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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生69巻2号

2005年02月発行

雑誌目次

特集 地域保健法10年

住民本位のまちづくり

著者: 辻山幸宣

ページ範囲:P.96 - P.101

自治体は社会の必要性から住民の手によってつくられた

 自治体は,私たち住民の生活する社会の共通的な価値を実現するために,住民の手によって設立されたものである.詳しく述べるとこうである.

 1. 村の運営

 自治体政府のごとき公共財の管理と地域公共の福祉のための特別の機関がなかった時代に,人々はどのようにして暮らしていただろうか.雨が降って道がぬかるんだら,雨上がりを待って砂利入れをしなければならなかった.また,干ばつで田が干上がるのを防ぐために,あらかじめ溜池を掘っておくことが大切であった.新潟県中越地震のように村と町をつなぐ峠道が崩れたら,新たな抜け道を開拓するか,何日もかかって土砂をよける作業をしなければならなかったであろう.このような村人みんなのために必要な作業は,村人たちが自ら行った.そうする以外に生活を継続することができなかった.そこには自発的とは言えないにせよ,必要としての共同作業への参加が日常的に行われていた.

 作業の段取りは「村寄合」で協議・決定された.村寄合には各戸から家長が出席して,年貢・夫役の村請け(藩主の委任事務)の他,田植えや稲刈りなどの共同労働,道路や堤防の工事から村祭り,入会地(共同で使用する権利を有する山林等)の管理まで,あらゆることがそこで決定された.ときに,村八分など村極(むらぎめ・村法・掟)の執行も村寄合の権限として行われた.これら,村寄合での決定,共同作業の実施,祭りの開催など,すべてが村人たちの労働力の持ち寄りによって処理されていたのである.

地域保健法を活用する

著者: 笹井康典

ページ範囲:P.102 - P.105

平成6(1994)年に地域保健法が成立し,平成9(1997)年全面施行,同時に母子保健事業の一部市町村移管という経過の中で,地域保健活動は大きく変化した.

 地域保健法により,市町村は住民に身近な母子保健サービスや老人保健サービスを実施し,保健所は広域的,専門的,技術的な業務を担当するという役割が明確にされた.法制定後10年という節目を迎えて,地域保健法の趣旨が達成できたのか,課題を明確にして今後の地域保健活動の推進に生かさなければならない.

 筆者は,この10年間の最初の時期は保健所長として,その後は府庁で健康づくりや医療施策を担当してきた.市町村や保健所の第一線で活躍している人のさまざまな声,意見を聞くことが多い.本稿ではそれらを紹介しつつ,この間の地域保健や行政をめぐる変化を踏まえて,地域保健法を今後さらに有意義に活用するという視点で進める.

地域保健法を支える人づくり―国立保健医療科学院の教育訓練

著者: 曽根智史

ページ範囲:P.106 - P.109

国立保健医療科学院は,平成14(2002)年に,国立公衆衛生院,国立医療・病院管理研究所および国立感染症研究所の一部が統合されて誕生した.設立当初は,和光庁舎,白金庁舎などに分かれていたが,平成16(2004)年10月に,すべての部が和光に移転完了し,名実共に新組織としてスタートした.

 国立保健医療科学院は,地方公共団体等において保健医療分野,生活環境分野および保健医療とかかわりの深い福祉分野に従事する技術職員を対象に,将来指導的な役割を果たすことが期待される人材の養成をその任務としている.

 地域保健分野においても,昭和13(1938)年の(旧)国立公衆衛生院発足時より人材育成のための教育訓練を行ってきたが,国立保健医療科学院となって,より効果的な教育訓練を目指し,体制の整備を行っている.

 本稿では,本院の教育訓練課程のうち,特に地域保健に関連の深いものを取り上げ,その概略を説明するとともに,今後の方向性を検討したい.なお,本院の教育訓練には,地域保健に関連するものの他に,病院管理に関するもの,生物統計に関するもの,福祉に関するもの,国際保健に関するものなどがあるが,本稿では割愛する.

地域保健法を支える現場から①―保健所医師の立場から

著者: 国吉秀樹

ページ範囲:P.110 - P.113

沖縄県では,平成9年度に保健所の組織改編が行われ(図1),総務課に企画情報班が設置された.これには保健所機能としての「情報の収集・整理・活用」「広域的な調整」「専門的技術的機能」等が強化されるための中核を作ることが意図されており,地域保健法施行体制の実質的なスタートの年となった.また同時に,長く地域保健活動の柱であった県の保健婦駐在制がその役割を終えて,市町村保健師中心の活動に大きく舵を取った年でもあり,保健サービス提供の大きな変換点として,本県において特に記憶されるべきである.

 この年を中心に,①平成5年頃からの地域保健法施行準備の時期,②平成9年頃からの法完全施行後,保健所機能強化の模索の時期,③平成13年頃からの保健所機能のイメージが安定してきた時期,のように,保健所あるいは筆者の保健所医師としてのアイデンティティを探索した段階に沿って,今改めてできたこと,できなかったことを考察してみたい.この10年間の経過の中でも,その時その地域での健康課題は暇なく出現した.また,保健所の備えるべき「専門的技術的機能」としては,疾病コントロール等,健康危機管理分野が当然重要だが,本稿では地域保健法全面施行後,常に意識してきた県型保健所と市町村の関係性に注目して論を進める.

地域保健法を支える現場から②―保健所保健師の立場から

著者: 吾郷栄子

ページ範囲:P.114 - P.117

岡山県では平成6年度の機構改革に伴い,保健部門と福祉部門の統合による地方振興局健康福祉部が創設され,保健所との2枚看板となった.平成13年度からは業務推進体制となり,対人保健サービスを担っている保健課を3係制(3保健所),2係制(5保健所)および1係制(1保健所)配置としている(表).

 高梁保健所(管轄1市6町)は2係制で地域保健係[係長(保健師),スタッフ(保健師2・栄養士1・事務職1),計5人]が市町支援を担当している.

地域保健法を支える現場から③―市町村の立場から

著者: 桧山浩子 ,   田原香利 ,   石田良美 ,   池田美果 ,   竹野尚子 ,   徳永明美

ページ範囲:P.118 - P.119

地域保健法が改正される前の町の保健活動と改正後の町の保健活動は,住民側からすればあまり変化はないものだったように思われる.というのも,町の保健師と,町を担当する保健所保健師は,改正前から県から町への委託事業として3歳児健康診査・乳児健康診査・妊産婦新生児訪問指導は,協同(共同)して実施していた.しかも,これらの事業の住民への開催通知は,町長名で町が実施していた.また,老人保健事業にも保健所保健師の支援が必要に応じてあった.1人設置でも,保健所に担当の保健師がいてくれ,常に相談や事業実施に対する必要な支援が,市町村の保健師の経験年数に応じて実施されていた.

 地域保健法の改正で,われわれのような小さな町も,複数の保健師と,保健センターが整備された.保健センターの整備は,事業拠点があることで事業開催が容易になり,事業の種類が増加した.また,庁舎内の事務室に比べ,住民の相談に気軽に対応できる場所であった.反面,町職員からは,「保健師の姿を目にする機会が,同じ事務室内に机があった頃より減り,保健師たちは何をしているのだろう」と思われているように感じ,以前より上司への活動の報告に力を入れた.

地域保健法における大学の役割

著者: 中本稔

ページ範囲:P.120 - P.123

私は10数年来大学に所属し,以前は医師の,現在は看護師と保健師の卒前教育を本業としながら地域保健にかかわってきた経験から,大きなテーマではあるが,「地域保健法における大学の役割」についていくつかお示ししたい.

保健所の大学への役割は?―人材育成=卒前と卒後,問題解決能力とシステム開発

 大学では,地域で働く保健医療福祉従事者を養成している.偏在自体は解消されてはいないが,1県1医学部複数看護学部が定着した.受験生全入時代を迎えて,公衆衛生にかかわる人材養成という点ではどうだろうか.若い世代の生活体験が乏しくなっている中,学生が地域を理解する学習ができるかどうか.健康課題を抱えた地域の人々の生活を理解するには,工夫が必要だ.

 医学部の場合,数年後には国家試験が変わる.それを目指したコアカリキュラムの中で,公衆衛生の知識や体験はどれだけ獲得できるだろうか.もちろん,早期体験実習や臨床でのクラークシップでも,公衆衛生マインドは育つ可能性がある.しかし,患者となった住民が地域でどういう生活をし,どんな症状に苦しみ,そして,自宅で暮らすことへの不安をどう抱えているのか,行政を含めた健康管理(健康づくり?)を理解できる卒前教育にするために,医学部の,特に衛生・公衆衛生にかかわる教員は深く悩むのではないだろうか.

 そんな事情がある中,以下,保健所の大学への役割について考えてみたい.

民間の役割

著者: 福永一郎

ページ範囲:P.124 - P.127

小さな政府,三位一体の改革など,民間の役割は今後増大してゆくような潮流にある.元来,公衆衛生は公的責任を下敷きにしながら進めてゆくものであり,民間の役割というものはこれまでイメージしにくい面があった.

 このたび“民間の役割”というテーマを与えられた.地域保健における民間とは非常に広いイメージがあるが,ここでは,地域というユニットにおける民間ということと,私のような民間人の地域支援活動家という2点に分けて解説を試みたい.

視点

わが国の都市と健康政策―少子高齢化を超えて

著者: 唐澤祥人

ページ範囲:P.90 - P.91

近世の都市開発と東京

 徳川家康公江戸開府以来400年余,東京は世界的な大規模都市として各時代を背景とした変貌を続けております.中世の江戸といえば葦や芦の生い茂る,洪水を繰り返す原野で,そこに発展する都市を描き得た当時の為政者の慧眼に驚嘆します.周囲の山塊の豊かな水源は幾筋もの河川を作り,都市環境の保全と水運を可能にし,江戸湾の海運と結んでこのような経済産業上の絶対的な優位性に,大都市開発への確信を持ったのでしょう.巨木の研究者は,巨木(根の幹周り3m以上)が最も多いのが西多摩の山塊であるとしており,栄養豊富な河川の流れは多摩の台地を流れ下って,ついには豊富な江戸前の魚群の育成にも役立つことになります.大気の還流も山塊から平地や,河川の上空や海から内陸と,広く還流を繰り返しています.このように江戸という土地の自然の地勢を破壊することなく開発・利用がなされたことを,大切にしなくてはならないと思います.

産業革命以後の都市

 明治期以来のわが国は,産業革命後の近代化の波に乗って,燃料資源確保,機械化の推進,大量の物流の確保などと共に,都市は増加する居住区や生産工場の拡大,管理事務部門,教育文化的施設,公園や保養施設・医療施設なども爆発的に拡大しました.瞬く間に電気,ガス,水道と通信,交通システムなどが際限なく広がって,都市空間を充塡してきました.このような発展の歴史の流れの中で,置き忘れてきたものが今日,市民の生命・健康のみならず,自然との調和にまで影響するようになってきたのであります.

特別記事

[鼎談]衛生行政をよりよくするための提案

著者: 川島ひろ子 ,   古屋好美 ,   簗瀬有美子

ページ範囲:P.129 - P.135

若手公衆衛生医のジレンマ

川島 時々,若手公衆衛生医が仕事をやめていく話を耳にしますが,公衆衛生医の人材育成を考えたとき,「なぜ能力のある有望な若手がやめてしまうのか」ということを真正面から見つめる大切さを感じます.今日はこの問題を皮切りに,衛生行政をよりよくするにはどうすればいいかについて,3人で話し合えればと思います.

 簗瀬先生は公衆衛生医をおやめになって,この9月からアメリカの公衆衛生大学院で学ぶとのことですが,その理由を伺ってもよろしいですか?

特別寄稿

母子保健における継続ケアの重要性

著者: 柳澤秀明 ,   坂庭美紀代 ,   鈴木径子 ,   猪野勝美

ページ範囲:P.136 - P.139

母子保健のあるべき姿を求めて 柳澤 秀明

 行政の悪しき特徴として「縦割り」が言われ,他組織との連携に問題が生じてしまうことがままある.

 一方,行政には神業的能力もある.通常,県職員は2~3年で担当者がすべて配置替えになるが,大きな業務の停滞は起こさない.行政は組織間という空間的連携は苦手だが,組織内の時間的連携は天才的なのだ.

連載 Health for All―尾身茂WHOをゆく・11

―SARS制圧までの道①―SARS発生

著者: 尾身茂

ページ範囲:P.92 - P.93

今号から数回にわたり,一昨年マスコミ報道を連日賑わせ,公衆衛生上の問題だけでなく,社会的・経済的にも大きな問題となった重症呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome: SARS)の発生とその対策への取り組みについて話そう.

 歴史上,ペスト,コレラ,梅毒,麻疹といった感染症が,1つの国や地域の趨勢を左右し,また,文明の様相を一変させてきた例には枚挙に暇がない.“黒死病”として知られるペストは,ローマ帝国から,6~7世紀頃のイスラム世界,果ては中国や日本にまで広がったと言われており,14世紀には最高潮に達し,4年間でヨーロッパ人口の30~40%が死亡(1347~1350),中国では人口の50%が死んだとも言われている.

公衆衛生ドキュメント―「生きる」とは何か・11

EU圏に近づく,ウクライナの黄色い革命

著者: 桑原史成

ページ範囲:P.94 - P.94

ウクライナの大統領選挙をめぐって混乱が続いていたが,昨年12月26日に与党のヤヌコビッチ首相と野党のユシチェンコ元首相の2候補で決選投票が行われた.

 ウクライナは大国ロシアの南に位置して,人口約5,000万人,かつては「ソ連の穀倉」とまで称されてきた.早い話,農業国である.しかし,東半分は黒海に面してドネック炭鉱や工業化が進んだ先進の地域と言える.したがって,ロシア系ウクライナ人が多い.首都・キエフがある西半分は,先の穀倉地帯で,野党のユシチェンコ氏の地盤でもある.

グローバリゼーションと健康・2

グローバリゼーションと人権

著者: 神馬征峰

ページ範囲:P.141 - P.144

ソニーとトヨタ

 10年前,パレスチナのガザ地区で働いていた頃のことである.ガザ地区からエルサレムにタクシーで行く途中,私はいつものようにイスラエル兵から国籍をチェックされた.当時私は国連パスポート(レセ・パセ)しか携帯していなかった.日本のパスポートはなくても「日本」と言えばたいてい通じていた.ところが,たまたまそのイスラエル兵は日本を知らなかった.英語もあまり通じない.ヘブライ語でベラベラ言われるだけ.まるで国籍不明者扱いだ.困った.

 その時である.タクシーに同乗していたパレスチナ人がヘブライ語で弁護してくれた.言葉はわからない.しかし,「ソニー」とか「トヨタ」という単語は聞き取れる.それがやっと通じた.その兵隊さんの頭の中で,自分が持っているであろう電化製品や車と,「日本」との関係が一致したらしい.私は国籍不明者から国籍保有者へと昇格した.

 日本は知らなくても,ソニーやトヨタはこうして世界の隅々にまで知られている.これがグローバリゼーションという言葉を聞いて私が抱くイメージの1つである.何かが共通理解のもとに世界の隅々にまで行きわたる,ということである.

日本の高齢者―介護予防に向けた社会疫学的大規模調査・2

高齢者の心身健康の社会経済格差と地域格差の実態

著者: 吉井清子 ,   近藤克則 ,   平井寛 ,   松田亮三 ,   斎藤嘉孝 ,   「健康の不平等」研究会

ページ範囲:P.145 - P.148

連載第2回である本稿では,2つの健康指標(主観的健康感と抑うつ)と,高齢者本人や地域の社会経済的状況との関連性を検討する.個人の社会経済的地位(socioeconomic status: SES)と健康との関連性の研究はこれまで多く行われてきた.しかし,他の年代と比べ,高齢者を対象とした研究は少ない.木村ら1)は,過去10年間の高齢者のSESと全死亡率の縦断的研究をレビューしている.そして,特定された9つの研究(アメリカ,イギリス,フィンランド,中国,日本)から,関連性の結果には国や(同じ国であっても)地域差があることを報告している.Knesebeckら2)も,高齢者のSESと健康の関連性をアメリカとドイツで比較した結果,アメリカよりもドイツのほうが健康の社会経済格差が明確であったと報告している.その理由として,アメリカでは社会経済格差が大きいために,社会経済階層が低い層では,中年期までに不健康な人は亡くなってしまい,健康な人だけが高齢期に達するためではないかと述べている.このように,高齢者のSESと健康の関連性に関してはさまざまな議論があり,日本でも研究の蓄積が必要な状況にある.

 また,近年,健康の地域間差の要因としての地域の社会経済的特徴に関する研究が注目されてきている3,4).日本でも,死亡率や自殺率の地域差研究を中心に地域の社会経済状況に着目した研究が散見される5,6)ものの,未解明な点が多い.また,これまでの健康の地域間差の研究は,死亡率などの既存統計を用いたものがほとんどであり,今回の分析で用いた主観的健康感と抑うつの2つの指標を,10を超える自治体で比較した研究は見あたらない.主観的健康感は,多くの縦断研究で死亡の予測力を持つことがほぼ確立している7~9).さらに,うつは介護予防の重点の1つにも挙げられ,自治体レベルでの対策が重視されてきている10).これらのことからも,主観的健康感とうつの地域差の分析は重要と思われる.

 以上から,本稿の目的は次の2点である.第一に,地域在住高齢者のSESと主観的健康感・うつとの関連を明らかにする.第二に,住民の健康度の自治体(市町村)間格差が,どの程度存在するのかを検証する.以上の分析を,前号で紹介した大規模(約3.2万人)で市町村比較が可能な一般高齢者調査データ注)を利用して行う.

「PRECEDE-PROCEEDモデル」の道しるべ・11

「温暖化防止くまもと市民会議」の取り組みにおけるPRECEDE-PROCEEDモデルの活用

著者: 宮北隆志

ページ範囲:P.149 - P.153

保健分野におけるヘルスプロモーションの展開において,PRECEDE-PROCEEDモデルが効果的なツールとなりうることは,この10年間の国内における数多くの実践事例が示している.

 本稿では,このモデルが市民主導の持続可能なまちづくりの過程において,とりわけ,望ましい行動/ライフスタイルの実現要因を明らかにし,生活者の側からの政策提案を行う上で有力なツールとなりうることを,熊本市における「温暖化防止くまもと市民会議」の取り組みをもとに紹介したい.

衛生行政キーワード・5

混合診療の解禁

著者: 迫井正深

ページ範囲:P.154 - P.156

概要

 「混合診療」とは,保険診療と保険外診療の混在である.現在,一部の特例(「特定療養費制度」)を除き混合診療は認められていない.しかし,近年,規制改革・民間開放推進会議(以下,規制改革会議)などを中心に,これを全面解禁すべき,との意見が出され議論を呼んでいる.特に,総理が平成16年内に解禁の方向で結論を出すよう指示したことから,国民的な関心を集めた.

 規制改革会議や経済団体等は,患者の多様な選択を推進するため,混合診療の解禁を主張.一方,厚生労働省および日本医師会をはじめとする医療関係団体のほとんどすべてが,患者の負担増大を招き,公的医療保険制度の信頼を損ねるなどの弊害から,混合診療の解禁に反対し,衆・参両院もそれぞれ全会一致で混合診療導入反対の請願を採択.その後,両者の主張は平行線を辿った(図1).

 最終的に,年内に結論をという総理の指示を踏まえ,規制改革担当大臣と厚生労働大臣が折衝を重ねた結果,提起されている具体的事例について順次対応するとともに,今後,現行の特定療養費制度を廃止し,保険外負担の在り方を根本的に見直すことで両者が合意(平成16年12月15日),総理の了承を得て一応の決着が図られた(図2,3).

赤いコートの女―女性ホ-ムレス物語・6

2002年の年明け

著者: 宮下忠子

ページ範囲:P.157 - P.159

波さんのナラティブ

 「男でも自分でやっているよ.何をやっているのだかわからないよ.今,まだ来ないし,私の体はやれないもの.朝の3時,トイレに男なのよ.男だものやりたいさぁ.やるのにお金なんか貰えないし,向こうがくれる分のしか貰えないわよ.セックスは好きじゃない.男が満足するからいいのよ.セックスしようとする段階で,仕事だから忙しかった.

 ソープは,子どものいる人が多かったのよ.どんなに働いても借金は消えない.同じだもの,やっても,やっても.1回やったら,病みつきで,1回やっただけでできちゃって.自分が楽しくなる.だから,そうなのでしょう.

資料

ワクチンに含まれるチメロサールのリスク評価と今後の対応

著者: 亀尾聡美 ,   閑野将行 ,   三島英煥 ,   野田一樹 ,   山本康央 ,   仲井邦彦 ,   佐藤洋

ページ範囲:P.161 - P.165

チメロサールは,薬剤の防腐剤として,とりわけワクチンの保存剤として広く使用されてきた.チメロサールが水銀を含有していること,また新生児や幼児に義務付けられているワクチンに使用されていることから,数年前からアメリカでチメロサールの健康影響についての議論が盛んになった.本稿では,ワクチンに含まれるチメロサールのリスク評価の検証と各国・日本の最近の動向,および今後の対応について考察を試みた.

チメロサールとは?

 チメロサール(thimerosal)は,水銀を含む有機化合物であり,その殺菌作用は昔から知られており,1930年代から種々の薬剤に保存剤として使われてきた.チメロサール(物質名:エチル水銀チオサリチル酸ナトリウム)の化学構造は図1に示す通りであり,重量の約半分を水銀が占めている.チメロサールは,体内でエチル水銀(ethylmercury)とthiosalicylateとに分解し,エチル水銀の部分で人体への毒性が心配されている.ワクチンには1940年頃から保存剤として使われ始め,生ワクチンでは使われないが死んだ菌などが入っている不活化ワクチンでは保存剤として主に使われるようになった.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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