公衆衛生69巻2号

2005年02月発行

連載 グローバリゼーションと健康・2

グローバリゼーションと人権

著者： 神馬征峰¹

所属機関： ¹東京大学大学院医学系研究科国際地域保健学教室

ページ範囲：P.141 - P.144

ソニーとトヨタ

　10年前，パレスチナのガザ地区で働いていた頃のことである．ガザ地区からエルサレムにタクシーで行く途中，私はいつものようにイスラエル兵から国籍をチェックされた．当時私は国連パスポート(レセ・パセ)しか携帯していなかった．日本のパスポートはなくても「日本」と言えばたいてい通じていた．ところが，たまたまそのイスラエル兵は日本を知らなかった．英語もあまり通じない．ヘブライ語でベラベラ言われるだけ．まるで国籍不明者扱いだ．困った．

　その時である．タクシーに同乗していたパレスチナ人がヘブライ語で弁護してくれた．言葉はわからない．しかし，「ソニー」とか「トヨタ」という単語は聞き取れる．それがやっと通じた．その兵隊さんの頭の中で，自分が持っているであろう電化製品や車と，「日本」との関係が一致したらしい．私は国籍不明者から国籍保有者へと昇格した．

　日本は知らなくても，ソニーやトヨタはこうして世界の隅々にまで知られている．これがグローバリゼーションという言葉を聞いて私が抱くイメージの1つである．何かが共通理解のもとに世界の隅々にまで行きわたる，ということである．

参考文献

1) JC・リュアノ＝ボルバラン, S・アルマン(著), 杉村昌昭(訳)：グローバリゼーションの基礎知識. pp9-17, 作品社, 2004

2) Sethi SP, Etemad H, Luther KA: New sociopolitical forces; The globalization of conflict. Journal of Business Strategy 6: 24-31, 1986

3) 上村英明：グローバル化時代と国際人権法の歴史的役割. 勝俣誠(編著), グローバル化と人間の安全保障：行動する市民社会. pp295-321, 日本経済評論社, 2001

4) 林達雄：HIV/エイズ対策と世界の健康. 三好亜矢子, 若井晋, 狐崎知己, 池住義憲(編), 平和・人権・NGO：すべての人が安心して生きるために, pp187-211, 新評論, 2004

5) McCurry J: Smuggling for sex. Lancet 364: 1393-1394, 2004

6) Mitka M: Hospitals and immigrant status. JAMA 292: 2205, 2004

7) Jimba M: Difficulties of doing research during armed conflicts. Lancet 361: 1132, 2003