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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生69巻11号

2005年11月発行

雑誌目次

特集 感染症情報

感染症サーベイランス

著者: 永井正規

ページ範囲:P.864 - P.869

感染症サーベイランスとは,感染症への有効な対策を行うため,感染症の発生状況を継続的に把握,監視することである.わが国では1981年に主に小児の急性感染症18疾患を対象とした「感染症発生動向調査事業」が開始されたことをもってこれが始まったと言われることもあるが,伝染病予防法(1897年),トラホーム予防法(1919~1983年),寄生虫病予防法(1932~1994年),性病予防法(1948年),結核予防法(1951年)などによって,医師の届出にもとづく発生状況の把握,それに応じた対策は行われていたわけで,実質的な感染症サーベイランスは古くから行われていたと解釈すべきである.

 1999年4月「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症予防法)」の施行,伝染病予防法,性病予防法,エイズ予防法の廃止(統合)によって,これまで行われていた感染症サーベイランスが体系化された.「感染症発生動向調査事業」も感染症予防法の中に組み込まれ,明確な法的根拠が与えられることになった.

 本稿では,まずわが国における,現行の感染症サーベイランスシステム(体系)を概括する.そしてこれはこのシステムの中のごく一部,特に主要,最重要目的からするとやや外れた部分に当たるのであるが,定点把握対象疾患の全患者数推計,警報・注意報発生システムについて説明する.もちろん,感染症対策を行うための感染症サーベイランスとして,国内だけで発生状況の把握を行うだけでは十分でない.WHOを中心とした国際感染症サーベイランスが行われており,わが国はこれに協力し,情報を取り入れ,かつ発信している.ここでは国外の発生状況の把握システムについても触れない.

アウトブレイク対応における感染症情報の確認(verification)とは

著者: 砂川富正

ページ範囲:P.870 - P.874

地域で感染症・食中毒が集団発生したり,または孤発であってもそれが重症感染症であったりする場合(これらは共に「アウトブレイク」と呼ばれる),自治体や国の担当者あるいは専門家は,これらの初期情報をどのように検知しているだろうか.地域単位になるほど,当事者からの電話等による連絡が直接届き,逆に広範囲をカバーするようになるほど,同様な症状を示す患者が地域や医療機関で集団発生をしたことを報道する情報(行政による記者発表を含む)が第一報かもしれない.アウトブレイク対応の要素の1つは,迅速な情報の探知であり,この時点での情報対応の内容が,その後の被害を小規模にとどめ得るか,あるいは不要な対応を見極めるかどうかの1つのポイントとなる.

 特に近年,SARS(重症急性呼吸器症候群)や鳥インフルエンザなどを始めとする新興感染症が,外国のみならず国内でも全く同様に発生し得ることが認識されるに伴い,より迅速かつ専門的な情報の取り扱いが必要になってきていると言えよう.

 本稿では,特にアウトブレイク情報の検出について,国内においてどのような対応が考えられるかを前段に,世界的にどのような仕組みでの努力がなされているかを後段に述べてみたい.特に後段は,WHOの活動を中心に概観する.いずれにおいても重視される点として,「症候群を含むうわさ情報などについてもこれを収集」し,「積極的に確認する(=verification)」という作業である.

 感染症に国境はなく,また国際協調が欠かせない.WHOのアウトブレイク情報の取り扱いの仕組みの理解が,特に国内でのよりよいアウトブレイク情報の収集・確認・対応のあり方への参考となれば幸いである.

感染症情報の利用に関する調査

著者: 佐藤卓 ,   笹島尚子 ,   田沢光正

ページ範囲:P.875 - P.878

岩手県結核・感染症情報センターは,平成14年2月に県庁保健衛生課から岩手県環境保健研究センターに移設されました.以来,感染症情報の広報は,主に,地方紙に掲載する週1回のコラム,ホームページ,メールマガジン(週刊)などを利用して行ってきました.しかし,情報の受け手側から,発信元である情報センターに対する意見・要望等は少なく,われわれが提供している情報がどの程度受け手側のニーズに合致しているかは不明でした.

 この調査は,岩手県結核・感染症情報センターがこれまで行ってきた感染症情報の広報業務について評価するとともに,今後,より効果的な感染症情報の提供を行うため,県民の感染症情報の利用に関するニーズを明らかにすることを目的として実施しました.

インターネットを利用した感染症発生動向調査情報の提供

著者: 神谷信行 ,   池田一夫 ,   灘岡陽子

ページ範囲:P.879 - P.883

近年,鳥インフルエンザ,ウエストナイル熱,重症急性呼吸器症候群(SARS)など新たな感染症の発生が報告され,日本国内への伝播が懸念されている.一方,国内においてはインフルエンザ,感染性胃腸炎,麻しんなどの発生動向が注目されており,常にこれら感染症の動向に注意を払う必要がある.さらにバイオテロリズムの危険性をも考慮しておく必要がある.

 感染症のアウトブレイクを未然に防止し,その危険性がある場合には迅速な対応ができるように,平常時から感染症の発生を速やかに探知し,かつ対応することができる体制を確立する必要がある.さらに感染症発生動向調査により集積された情報を,可能な限り速やかに医療機関や地域住民に提供するとともに,その情報をより簡便に利用できることが求められる.

 一方,インターネットの普及はこの数年で急速に進み,2004年の世帯普及率は52.1%と半数を上回った1).自治体における情報機器の整備も進み,68.6%で,職員1人1台体制が整っている2).このような状況の中,インターネットを利用して感染症情報を提供することは,迅速性,利便性の上で非常に効果が高いと考えられる.

 東京都感染症情報センターでは,感染症発生動向調査で収集した情報をWebサイト上に構築したデータベースシステムに集積し,その情報を容易に入手可能なシステムとして「Web版感染症発生動向調査」の開発を行った.

地域における平常時防疫体制の強化

著者: 広松恭子

ページ範囲:P.884 - P.888

感染症は日常的に発生している.その中でも健康危機と定義されるような大規模な感染症事件が発生する前の段階を平常時と位置づけ,国,都道府県,市町村,各レベルでそれぞれの平常時対策が行われている.保健所で行っている平常時対策は,感染症発生動向調査,積極的疫学調査,施設調査・研究,知識・技術の普及啓発に分けることができる.これらの活動は並行して行われることで,相互に有機的な関連をもち,相乗効果が期待できる.

 感染症発生動向調査は通常,法定定点情報を集めている地方衛生研究所レベルでデータ処理を行っているが,八王子保健所では八王子市医師会小児科部会の協力のもと,法定定点に独自定点を加えて定点数を増やし,2003年1月より独自に小児感染症発生動向調査事業を開始した.この事業を柱に,定期的な情報の収集,解析,還元を行い,地域ネットワークの構築を含む平常時防疫体制の強化に努めている.

保健所における麻疹ワクチン接種率向上に向けた取り組み

著者: 安井良則

ページ範囲:P.889 - P.894

麻疹,風疹をはじめとするワクチン予防可能疾患に対する最も効果的な対策は,ワクチンを接種することである1).予防接種法によって定められた定期予防接種は,市町村が住民に対して実施することとされている.筆者は,平成11年4月から平成16年11月までの間,堺市の保健所に勤務していたが,堺市は保健所政令市であり,昭和23年より市が保健所を設置しているため,予防接種についても保健所が中心となって業務を実施してきた.

 平成11年12月から平成12年11月にかけて,大阪では麻疹が流行した.この流行は堺市を発端にしたものであるといわれており,翌平成13年より,前年の大阪の麻疹流行状況の調査に,現在ジュネーブにあるWHOに出向している砂川富正医師と共同で着手するとともに,堺市の1歳6か月児健診,3歳児健診を利用して,麻疹ワクチン接種の適応年齢児の保護者に対する麻疹および麻疹ワクチンに対する意識調査であるKAP study2)※注を行った.その結果をもとにして,その後様々な調査や対策を行っていくこととなった.

 本稿ではこのKAP studyの結果を紹介し,その調査後に行った対策について言及していく.

HIV感染予防対策と情報―性生活習慣病予防対策における「施策評価」「リスクコミュニケーション」ツールとしての情報活用

著者: 橘とも子

ページ範囲:P.895 - P.899

はじめに

 1. HIV感染予防対策推進における自発的HIV検査相談事業の重要性

 1981年にエイズ(後天性免疫不全症候群)患者が米国で初めて報告されて以来,日本において実施されてきたHIV予防対策は,①開始導入期,②エイズ予防法(後天性免疫不全症候群の予防に関する法律)期,③感染症新法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律:平成11年施行)期,という3期に大別できる.①,②期においては,HIV/AIDSに対する差別・偏見対策が前面に立った社会予防的観点,言うなれば「管理」から対策が開始され,基盤が整備された.次いで③期に入った今日では,HIV感染はHAART(=highly active antiretroviral therapy)の普及等により,もはやすでに死に至る病ではなく,慢性性感染症の一つとして位置づけられるようになり,人権の尊重や感染早期発見・発症予防手段の出現を背景として,個人が主体となって行う予防行動を,専門家等が「支援」する法的体系が整えられたと言える.

 検査相談施策は,検査相談サービスの利用者にとってカウンセリングや医療への架け橋となる等,さまざまなケアや支援につながる入り口(gateway)となる点からも,重要なHIV感染予防施策1)と位置づけられている.現在,保健所等を拠点に全国提供される自発的HIV検査・相談(=以下「HIV-VCT: Voluntary counseling and testing」)事業の提供窓口は,2003年10月現在,653か所設置済みである.しかしながら,HIV感染者・AIDS発症患者とも増加しているにもかかわらず,検査総数は1996年以降横ばいと報告されており2),また新規AIDS患者の80%は感染を知らなかった(2000年)3)との指摘から,HIV-VCT推進策が求められている.

気候の変化と感染症発生動向との関連について

著者: 大野賢次

ページ範囲:P.900 - P.903

感染症の予防対策を的確に推進するには,感染症発生動向による流行の発生を事前に迅速・的確に予測することが重要である.その流行予測が可能であれば,感染症の拡大を未然に防止することができる.

 現在,感染症の予防対策の一環として,定点医療機関から発生数や病原体の感染症発生情報を収集・分析し,週報や月報として第一線の医療機関や県民に情報を提供している.感染症情報として一定の役割を果たしているが,これからの予防対策として,気候と感染症など予測に向けたタイムリーな情報提供がますます重要となってくる.

 本稿では,気候と感染症発生動向について,相関や回帰分析など統計的な手法により検討し,的確でタイムリーな予防情報につなげることを目的とする.

視点

介護予防事業への取り組み―総合的・体系的な介護予防事業を目指して

著者: 成田友代

ページ範囲:P.858 - P.859

平成17年6月22日,改正介護保険法が参議院本会議において可決,成立した.改正の骨子は予防重視型システムへの転換であり,来年4月の施行に向け,各自治体で新たな制度への対応に忙殺されていることと思う.

 東京都中央区保健所では東京都老人総合研究所「介護予防緊急対策室」の技術支援を受け,福祉部と連携し,平成17年度より先駆的に介護予防事業に取り組んでいる.先行自治体が少なく,介護保険制度改正の内容も明らかでない中,新たな高齢者向けの健診やマシーンを使用したトレーニングの導入,地域に根付いた介護予防システムの構築など,課題の多い事業を短期間で企画・実践するには,業務量もさることながら,多くの困難があった.

 本稿では,特に苦労した企画過程を中心に,本事業に対する私見を述べてみたい.

特別寄稿

薬害肝炎訴訟を追う

著者: 江刺正嘉

ページ範囲:P.904 - P.907

汚染された血液製剤によるC型肝炎ウイルス(HCV)感染をめぐり,国と製薬企業の責任を問う全国5地裁の薬害肝炎訴訟が大詰めを迎えている.サリドマイド,スモン,HIV(エイズウイルス),ヤコブ病と薬害が繰り返される中で,原告側は「薬害を根絶する最後の裁判」と位置づける.5地裁で最も審理が進んでいる福岡地裁では今年10月に証拠調べが終了,来年2月にも結審し,秋までには初めての司法判断が示される見通しだ.最初の提訴からまもなく3年.5地裁での審理はC型肝炎をめぐる国や製薬企業の対応の問題点を浮き彫りにするとともに,裁判の迅速化や国の情報公開のあり方にも課題を投げかけている.

相次ぐ専門家の重要証言

 昨年8月31日と翌9月1日の2日間,フィブリノゲン製剤の製造承認を早々と取り消したアメリカ食品医薬品局(FDA)の当時の責任者が,東京地裁の証言台に立った.

連載 Health for All―尾身茂WHOをゆく・20

―SARS制圧までの道④―中国とのやりとり

著者: 尾身茂

ページ範囲:P.860 - P.861

重症急性呼吸器感染症(SARS)については,2005年4月号の本欄で述べたように,中国政府から公式な情報が得られないまま,2003年3月上旬から中旬にかけて,ハノイ,香港,シンガポール,トロント,さらには台湾や北京および中国内陸部へと感染が拡大したため,4月2日に香港,中国広東省に対してWHOが発効した渡航延期勧告についての顚末を書いた.このSARSの騒動の中で,国際社会で最も注目を集めたのは中国の対応であったが,今回はその中国政府との緊迫した交渉を中心に,個人的な体験を話そう.

 実は,SARSが問題になるかなり以前から,私と中国の当時の張文康衛生相(日本の厚生大臣に相当する)の2人が,2003年3月20日に行われるある式典に香港政府から正式に招待されていた.2人に対し,香港医科大学の名誉特別会員の称号を授与するというのがその目的だった.3月20日が近づいてきた.しかし私は,このSARSの騒動の中,香港の衛生関係者が文字通り忙殺されていることは知っていたし,私のほうも,この大事な時期に,自分の授与式典参加のためマニラを離れることは問題外と思ったので,式典の1週間前に,香港のマーガレット・チャン保健局長(当時)に断りの電話を入れた.しかし彼女は,電話口で「Dr.尾身,とんでもない.授賞式の準備は整っており,絶対来てもらわなくては困る.中国の張衛生相も夫婦で参加することになっている」という(おそらく,「香港に渡航しても安全」ということを示したい政治的な配慮もあったのだと思う).

公衆衛生ドキュメント―「生きる」とは何か・20

―水俣病から50年②―水俣病との出会い

著者: 桑原史成

ページ範囲:P.862 - P.862

私が「水俣」と関わることになった経緯を,今回述べさせていただく.1960年,社会に出て間もない春のこと,1冊の『週刊朝日』(1960年5月15日号)との遭遇から始まる.それは,「水俣病を見よ」と題した特集のルポ記事で,私はむさぼりつくようにしてそれを読んだ.

 そこには,水俣病が公式に確認されてから4年が経過し,不知火海沿岸の漁民たちは業病に侵され,短期間に死亡した患者や,市立病院に“収容”された人たちの実情が記されていた.私は活字を追うに従って,体の中に熱い戦慄が激しく走るのを覚えた.日本の近代化と経済の急速な成長下で起きた歪みであると確信した.

グローバリゼーションと健康・11

グローバリゼーションと薬―薬におけるもうひとつの「開発」

著者: 白岩健 ,   川島今日子 ,   津谷喜一郎

ページ範囲:P.908 - P.913

日本で医薬品分野のグローバリゼーションと言うと,新薬の世界同時開発を思い起こすことが多いだろう.いまや製薬企業は世界レベルで統合され,医薬品に国境はなくなりつつある.海外データのブリッジングによる医薬品承認も増加してきた.

 このような同時開発を可能にした一因は,1990年からスタートした日米EU医薬品規制調和会議(the international conference on harmonisation of technical requirements for registration of pharmaceuticals for human use: ICH)である.ICHは,日米欧三極における新薬開発の規制要件を整合化することでデータの相互受け入を容易にするとともに,審査を迅速化することを目的としており,「医薬品の臨床試験実施に関する基準」(good clinical practice: GCP)」の標準化など,様々なガイドラインが作成されてきた.このような医薬品規制の整合化は,医薬品という「もの」(化合物)の開発におけるグローバリゼーションを促進してきた.

日本の高齢者―介護予防に向けた社会疫学的大規模調査・11

ソーシャル・キャピタルと健康

著者: 市田行信 ,   吉川郷主 ,   松田亮三 ,   近藤克則 ,   平井寛 ,   斎藤嘉孝 ,   村田千代栄 ,   竹田徳則 ,   石井加代子 ,   中出美代 ,   「健康の不平等」研究会

ページ範囲:P.914 - P.919

多くの公衆衛生関係者は,ヘルスプロモーションなどの住民・職員を巻き込んだ運動が,進みやすい地域・職域と,そうでないところがあると感じているのではないだろうか.それを決める要因には様々なものが考えられるが,人々のまとまりの良さは重要な要素であると思われる.一般的に,お互いを信頼することができ,困ったときには助けあう関係があり,そして,ふだんから積極的な交流のあるほうが,住民間での協力的な行動につながりやすい.こうした要素がソーシャル・キャピタル注1)と呼ばれ,多くの分野で注目されている.

 ソーシャル・キャピタルとは,簡潔に表せば「人々の自発的協力を促す要素」を指し,これが豊かなところほど,社会の様々な側面で良い結果を導くという考えである.公衆衛生の分野でもソーシャル・キャピタルが豊かな地域で死亡率が低いこと1,2),日本の都道府県レベルでもソーシャル・キャピタルが豊かなところで,65歳以上女性の平均余命が長く,合計特殊出生率が高いこと3),などが報告されている4)

医師が保健所研修にやってくる―ピンチをチャンスに変える保健所を目指せ!・6・最終回

地域の存在

著者: 古屋好美

ページ範囲:P.920 - P.923

保健所から見える地域

 地域で起きていることは,常に私たち公衆衛生に携わるものにとって仕事の原点であり,学びの宝庫である.これは,臨床医が常に患者から学び,患者のために仕事をしていることと通じる.

 地域で患者がどのように生活しているか,研修医はあまりよく知らない.医師が臨床の世界からまるまる抜け出して,外側から医療や社会を客観的,総合的に見られる場所として,保健所は最適である.研修医は,保健所研修に来ることによって,患者=生活者=住民という,言ってみれば当然の視点を身につけることができる.地域の中で患者がどのような生活をしているか,間近で見ることができるのだ.これは,臨床の世界ではできない作業であり,保健所研修にくる大きな意義がここにある.その後研修医が臨床の道を選んだとしても,保健所での体験,生活者としての住民・患者・障害者の本音を聞いたことや,その考え方や行動に触れたことなどは,臨床医としての将来にきっと役立つ.

現場が動く!健康危機管理・6

健康危機時に求められる保健活動―保健師の健康危機事例への関与の実態から見えてきたもの

著者: 宮﨑美砂子

ページ範囲:P.924 - P.927

健康危機への対応は,保健所を中核とする組織的な活動である.組織がもつ総合的な技術力と機動力を十分に発揮してこそ,迅速で的確な対応が可能となる.筆者はこの数年,保健所組織の中でも,対人援助の技術を活かして活動を展開する,保健師の対応実績を検証してきた.

 本稿では,保健師の健康危機事例への関与の実態を通して,健康危機時に求められる保健活動として重要となることを整理してみたい.

衛生行政キーワード・13

今後の中長期的な厚生労働科学研究の在り方

著者: 伊藤弘人 ,   北澤潤

ページ範囲:P.928 - P.931

変化する厚生労働科学研究費補助金制度

 厚生労働省の科学技術関係経費の約3分の1を占める厚生労働科学研究費補助金制度(平成17年度当初予算額約422億円)は,現在大きく変化しようとしている.たとえば厚生労働科学研究が「目的志向型研究(Mission-Oriented Research)」1)であることから,成果契約型の「戦略研究課題」2)を新設し,平成17年度から開始している.また,独立した配分機関(Funding Agency)体制構築の準備を開始した3).補助金の交付早期化に関しては,対策本部を設置して,一定要件を満たす課題の早期執行を一部で実現している3)

 ただし,これらの例示的な取り組みは開始段階であり,10年間で3.7倍(平成7年度114億円)に拡大した本制度は,国民の健康に関する課題や国民生活の安心・安全に関する課題の克服を目指して,いっそうの成果を還元すべくさらに改善を続けていく必要がある.本制度が向かう方向性はどのようなものか.具体的にどのような変化が現れてくるのか.中長期的な今後の厚生労働科学研究の在り方について,本稿では専門委員会の中間報告をベースに紹介する.

赤いコートの女―女性ホームレス物語・15

一人暮らしの始まり

著者: 宮下忠子

ページ範囲:P.932 - P.933

一人暮らしをしたい

 「今,お金があるから生きていけるけれど,なくなったらどうするの? 私,何か知らないけれど,頭が痛くなったの.私,弱い,人間として弱いのよ.人間というのはわからないじゃない.私,神経使うからさぁ.わが子を育てられない私が,人間としてわかるの.

 公園でお金はなかったの.今は結果が変わったからね.最初,(アパートに)入った時から寝てばかりいては駄目.やっぱりお金を使うときは,倹約してね.何日かで使うのよ.部屋も汚く放りっぱなしだと嫌なの」

フォーラム

変動する世界と公衆衛生―貧しい国々の子ども死亡を中心として

著者: 蟻田功

ページ範囲:P.935 - P.938

“前世紀100年の変化は,それまで1000年の変化を上回った.しかし,今始まる新しい世紀の変化は,この前世紀の変化が取るに足らないものとなる程,偉大なものとなるだろう(H.G. Wells,“未来の発見”,英国王立協会講演,1902年)”

 2002年,国連は,貧困の根絶を第一目標として,まず2015年までの8つのミレニアム開発目標(以下MDGs: Millennium Development Goals)を設定した.その中で第4に子ども死亡率を3分の1まで減少,第6にエイズ制圧など公衆衛生面の目標が強調された.

 しかし,本年,2005年初めの国連チームの検証では,これらの公衆衛生面も含めて,目標達成がきわめて困難とされた.次いでMDGsに対しての,『ニューヨーク・タイムズ』紙,『エコノミスト』誌などの論評批判が相次ぎ,国際社会の話題となった.WHOは児童・青年保健対策会議(Technical Steering Committee, Department of Child and Adolescent Health and Development,2005年3月14~16日,於ジュネーブ,蟻田出席)を行い,また4月7日の「世界保健デー」を「子ども保健デー」とする等,内外の動きが激しくなった.

 さて,これらの動きで強調すべき点がある.それは冒頭に挙げたH.G. Wells(有名なSF小説,『タイムマシン』の著者)が,いみじくも前世紀の初めに言ったように,21世紀には,諸問題の解決に忘れてはならない大きな変化の動向,バイオテクノロジーの目まぐるしい技術発展がある.この観点から,上記の標題について感想を述べたい.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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