーン, クロイター(著), 神馬征峰他(訳):ヘルスプロモーション. pp47-58, 医学書院, 1997

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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