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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生69巻12号

2005年12月発行

雑誌目次

特集 アニマルセラピー

アニマルセラピー(動物介在療法)とは何か

著者: 高柳友子

ページ範囲:P.948 - P.952

われわれ人間は,古くから動物とともに暮らしてきた.人は動物に安らぎを感じ愛情を注ぐこと,愛情が還元されることを望む.かつて番犬や家畜として飼育されていた動物の中でも,特に犬や猫などのペット動物はコンパニオンアニマルと呼ばれるようになり,大切な家族として扱われるようになった.

 そのように,人と動物の関係が様変わりする中で,これらのコンパニオンアニマルを人間の医療や福祉現場で活用し,補助療法やレクリエーションに役立てようという取り組みが始まった.これらの活動が始まったのは,1970年代後半の米国と言われ,論文や成書に書かれるようになったのは,90年代に入ってからである.

地域でのアニマルセラピーの実践

著者: 小田切敬子

ページ範囲:P.953 - P.957

2000年のある日,「阿見町でアニマルセラピーができないかしら?」とダウン症児を持つ母親から声をかけられたのが,私がアニマルセラピーに取り組むそもそものきっかけであった.アニマルセラピーが動物行動学の応用分野であることは理解していたが,「大変そうだなぁ」というのがその当時の感想であった.しかし,自分の周りを見渡すと,アニマルセラピーを実践するスタッフとしては打ってつけの専門学校の講師たちがいた.「動物行動学に長年取り組んできた私が,社会貢献できる新たなる一分野かもしれない」と,半分義務的に取り組んだのが,結果として阿見町での継続的なアニマルセラピーとなった.

 本稿では,私たちNPO法人アニマルセラピー協会1)の面々が取り組んできたユニークな活動について紹介していきたい.

盲導犬活動のこれからの課題

著者: 日比野清

ページ範囲:P.958 - P.961

わが国に盲導犬が初めて紹介されたのは,1938(昭和13)年に盲導犬オルチーを連れたアメリカの盲導犬使用者F.ゴードン(Forbus Gordon)が東南アジア旅行の途中来日し,全国各地で講演会が行われた時1)であった.また,わが国の盲導犬育成事業の先駆けとなる実践研究が独自に開始されたのは,1957(昭和32)年に現アイメイト協会会長の塩屋賢一氏による国産第一号の盲導犬チャンピーの誕生を成功させたことであった.

 それからすでに約半世紀が経過し,盲導犬の普及・理解は徐々に深まってきてはいるものの,未だ十分とは言えないが,この数年間で社会福祉基礎構造改革の一環として盲導犬事業や活動も大きく変わりつつある.2000(平成12)年に改正された社会福祉事業法(現社会福祉法)において,初めて「盲導犬訓練施設を経営する事業・盲導犬の貸与」が第2種社会福祉事業(翌年4月1日施行)として認められた.

 本稿では,わが国におけるこれからの盲導犬活動(育成・貸与事業および普及)の課題について,盲導犬の育成・貸与およびその需要と供給の現状を踏まえながら明らかにしていきたい.

聴導犬普及への課題―聴覚障害に関するリスクへの「理解バリア」

著者: 有馬もと

ページ範囲:P.962 - P.967

聴覚障害のリスクと聴導犬

 「豪雨を聴導犬は人に教えられるのですか?」

 (福)日本聴導犬協会の講演会にいらした聴覚障害をもつ金沢在中のご夫婦からの質問だった.以前,石川県を豪雨が襲ったときに,地元の非難警報を知らず,1階まで水没した家屋の2階で翌朝目覚めた際の恐怖を,お2人は話された.会場の多くの聴覚障害者が,大きくうなずきながらその話を聞いていた.

 聴覚は,人間にとって最も危険を感知する感覚といわれ,眠っていても,何かに集中していても,不振な音に気づいて難を免れた例は多い.聴覚に障害をもつことは「逃げ遅れ」や「災害に巻き込まれる危険性」の確率が高いといえる.

医療福祉の現場に参加する犬の適性問題

著者: 山﨑恵子

ページ範囲:P.968 - P.970

人間の医療福祉の現場に犬が参加する場面は様々である.最近メディア等でもしばしば取り上げられている身体障害者補助犬をはじめとして,動物介在療法や介在活動,施設内飼育などの犬たちは,果たしてどのように選択されるのであろう.いや,選択されるべきなのであろう.どのような形で参加する犬であろうと,その適性は言うまでもなく,事前にチェックされなければならない.しかし単に適性と言っても,それを定義しなければ何をすることもできないであろう.

 医療福祉の現場に参加する犬の適性を考えるにあたっては,2つのことをその主軸に置かねばならない.1つは公衆衛生上の安全性,そしてもう1つは,生物である犬が人間の精神にどのような影響を与えるかという点である.

コンパニオン・アニマルをめぐる課題―特にペットロスと動物虐待,そしてアニマルセラピー

著者: 横山章光 ,   山本央子

ページ範囲:P.971 - P.975

すでに本特集の他稿にて「アニマルセラピー」については述べられているので,本稿ではそれ以外の人間と動物がかかわるところに存在する医療福祉のトピックをいくつか取り上げ,最後にアニマルセラピーの日本と欧米の取り組みの現状について触れることにする.

ペットロス

 ペットを医療の補助として用いる「アニマルセラピー(AAA/T)」の理論的土台にはペット(companion animal)との絆(human-animal bond)があり,ゆえにそれを失うときに,われわれは喪失体験を味わう.喪失反応には様々あり,特に喪失の対象が子どもや配偶者についての研究は進んでいるものの,ペットに関しては欧米と比較すると日本ではまだ皆無に近い1,2)

視点

予防の視点で地域づくり

著者: 糸数公

ページ範囲:P.942 - P.943

災害弱者を守る地域ネットワーク会議

 ハリケーン「カトリーナ」で避難できなかった多くの住民が援助を求めて苦しむ姿を映し出したニュース映像が,強烈な印象として記憶にとどまっている人も多いだろう.彼らは災害弱者そのものである.災害弱者とは,身近に災害などの危機が迫っているという情報を得ることができない者,または情報を得ることができても自らの力ではそれを回避(避難行動など)ができない者と定義されている(防災白書より).防災活動には,自助・共助・公助の3要素があることが以前より言われてきた(この場合の「公助」とは消防や役所など公的機関が行う救助活動のことを指す)が,9月1日の防災の日に合わせて各地で訓練が行われるのは,主に公助にかかわる関係機関の連携を図るためである.

 しかし,一般的に被災直後には公助は十分には機能しないため,災害発生してから約72時間は,自助あるいは共助により住民は身を守らなければならないと言われている.特に災害弱者を守るためには,地域コミュニティのネットワークを活用した共助機能が重要になってくる.

 当沖縄県北部福祉保健所では,今年度,市町村の協力を得てモデル自治会を選定し,災害弱者を守る地域ネットワーク会議を開いている.台風銀座と呼ばれ対策には慣れていると言われる沖縄だが,まれに避難が必要な暴風雨に遭遇し,数年前には避難しそびれた独居高齢者が死亡するという事例も発生している.この会議では図に示すように,時間の経過に沿って,それぞれがすべきことを埋めていった.

特別記事

[インタビュー]イルカふれあい体験

著者: 木谷秀勝

ページ範囲:P.976 - P.979

編集部 山口県下関市の水族館「海響館」において,平成15年度から「イルカふれあい体験」(以下,ふれあい体験)が実施されています.このふれあい体験の対象者は,下関市内と豊浦郡に住む中学生以下の自閉症児です.

 今日はこのふれあい体験全体のコーディネートに関与されている木谷先生に,イルカにかかわることによる自閉症児の変化やご家族の反応,そしてイルカふれあい体験が「地域支援システムの一つ」とおっしゃる先生のお考えなどについて,お話を伺いたいと思います.よろしくお願いいたします.

[鼎談]「New Public Health」を求めて

著者: 坪野吉孝 ,   三砂ちづる ,   尾身茂

ページ範囲:P.980 - P.987

坪野(司会) 今日は『「New Public Health」を求めて』という大きなテーマです.資料は,昨年6月の『ランセット』に掲載された論文「Public Health in the new era; Improving health through collective action」の内容(まとめ)なのですが,WHOの研究者,『ランセット』編集長,そしてロンドン大学衛生熱帯医学大学院の教授が共著です.この論文の主張の当否などいろいろ議論があるかと思うのですが,私は個人的に,非常に切実な思いで読みました.

 私自身医学部を卒業して臨床のことを一通り終えたら,医療政策をやりたいと思っていました.それで公衆衛生の大学院に入りましたが,限られた期間に医療政策の論文を書いて学位をもらうのは非常に難しい.まずは原著論文を書く力を身につけようと,伝統的な疫学の勉強をしているうちにそれが面白くなって,そのまま研究者になってしまった.だからこの論文を読んで最初に思ったのは,「お前の初志はどこへ行ったのだ.医療政策をやりたくて公衆衛生に入ったのではないのか」と,問い掛けられた気がしたことが第1点.

連載 Health for All―尾身茂WHOをゆく・21

鳥インフルエンザの課題

著者: 尾身茂

ページ範囲:P.944 - P.945

今回は,最近,連日マスコミで報道されている鳥インフルエンザについて,前回本誌69巻5,6号で話した続きを話そう.

 今年7月にわれわれWHO西太平洋地域事務局がFAO(国連食糧農業機関),OIE(国際獣疫事務局)と共同で開催したクアラルンプールでの会議の後,幸いにも鳥インフルエンザに関する国際社会の関心が俄かに高まっていった.例えば,9月14日にアメリカのブッシュ大統領はニューヨークの国連特別首脳会議の演説で鳥インフルエンザ対策の重要性に言及した.また,期せずして,鳥インフルエンザの家禽類への拡大は,10月に入り,トルコ,ルーマニアなどのヨーロッパ各地へと広がり,マスコミでも大々的に報道され,鶏肉の売上が急速に落ちるなど,人々の間でも動揺が広がっていった.そうした中,私は,10月24日からコペンハーゲンで開催された鳥インフルエンザ拡大防止のための,EUとWHOヨーロッパ地域事務局との共同会議に参加した.

公衆衛生ドキュメント―「生きる」とは何か・21

―水俣病から50年③―毒魚を食べずして冒された胎児性水俣病

著者: 桑原史成

ページ範囲:P.946 - P.946

1枚の写真の存在が広く「水俣病」を世界の人々に知らしめた.その名作は,有名な写真家ユージン・スミスによって1971年に水俣で撮られた.それは母親に抱かれた入浴時の上村智子さんである(後にこの作品が写真を写された側の家族の意向を知った著作権者・アイリーン・スミスさんにより,「写された側の人権を尊重したい,写真を夫妻にお返しする」という決断がなされ,発表の場は縮小したが).

 その智子さんの幼少時の家族(父母と妹たち)を1960年に水俣の漁村・坪谷の丘の家で撮影する機会があった(掲載写真).私が水俣病の取材を開始した直後に知り合い,智子さんが成人の日を迎えた1977年1月15日の記録まで,私はしばしば上村家を訪れていた.

グローバリゼーションと健康・12・最終回

連載のまとめ

著者: 若井晋

ページ範囲:P.989 - P.989

連載「グローバリゼーションと健康」が11回にわたって本誌に掲載された.現在世界で起こっている人々の健康を脅かす要因は,単に健康問題に特化するだけでは論ずることはできない.政治・経済・社会などの要因が複雑に絡み合っている.特にグローバル化された現代社会において,保健医療にかかわる専門家にとっても,グローバリゼーションの影響を考慮せずにかかわることはもはやできない.

 第1回では筆者・若井が,グローバリゼーションと人々の健康について,その由来や強者の立場,すなわち上からのグローバリゼーションと人々の側に立ったそれとの違いについて,歴史的な由来も含めて述べた.

日本の高齢者―介護予防に向けた社会疫学的大規模調査・12・最終回

社会経済的地位と心理的健康の特徴的な知見と今後の研究課題

著者: 近藤克則 ,   平井寛 ,   市田行信 ,   松田亮三 ,   斎藤嘉孝 ,   遠藤秀紀 ,   中出美代 ,   吉井清子 ,   末盛慶 ,   竹田徳則 ,   「健康の不平等」研究会

ページ範囲:P.990 - P.994

「日本の高齢者―介護予防に向けた社会疫学的大規模調査」と題した本連載も最終回となった.本連載では,介護予防を進める上で社会疫学的な視点1)がいかに重要なものかを検証することを目的として,AGESプロジェクト1,2)の大規模データ(15市町村の代表サンプル32,891人)を分析した結果を報告した.

 連載開始時には検証仮説(図1)を示し1,2),「このような関連が果たして検証されるのか,現時点ではわれわれにもわからない」と書いた.最終回の本稿では,連載された各号3~12)の特徴的な知見を振り返りながら,仮説がどの程度検証されたのか,また,そこから引き出される介護予防政策への示唆,今後の研究課題などをまとめたい.

現場が動く!健康危機管理・7・最終回

健康危機管理における疫学―自然災害時の初期評価とサーベイランス

著者: 中瀨克己

ページ範囲:P.995 - P.999

阪神淡路大震災時における医療救護

 阪神淡路大震災時,私は,神戸市中央保健所において医療救護の調整に携わった.中央区では被災民3万9,000人,避難所96か所.救護に携わった保健・医療関係者は1,984班,延べ1万人に及んだ.地域防災計画では,被災時の応急的医療は救護所においてなされる.当時神戸市では,救護所の設置は保健所長が行うことになっていたため,私は保健所職員としてこの業務を担当することになった.神戸市内の激甚6区内では医療供給は大きな被害を受け,被災10日目に開設していたのは病院では84%であったが,診療所29%,歯科診療所では15%しか運用されていなかった.

 神戸市中央区における医療救護は,被災2日目から日本赤十字社など3班による避難所巡回診療を行った.全国から多大な援助を受け,被災4日目には救護班は20班となり,規模の大きな避難所等に常設の救護所を設置することができた.保健所は,これら救護チームに必要医療用品等を供給すると共に,毎日診療状況の報告を受けた.しかし,当時,管轄区域内の医療需要を把握し適切な医療を供給するための被災後の評価や,救護提供基準,そして需給や疾患の継続的把握(サーベイランス)という考えや技術を持っていたわけではなかった.

性のヘルスプロモーション・5

[インタビュー]「お産」の中の女性性

著者: 矢島床子 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.1000 - P.1005

地域に生きる開業助産師を目指して

岩室 「性」を考える上で「お産」は非常に大切なことなのに,私自身医師でありながら,産科医が診療の中で行う技術的支援といった印象を持っているように思います.その一方で,矢島さんのようにお産を幅広い視点でとらえておられる方がいらっしゃると聞き,ぜひともお話を伺いたいと思って今日お邪魔しました.開業助産師としての矢島さんの日常はどのような感じですか?

矢島 つい先日,東北に講演に行ったのですが,出発の朝に2つのお産をとってから行ったので,ほとんど寝ていなくて,首筋や肩がこっています(笑).いつもそんな生活です.

衛生行政キーワード・14

アレルギー物質を含む食品に関する表示制度について

著者: 松岡輝昌

ページ範囲:P.1006 - P.1008

平成15年の保健福祉動向調査によると,アレルギー様症状が皮膚,呼吸器および目鼻のいずれかに見られる方々が,調査対象全体の36%を占めるなど,アレルギー疾患は国民にとって非常に一般的な疾患となっている.

 本年10月,厚生労働省は「アレルギー疾患対策の方向性等」を示し,今後5年程度のアレルギー疾患に対する国の施策を打ち出した.このなかでは,アレルギー対策における2つの柱として,重症化を予防するための医療の提供と適切な自己管理の重要性について触れた上で,アレルギー疾患を「自己管理が可能な疾患」として位置づけ,患者およびその家族による自己管理を支援する体制を整えることを施策の中心においたものとなっている.

赤いコートの女―女性ホームレス物語・16

友人としての関係

著者: 宮下忠子

ページ範囲:P.1009 - P.1011

2人の性格

 波さんと平沢さんは,今友達として付き合っている.平沢さんも,最初の出会いから思い起こすと,随分変わった.現在生活保護を受けているが,日々刹那的な隅田川テント暮らしの頃に比べると,生きる姿勢が前向きになってきた.

 「毎日,ハローワークに行って自分の体力に見合った軽労働の仕事を探しているけど,全然見つからないよ.何せ,この不況でしょう.リストラされた人たちでごった返していて,俺なんかよいほうなのだよ」

 「やる気はあるのね」と私.

 「もちろんあるよ.福祉でも,『8月までに何とかしなさい』と言われているけれど,50歳を過ぎて病気持ちでは,相手にさえしてくれないよ.ハローワークは失業者で溢れているのだから,毎日行くのが空しくなる」

資料

車椅子の安定性に関する基礎的研究

著者: 木戸雅人 ,   一杉正仁 ,   横山朋子 ,   本澤養樹 ,   由布哲夫 ,   丹羽宗弘 ,   徳留省悟

ページ範囲:P.1013 - P.1016

わが国における18歳以上の身体障害者数は2001年に324.5万人であり,年々増加傾向にある1).また,2003年には65歳以上の人口は約2,431万人と全人口の19%を占め,急速に高齢化が進んでいる2).したがって,近年では,補装具として車椅子を利用する身体障害者や高齢者が増加していると思われ,このような人々が障害を持たない人と平等に社会生活を送れるような理念が浸透しつつある.

 2000年には「交通バリアフリー法」が制定され,高齢者や障害者が公共交通機関をより安全かつ快適に利用できるような対策が打ち出された.そして,移動制約者のモビリティ対策として,一般公共施設における環境改善といったバリアフリー化が積極的に進められるようになった.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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